第九十一話 武闘大会決勝「ははは。オワタ」
――次の日。
武闘大会決勝。俺達はベンチに座って相手チームを待っていた。エルはどんよりしていて、ニャルカはいつも通り。ジュカルも特になにもなさそうだ。仮面の男は沈黙。
「なあ、エル。なにをそんなに落ち込んでいるんだ?」
「ん? ああ、バベル君。なんでもない。すぐ分かるよ」
エルが不気味なことを言いうが、試合は始まる。相手チームがやってきた事で、両チームの先鋒は試合場に上がるように言われた。
◇
『さあ、武闘大会決勝戦が始まります』
『そうでござるな、楽しみでござる』
相手チームの先鋒は、身軽な格好をしている中性的な人間。多分男。手にワンドを持っているから、魔法戦士かな?
『では、試合スタートです』
審判から始まりの合図がされ、試合が始まった。
……負けた。完膚なきまでに。結果、負けたのはエル。それも開始10秒でだ。試合開始と同時に、相手の先鋒は詠唱を始めた。しかし、詠唱に掛かった時間は1秒にもみたない。一瞬で魔法を完成させ、土魔法で造った大きな土の拳を打ち当てられて、エルは負けた。
担架で運ばれていくエルを尻目に、手元の資料を見る。これは昨日エルが見ていた紙だ。内容は相手チームの資料。これは負ける訳だ。相手チームは五人とも、Aランクの冒険者だったのだ。
Aランクの冒険者パーティ白夜。高ランクではとても珍しい五人パーティであり、帝国を代表する冒険者。男五人、女二人で構成され、バランスもよい。こんな資料を前日に見れば絶対にやる気が下がっただろう。エルが隠したのはそのためだと思う。
――率直に今の気持ちを。
――ははは。オワタ。
◇
次鋒ニャルカも『ぶにゃー』と叫びながら土の手で吹き飛ばされ、俺の出番が回ってきた。
「バベル、死ぬなよ」
「ああ。出来るだけ頑張ってくる」
ジュカルはもう諦めの雰囲気をただよわせていた。その雰囲気を背に闘技場に上がる。
「ふふ。これは五人抜き出来るかな」
相手は中性的な顔だちで、女みたいな顔をしているが、エルより下だな。エルは完璧に見た目は女だから。とりあえずエルもどきと呼ぼう。
「試合開始!」
審判の声とともに、試合が始まる。俺は真っ先に『召喚省略』を使ってくろまめを召喚して乗り、上空に上がることで土の手攻撃を回避する。
――マモン。戦闘中とかにまわりがゆっくりになっていろいろ考えられるあれだしてくれない?
――無理だ!
――なぜだ!
――とにかく今は無理なのだ!
「うお!」
上空に避難しても、エルもどきは土を弾丸の様に飛ばすロックショットと呼ばれる魔法を使って攻撃してくる。
「くろまめ、少し頼む」
「プ」
回避はくろまめに任せて、マモンとの会話にもどる。
――じゃあ炎だ。
――無理だ!
――焼肉屋でこんど力を貸してくれると約束しただろう。
――した。しかし、無理なものは無理。出来ない事を言うな。
――……分かった。じゃあ魔法を返してくれ。
――それなら出来る。しかし、良いのか? こんな大勢の前でお前の無詠唱を見せて。
――……詠唱をつけよう。
詠唱は必要ないが、さすがに大勢の前で見せるのは危ないし、ここは俺の親族が居るらしい国。むやみに見せられない。
「めんどい! 岩よ形を作れ。ストーンスマッシュ!」
エルもどきさんは、小さな弾丸を飛ばすのをやめ、大きな岩の塊を飛ばしてきた。
「くろまめ!」
「ププ」
すぐに回避命令を出すが、くろまめに少し掠る。
「くっ。『爆虫の図鑑』サモン『爆虫(ロケット型)』×4」
今の俺の魔力は1000ほど。まだ余裕はあるが、魔力は節約しないと。
ロケット型の爆虫をエルもどきに突撃させる。
「岩よ形を作り防げ。ストーンウォール」
しかし、岩の壁に阻まれ、エルもどきまで到達出来ない。
「土よ形を作り、降り注げ。ストーンレイン」
尖った岩が上空に現れ、振ってくる。
「くろまめ!」
「プ」
くろまめは低空飛行になりながら、岩を避ける。避けきれない岩は爆虫で破壊する。ふりそそぐ岩を回避出来たが、その為に低空飛行になったのがいけなかった。
「岩よ閉じ込めろ。ストーンプリズン」
地面から岩が生成され、俺とくろまめを岩の牢屋に閉じ込めた。
「な!」
すぐさま爆虫を召喚して檻を破壊しにかかるが、壊せない。
「土よ、包み込め」
エルもどきがそう唱えると、あいていた隙間が岩で埋まり、真っ暗な岩の箱に閉じ込められた。
……これは本格的にやばい状況だ。時限型の爆虫を設置して破壊を試みるが、少しひびが入っただけで、それもすぐに修復される。
――とてつもない耐久力と回復力だな。
――ああ。状況はかなりヤバイ。
この状況をどう打破するか考えていると、そとから声が聞こえてきた。
「ふふ。この檻に閉じ込められたらもう逃げられない。そして、土よ小さくなれ」
呪文が唱えられると、箱がじょじょに小さくなる。
「押しつぶされるのが先か、酸素が無くなるのが先か、どっちみちお前は負ける。なに、死にはしない。これは試合だからな」
どーしよ。魔力が許す限りの爆虫を召喚して『連鎖爆破』を使えば破壊出来るけど、それだと外に出てもなにもできない。ここでまってても死にはしないけど負ける。俺の今の魔力が750ほど。大型を出すにも出すスペースがないし、小型を出すにしても威力がない。じょじょに小さくなるので、俺とくろまめ以外が入ることはもう不可能だろう。
「くろまめ、戻れ」
ペースが足りなくなってきたので、くろまめを収納する。
うっ。少し苦しくなってきた。
――圧倒的に不利な状況。バベルはどうする?
