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爆虫の召喚士  作者: 天野 雪人
第五章 月光国編
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第五十六話 『無敗の超人』

「来ます!」


 気合いを入れ直した桜が叫ぶ。いままで奥の方まで吹っ飛んでいた鎧武者が戻ってきたのだ。鎧武者が纏っている電気は勢いをましており、可成り怒っているのが分かる。


「バベル殿!」

「ゴアーアアアアア!」


 突っ込んできた鎧武者を、横に跳んで避ける。くろまめは図鑑に戻ってしまったので、再度呼び出さなければならない。しかし、もう一度呼び出して乗るとなると少し時間が掛かる。その間に鎧武者に殺されるだろう。


「どうしましょう?」

「どうするか」


 幾ら気合いを入れ直した所で、鎧武者に決定打がないのは変わらない。マモンの炎だけじゃ、とてもじゃないが鎧武者を倒せないだろう。


 ――マモン。何かないのか?


 ――……古代兵器には三つの能力がある。


 ――それで。


 ――ユニークスキルの強制成長やリンクはおまけの能力。三つの内ーつはメインの能力。この炎だ。残り二つは……お前にはまだ早いな。それで、お前は炎の能力を充分に引き出していない。それの本当の使い方は……。


 ――使い方は?


 ――ここからは私の沽券に関わるから秘密だ。


 ――えー。


 ――お前が考えろ。


 そこで会話が途切れる。マモンの言う炎の使い方って何なんだ。


「また来ます!」


 少し考え込んでいると、電気を纏った鎧武者が突っ込んでくる。とっさに横に跳んで避けると、鎧武者は墓に突っ込んだ。


「ゴ、アアアアア!」


 中々死なない俺達に業を煮やしたのか、鎧武者は声を上げ、腰の刀を抜いた。


「どうしたんでしょうか?」

「な!」


 刀をどうするかと思えば、鎧武者は雷を纏わせる。ほんの1mほどの錆びた刀が電気に包まれ、5mほどの大剣に変わった。

 そして、鎧武者はそれをメチャクチャに振り回した。


「バベル殿。こっちです」


 どうするか迷っていると、桜が手を引いてくる


「こっちなら……」

「!」


 今、炎がざわついた。何かが違う。俺の使い方は何かが違う。


「バベル殿?」


 丁度刀が届かない場所まで来ると、桜が顔をのぞき込みながら聞いてくる。


「炎の使い方が……」

「炎? ……わ!」


 後一歩で何か掴める。さっきと同じように桜の手を握る。

 ……心? ――そうか!


「分かった」

「へ、へ!?」


 はあー。つくづく強欲っぽくない能力だな。


「マモンの能力は繋がり。炎を分け与えるんだ!」

「分け与える?」


 百聞は一見にしかず。桜の手を握り、炎を与えるイメージで……。


「わ!」


 すると、桜から赤い炎と青い炎が噴き出した。


「これはバベル殿と同じ」

「そうだ。青が回復赤が攻撃。この能力は繋がりだ」

「繋がり……?」

「来るぞ」


 電気の大剣(これから電気剣と呼ぶことにする)を振り回していた鎧武者だが、俺達に届いていないと分かったのだろう。電気剣を担ぎながらこちらにやって来る。そして大ぶりになり、電気剣を振り下ろした。


「避けて下さい!」


 桜の合図で、俺達はそれを避ける。


「もうこれに頼るしかありません。よく分かりませんが、攻撃してみます」


 桜は赤い炎を両手に集め、鎧武者に向かって正拳突きをたたき込んだ。


「ゴアアアアアアアア!」


 鎧武者は悲鳴に似た声を上げる。今の攻撃で、始めてダメージを与えられたのだ。


「やあ!」


 更に桜は追撃を加える。怒り狂った鎧武者は電気剣を持ち上げ、桜に向かって振り下ろした。

 振り下ろされた場所には桜は居なく、いつの間にか俺の横に居た。


「この炎凄いですね。いつもより体が軽いです」

「そうだろ。それより、鎧武者は倒せそうか?」

「正直難しいですね。ここに夜桜が有ったら……あ!」

「おい、来るぞ」


 少し考えている桜に俺は叫ぶ。大剣を構えた鎧武者が、俺達の方にやって来るのだ。もう雰囲気でものすごく怒り狂っているのが分かる。


「バベル殿少し時間を稼いで下さい!」

「はあ?」


 桜がそんな事を言うが、もう出来る事はあまりないので、桜に頼るしかない。振り下ろされた大剣は、赤の炎で受け止める。体に来た衝撃を青の炎で和らげる。などの事をしながら、桜が何か思いつくまで待った。



 ◇



(……絆。子鉄おじさんは確か……)


 桜はバベルに守られながら、過去に言われた事を思いだしていた。


(確かあの事件から10日経った時。子鉄おじさんは――)



