第三話 冒険
「エル、バベル。森に行くぞ」
今日、家の庭先でエルと話していると、ガイがやって来て唐突にそんな事を言い出した。
「ガイくん。何を言ってるの?」
エルが当たり前の疑問をぶつける。
「今日は暇なんだ。それで森を探検しようと、お前達を誘っているのだ」
「理不尽だ。他の奴らはどうしたんだ」
「全員忙しくてな、何時も暇そうにしているお前達しか居なかったんだ」
別に何時も暇と言う訳じゃないんだけどな。
「何処の森なの」
「何時も村の男達が狩りをしている森だ」
「それは楽しそうだね!」
父さんが良く狩りをしている森か。
エルを見ると、探検に凄くノリノリだ。
「よし、いくぞ!」
「おー」
「はぁー」
何だか分からない内に話しが決まり、強引に森に行く事になった。
◇
俺達三人は、父さん達が狩りをする森に来ていた。
「それで、ガイ。森でなにをするんだ?」
「ああ、この森には甘くて美味い、果実がなってるらしい。それを取りに行こうと思ってな」
「そんな果実があったんだ」
「で、それは何処にあるんだ?」
「……分からん!」
「威張るな!」
こいつ言いきったよ。
「人に聞かなかったのか」
「冒険は目的地が分からないほうが楽しい!」
「そ、そうか」
ガイにはこだわりがあるんだろう。俺にはよく分からん。
「そうだよね、やっぱり冒険はそうでなくっちゃ」
と、思ってたら。エルがガイに同意する。
「やっぱりエルは分かってくれたか。誰も賛成してくれなかったからな」
大体はそうだと思うよ。
「そう言えば、ガイ。子どもだけで森に入っていいのか?」
「もちろん駄目に決まってるだろ」
「は? いやいやいや。じゃあ、何でこどもだけで森に入ってるんだ」
「そりゃあ。駄目と言われたら遣るしかないだろ」
「その通り!」
これあかんやつだ。と言うかエル! なぜ同意する。
「俺は帰るぞ。付き合ってられん」
「ふっふっふ。バベル。逃げられると思うなよ」
「な、なんだ」
急にガイの雰囲気が変わる。
「エル、行くぞ」
「おー」
まるで打ち合わせでもしていたの? と、思う様な流れる動きで俺を捕まえ、どこからか取り出した縄で俺を捕縛した。
「な、なにをするんだ」
「こう言ったらお前が帰る事は予想ずみ。ねんのため縄を持って来て良かったぜ」
「すごい!」
「すごくない!」
く、はめられた。こいつらから逃げる事は不可能だ。
「エルはそっち持ってくれ」
「アイアイサー」
ガイとエルが俺を担ぎ、森の奥へと走り出した。
「結構奥まで来たな」
「そうだねー」
ガイとエルがそんな会話をしている。今の俺は、目隠しと猿ぐつわをされ、二人に担がれている状況だ。
何か進む度に重装備になっている気がする。
「……そろそろ縄を解くか」
「かわいそうだしね」
二人は俺を地面に下ろし、猿ぐつわや、目隠しをはずす。
「バ、バベルくん凄く怒ってるよ」
「まじかよ」
おっと、ちゃんと怒りは隠してたのになー。こいつら後でどうしてやろう。
「やっぱり縄を解くの止めるか」
「冗談です。怒っていません。縄を解いて下さい」
「そうか。じゃあ解いてやろう」
ガイが偉そうにしながら俺の縄を解く。
「ふうー。ひどい目に遭った」
「まあまあ。此所まで来たんだから。最後まで付き合って貰うぞ」
「分かってる」
「じゃあ、出発だよ!」
エルの号令で、出発する。
「ガイ、その果実はどんな物なんだ?」
「そうだな。赤くて青くて甘くて丸い!」
なるほど。わからん。
「そんな果実在るのかな?」
「さあ。分からん。まあ、どんな果実かは気になる」
「早く行くぞ」
「「はーい」」
俺とエルは、どんな果実かを想像しながら、ガイを追いかけた。
「……見つからない」
「そろそろ、戻った方が良いんじゃない。お腹空いたし……」
「くっ」
そろそろ帰らないと夕方になるだろう時間。三人で、果実を探し歩いていた。
「また明日来よう」
「……そうするか。はぁー」
また明日か。その時は俺も付き合うことになるんだろうな。
「確か、こっちだね」
エルが道を覚えていたようで、そっちに向かって帰る事にした。
「そろそろかな」
「ああ。だけどこんな場所通ったけ」
「え、本当だ。何でだろう」
気づくと、俺達はまるで通った事が無い様な場所に居た。
「おいおい。どうするんだ」
「……どうしよう」
これは道に迷ったか。
「……少し進んでみよう」
このままじゃ埒が明かない。行動しないと何も始まらない。
「ねえ、あれは何かな?」
少し歩くと、先頭にいたエルが何かを見つけたようだ。
「木?」
「なあ、ガイ。あれが探してた果実か?」
「え」
少し開けた場所にポツンと、在る木には、赤くて青くて丸い果実が三つ為っていた。
「……これだ。絵に描いてあった物とそっくりだ」
「絵?」
「ああ。婆ちゃんに見せて貰った絵だ」
「何でもいいや。お腹空いたし、あれを食べよう」
エルはそう言うや否や、木に向かって走り出した。
「バベルも行こうぜ」
「……俺はあんま食べたくないな」
見たことがない食べ物は勇気がいる。まあ、一人で此所に居てもしかたないし、行くか。
「これ、変な果実だね」
「ああ。そうだな」
この果実は上の部分が青く、下が赤いと言う変な果実だった。
「どれ、食べてみるか」
「ガイ、大丈夫なのか」
「食べてみなきゃ始まらねえ」
ガイはそう言うと、変な果実にかぶりついた。
「……あ、甘い」
ガイの顔はほころび、笑みが浮かんでいる。
「ボ、ボクも食べる」
エルも同様にかぶりつき、天国に昇ったような笑みを浮かべた。
「……俺も食べてみるか」
俺は、意を決して果実にかぶりつく。
う、美味い。そして甘い。口に入れた瞬間甘いサイダー味の果汁が口いっぱいに広がる。シャクシャクとした食感の果実は、噛めば噛むほど甘い果汁があふれ出る。
「甘い。――! これは」
下の赤い実を口に入れると、途轍もないインパクトと同時に力強い甘さが口いっぱいに広がる。青い部分は優しい甘さ。赤い部分は強い甘さ。一つで二度美味しい。
一心不乱に食べ進め、気付いた時にはすでに無くなっていた。
「……美味しかった」
「本当だね」
「ああ。美味い」
上からガイ、エル、俺と。感想を言っていく。
「あれ? ここ森の入り口だ」
ふと、辺りを見渡すと、森の入り口に戻っていた。
「あ! もう帰らないと」
「本当だ。叱られちまう」
「早く帰るぞ!」
太陽はもう夕方にさしかかっており、怒られる事は確定だ。
「すぐに帰るぞー!」
「「おー」」
俺達は村に向かって走り出した。今日は不思議な一日だった。
――余談だが、村に帰ったあと、俺を縛ったお礼として、ガイは扉を開けたら何故かタライが落ちてくる刑に処し。エルには、気付いたらおやつが無くなっていたと言う罰を与えた。




