第三十五話 VSジャンボラーメン
「らーめんでござるー!」
「そうだねー」
俺達はおやじに教えて貰った、ラーメン屋魔豚三号店に向かう為、大通りを歩いていた。
あのストーンゴーレム討伐から五日経ち、今日は八の月十日だ。この世界の時は、前世と同じ。なんでも時を計るユニークスキル持ちが、計ったから間違い無いらしい。
「……ニャルカは本当どうしたのかな?」
「さあ、分からん」
そう、今日はニャルカが来ていない。『髭が震える』なんて言って、今日は宿で昼寝をしている。
「……ここでござるな」
桜の言葉で顔を上げる。すると、そこにはラーメン屋魔豚三号店と書かれた看板が掛かった店が在った。
「何か凄そうだ」
「ああ」
凄い覇気を感じる。これだけ覇気を出せるなら、どれだけの実力者なのだ。ここラーメン屋だけど。
「行くでござる」
桜は引き戸を開けて、中に入る。すると、むわっとした熱気が俺を襲った。中を見ると、四号店と同じ配置の店内だ。
「らっしゃい」
そう言ってきたのは、おやじと瓜二つのヤクザ顔をした者だった。
「ねえ。絶対双子だよね」
「いや、おやじが言うには四つ子らしい」
「そうなの、あんな顔が四人も居るんだ」
エルと囁きながら会話をする。そんな事を言い合っていると、桜がいきなり注文した。
「せっしゃはじゃんぼらーめんでござる!」
桜の言葉に、店内がざわつく。
「な! 変な語尾、小さな背、女。間違いねえ“大きな小悪魔”」
おい、今桜の事なんて言った。変な語尾は認めるが、その厨二ネームはどうにかならないのか。俺が恥ずかしい。
「じゃんぼらーめんを、完食しにきたでござる!」
「……少し待ちな」
「あ! 俺は醤油ラーメン」
「ボクは味噌ラーメン」
「お、おう」
俺達の注文を聞き、厨房に引っ込む。
「席に着くか」
「カウンターで良いよね」
「だな」
カウンター席に着いて、周りを見渡す。他の人は一心不乱にラーメンを食べ進め、周りが見えていないようだ。
「桜ー。ジャンボラーメンを食べきろよ。銀貨三十枚なんて払いたくないからな」
「分かってるでござる」
「あのー、ジャンボラーメンに挑むんですか?」
「ん?」
桜と話していると、隣の席から声をかけられる。
「ああ。桜がな」
「この店のジャンボラーメンは凄いですよ? 本当に出来るんですか」
「桜なら出来るだろう」
「そうですか」
話しかけてきた人はフードを深くかぶっており、顔が見えないが、声から女性だと分かる。背の高さからして、可成り若いのが分かる。フードから少し髪が覗いており、金髪だ。
「ふむ、俺はバベルだ。お前は?」
「私は、エリミ……エリです」
「ボクはエルフィル。エルで結構だよ」
「せっしゃは桜でござる。あともう一人あわせて、“果てなき夢”というパーティでござる」
「! あなた達が……」
「何だ俺達の事知ってるのか?」
「え、ええ。少し」
俺が王都で活動し始めて、五日しか経っていない。エリはもしかして……考えるのは止めておこう。
「それで、エリは何を頼んだんだ?」
「あ、私はネギ味噌ラーメンを」
「なるほど」
「――待たせたな」
待つ事数分。終に目当てのジャンボラーメンが出てきた。
「ほら、醤油に味噌。そっちの嬢ちゃんのネギ味噌だ」
「おお、美味しそうだな」
「ジャンボラーメンはカウンター席に入らないから、こっちに来な」
「望むところでござる」
二人は、でかい机が在る場所に向かう。ラーメン屋の亭主はそこにでかすぎるドンブリを置き、砂時計を構える。桜も箸を構え、一色触発の状況だ。
「……はじめ!」
亭主のその言葉を合図に、ジャンボラーメン対決は開始された。
まあ、俺には関係ないし、ラーメンを食べよう。
「いただきます」
箸を使い、麺を啜る。
美味い! ――麺の歯ごたえが抜群だ。口に入れるとほろりと崩れるトロトロのチャーシューも絶品。
ん? この緑色のは……ワカメだ! このワカメの塩気が良い味を出し、ラーメンを引き立ててる。
よし、最後にスープだ。レンゲで掬い、スープを口に運ぶ。――ッ美味い! この醤油スープは少し薄く、飽きずにいくらでも飲める。
「美味いな」
矢張り魔豚にハズレなし。
「ごちそうさまでした」
自分の分を食べ終わり、桜を見ると、まだ麺が少し残っていた。砂時計は残り三分の一、桜の劣勢だろう。
「桜-。食べきれなかったら、お金は自分で払えよ」
「いやでござズズーる。せっしゃはお金がもうズズーないでござる」
