第五十六話 『無敗の超人』
「来ます!」
気合いを入れ直した桜が叫ぶ。いままで奥の方まで吹っ飛んでいた鎧武者が戻ってきたのだ。鎧武者が纏っている電気は勢いをましており、可成り怒っているのが分かる。
「バベル殿!」
「ゴアーアアアアア!」
突っ込んできた鎧武者を、横に跳んで避ける。くろまめは図鑑に戻ってしまったので、再度呼び出さなければならない。しかし、もう一度呼び出して乗るとなると少し時間が掛かる。その間に鎧武者に殺されるだろう。
「どうしましょう?」
「どうするか」
幾ら気合いを入れ直した所で、鎧武者に決定打がないのは変わらない。マモンの炎だけじゃ、とてもじゃないが鎧武者を倒せないだろう。
――マモン。何かないのか?
――……古代兵器には三つの能力がある。
――それで。
――ユニークスキルの強制成長やリンクはおまけの能力。三つの内ーつはメインの能力。この炎だ。残り二つは……お前にはまだ早いな。それで、お前は炎の能力を充分に引き出していない。それの本当の使い方は……。
――使い方は?
――ここからは私の沽券に関わるから秘密だ。
――えー。
――お前が考えろ。
そこで会話が途切れる。マモンの言う炎の使い方って何なんだ。
「また来ます!」
少し考え込んでいると、電気を纏った鎧武者が突っ込んでくる。とっさに横に跳んで避けると、鎧武者は墓に突っ込んだ。
「ゴ、アアアアア!」
中々死なない俺達に業を煮やしたのか、鎧武者は声を上げ、腰の刀を抜いた。
「どうしたんでしょうか?」
「な!」
刀をどうするかと思えば、鎧武者は雷を纏わせる。ほんの1mほどの錆びた刀が電気に包まれ、5mほどの大剣に変わった。
そして、鎧武者はそれをメチャクチャに振り回した。
「バベル殿。こっちです」
どうするか迷っていると、桜が手を引いてくる
「こっちなら……」
「!」
今、炎がざわついた。何かが違う。俺の使い方は何かが違う。
「バベル殿?」
丁度刀が届かない場所まで来ると、桜が顔をのぞき込みながら聞いてくる。
「炎の使い方が……」
「炎? ……わ!」
後一歩で何か掴める。さっきと同じように桜の手を握る。
……心? ――そうか!
「分かった」
「へ、へ!?」
はあー。つくづく強欲っぽくない能力だな。
「マモンの能力は繋がり。炎を分け与えるんだ!」
「分け与える?」
百聞は一見にしかず。桜の手を握り、炎を与えるイメージで……。
「わ!」
すると、桜から赤い炎と青い炎が噴き出した。
「これはバベル殿と同じ」
「そうだ。青が回復赤が攻撃。この能力は繋がりだ」
「繋がり……?」
「来るぞ」
電気の大剣(これから電気剣と呼ぶことにする)を振り回していた鎧武者だが、俺達に届いていないと分かったのだろう。電気剣を担ぎながらこちらにやって来る。そして大ぶりになり、電気剣を振り下ろした。
「避けて下さい!」
桜の合図で、俺達はそれを避ける。
「もうこれに頼るしかありません。よく分かりませんが、攻撃してみます」
桜は赤い炎を両手に集め、鎧武者に向かって正拳突きをたたき込んだ。
「ゴアアアアアアアア!」
鎧武者は悲鳴に似た声を上げる。今の攻撃で、始めてダメージを与えられたのだ。
「やあ!」
更に桜は追撃を加える。怒り狂った鎧武者は電気剣を持ち上げ、桜に向かって振り下ろした。
振り下ろされた場所には桜は居なく、いつの間にか俺の横に居た。
「この炎凄いですね。いつもより体が軽いです」
「そうだろ。それより、鎧武者は倒せそうか?」
「正直難しいですね。ここに夜桜が有ったら……あ!」
「おい、来るぞ」
少し考えている桜に俺は叫ぶ。大剣を構えた鎧武者が、俺達の方にやって来るのだ。もう雰囲気でものすごく怒り狂っているのが分かる。
「バベル殿少し時間を稼いで下さい!」
「はあ?」
桜がそんな事を言うが、もう出来る事はあまりないので、桜に頼るしかない。振り下ろされた大剣は、赤の炎で受け止める。体に来た衝撃を青の炎で和らげる。などの事をしながら、桜が何か思いつくまで待った。
◇
(……絆。子鉄おじさんは確か……)
桜はバベルに守られながら、過去に言われた事を思いだしていた。
(確かあの事件から10日経った時。子鉄おじさんは――)
――桜の姉が死んで10日後。
「子鉄おじさん?」
「おう、桜」
桜は布団から起き上がり、入って来た子鉄を迎える。桜はまだ姉が死んだ事を受け入れられず、顔に影がささっていた。
「桜。刀ってのは、侍の魂だ」
「なに? 突然」
「まあ聞け。刀は安易に振り回して良いもんじゃねえ。刀は、大事な人を守る為に使う」
「大事な人?」
「恋人か。仲間か。家族か。刀は、人を切る為の道具じゃねえ。守る為の物だ」
「う、うん」
「それが分かったら、これを渡そう」
そう言って、子鉄は夜桜を取り出す。
