第百十一話 鈴玉の話
時は少しさかのぼり、ここはエンシャル帝国の皇帝が住む城だ。そこに、鈴玉は来ていた。
正式な訪問ではないので魔道具で姿を隠し、小白に乗って城の周りを飛び、目的の部屋の窓を探す。
(えーと。あの人の部屋はどこだったっすかね~)
なにぶん鈴玉も前回訪問したのは五年も前なので、部屋の正確な位置は覚えていない。しかし大体の位置は覚えているので、そこを重点的に探す。
(おっ。ここっすね)
数分後、鈴玉は目的の部屋を見つけた。その部屋の窓を外し、魔道具で姿を消した竜を外に停留させる。鈴玉はそれを終えると、部屋の中へと入った。
部屋の中は執務室だった。なかなかお目に掛かる事はない豪華な執務室には、呆れた表情をする美少年が一人椅子に座っていた。
「はあ。あの気配はやっぱり君か」
その人物はエンシャル帝国の皇帝。そして、Sランク冒険者“大切断”エクルだった。エクルはいままで持っていたペンを置き、椅子に座ったまま鈴玉に向き直る。
「あはは。エクルさんもあいかわらずまったくお変わりなく」
「まあ、一五年以上前からこんな容姿だからね」
エクルは王になる前、15歳の時から容姿も背格好も変わっていない。老けた様子も見せず、つねに美少年のままだ。
「それで、なにか用? 正式な訪問もしないで、窓から入ってくるなんて君じゃなかったら殺してたよ」
「そうっすか。あ、用はちょっと気になる事があったんで確認に来たんすよ」
「確認?」
物騒な事を言うエクルを受け流し、鈴玉は用件を言う。
「最近なんか変な感じがしないっすか?」
「…………」
鈴玉の言葉を聞き、エクルは沈黙する。少しの間沈黙が続き、エクルが口を開いた。
「確かにそうだね。……君も?」
「はい。なんか、二つ名持ちが暴れているような気配が」
「……ふむ」
エクルは考え込む。それは体感にして一分ほどだ。
「いつ頃から?」
「だいたい二週間ほど前からっすかねえ」
「そんな前から……」
エクルは気配を探ったりするのが苦手だ。だから、世界で強大なものが目覚めても、ほかの世界の強者達からどうしても一歩遅れてしまう。それでも、やはり遅くても感知出来るのは強者の証明だろう。
「場所は?」
「あー。そこまでは分からなかったっすねえ。ニコルソンさんなら位置まで分かると思うっすけど」
「迷宮王か……」
エンシャル帝国のもう一人のSランクの名前を上げ、エクルは沈黙する。
「駄目だね。彼は迷宮の800層あたりに居るから」
「そんな行ったんすね。じゃあしょうがない」
「まあ、二つ名持ちが暴れていても、すぐ収まるでしょ」
「……そうだと良いっすね~」
鈴玉の意味深な言葉に、エクルは少し考える。
「エニシダには警戒するように言っておこう」
「まあ、それぐらいした方がいいっすよ」
鈴玉は伝える事は終わったと判断し、窓枠に足をかける。
「もう行くんだ」
「はい。私も国をあまり離れる訳にはいかないんで」
「ん。じゃあ、しばらく会わないかな」
「いやー。案外一年以内には会うかもしれないっすよ」
鈴玉は予言めいた言葉を言い残し、小白に飛び乗った。
「じゃ!」
「うん」
二人はそこで別れた。強大な、嫌な予感を抱えて。
◇
「はあ。なんか食べてくっすかねえ」
鈴玉は小白を小さくして頭に乗せ、エンシャル帝国の帝都の町並みを歩く。
「クルゥ」
小白は可愛い鳴き声をだして賛同した。
「じゃあ、なにか買うっす」
店を探して町並みをフラフラ歩いて入ると、鈴玉は見知った顔を見つけた。
「あれはバベルさんとエニシダさんすか?」
鈴玉の目線の先にある飲食店には、うさぎの着ぐるみを着たエニシダと、バベルが居た。
「バベルさんエニシダさんとも友達だったんすか」
鈴玉は納得して、また町並みを歩き出した。フラフラ、フラフラ。風の向くまま気の向くまま。
そろそろ更新ペース戻します。




