第十六話 コボルトの群れ討伐依頼
「これがでぃーらんくのかーどでござるか」
あのオーク狩りから三週間が経過した。あれからコツコツとEランクの依頼を達成して、俺達はDランクに成る事が出来た。まあ、Dランクまでは最低限の魔物を討伐出来れば、結構誰でもなれる。冒険者の本番はDランクからだというのは父さんによく教えてもらった事だ。
そして、俺達はギルドの酒場で話会いをしていた。
「そうだな。よし、今日はDランクの依頼を受けるか」
「そうでござるね」
やっぱりDランクに成ったからには、Dランクの依頼を受けたい。
「あ、そう言うと思って。いい感じの依頼を探して置いたよ」
「え! そうか。どんな依頼なんだ?」
「コボルトの群れを退治する依頼だよ」
「群れ?」
確か群れなどの討伐は、Cランクの依頼だったはず。
俺はその疑問をエルに聞く。
「ああ、何か結構小さい群れでね、十匹ほどらしいよ」
「報酬はどれ位でござるか?」
「銀貨五枚だよ」
「少ないな」
「初めての群れ討伐だから、違約金を払い安くしたんじゃないかな」
「んー、なるほど」
依頼を失敗すると、報酬の3割の額を違約金として払わないといけなくなる。群れ討伐は、普通の魔物討伐と違うと、いうのは有名だ。そのため、なめて掛かると失敗するらしい。
「依頼期限は三日後だから、今日の昼の鐘が鳴ったら行こうか」
「ん? じゃあすぐに準備をしないと!」
「大丈夫。全部済ませてあるから」
「おお」
エルっていつの間にこんな仕事が早くなったんだ。
「じゃあ、後は心の準備だけか?」
「そうだね」
「じゃあ、せっしゃは地下の訓練場に行くでござる」
「ああ、ちゃんと時間内には来いよ」
「分かってるでござる―」
桜は夜桜を持ち、地下の階段を下りていった。
「ボク達はどうする」
「そうだなー」
「おう、嬢ちゃんじゃねえか」
二人で相談していると、急に後ろから声を掛けられた。
振り向いてみると、大きな剣を背負った大男が居た。
「ガイモンさん」
「おう、そっちのにいちゃんはパーティメンバーか?」
「そうですよ」
エルとは知り合いらしい。取り敢えず俺も挨拶をしておく。
「バベルといいます。貴方は誰ですか?」
「ああ。俺はBランク冒険者のガイモンだ」
「Bランク!?」
Bランク冒険者が壁という事は有名だ。CランクからBランクに上がるには試験を受けないといけない。そこで失敗する人は多く、Bランク冒険者の数は少ない。
「ガイモンさんはどうしたの?」
「ああ。今依頼から帰った所でな。終わったご褒美として酒を飲みに来たんだ」
「なるほど」
矢っ張りBランクの依頼は難しいのかな。
「それで、お前達はこれから依頼か」
「そうですよ。コボルトの群れ討伐です」
「群れか。じゃあ、アドバイスだ。群れを討伐する時は、奇襲と囲まれる事に気をつけろ」
「奇襲と囲まれる事」
「そうだ。まあ、がんばれよ」
そう言うと、ガイモンさんは少し遠くの椅子に座り、店員から酒を注文していた。
「奇襲と囲まれる事か」
その言葉を覚えておき、依頼まで酒場でダラダラする事にした。
◇
「出発でござる」
俺達は、東の門に来ていた。この東の門をまっすぐ行った所に在る山の麓にコボルトが棲み着いたそうだ。山までは比較的近く、夕方までには着くだろう。
そもそもコボルトとは、二足歩行の犬みたいな物。人間はあまり襲わないが、畑を荒らし、家畜を喰うので、農家などに嫌われる魔物だ。
「今日は、野営して、明日コボルト討伐という感じで良いかな」
「いいでござるよ」
俺達はそう決め、山に向かって歩き出した。
「……疲れた」
「バ、バベル君!?」
「主殿、どうしたでござるか」
山に向かって歩く事三時間位。地面が起伏になり、歩きにくくなってきた。俺は平な道か、歩き慣れている森などじゃないと、とても疲れやすい。
「……主殿は貧弱でござるな」
「はい」
桜に馬鹿にされるとイラつくが、その通りなので反論できない。取り敢えず、その馬鹿にした顔がうざい。
「少し、休憩しようか」
「賛成!」
「分かったでござる」
木陰に座り込み、休憩を始める。桜はさっそく夜桜の手入れ。エルも荷物の整理をしている。
俺は、どうすれば歩かなくても済むかを考えていた。
