第七十一話 ハーレム野郎VS爆弾魔
あの浮気調査依頼から一週間が経過し、今日は休日だ。あの後ニャルカがDランクに昇格した以外は特に変わった事はなく、普通に依頼を受けて達成して飯食って寝るの毎日を過ごした。
――お、これは美味いぞ。
――だなー。
今日は特になにもないので、一人(マモンも居るから二人かな?)で昼ご飯を食べていた。
――ここは当たりだな。
――ああ。特にこの野菜が絶品だ。
――え? 私はその野菜が嫌いだ。それより肉が絶品だ。
――なに?
――文句あるか?
ガルガルと威嚇しあっていると、後ろの席からこんな声が聞こえてきた。
「レオ兄あーん」
「おい、リン。張り付くなって」
「私のを分けてあげなくもないわよ」
「そうか? じゃあ一口」
「はい、あーん」
「あらあら。仲が良いですね~。私も妬けちゃいます」
「レオ様。Dランク昇格おめでとうございます」
「ああ。サンキューな」
「レオ兄たった一ヶ月でDランク昇格ってすごいね」
そんな会話が……。
――バベル。今の心境をひと言で言うと?
――爆発すればいいのに。なんだ。妹系。ツンデレ系。お姉さん系。メイド。いろいろな属性がそろってよりどりみどりってか? 爆死すればいいのに。というかDランクまでなら頑張れば誰でもでも成れる。記録では登録して一時間でDランクまで上がった人が居たし。
――まあ、私もしょうしょうイラつく。人が美味しく昼ご飯食べている時に横でいちゃつかれたら。
――だな。爆発すればいいのに。
――……時にバベル。おまえのユニークスキルはなんだ?
――え? 『爆虫召喚』だが……なるほど。お主も悪よのお。
――いえいえ。バベル殿のクズっぷりに比べたらまだまだですよ。
俺とマモンは脳内で意地の悪い笑みを浮かべた。
「ま、レオは私のライバルだから、それぐらい当然だけど」
「あれ? だけど。カナはまだEランクだったよね」
「う、うるさーい。あと数日で追いつくから!」
「カナ姉もガンバレ!」
「う、うん」
――チッ。
――あの光景を見て舌打ちなんて小物に見えるぞ。
――言いたいヤツには言わしておけ。俺は小物の守銭奴で結構。
――そこにクズと鬼畜が入るがな。
マモンが盛大にディスってくるが、気にしない。
料理を食べ終わり、会計の為にハーレム野郎の横を通り抜け、そっとテーブルの上に安全ピンを外した手榴弾型を置いて、カウンターで会計を終わらせて店を出た。
――まるで気配がなかったぞ。
――俺もビックリした。あんなに自然体になれるんだな。
――お前の憎悪がそうさせたんだろうな。
マモンと会話しながら町の裏通りを歩く。
――さて、今日はなにをするんだ?
――なにしようか? 金を使う遊びはしたくないし、宿でゴロゴロしてよう。
そう考えて、宿へ戻ろうとすると、どこからか声が聞こえてきた。
「おーい!」
そう、誰かを呼び止める様な声が……。
「おい! 君だな。さっき手榴弾を置いたのは」
その声はさっき俺が爆虫を置いた席に座っていた少年だった。
「人違いです。それじゃあ」
四人の女を引き連れたハーレム野郎にそう言い放ってその場を離れようとする。
「ちょっと待て。僕は見たぞ。君がそっと手榴弾を置いたのを」
「そ、そうよ! 私も見たわ」
「ほおー。なるほど。……じゃあ証拠は?」
「っっ!」
「証拠がないんじゃ証明することは無理だよね? じゃ、そういうことで」
そう言って、俺はその場を離れる。
――もう誰が見てもお前が悪人にしか見えないぞ。
――はは。俺は鉄のメンタルを手に入れた。その程度のことではビクともせん。
――お前は悪の組織か盗賊団が似合っている。
「ちょっとまった!」
その場を離れようとすると主人公君が俺の肩をつかんで止めてくる。
「じゃあ決闘だ。僕が勝ったらいさぎよく認めろ」
なるほど。そう来たか。
「なるほど。それで、俺のメリットは?」
「君の言うことをなんでも一つ聞こう」
「いいだろう。その言葉を忘れるな」
「じゃあ、冒険者ギルドの訓練場に行くぞ」
「ああ」
俺達は全員でギルドに移動することになった。
「さて、決闘のルールは殺しはなし。降参あり。戦闘不能になったら終了だ」
「おっけー」
ギルドの地下にある訓練場は決闘にも使用される。俺達が決闘することになって、まわりには数名の野次馬が観ている。
「レオ様の手をわずらわせる必要はありません。ここは私が」
「私がやってもいいわよ」
メイドとツンデレが主人公君に言う。
――マモンはどう見る?