 ――桜の姉が死んで10日後。


「子鉄おじさん?」

「おう、桜」


 桜は布団から起き上がり、入って来た子鉄を迎える。桜はまだ姉が死んだ事を受け入れられず、顔に影がささっていた。


「桜。刀ってのは、侍の魂だ」

「なに? 突然」

「まあ聞け。刀は安易に振り回して良いもんじゃねえ。刀は、大事な人を守る為に使う」

「大事な人?」

「恋人か。仲間か。家族か。刀は、人を切る為の道具じゃねえ。守る為の物だ」

「う、うん」

「それが分かったら、これを渡そう」


 そう言って、子鉄は夜桜を取り出す。


「夜桜?」

「少し投与の見直しをした。これが俺の最後の仕事だろう。そして、俺の最高傑作だ。そして、桜が呼び掛ければ、いつでも答えてくれる。これは絆の刀だ」

「うん?」

「それと、俺達は駆けつけたとき発動していたスキルもこれで大丈夫だ」

「スキル?」

「あ! そうか。まだ時期じゃなかったな」


 そう言って、子鉄は夜桜を桜の枕元に置いて立ち上がる。


「じゃあな」

「うん」


 そして、子鉄は部屋を出た――。



 (――子鉄おじさんは、言っていた。刀に呼び掛ければ答えてくれるって)


 桜は心を繋ぐ。


「夜桜。私の相棒。答えて。――助けて!!」


 桜がそう叫ぶと、確かに答えた。夜桜は、答えたのだ。


 電気に何かがぶつかる音がする。その数秒後。電気の檻を破壊し、一本の刀が桜の元に飛んできた。


「夜桜?」


 刀は喋らない。しかし、ちゃんと答えてくれる。あいつを倒そうと。


「バベル殿。お待たせしました。鎧武者。お前は私が倒す!!」


 桜が夜桜を抜き、その言葉を発した時、世界は少し動いた。

 どこからか。どこにか。機会音の様な声が、発されたのだ。


 《名 夜月桜は、ユニークスキル第二段階へと移行します。……成功。夜月桜は、LV5に。必殺スキルを獲得しました》



 ◇



「バベル殿。お待たせしました。鎧武者。お前は私が倒す!!」


 そう言った桜は、まるで変わっていた。どこからか飛んできた夜桜を構え、赤と青の炎をたぎらせている。


「バベル殿。手伝ってくれますか」

「もちろんだっ!。サモン『爆虫(大型)』×5! あがっ!?」


 大型を五匹召喚すると、鋭い痛みが体中を襲う。まあ、そりゃそうだろう。回復し続けるとはいえ、魔力要領を越えて召喚してしまったのだから。


「行け!」


 痛みを我慢し、大型を鎧武者に飛ばす。


「『連鎖爆破』!」

「ゴウアアアアアアア!」


 あまり聞いた様子はないが、ダメージは与えられた。俺は倒せなくても良い。時間を稼げれば。


「――バベル殿。どいて下さい」

「おう」


 とてつもない覇気を纏った桜の軌道から外れる。


「必殺スキル『無敗の超人』――これで終わり。桜斬り!」


 桜は全てを集結させた攻撃を鎧武者に向けて放った。


 その攻撃は鎧武者を真っ二つにし、その軌道に在った墓をすべて斬った。


「……終わりました」

「すげーなー」


 その攻撃に思わず放心してしまう。まあ、必殺スキル+赤の炎と青の炎+夜桜だからな。


「あ! 魔核はどうなった!」


 真っ二つにしてしまえば、体の中心に在る魔核も真っ二つに……。俺はすぐに飛んで行き、調べる。


「はあ、矢っ張りだ」


 鎧武者の中心に在った魔核は綺麗に割れており、とてもじゃないが使えそうにない。


「はあ、買い取り価格が安くなる」

「バベル殿は相変わらずですね」

「まあな」

「……バベル殿」


 桜は少し思い詰めた様な顔をしながら、話しかけてくる。


「ん?」

「少し、聞いて下さい」

「なんだ?」

「私の姉上は――」


 そして桜は突然語り出した。姉のすばらしさ。死んだときの事を……。


「で、その後父上と子鉄おじさんが迎えに来てくれました。心が不安定になった影響か、その時に私は狂った超人を発動してたそうです。落ち着かせるのが大変だったとか」

「………」

「私はもう姉上を失った時のように、無力で居たくなかった。それで、父上や兄上に稽古を付けてもらったのですが、私はそれだけでは限界を感じました。そして、15歳に成った時、家を飛び出してしまいました」


 その事件の後のことも、桜は話す。


「……それで。どうしたんだ?」

「……私はいつも、あの時共同墓地に行かなければと考えてしまいます。バベル殿はどう思いますか?」


 桜は姉の墓を見ながらそう言う。


「……その時って桜5歳だろ? 5歳児にそんな事求めるのは酷だぜ。それに、幾ら後悔したって戻ってこないんだ。過去は……」

「そう、ですよね」


 桜は寂しそうな顔をしながら、答える。


「桜は姉の事どう思ってた?」

「……好きでした。……大好きでした!」

「じゃあそれで良いじゃないか。それに、姉はくよくよ悩んで欲しくないんじゃないか?」

「……姉上なら。姉様なら。お姉ちゃんなら。『桜。海を見てみなよ。広いでしょ。私は、いつも後悔しない。後悔したら、海を見て吹き飛ばす! 後悔なんてつまらないから』姉上はそう言っていた」

「…………」

「……後悔なんてつまらない」


 桜は、少しスッキリした顔で、そう言った。


「いいんじゃないか。それで」

「はい!」


 その時の桜の笑顔は、とても綺麗だった。




「よし、帰るか」


 少し落ち着いてきたので、真っ二つに為った魔核を持って、帰ろうとする。


「……バベル殿」


 さあ、帰ろうという所で、桜が話しかけてくる。


「ん? どうしたんだ?」

「――私は、一緒に行けないかもしれません」


 桜は寂しそうな顔で、そう言った。

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