第百三十八話 血の塔と牛頭馬頭
塔の内部は真っ赤だった。いや、赤黒いと言ったほうがいいか。とにかく壁も、床も、天井も、すべてが血で出来ている。吐き気をもよおす構造。これは、あの魔物達の血なのだろうか。
「嫌な臭いでござる」
「にゃっ!」
すべてが血で出来ている塔の中に入り、鼻の良いニャルカと桜は顔をしかめる。
「この中にエル殿がいるのでござるか?」
「分からん。だが、血で出来てるなんていかにも吸血鬼っぽいだろ」
「そうでござるが」
もしこれを建てたのがエルだとしたら、いったいどうやって建てたのだろう。血を操るなんて事エルは出来なかったし、こんなものを造る性格でもない。エルなら、血で出来た塔なんて嫌うだろう。
「あの階段から二階に上がるにゃ?」
「そうっぽいな」
塔の内部は円形で、直径約10メートルといったところ。その塔の奥に血で出来た赤黒い階段がある。
「爆虫に先行させながら行くぞ。サモン『爆虫(追跡型)』×5」
追跡型を召喚し、先に階段を進ませる。俺達は武器をかまえ、ゆっくりと階段を上った。
「……待て」
爆虫が二階になにかが居ると知らせてきたので、俺は階段を上りきる前に桜とニャルカを手でせいす。
二階の様子をうかがうために頭だけだして見てみると、二階も一回と同じ構造で、なにもない血で出来た部屋。奥には階段があり、その前に牛の頭に人の体をした魔物が仁王立ちしていた。
「バベル殿、あれ牛頭でござるよ」
牛頭。たしか牛の顔を持ち、人の体を持つ魔物で、かなり気性が荒いと聞いた事がある。冒険者ギルドからはSランクと認定された魔物だ。
「Sランクか。ギリギリ勝てるか?」
というかエルはあれほどの魔物を門番。いや階段番として置いてるのか。まだ塔の主がエルと決まったわけじゃないが。
「くっくっく。あれは我に任せるにゃ」
「……殺れるか?」
「もちろんにゃ。あの程度にゃら三分で倒せるにゃ」
どこからその自信がくるか分からないが、なんかニャルカに任せれば大丈夫な気がしてきた。
「かっこよく言うなら我に任せて先に行け! にゃ」
「おお。かっこいいでござる」
じゃあお言葉に甘えて先に行かせてもらおう。
「さあ、突っ込むにゃ!」
ニャルカは階段から飛び出し、牛頭に対峙しながら叫ぶ。
「頼んだぞ」
「すぐ追いかけるにゃよ」
俺達は牛頭の後ろの階段をめがけて走った。
「あの馬鹿をさっさと連れ戻すぞ」
「はい」
「ブモォオオオオオオ!」
牛頭が大斧をふりかぶって攻撃してくる。俺と桜はそれを避け、三階への階段に突っ込んだ。
◇
「さ、三階にもいるでござる。あれは馬頭でござるな」
三階には馬の頭に人の体の魔物、馬頭が居た。槍をもち、つねに警戒している様子を見ると、下のニャルカと牛頭の戦闘に気付いているのかもしれない。
「どうするでござるか? 一緒に倒す?」
「……いや、多分エルは四階にいるから、さっさと連れ戻してこい。俺は馬頭を倒して追いかける」
外から見た感じ、多分この塔は四階建てだ。エルが居るとしたら四階だろう。
「一緒に倒してエル殿の所に行ったほうがよくないでござるか?」
「いや、さすがにSランクともなると俺も本気でやらないとマズイから、巻き込む可能性がある。桜の必殺スキルもまだ温存しておいたほうがいいしな」
俺のスキルは広範囲無差別攻撃みたいなところがある。この血の塔の耐久は異常に高いから爆発には耐えられるだろうが、桜も一緒に爆殺するかもしれない。まあ桜なら死にはしないか。
「……分かったでござる。じゃあ、せっしゃがエル殿を追いかけるでござる」
「頼んだ」
エルが今どういう状態か分からないが、うちのパーティーでも身体能力でいったら最強の桜が行けば大丈夫だろう。
「行くでござる」
桜は夜桜を構え、階段に向かって素早く走る。
「ヒヒーィン!」
馬頭はそんな桜を槍で攻撃するが、桜は刀で攻撃をいなしながら階段へ進み、駆け上った。
「桜を追いかけるなら、俺を倒してからにしろよ」
さまざまなタイプの爆虫を召喚し、さらにLV9で新しく追加された爆虫を一体召喚する。
「こいつの召喚魔力はべらぼうに高いが、お前を倒す事は出来そうだ」
LV9で追加された爆虫の召喚魔力は約1200。いまの俺の魔力が2400ほどなので、半分近く消費するが、馬頭の魔核と素材が手に入れば安いものだ。
「桜、頼んだぜ」
……俺はこのとき、桜の強さを過信しすぎていたのかもしれない。桜の、心の弱さまで見ていなかった。




