第百三十六話 エルフィルという存在
「強くなったな」
降参したニャストさんがポツリと言う。
「我は外の世界に行ってよかったにゃ。冥王をぶった押せるぐらい強くなったからにゃ!」
「はっはっは。吾輩はまだ必殺スキルも使ってなかったが、まあお前の勝ちだ」
そう言って、ニャルカとニャストさんは握手をした。
「終わったみたいだね」
エルの言うとおり、二人の様子を見て、周りに集まっていた妖精族達がワイワイ言いながら散っていく。
「ニャルカかっこよかたでござるな。だけど最強はせっしゃでござる」
そこは気にしてるんだ。
今回ばかりはニャルカを認めないわけにもいくまい。ピンチの時にユニークスキルを成長させるなんてな。二桁しか居ない、LV10に到達したニャルカは俺達の中で一番強いかもしれない。
「バベル、勝ったにゃ!」
もとのケット・シーの姿に戻ったニャルカが走ってやってくる。
「がんばったな」
「にゃ! 我はついに最強へと到ったにゃ。レベル10に成った我に死角なしにゃ!」
それは調子にのりすぎだと思う。
「お腹空いたでござるな。そろそろ晩ご飯でござるよ」
「もうそんな時間か」
夕陽は沈みかけており、家々からは食べ物の良い匂いが漂ってくる。
「リリナがご飯を作って待ってるはずだ。早めに飯にしよう」
ニャストさんもそう言い、俺達はご飯を食べるために帰宅した。
◇
「美味しいね」
目の前の広がるのは豪華絢爛な食卓。これを少女が一人で作ったとはいささか信じられない。それに、エルの言うとおりとても美味しく、店で出せるレベルだ。
「「ムシャムシャ。モグモグ」」
桜と、外に出たマモンは一心不乱に料理を食べ続ける。太るぞ。
「……うまいなあ」
一口食べて、俺はそう呟く。今食べているのはローストビーフというものだ。うっすらと残っている前世の記憶では臭味があり、あまり美味しくはなかったが、これは美味しい。
「……ふう。ボクもうお腹いっぱい」
となりで食べていたエルがお腹をなでながら壁にもたれる。
「そうか? 最近小食だな」
「うん。まあ、そうだね」
エルはそう言ってどこか寂しそうな目をする。エルがあのガルハ王国での事件あたりからどこか変わったのは気のせいではないだろう。でも、そこに踏み込むべきかも分からない。
「……バベル君」
「ん?」
エルがポツリと俺の名を呼ぶ。
「果てなき夢はボクが居なくても大丈夫だよね?」
「……なに言ってんだ?」
まるで、エルが居なくなるような言葉。
「ううん。なんでもない。冗談だよ」
エルはそう言って本を取り出す。その本を読むエルの姿はどこか寂しそうだった。
◇
「はっ!」
「にゃぁ!」
次の日、家の庭では桜と少女姿のニャルカが戦っていた。刀と双剣が俺の目では追えない速度でぶつかり合う。それを、俺とエルとニャストさんが縁側に座ってながめていた。
「ニャルカは取りあえず刀に双剣をぶつけて残った手数で攻撃って感じだね。双剣なんだから受け流す事を主体としたほうがいいかも」
「ふむ。桜さんは綺麗だな。目も良い」
俺にはなにが起こっているかいまいち理解出来ないが、この二人には分かるらしい。俺も強くなったと思ったが、身体能力などはあまり上がっていないみたいだ。
「にゃ!」
「ふっ!」
しかし、俺から見ても桜が優勢だというのは分かる。だが、ユニークスキルなしで桜と打ち合えるニャルカは凄いと思う。
桜とニャルカの打ち合いをながめていると、桜とニャルカの戦闘を避けるように庭を通ってだれかがやってきた。
「お、じいさんじゃないか」
「ニャスト殿、お茶を飲みにきましたぞ」
やってきたのは妖精族の族長であるコロポックルのじいさん。
「おや、そちらの方は?」
ニャストさんに渡された湯飲みを持ったらじいさんがエルを見ながら言う。
「ああ、ニャルカの仲間のエルフィルという者だ」
「こんにちは。エルフィルです」
「これはこれはご丁寧にわたしはおじいさんとでも呼んで下さい」
じいさんはそう言って、お茶を一口飲む。
「……エルフィル殿は人間じゃありませんな。森人ですかな?」
「いえ。吸血鬼の末裔です」
「なっ!」
その言葉を聞いたじいさんの顔がこわばった。目を見開き、湯飲みを握り絞めている。
「吸血鬼……ですと……」
そう言ったじいさんの目にやどるのは憎しみ。ドス黒い。ただドス黒い。
「っ出て行け!!」
じいさんはそう叫んで持っていた湯飲みをエルに投げつける。しかし老体の投げた湯飲みは、エルによってはじかれた。
「……どういう意味ですか?」
そう言ったエルの怖がっていた。あのような老人を怖がる要素などなのに、その手は震えている。まるで、全てが終わったかのよう……。
「どういう意味だと!? 闇の種族がわしの目の前に現れていいと思ってるのか! そっこく視界から消えろ!」
その言葉にエルは感情が抜けたようになり、桜とニャルカも手を止めてこちらの様子を見る。
「……ぁ。あああああああああああっ!」
感情の爆発。叫んだエルは涙を流していた。突如として変化していく場面に俺はついていけない。ただ、エルが泣いているのをながめるだけ。
「……ごめん」
そう言ったエルは、俺達の視界からいなくなった。ユニークスキルを使ったわけでもなく、本当に忽然といなくなった――




