第八十五話 死の森
Bランクに成った翌朝、俺達は旅の準備を整えて冒険者ギルドに来ていた。
「いよいよ、初めてのBランク依頼だね!」
「ああ。Bランクに至った者の半数は最初の依頼で死ぬという。俺達もそうならないように気を引き締めるぞ!」
「「「おー」」」
ギルド内では掲示板の前で戦争が起こっているが、俺達はそれをスルーする。あの家計が苦しい時は否応なしに挑戦させられた依頼争奪戦はもう経験しなくてもいいのだ。
ギルドにはF~Cランクの依頼が貼ってある下級掲示板と、B~Sランクの依頼が貼ってある上級掲示板が存在する。俺達が行くのは奥に在る上級掲示板だ。
「いろいろ貼ってあるにゃ」
ニャルカが俺の頭の前でワクワクしながら掲示板を見ている。
「うーむ。凄く報酬が高いでござる」
「うん。桁が二つぐらい違うね」
上級掲示板の依頼はどれも高額だが、どれも危険そうな依頼ばかりだ。王種の討伐、万病の薬月光粉の採取といった依頼や危険地帯に出向く依頼。ほんとうにどれも危険そうな依頼ばかり。
「こんな危険だからBランクはノルマが一年に5回依頼を達成なんだね」
「ああ。Bランク以上は依頼で一ヶ月そこら出かけるのはザラだからな。移動でもかなり掛かるって聞くし」
「いやにゃー。我そんな仕事したくない」
ニャルカはにゃーにゃー。騒いでいる。
「お前は冥王なんだろ?」
「たしかに我が波動は万物を操るが、それでもいやにゃ!」
はあー。めんどくさい。だけど、俺もそんなに出かけるのは嫌だな。
「あ! これなんてどうでござるか?」
桜が指差したのは『死の森で咲く命の花の採取』という依頼。報酬は……金貨四十枚!
「これにしよう」
死の森は危険地帯に登録されているが、危険度は低いと聞いたことがあるし大丈夫だよ。
「オッケー。死の森は確か帝都から西に一週間ぐらい歩くと在るから、でかぽんで三日ぐらいかな?」
「それは良かったにゃ」
俺達は初のBランク依頼を、死の森での採取に決定した。
◇
でかぽんに乗って帝都から西に三日間。特に何もない旅路を終えて、俺達は死の森に到着した。
「……すごい不気味だ」
エルの言う通り森はどこか不気味だ。
「ここに命の花があるんでござるか?」
「うん。この森の中央にあるらしい。王位魔力回復薬の材料になるから、需要はかなりある」
命の花。別名ライフフラワー。その花は命の結晶と言われ、とても希少な花だ。一輪で金貨四十枚(日本円で約400万)といえばその価値が分かるだろう。つまり一輪あれば桜の食費込みでしばらく遊んで暮らせる。
「さあ! 行くにゃよ!」
ニャルカのその言葉と共に、俺達は森へと入った。
死の気配がする森は、命の気配がしない。人も動物も魔物さえも居ない森。それが死の森。
しばらく森を歩くと先頭を歩いていたエルが突然立ち止まる。
「どうしたんだ?」
「止まって!」
エルは手で俺達を制す。
「やっぱりなにかある」
エルは干し肉を取り出し、前方へと投げる。それは宙を舞い、地中から出てきた植物によって丸呑みにされた。
「食人植物!」
地中から出てきた植物は、上を歩いた人を丸呑みにする地獄の口と呼ばれる食人植物。食べられたら三日かけて少しずつ消化される地獄を味わう。しかし、消化中は動けないため、この間に攻撃すればすぐに倒せる。
「サモン『爆虫(時限型)』」
俺は爆虫を召喚し、地獄の口に飛び込ませる。その数秒後食人植物は木っ端微塵になった。
「……この森は、本気でボク達を殺しに来る」
「にゃあ」
死の森は植物達が支配する森。一筋縄ではいかない。
◇
死の森探索三日目。
いまだ命の花は見つけていない。ここで死んだだろう人間の装備を見つけたり、食人植物に襲われたりしている。大変なのは野営だ。森の中、植物達に襲われる恐怖にさらされながら寝るなんてうちのアホと猫以外は不可能だ。
――お前ははすこし気にしすぎだ。桜を見習ってもう少し何も考えず。
――無理だ。桜なんて見習ったらもう俺達壊滅してるぞ。桜が頭空っぽにして生きていられるのは、ひとえに桜が桜だからだ。
――意味が分からない。
――桜は頭空っぽにしてたほうが強いって事だ。
桜はアホの子だから良いのだ。月光国での桜みたいに、少し知的な雰囲気をかもし出すのは似合わない。
「……見つからないね」
さすがに三日見つからないのは精神的にきつい。エルも周りを警戒しながら少し疲れた様子を見せる。もちろんニャルカはグースカ俺の頭で寝ているし、桜はニコニコと疲れた様子も見せない。
「そのうち見つかるでござるよ」
「そうかなー」
エルと桜の会話を聞きながら俺は辺りを見渡す。すると、小型の爆虫が俺の方に向かってきた。
「どうやら、命の花見つけたみたいだぞ」
「「え?」」
「すぴにゃー。すぴにゃー」
俺はエルとニャルカに宣言した。
爆虫が案内する後を俺達はついていく。
「知ってのとおり、爆虫は簡単な命令しか実行出来ない。だから、花の特徴をいちいち教えても見つけることは出来ない」
「じゃあどうやって?」
「それは簡単。ちゃきいが爆虫達の指揮を執ったんだ」
「「ちゃきいが?」」
そう、ちゃきいの正式名称は爆虫戦艦二号指揮型船ちゃきいだ。
「ちゃきいなら細かい命令も理解してくれるからな。命の花の特徴を伝えて爆虫達を指揮してもらった。ちゃきいなら爆虫をうまく動かせるからな」
「……まさかそんな事を考えていたなんて」
「当たり前だろ。闇雲に探し回るなんて非効率な事俺はやらん」
人間は成長する。非効率な事はやらず、効率良くやらないと。
「あ、ここでござるか?」
不気味な森の中央はには、一輪の花が咲いていた。青く、綺麗な花が。
「綺麗だね」
「ああ」
命の花は一つの森で、年に三回一輪しか咲かないとても希少な花。
「さて、採取するか」
命の花はすぐ枯れてしまうから、ちゃんとプランターに入れて持ち帰らないといけない。
エルが持ってきたプランターにやさしく移し変える。
「行こうか」
「そうでござるな」
俺達は命の花を持って、この森を後にした。