――そうだな。あの赤髪のツンデレと桃髪の妹系はニャルカより弱いと思う。まあ、ツンデレはもう少し強いか。
――果てなき夢最弱のニャルカより弱いのか。まあ、ニャルカは得意なヤツにはめっぽう強いが相性悪かったら子どもでも負けるしな。
――あのメイドはさっき言った二人より強いが、お前なら楽に勝てるだろう。
――一番不気味なのは後ろで微笑んでいる緑髪の女だな。かなり強いと思う。
――俺もあの人だけは強いと思うが、どうもあの蛙とかリバイアサンとか鎧武者のイレギュラーより弱いと思うんだが。
――ああゆう世界レベルの魔物と比べるのは止めなさい。
――ああ。で、最後はあの主人公君だ。
――たしかレオと言ったか? かなり鍛えられているな。絶対なにかしらの武器を使う前衛型。一つ言えることは、桜より弱い。
――あの馬鹿と比べるのは止めよう。
――誰が出てきてもお前の戦い方をすればいい。
――分かった。
マモンと会話するが、この間数秒だ。
「あいつはどんなヤツか分からない。みんなを危険にさらせないよ」
「レオ様」
「レオ」
「だから、僕が戦う。みんなは下がってて」
あの主人公君。すごく主人公っぽいセリフを吐いた。
「さあ。君をコテンパに伸して謝罪してもらうよ」
「ああ」
「じゃあ。決闘を始める」
審判は野次馬の冒険者に頼んでいる。
「決闘開始!」
「先手必勝。――『爆虫の図鑑』サモン『集中型』×10! 目の前の敵を爆破」
召喚した爆虫を主人公君に向かわせる。
「爆発能力。やはり君だったか! だが、遅い! サモン『エクスカリバー』。――“聖なる斬撃”」
主人公君が剣を召喚し、一直線に振り下ろす。すると、光の斬撃が現れ、爆虫をすべて打ち落とし、その直線上にある地面までもが切り裂かれた。
「レオ兄すごい!」
「ま、レオなら当たり前ね」
「ふふ。さすがレオ。私の一番弟子ね」
「レオ様なら当たり前です」
「この剣は聖剣エクスカリバー。この剣に切れない物はない!」
おいおい。切れない物はないって反則だろ。これだから主人公君は。
――だが、切れない物はないということはありえない。
――まあ、そうだな。
マモンの言葉には同意する。それならすべてを守る盾があればどうなるのか? 多分ユニークスキルのLVが高い方に軍配が上がるだろう。多分厳密に言うとあれは恐ろしく切れ味の良い剣という事になる。それだけでも十分脅威だが。
「はあ!」
「おっと」
鋭い攻撃。だが、回避する事は可能だ。魔力を見る目で見ていると分かるが、主人公君は攻撃する時、攻撃が行く方向に向かって一瞬魔力が集まるのが分かる。多分主人公君の癖かなにかだろう。普通なら癖にはならない癖だが、今回はそれが仇となったな。
「くっ。ちょこまかとこれならどうだ。“聖なる刃”」
主人公君が剣を振り下ろすと、三本の斬撃が現れ、地面を切り裂く。
――今のは危なかったな。死んだかと思ったぞ。
――ああ。まさか三本いっぺんにくるとはな。試合場の床がボコボコだ。まあ、試合が終われば自動で修復する投与魔法がかけられているらしいから大丈夫だとは思うけど。
「どうした、君は十中八九魔法使いだろ? さっきからユニークスキルばかりで魔法は使わないのか?」
「まっ、お前ごときには魔法を使うまでもないという事さ」
使わないんじゃなくて使えないだけだけどな。
「舐めると後悔するぞ」
だから使えないだけなんだけどね。はったりも大事な武器だから言わないけど。
――お前が主人公を舐めプしてやられるかませ犬にしか見えないのだが。
――そうですか!