食べるか話すかどっちかにしろよ。
「負けるもんかー」
桜はそう叫ぶと、今までの五倍のスピードで、食べ進める。
「は、早い!」
「ぐ、はぁはぁ」
矢張り、あれが限界だったのか、スープを残して倒れ込む桜。
「桜ちゃん。立つんだ。諦めたらそこで試合は終了だよ!」
「……そうでござるな。まだ、諦めない」
桜は不屈の魂で立ち上がり、スープを飲みに掛かる。
「――終了!」
「はあはあ。ギリギリでござるよ」
桜が食べ終わるのと、制限時間が過ぎたのは、同時だった。
「主殿。こやつ、中々の策士であった。まさか、激辛らーめんだったとは」
「激辛だと!」
「ふはははは。家の売り、激辛ジャンボラーメンだ。……だが、負けちまったな」
亭主は寂しそうに、呟く。
「……良い勝負だったでござる。せっしゃもにゃるかの激辛粉で慣れていなかったら、負けていたでござる」
「ふっ、四店王で三番目に強い俺が敗れるとはな。俺からも、良い勝負だった」
何か友情が生まれたようだ。
「まあいいや。ごちそうさま」
「ああ。お代は結構だ」
「分かってる。美味しかったよ。エリもまたな」
「はい、また会いましょう」
俺はそう言い、魔豚を後にした。
◇
「美味しかったでござるよ」
「そうだな。激辛だったのは想定外だが」
「だねー」
大通りの端を、三人で歩いていると……。
「おい、来たぞ」
「本当か。膝を付け」
と、いう会話があちこちから聞こえて来た。
「なんだ?」
「ん? 向こうから、何か来るでござる。周りの反応から、多分貴族」
「あんな奴に頭を下げる必要はない。隠れておこう」
大通りの家と家の間に隠れて、貴族をやり過ごす事にする。
「来たよ」
エルの言葉に大通りを見ると、動くソファーに乗った、男がやって来る。
「動かしてるのは、ゆにーくすきるかな?」
「そうでござるな。……それにしても、デブでござるな」
「……そうだな」
ソファーに乗っている男は、お腹から贅肉がたっぷりと出ており、人生舐めきった様な目をしている。
「何かむかついてくる」
「そうでござるな主殿。殴ってもいいでござろうか?」
「駄目だよ。隠れた意味がない」
止めるではなく、隠れた意味が無いか。エルも殴りたそうだな。
「おい! そこの獣人! 顔を見せな」
デブ貴族は動きを止めると、跪いてる猫獣人の女の子に、顔を上げるように言う。
「チッ。薄汚い獣人め、顔を見せるな!」
「きゃっ!」
デブ貴族はそう言うと、猫獣人の女の子を足蹴りする。
「……ムチャクチャだね」
「そうだな。自分から顔を見せろと言っておいて」
そうエルと会話をして、もう一度大通りに目線をうつす。
「おい! こいつを連れて行け」
「「は!」」
デブ貴族は後ろの騎士に命令して猫獣人の女の子を捕まえさせた。
「きゃああああ!」
「アリカ!」
女の子の悲鳴に、母親らしき猫獣人の女性が声を上げる。
「ふはははは! こいつも連れて行くぞ!」
「は!」
デブ貴族はまたもや騎士に命令して、母親らしき女性を捕まえさせた。
「ははははは。薄汚い獣人には教育しなけれブハッ!」
デブ貴族は話している途中で、顔に拳がめり込んだ。
「「「カマセー様!」」」
それを見て、一斉に声を上げる騎士達。
「貴様それでも貴族か!」
デブ貴族を殴ったのは、桜だった。
「桜何をしている。あれ?」
ふと横を見ると、エルまでも姿を消している。
「はあ」
今度はデブ貴族の後ろから、エルが出てきた、頭の髪の毛を綺麗にそぎ落とす。
「つっ、エルまで! 畜生! 爆虫、全て出てこい」
俺もローブに隠している爆虫を全て出し、デブ貴族に襲いかかった。
「やれ!」
爆虫は騎士などに飛びかかり、爆発する。しかし、軽い火傷を負うぐらいで、大して効いていない。
「やあ!」
俺はそんな騎士を無視して、デブ貴族を殴り飛ばす。
「グハ! はぁはぁ。俺はドックス公爵家の当主だぞ! 何をしてるか分かってるのか」
「……愚か者に制裁をあたえてるだけだ」
「主殿! 矢っ張り出てきてくれましたか」
「仲間を置いてけるか。それにしても、また語尾とれてるな」
「今は関係ありません!」
ふと見ると、エルも猫獣人の親子を逃がして、しきりに礼を言われている。
「もうどうにでもなれだ。いくぞ桜!」
「おおせのとおりに」
俺達はそう会話し、貴族に向かって襲いかかった。
友情、努力、勝利。ラーメン屋でも三大原則が出来るんだ(確信)