「夜桜?」
「少し投与の見直しをした。これが俺の最後の仕事だろう。そして、俺の最高傑作だ。そして、桜が呼び掛ければ、いつでも答えてくれる。これは絆の刀だ」
「うん?」
「それと、俺達は駆けつけたとき発動していたスキルもこれで大丈夫だ」
「スキル?」
「あ! そうか。まだ時期じゃなかったな」
そう言って、子鉄は夜桜を桜の枕元に置いて立ち上がる。
「じゃあな」
「うん」
そして、子鉄は部屋を出た――。
(――子鉄おじさんは、言っていた。刀に呼び掛ければ答えてくれるって)
桜は心を繋ぐ。
「夜桜。私の相棒。答えて。――助けて!!」
桜がそう叫ぶと、確かに答えた。夜桜は、答えたのだ。
電気に何かがぶつかる音がする。その数秒後。電気の檻を破壊し、一本の刀が桜の元に飛んできた。
「夜桜?」
刀は喋らない。しかし、ちゃんと答えてくれる。あいつを倒そうと。
「バベル殿。お待たせしました。鎧武者。お前は私が倒す!!」
桜が夜桜を抜き、その言葉を発した時、世界は少し動いた。
どこからか。どこにか。機会音の様な声が、発されたのだ。
《名 夜月桜は、ユニークスキル第二段階へと移行します。……成功。夜月桜は、LV5に。必殺スキルを獲得しました》
◇
「バベル殿。お待たせしました。鎧武者。お前は私が倒す!!」
そう言った桜は、まるで変わっていた。どこからか飛んできた夜桜を構え、赤と青の炎をたぎらせている。
「バベル殿。手伝ってくれますか」
「もちろんだっ!。サモン『爆虫(大型)』×5! あがっ!?」
大型を五匹召喚すると、鋭い痛みが体中を襲う。まあ、そりゃそうだろう。回復し続けるとはいえ、魔力要領を越えて召喚してしまったのだから。
「行け!」
痛みを我慢し、大型を鎧武者に飛ばす。
「『連鎖爆破』!」
「ゴウアアアアアアア!」
あまり聞いた様子はないが、ダメージは与えられた。俺は倒せなくても良い。時間を稼げれば。
「――バベル殿。どいて下さい」
「おう」
とてつもない覇気を纏った桜の軌道から外れる。
「必殺スキル『無敗の超人』――これで終わり。桜斬り!」
桜は全てを集結させた攻撃を鎧武者に向けて放った。
その攻撃は鎧武者を真っ二つにし、その軌道に在った墓をすべて斬った。
「……終わりました」
「すげーなー」
その攻撃に思わず放心してしまう。まあ、必殺スキル+赤の炎と青の炎+夜桜だからな。
「あ! 魔核はどうなった!」
真っ二つにしてしまえば、体の中心に在る魔核も真っ二つに……。俺はすぐに飛んで行き、調べる。
「はあ、矢っ張りだ」
鎧武者の中心に在った魔核は綺麗に割れており、とてもじゃないが使えそうにない。
「はあ、買い取り価格が安くなる」
「バベル殿は相変わらずですね」
「まあな」
「……バベル殿」
桜は少し思い詰めた様な顔をしながら、話しかけてくる。
「ん?」
「少し、聞いて下さい」
「なんだ?」
「私の姉上は――」
そして桜は突然語り出した。姉のすばらしさ。死んだときの事を……。
「で、その後父上と子鉄おじさんが迎えに来てくれました。心が不安定になった影響か、その時に私は狂った超人を発動してたそうです。落ち着かせるのが大変だったとか」
「………」
「私はもう姉上を失った時のように、無力で居たくなかった。それで、父上や兄上に稽古を付けてもらったのですが、私はそれだけでは限界を感じました。そして、15歳に成った時、家を飛び出してしまいました」
その事件の後のことも、桜は話す。
「……それで。どうしたんだ?」
「……私はいつも、あの時共同墓地に行かなければと考えてしまいます。バベル殿はどう思いますか?」
桜は姉の墓を見ながらそう言う。
「……その時って桜5歳だろ? 5歳児にそんな事求めるのは酷だぜ。それに、幾ら後悔したって戻ってこないんだ。過去は……」
「そう、ですよね」
桜は寂しそうな顔をしながら、答える。
「桜は姉の事どう思ってた?」
「……好きでした。……大好きでした!」
「じゃあそれで良いじゃないか。それに、姉はくよくよ悩んで欲しくないんじゃないか?」
「……姉上なら。姉様なら。お姉ちゃんなら。『桜。海を見てみなよ。広いでしょ。私は、いつも後悔しない。後悔したら、海を見て吹き飛ばす! 後悔なんてつまらないから』姉上はそう言っていた」
「…………」
「……後悔なんてつまらない」
桜は、少しスッキリした顔で、そう言った。
「いいんじゃないか。それで」
「はい!」
その時の桜の笑顔は、とても綺麗だった。
「よし、帰るか」
少し落ち着いてきたので、真っ二つに為った魔核を持って、帰ろうとする。
「……バベル殿」
さあ、帰ろうという所で、桜が話しかけてくる。
「ん? どうしたんだ?」
「――私は、一緒に行けないかもしれません」
桜は寂しそうな顔で、そう言った。




