第百二十九話 事件の後に
――次の日。
死者数千人。行方不明者数百人というガルハ王国の歴史に名を残す大事件は“砂漠戦士”リンドウの活躍によって集結した。俺もあの後はいろいろあったが、今はなんとか落ち着いている。幸い俺達が泊まっていた宿は壊れなかったようで、亭主は商魂たくましくすぐ営業を始めた。
俺達には関係ないけどこの後復興が大変そうだ。とくに住宅街は全滅らしい。これから領主さん達は寝ずに仕事するのだろう。まあそれ以上に大変なのは……。
「大丈夫か桜?」
「うぅ。大丈夫じゃなっ痛!」
桜は宿屋のベッドで寝たきりになっていた。桜の証言によると、体を痛めつける事をした上でその体を酷使した結果らしい。自業自得だ。病院にいれても良かったが、今は病院が満員で桜が拒否した。『せっしゃなんかより他の人を』との事らしい。青の炎で治してやる事も出来るが、今回はほおっておこう。一回痛い目みとかないとまた自分の体を酷使しそうだし。
「なにか食べるか?」
「食べるのもしんどいでござるよ~」
食欲魔神の桜が食べる事を拒否するなんてよっぽどだ。体はボロボロだけど心はまあまあ元気な事を確認して、俺は宿の部屋から出る。階段を下りて下の食堂に行くと、聞き覚えのある声がした。
「違う! もっと辛く!」
「は、はい」
「違う! イエス・サーにゃ!」
「イ、イエス・サー」
見覚えのある光景。厨房ではニャルカが宿屋の料理係の者にカレーの指導をしていた。
「し、しかし辛すぎると食べられないのでは?」
「口答えをするにゃ!」
「イ、イエス・サー」
ここの料理係もニャルカに調教されていた。
「む? バベルにゃ?」
ニャルカが見ていた俺の存在に気付き、近寄ってくる。目の前のニャルカはいつも見ているニャルカではない。萌え要素がこれでもかと詰め込まれた猫耳少女だ。
「バベル、我はカレーを作ってるから、少し待つにゃ。これが終わったら遊んでやる」
「遊んでもらわなくて結構」
ニャルカの変化が一番驚いた事だろう。まさかニャルカが古代兵器傲慢を持っているとは思わなかった。まあアルバス王国で故郷には古代兵器傲慢があるとは言ってたけど。しかし今回の事件で同化までするなんてな。
――まあニャルカの場合はお前の変な同化ではなく正規の同化だがな。ほんとはこれぐらい外見が変わるのだがな。
――そうだな。
ニャルカの場合は完全に同化してしまったから傲慢の声は聞こえなくなっているだろう。まあそれでもニャルカは笑ってるからいいか。
厨房を出て、食堂の机に突っ伏してボーっとしているエルの所へ向かう。
「エル」
「ん? ああバベル君か」
エルは起き上がってこちらを見る。
「どうしたんだ? ボーっとして」
「いろいろあって疲れた」
エルが疲れたというのはもっともだろう。桜の世話や盗賊達の討伐報告。その他事後処理は全てエルがやった。しかし、俺から見ると疲れた原因はそれだけじゃないと思うけどな。
「ああ。それと、バベル君達に異名が付けられたみたいだよ」
「えっ!?」
初耳だ。
「バベル君達の戦闘を遠くから見てた人が居たみたいでね。バベル君は“爆撃者”桜ちゃんは“狂戦士”だって」
俺が爆撃者だってのは分かるが桜が狂戦士ってのは似合わないな。
「それと、ニャルカが“猫姫”」
「え?」
「だから猫姫」
「…………」
ニャルカが猫姫? 似合わない。なんて似合わないんだ。あいつにはアホ猫ぐらいがちょうどいい。
「ん? エルは?」
「ボクの戦闘はだれも見てなかったみたい」
「そうか」
それは運が悪かった。それにしてもニャルカの猫姫は似合わない。ぜひ俺がアホ猫に改名してやろう。
「まあゆっくり休めよ。桜は寝かせとけば大丈夫だから」
「うん。まあそういう訳にもいかないんだけどね」
そう言うとエルはまたボーっとしだした。
エルはそっとしておく事にして、俺はなにをしようか考える。少し考えて、街の様子を見に行くことにした。
◇
魔法都市の住民はたくましく、すでに大通りでは屋台が出ていて、普段より安くいろいろなものが売っていた。
「砂リンゴをください」
「ああ。ほら、一個銅貨一枚だ」
屋台の男からガルハ王国の特産品である砂リンゴを一個買い、大通りを歩く。ところどころ盗賊達に荒らされた家々があったが、魔法都市の人々はそれを魔法で修復していた。
俺がシャドルと戦った広場に出た。そこには木もベンチも影にのみ込まれて無かったはずだが、昨日の今日でもう設置されていた。さすがに木はなかったが。
設置されたベンチに座り、広場を見る。熱心に市民達は動き回り、昨日の事件なんかなかったようだ。
「平和だな」
その声は横から聞こえた。横を見ると、かってに出てきたマモンがベンチに座っている。
「……まあ、そうだな。あ、砂リンゴ要るか?」
「要らない。肉なら食べたのだがな」
マモンはそう言って、広場を見渡す。
「……いろいろあったが、私はバベルが強欲に適用したのが分かった気がするよ?」
「ん?」
砂リンゴを食べていると、マモンがポツリと呟く。
「私と会話はしたいけど同化もしたい……ほんと、強欲だな」
マモンはそういうと、無邪気な笑で笑いかけてきた。
これで第八章終了です! いろいろ伏線を回収した第八章でしたが、爆虫の召喚士もあと二章で終わります。
第九章は一週間ぐらいお待たせするかもしれません。ではでは~。
バベルのユニークスキルがLV9に上がりました。
エルフィルのユニークスキルがLV9に上がりました。
夜月桜のユニークスキルがLV9に上がりました。
ニャルカのユニークスキルはLV9に上がりました。
つづく。




