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創魔の黒狼  作者: あけぼのわこん
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07 魔法の実験と屍の山

1階ではマスターとシンシアさんが話をしていた。

「じゃあ頼みますよ。」

「かしこまりました。マスター」

ペコリとお辞儀するシンシアさんと、ひらひらと手を振って立ち去るマスター。

「おや?もう食べ終わったのかい?」

「ご馳走様でした。暫くサンドイッチにはお世話になりそうです。」

「あれは看板メニューだからね。採算に関してはシンシアちゃんに怒られるが、冒険者に栄養を付けてやることも人材育成だと私は思っているよ。」

ははは!と笑いながら2階に上がっていくマスターを見送り、シンシアさんのいるカウンターに向かう。


「無事に戻りましたよ。」

じとっとした目で睨まれる。

「マスターから聞きましたよ?外で血抜きするとか命知らずもいいところです!」

「すみませんでした。」

「反省しているならよろしい!ですよ。まだ若いんですから命は大事にしましょうね。」

「え?」

「え?」

若い?30過ぎてるぞ俺。

「いくつに見えます?」

「私よりも下に見えます。」

「…」

後でこっそりガラスでも覗いてみよう。変に思われてもいけないので必死に話を逸らす。

「ええと、それで依頼の件ですが。」

「マスターからさっき聞きましたよ。血抜きまでできるということは、ただ狩る分にも問題ないだろうってことで、血抜き済みの肉はマスター買取になりました。

 明日も兎狩り頑張ってくださいね。」

「はい。あと、血抜き中にゴブリン狩ったので確認お願いできますか?」

小さな袋に入れた耳をごろごろ取り出すとシンシアさんが固まる。

「まさか逃げなかったんですか?」

「倒せそうだったので」

「・・・なんか驚くのに疲れてきました。え~っと11枚ありますね。11枚っ!?」

がたっ!と立ち上がって2階に駆けあがっていく。

『マスター!11枚!11枚!』

『何がだい?え?ヴォルフ君が?』

声が聞こえるとバタバタと二人が降りてきた。

「私もてっきり血抜きしながら逃げてきたと思っていたんだが。ゴブリンまで狩ってたのかい?」

「行けると思ったので...。」

はあ、とため息をついてマスターは顎をさすった。

「意図せずともEランクの依頼をクリアしてしまったわけだ。ゴブリン10匹の討伐、報酬は銀2枚だったかな?」

「そうですね。お金、出してきます。」

「ああ、頼むよ。」

てっきりマスターは食堂のマスターだと思っていたが、ギルド内でも相当の立場がある人のようだ。

「しかし、これが達成できてしまうとランクを上げざる得なくなる。構わないかい?」

「それは願ったりです。」

マスターが一瞬鋭い目に変わる。

「相当魔力が非常に低い魔法士だと聞いてるけど?」

「そこは工夫で何とか。」

「今回の戦闘で傷は?」

「無傷です。」

また無言で顎をさする。


「もう一度戦闘があったらどれくらいの勝率だと思う?」

「100%ですね。」

魔力量が増えた今、複数の手段で対抗できるので不覚は取らない。

「…わかった。蛮勇じゃないことを祈ろう。死なないでほしいものだね。」

マスターが諦めたような、少し悲しそうな顔で食堂に戻るのと入れ違いで、シンシアさんが戻ってきた。

マスターは小声でシンシアさんに何かを伝えると、今度こそ食堂に戻っていった。


「えっと、まずは今回の依頼報酬の銀貨2枚です。それと討伐報酬で銀貨1枚と銅貨10枚が出て、合計で3銀貨10銅貨です。」

ジャラッという音を立ててカウンターに小袋が置かれる。

「はい、確かに受け取りました。」

自分で初めて稼いだ異世界の現物に少し興奮しながら、それでも今夜もギルドの一角を間借りして夜を明かした。



***


2回目の朝、今日も今日とてギルド2階の食堂で朝食を摂る。

何度も世話になっておきながら今朝初めて知ったのは、この店が『大入りの宴』という名前があったことだ。

常連さん(冒険者じゃなかった)に聞くところ、サンドイッチが非常に有名でギルドの関係者以外からも非常に人気があり街の人気スポットになっているらしい。

マスターに挨拶を済ませて街を抜け、藪を抜けて兎狩りに向かう。

しかし、今日はさっさと兎狩りを済ませたかった。

何故か?もちろん肉だ!健脚兎を少なくとも3羽は狩って1匹は納品、もう1匹はマスターに、最後は自分用にしたい。

生い茂った藪のエリアは徐々に森へと変わっていくが、どんどん先に進む。方向さえ見失わなければ問題ない。