――魔法も風魔法じゃ突破は難しい。爆虫も出すスペースがない。それに、あの耐久と回復じゃあ破壊しきれるかどうか。
詰んだかな。息が苦しくなってきて、部屋もどんどん小さくなっていく。まだ俺にはAランクが早すぎた。
意識が途切れる。次目覚めたら病室かな―――――――――
――あれ? 生きてる。
意識が途切れたと思ったら、俺は暗く、狭い岩の檻の中に居た。
――俺は気絶したんじゃ。
――守っている。
――え?
――周りを見ろ。
マモンの言葉に辺りを見ると、俺の周りには白く、丸い結界が張られており、迫ってくる岩を押し留めていた。
「これは」
魔力の流れを見ると、俺の腕から発生しているのが分かる。いそいで腕を見ると、都市サフランで購入した腕輪が光り輝き、なにかシンボルが浮かび上がっていた。
「なにが……いや、さっさと脱出しよう」
考えようとするが、この結界は凄く魔力を吸い取る。今でもどんどん魔力を吸い取られているので、さっさと脱出しないと。
爆虫を召喚するにもスペースが無い。
「そうだ」
俺はありったけの魔力を腕輪に注入する。それでも足りないから、ローブの中から上位魔力回復薬を取り出して飲み、どんどん注入する。
結界はどんどん大きくなり、俺を押しつぶそうと迫ってくる岩を吹き飛ばした。
『あーっと! 絶体絶命かと思われたバベル選手。まさか檻を破壊しました』
『さすがバベル殿。あっさり負けない』
「へえ。まさか脱出するとはね。まとっているのは結界を張る魔道具かな? まあ、あのまま負けていれば地獄を見ずにすんだのに。土よ形を作り攻撃せよ」
土の手が俺の目の前に現れ、攻撃する。しかし、結界に阻まれ、消滅した。
「魔法を消去するとは、白金貨数枚はくだらない魔道具だね。だけど、それの弱点は使い捨てというところ。攻撃し続ければいい」
土の手が現れ、攻撃してくるが、結界に阻まれる。
「……『爆虫の図鑑』」
俺は爆虫の図鑑を召喚し、魔法を組み立て始める。
――おい、詠唱を忘れているぞ。
――おっと。
詠唱をして、無詠唱だという事を隠す。
「えーと。風よ、集まれ」
魔力を右手に集める。ありったけの魔力は手から漏れ、周りに出現した。
「風よ、形を作れ」
周りの風は前方に集まり、形を作る。
「風よ、龍となれ! 風龍!」
集まった風は龍の形を作り、相手に飛んでいく。それは力強く、岩のシールドを食い破る。そして、相手を食らいつくした。
最後にエルもどきさんは『最上級魔法……』と言い残して、審判から俺の勝利が宣言された。
『……勝者、バベル選手ー!!』
『大逆転だったでござる』
『まさかの勝利でした』
あー。勝った勝った。
――ふふ。お疲れ。
――ああ。もう駄目だ。魔力を使い切った。
しばらくは魔力を動かさない方がいい。
――先鋒突破か。
――ああ。俺達の決勝戦はこれからだ!
◇
バベルの勝利を、一人の女性が唖然とした表情をしながら見ていた。
「あの結界は……まさか」
闘技場VPルームを貸しきっている女性は、椅子から立ち上がり、バベルを見つめる。近くに居る一人の従者も、そんな女性と同様、バベルが出した結界を唖然とした表情で見つめていた。
「あの結界はまさか守護の腕輪……ありえない」
女性はバベルの腕輪を守護の腕輪と言って、椅子に座る。
「アレは同じ血筋の者にしか扱えないはず。いえ、それにしてもあの魔力の流れはどこかで見たことが……」
女性はバベルの魔力を見る。
「あっ!」
「ご主人様?」
驚きの表情を浮かべ、固まった女性を従者が心配そうな表情をしながら声をかける。
「この魔力の流れはあの子に似ている」
女性はそこでいったん言葉を切る。
「アレは、イリーナと同じ魔力の流れ」
エンシャル帝国の公爵家現当主にして、古代魔法貴族の末裔、イリス=バルスターはそう言った。




