第百三話 VS化け物屋敷②
屋敷の中は、薄暗い廊下だった。赤い絨毯が敷かれていて、奥までずっと続いている。屋敷は清潔感があり、ほこりは見当たらなかった。
「なにもない?」
「そうっすね。だけど、私達は敵の腹の中に居るっす。油断は出来ないですよ」
この屋敷は、化け物屋敷の頭領が召喚した屋敷。中がどうなっているか分からない。
「この廊下を真っ直ぐ行ってみようか」
「道はそれしかなさそうだし、それがいいっすね」
俺は爆虫の図鑑を左手に抱え、爆虫も召喚してある。すでに準備は万端だ。
まっすぐ続く廊下を進む。果てが見えないぐらい続いているので、この屋敷の異質さが分かる。
「なんか嫌でござるな」
永遠と続くのではと錯覚してしまうほど長い廊下。嫌になってしまうのも無理はない。
「む!? 変な感じっすね」
鈴玉さんが立ち止まってそう言う。
「なんでござるか」
「んー。気のせいっすかね」
鈴玉さんは緊張をといて、そう言う。俺達は警戒しながら、屋敷を進んだ。
◇
「まさか。あれに気づくとはね。Sランク冒険者は恐ろしい」
屋敷の最奥の部屋には、十数名の男達が居た。その内、椅子に座った一人の男は、バベル達の様子を見ながらそう呟く。
「かしら。なにかしようとしたんですか?」
男の後ろで控えていた小太りの男が聞く。
「ああ。ちょっと試してみようと“無限回廊”の罠を設置してたんだけど、あのSランク冒険者が感ずいたみたい」
男の言葉に、その他の者もざわめいた。
この椅子に座る男の名前はユウガイ。化け物屋敷の頭にして、ユニークスキル【迷宮作成LV8】を操る者。
この屋敷は、ユウガイのユニークスキルで創り出された迷宮。小規模で一つしか作成できないという制限があるが、ユウガイのユニークスキルは恐ろしいほど強い。魔力を使用し、魔物を召喚。それを外に解き放ち、辺りを荒らすのが、化け物屋敷の手段だ。
「まあ、大丈夫。今の魔力は……60000か。『魔物召喚』50000ほど使用して、サモン『デス・ベヒモス』」
召喚されたのは、ベヒモスの上位種、デス・ベヒモス。ユウガイ達が居る部屋の半分をその巨体で埋めるほど、でかい。
「無限回廊は消去してと……。じゃあ、侵入者を排除せよ。『階層移動』」
ベヒモスは、バベル達の進む先へと移動した。
「さて、どうなるかな」
◇
「あれ? 向こうに扉が出現したでござる」
「本当だ」
俺達が進む廊下の奥に、突如扉が出現する。
「そうっすねー。あの変な感じは消えたし、なんだったんだろう」
警戒しながら、扉に向かって進む。扉の前に着くと、エルが扉を調べ始める。
「普通の扉だね」
両開きの普通の扉。罠はなにも仕掛けられていないらしい。
「じゃあ、入るっす」
鈴玉さんは臆さず、扉を開け放つ。中を覗くと、広い広間になっており、反対側に扉が見える。そして、真ん中に体長3mを超える黒いベヒモスが待ち構えて……。
「魔物だ!」
「あれはデス・ベヒモス。Sランクの魔物。強靭な体と圧倒的な攻撃力をもって、小さな町ぐらいなら一日で更地にする」
エルがデス・ベヒモスの解説を始めた。
「グア」
デス・ベヒモスは、こちらをじっと見つめて一声出す。そして……。
「ドグアアアアアアア!!」
咆哮を上げた。
「強いっすねえ」
鈴玉さんはそう言って、デス・ベヒモスに突撃する。
「は!」
鈴玉さんは飛び上がり、持っていた槍を水平に構え、デス・ベヒモスに向かって投擲する。その槍はデス・ベヒモスの腕に突き刺さった。
「ドガアアアアア!」
デス・ベヒモスは槍が刺さった方の手で、鈴玉さんに攻撃する。しかし、そこに鈴玉さんは居らず、いつのまにかデス・ベヒモスの後ろに回っていた。そして、その手には投擲してデス・ベヒモスの腕に刺さっていたはずの槍が握られていた。
「でも、私に勝とうなんて百年早いっす」
鈴玉さんはそう言って、デス・ベヒモスの胸に槍を突き刺した。
「凄い」
そう言ったのはエル。あまりにも一方的な戦いに、そんな言葉しか出ない。Sランク最弱でも、Sランクには変わりない。
「じゃあ、進むっすよ」
「おー!」
――それは油断。勝利の瞬間の気の緩み。それは、Sランク冒険者だろうと変わりはない。だからこそ、最弱だったのかもしれない。
「え?」
その声は、エル。
「にゃ、あ」
驚愕したような声は、ニャルカ。
「鈴玉殿!」
そう言って駆け出したのは桜。
俺達は、油断していた。鈴玉さんは、突如起き上がったデス・ベヒモスの尻尾を胴に叩きつけられ、壁まで吹き飛ばされた。
「鈴玉さん!」
遅れて、エルも駆け寄る。窮鼠猫を噛む。ことわざとは、言いえて妙だ。
俺も駆け出す。デス・ベヒモスにとっては、あれが決死の一撃だったのだろう。すでに、事切れていた。
「どうだ?」
「死んではいない。だけど、危険だ」
鈴玉さんは素人目に見ても、危険だ。
「引き返すか」
「そうだね」
この傷は、応急処置キッドではどうにも出来ないだろう。
「にゃあ。ちょっといいかにゃ?」
後ろでポカーンとしていたニャルカがやってくる。
「なんだ」
「やってきた方の扉が開かにゃい」
それは、絶望的な知らせだった。