最悪ハイジャンプで木の上に登って寝られるのだから。


全く関係ないが一つ気になる点があった。

自分自身が臭くなってきたことだ。

いくら冒険者だからと言っても、毎日入っていた生活から突然2日も風呂に入らなくなると体も痒く感じる。

少し落ち着いたら、服を綺麗にする魔法も考えよう。

こちらの世界にスーツは存在しないらしく、奇異の目で見られるが、せっかくの特徴だ。

この格好だと活躍した時に何と呼ばれるのか、非常に楽しみである。


「ふふ~んふ~ん」


鼻歌交じりにハイジャンプで跳びながら移動してると痕跡が見つかる。

移動距離が伸びているおかげで非常に楽に探索ができる。魔法が使えることによる素晴らしい副次効果。

痕跡を見つけると、足跡の方向から大体の予想を付けてゆっくりと追いかける。


「いた」


今回は2匹。10m以上離れてはいるが、魔力が上がった今なら制御範囲内だ。


「ウォーター」

ポテポテと2匹が同時に倒れる。連続して唱えることで、どちらも異変に気付く間もなく地上での溺死を味わうことになる。

数秒間のたうっていたが、最後に大きく痙攣して息絶えた。


【魔力1をテイクしました】

【魔力1をテイクしました】


パキッ

すぐ近くで響いた枯れ枝を踏む音。

すぐさまハイジャンプで地上を離れ音の出どころを探る。

どうやら真後ろ3mの位置に別の新人殺しがいたようだ。


「ウォーター」

回復した魔力で再び水攻めにする。

こちらも前の2匹と同じ結末を辿った。


【魔力1をテイクしました】


いきなり目標の3匹を捕まえてしまった。

このまま帰っても早すぎるので、血抜きをしながら時間を潰す。

とは言え昨日の教訓から、血抜きしている自分の周りに深さ1m幅2mの外堀を落し穴魔法で作り、不意打ちを防止した。

飛び道具は考慮していない。一応聞いたところでは、この辺りに飛び道具を使う魔物はいないらしいのだ。


「ヴォルフさんの3分クッキング~。」

誰もいないところで言っても寂しいだけだった。

仕方がないので、素早く血抜きすべく、首を切って腸を出して、外堀に放り込んでおく。

2匹を捌き終え、血抜きを眺めていると、昨日同様ゴブリンがやってきた。

今回4匹のようだ。視界に入った時点で既にウォーターの範囲内だが、今回は実験をする。


まず、兎の腸の近くに来た1匹を落し穴魔法で半径50cm深さ1m下に落とす。

これだけで身長1mであまり上下運動をしないゴブリンは身動きが取れない。これを4回繰り返し分断、4匹の動きを封じる。

そうしたら後は独壇場だ。少しグロテスクになるかもしれないが、魔法の実験台になってもらう。

死と隣合わせなせいか、命を奪うことに抵抗は既にない。

いや、本当はちょっとだけある。戦力差がありすぎるせいで弱い者いじめしてるような、少し物悲しい感覚。


1体目には頭上に爆発魔法を全力で掛けた。魔力30位の全力で木の幹を抉れる威力だったが、生物ならどの程度なのか。

結果は見るも無残だった。爆発と同時に頭蓋が砕け、中身が四方に飛び散った。

仲間血の匂いを悟ったのか、わずかに騒がしくなる他の穴。


【魔力2をテイクしました】


2体目には口の中で爆発魔法を魔力10で掛けた。

かなり魔力を抑えたが、頭部で爆発すれば魔物とも言えど即死は免れないらしい。

これが下位の魔物だからなのかは判断ができないが、『口の中に』という指定で空気を制御できることも収穫だった。


【魔力2をテイクしました】


次はそのまま土葬する。上から一気に土砂で埋める。


【魔力2をテイクしました】


これも有効なようだ。酸欠か圧死かはわからないが。

最後は、『虫眼鏡ビーム(仮)』と名付けた魔法。昔やらなかっただろうか?

虫眼鏡で草を焼くという実験。

上がった魔力で空気中の水分をレンズ上にして維持、光の収束点を操作して継続して熱を供給する。

レンズのサイズは全力で1mにも満たなかったが、発動後角度を調整すると『ジュッ』という音と断末魔が聞こえた。


【魔力2をテイクしました】


結果的にゴブリンの一番効率的な倒し方がウォーターに落ち着くという衝撃の事実。

その後も臭いにつられてやってきたゴブリンを駆除しつつ、外堀の中が死屍累々となったところで、討伐証明部位の剥ぎ取りを開始。

陽も傾き始めた頃、ようやく全てを剥ぎ終えて街へと歩き出した。

勿論、ゴブリンたちは全部燃やしたよ!


討伐証明部位は数えてみたら19枚の耳、相当狩ってたんだな。

魔法の練習に付き合ってもらったゴブリンもいたので、街に戻ってからギルドカードを更新するのが楽しみだ。

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