さて、そろそろ体力が切れそうだし、勝負を決めに行くか。少々卑怯だけど……。
身体強化魔法を一瞬だけ使って、主人公君の目の前に高速移動する。
「なに!」
「ほれ」
俺は手に持っていた砂袋を主人公君の顔にむかって投げつける。
「うわぁ!」
「追撃だ!」
砂が目に入った様子の主人公君は、目を瞑る。その隙にローブに隠していた小型爆虫を主人公君に取り付かせる。
「爆発……」
俺の命令と供に、爆虫は音を立てて爆発した。
「「「「レオ(様)(兄)」」」」
主人公君達の女が倒れた主人公君に駆け寄る。
――ああ。疲れた。これだから対人戦は嫌いだ。魔物よりやっかい。
――あのレオという奴は強かったが、少し正直すぎた。もうすこし搦め手を使えばお前にも善戦出来ただろうに。
――へえー。善戦出来ただけか。
――そりゃそうだ。お前いろいろ仕掛けてたろ。
――あ! ばれた?
そう、俺はあの特攻が失敗した時のために他にも罠をしかけていた。地中に潜む地雷型。空中にナイフを持った小型の爆虫。煙玉をいつでも放てる位置にいた中型の爆虫。主人公君の近くに隠れていた寄生型。ほかにもいろいろ仕掛けておいたが、一回目で片が付いた。
「さて、これで俺の勝ちだ。なんでも一つ言うことを聞いてくれるらしいが、それは主人公君が起きたらで良い。じゃあね」
そう言って立ち去ろうとすると、やはり呼び止められた。
「ちょっと! さっきのは卑怯じゃないの!」
「全然」
「砂を目に浴びせて攻撃なんて人間のやること!」
「うん。やること」
「さっきの試合は無効よ! こんどは私が相手してあげる」
「うん。だが断る。主人公君に命令出来る権利は渡さないよ。じゃあ」
さっさと帰ろうとすると、やはりまた呼び止められた。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「はあぁ。お前は魔物相手にもそう言うのか? ゴブリンのそんな事いってもまってくれないぞ。オークなら何振かまわず襲ってくる」
「そ、それは魔物の話でしょ! 私は人間の話をしてるの!」
「俺は冒険者。そういう決闘の礼儀とかは騎士にまかせろ。勝負は勝てば良いんだよ。勝てば。たとえ勝負の礼儀から外れても、犯罪はばれにゃきゃ犯罪じゃないように」
「クッ」
「そういう決闘がしたいなら騎士団にでも行きな。冒険者はつねに死と隣り合わせ。貴族の坊っちゃんだろうが、冒険者ならこんな試合日常茶飯事だぞ」
そう言い捨てて、俺は訓練場を出た。後ろに三人の睨まれる視線を感じながら。
――で、さっきちょっと正論言ったが、お前は鬼畜だと思う。あれは過剰攻撃だろ。
――そうか? 俺はもしかしたら倒れたふりをして不意打ちをしてくるかも、と考えていつもよりちょっと過剰に追撃しただけだ。
――あの坊っちゃんにそんな事は無理だろ。
――だなー。それと、あの主人公君はやっぱり転生者かもしれん。
――転生者ぁ? お前と同じ?
――そうそう。なんか軽く流されちゃったけど、俺別の世界から転生してきたんだ。
――そうかそうか。それで、あの坊っちゃんが転生者だという根拠は?
――雰囲気と主人公っぽい所。
――どういう意味だ?
――ハーレム作ってあんなチートなユニークスキルを持ってるなんて、ラノベ主人公みたいじゃん?
――言ってる意味がよく分からないが、要はお前の感だろ?
――まあな。
――お前の感はあてになるのかねえ。
俺とマモンはそんな会話をしながら宿へと帰った。