俺の手札は風魔法と爆虫召喚。風魔法で空を飛ぶ事も考えたが、魔法の威力を決める魔力の量が全然ない。多分俺の魔力じゃ、十秒も持たないだろう。なので却下。
爆虫を使う? どうやってだ。あの小ささじゃ、乗ることは出来ない。他に案はないかと考えていたら、エルが話しかけてくる。
「そろそろ、行こうか」
「もう、準備は出来ているでござる。主殿も早く行くでござる」
「ああ、分かった」
結局何も思いつかず、準備を整えて山に向かって歩き出すのだった。
俺達は、山の麓の小さめの森の入り口で、呆然と山を見つめていた。
「これが酸湖山」
「酸湖山でござるか?」
「うん。この山の山頂に、全てが溶ける酸の湖が在るんだよ」
「全てが溶けるでござるか……」
「さらに、その湖には、魔物。【酸性雨 エネルギーフロッグ】が棲み着いてるんだって」
「二つ名持ちかよ!」
二つ名持ち。それは魔物の頂点Sランクのさらに上。あまりにも強すぎた魔物。二つ名持ち討伐にはSランク冒険者十名が必要と言われている。
父さんが言ってた【古代竜王 エンシャントドラゴン】はAランク冒険者100名を五分ほどで殺し尽くしたらしい。
「そんな二つ名持ちが!?」
「うん。討伐に来たこの国の精鋭軍1000名が、酸の雨で壊滅したらしい。生き残った1名の話を聞いて、二つ名持ちに認定されたんだって。まあ、自分から手を出さなきゃ何もしないから大丈夫だよ」
「それはすさまじいでござるな。月光国の九尾みたいな物でござるかな?」
「九尾? そんな魔物も居るんだ」
「まあ良いや。野営の準備するぞ」
「「おー」」
薪を集め、火を点ける。そんな作業をしていると、ふと、気になる事が出てきた。
「そう言えば、桜は料理出来るのか?」
そう、何時もエルが料理していたが、桜は一度も作ったことがない。まあ、俺も出来ないんだけど。
「料理でござるか。できるでござるよ」
「そうなんだ。じゃあ、今日の夕飯作ってくれないかな?」
エルが桜に頼む。
「いいでござるよ」
桜も了承し、今日は桜が作ることとなった。
エルは女子力が高い。多分スカウターで見たら3000位あると思う。いや、男だから女子力とは言わないか……?
「じゃあ、うさぎかなにか取ってくるから。準備していて」
「了解でござる」
エルは、魔法のポーチから鍋などの料理器具や調味料を置いて、森に入っていった。
「じゃあ、主殿は野菜を切ってほしいでござる」
「分かった」
「ありがとうでござる」
桜はスープの準備。俺は野菜を切りながら、エルの帰りを待つ事にした。
「持って来たよ」
準備を始めて十数分。エルが死んだ兔を片手に帰って来た。
「お、ありがとうでござる。さっそく捌くでござる」
「捌くのは……バベル君やっといて」
エルはそう言って、兔と解体ナイフを渡してくる。
「俺は解体があまり上手くないぞ」
「良いでござるよ。どれだけ下手に解体しようと、せっしゃが美味しく仕上げるでござるから」
「そ、そうか」
その上から目線のドヤ顔は何か苛つく。
「これで良いか?」
「……上出来でござる。暫く待つでござる」
桜は俺から解体された兔を受け取り、調理を始めた。
「出来たでござるよー」
木の皿に、スープと堅パンを載せたお盆を持って、桜が言う。
「わあー。美味しそうだね。早く食べよう」
エルの言うとおり、美味しそうな匂いがし、とても不味そうには見えない。
「兔の肉団子すーぷと、堅パンでござる」
「ゴクリ。まあ、食べるか」
「「「いただきます」」」
スプーンで掬い一口食べる。
「「美味い」」
肉団子を一口食べると、自然とそういう感想がでてくる。
噛めば、肉団子に染みこんでいるスープがあふれ出し、兔肉の味を引き立たせる。肉の他にも、タマネギ、ジャガイモといった野菜は、柔らかく、食べやすい。
一緒についてる堅パンは、スープに漬す事で、肉の旨みを吸いこみ、とても美味しくなる。
気づくと、既にスープは無くなっていた。
「っ、桜! おかわりだ」
「ふふん。分かったでござる。一杯食べるでござるよ」
桜からスープを受け取り、急いで食べ進める。ふと、エルを見ると、感動の涙を流しながら、食べていた。
「「「ごちそうさまでした」」」
「……美味すぎる」
「せっしゃは天才でござるからな!」
そのドヤ顔は、うざいという事も出来ないほどうざかった。
そして最後に一言。『女子力五三万だと!』




