12月24日 火曜日 夕方の部
レンガ館西側広場、雪像と氷像がきしめく広場に何故か頭に鉢巻をし、上半身裸で褌姿の男達が集まった。
「渓さん…じゃなくて頭、準備の方整いました」
「御輿オッケーです!」
「牛丼オッケーです!」
「米と肉も大量に用意してます!」
何故か眉毛をマジックペンで太く繋げて書き仁王立ちをしていた。雪が深々と降ってくる、気温もかなり寒い、上半身裸で居るのは寒すぎるがそこは魔法の世界、暖かくする魔法を使って寒さをしのぐ。
渓はメガホンを持って叫んだ。
渓「前夜祭のコースを説明するレンガ館から行き三条館、二条館、一条館、そして再び戻って煙突広場で大火祭乱れ舞の行事を行い煙突についてるサンタをぶっ壊す事でめでたく祭りは終了する」
彼方此方からおー!と言う声が上がる。
渓はサングラスを掛けて再び叫んだ。
渓「よおし!蝋燭の代わりに炬に火をつけろ!ケーキより牛丼をくえ!野郎ども!男祭の開始だ!」
「「「「「「オオーッ!」」」」」」
むさ苦しい男達の大行進が始まったのだった。
同時刻、奏一行は予科2年3組のサンタコス喫茶に来ていた。
薙「愛しの孝之くんに会いに行くんだね!」
奏「ちっ違うよ!あっいや違わないけど、そういう意味で会いに行くわけじゃないから!ちっ千歳くんに謝りに行くだけだから!」
巴「孝之くんって言ってたのに千歳くんに戻したんかい」
奏「だっだって」
霧恵「子ども産む宣言したのに」
奏「止めてよぉもう……」
泣きそうになる奏。何とも弄っていて楽しいことだろう。そう三人は微笑ましく思った。
奏「今何か失礼なこと考えたでしょ」
巴・薙・霧恵「「「別に~」」」
奏達は3組に入室、いや入店する。
夏実「いらっしゃいませ、4名様ですか?」
可愛らしいサンタのコスチュームを来た夏実が受付をする。
薙「はい」
夏実「お席の方ご案内します」
辺りを見渡すが孝之は居なかった。
席に案内されて奏はふと夏実の顔を見て思い出す。
奏「夏実ちゃん?」
夏実「はい?」
奏「夏実ちゃんだよね?」
夏実「そうですけど……」
奏「あの1年生の頃一緒のクラスでしたよね」
そうこの二人実は予科1年生の頃同じクラスだった。しかし言うほどの接点はなかった。
夏実「そうですね、覚えてくれてたんですね」
奏「当たり前ですよ」
ニコニコする奏、正直夏実は1年の頃のクラスメイトの名前と顔など半数覚えているかどうかわからない。
夏実「あー、えーとですね、当店のケーキのメニューは此方になります。ただ、申し訳ありませんがイチゴのタルト、当店特性のサンタケーキは本日売り切れとなっていますのでご了承下さい。お決まりでしたらお呼びください」
そういって離れようとしたとき。
奏「あっあの!」
奏が呼び止めた。
夏実「はい」
夏実は胸ポケットからメモ帳を取り出す。
奏「千歳くんは居ますか?」
夏実「はっ?」
間抜けな声が出てきた。注文かた思いきやいきなり兄の事を聞いてくる。夏実が何かを言おうとしたとき、噂の男は戻ってきた。
孝之「ただいま……」
恭子「あらお帰り」
疲れはてた孝之はそのままテーブル席に座った。
恭子「ちょっとちょっと、休むなら裏で休みなさいよ」
孝之「いや、何か頼むよ。取り合えずイチゴのタルトとホットコーヒーで」
恭子「タルトはもうないわよ」
孝之「えー……、じゃあモンブラン。いや待てよチョコレートケーキもすてがたいなぁ」
恭子「モンブランとチョコレートケーキとホットコーヒーね」
孝之「えっちょちょちょちょ」
そそくさカウンターに行きケーキをプレートに伸せホットコーヒーを二つついだ。
恭子「はいチョコレートケーキとモンブラン」
恭子はケーキを置くとそのまま席についてコーヒーを啜る。
孝之「休憩?」
恭子「まぁね、流石に疲れたわ……、留萌さんのおかげで男子は居なくなったけど、家族連れが多くてね、休む暇が全然なかったわ。良いわよね男子は売り子やらなくて」
孝之「まぁ忙しそうだな」
客足は大方遠退いていた。今はカップルとかそこら辺の輩位しかいない。
恭子「モンブラン貰うわよ」
孝之「いや、俺頼んだやつ!」
恭子「煩いわね、ほら半分あげるから」
そう言ってモンブランを二つにわり一つをフォークで突き刺して孝之の口許に寄せる。孝之は其れを一口で食べた。
孝之「んぐんぐ。旨いなモンブラン」
恭子「じゃチョコレートケーキ頂戴」
孝之もチョコレートケーキを半分に切る、其れをフォークで突き刺そうとするが流石に一口でこれを食べさせれないだろうと思い、更に半分に切り一つ恭子の口許に寄せ食べさせた。
恭子「んー、美味しいわね」
孝之「ケーキもなめたもんじゃねーな、極めようかな」
恭子「あんたお菓子作り何てやったことあるの?」
孝之「無いけど……、頑張れば作れそうじゃね?」
恭子「頑張ればって」
孝之「にしても流石に疲れたなぁ」
恭子「遊び人」
孝之「だっ、仕方ないだろ、まさかこんな時間まで春ねぇに付き合わされるとは思ってもいなかったんだし」
この時間帯になるまで解放されなかった。春音のクラスのホットパイがなくなった為作らなければならず春音は泣く泣く教室に戻って行ったのだった。
恭子「その前に留萌さんのクラスに行ったみたいね」
孝之「並ぶのかったるかった。でも餃子が結構旨かったんだよ。俺の味を越えられた」
恭子「あんたを!?」
孝之「流石学園のアイドルって言われただけはあるなぁ、料理も上手だとは」
恭子「ふーん」
ジト目で見てくる恭子。
恭子「で、留萌さんにメロメロだと」
孝之「は?何で?」
恭子「あんたが女の子の話なんてしないじゃない」
孝之「おいおい、普通に話してるだろ」
恭子「どうだか」
何故か不機嫌な恭子に理解できない孝之。
そして何かの違和感に気が付く。
孝之「そういや、渓や薄野は戻ってきたないのか?」
恭子「一度もね、それどころか男子全員がどっか消えたわよ」
孝之「は?消えた?」
突拍子もない事を言う恭子。
恭子「何か男子達でヒソヒソ話してたと思ったらどっか行ったわよ。おかげで休憩してた女の子呼び出したし、神楽達は連絡とれないし!」
イライラしながらモンブランを頬張る。モンブランだけでは足りなかったのか孝之の分のチョコレートケーキも頬張る。
孝之「ちょ!俺のケーキ!」
恭子「モグモグ……、私の怒りはケーキだけじゃおさまらないわよ!」
孝之「八つ当たりかよ!」
何だか厄介な事になってる。ここでもし更に厄介な事が起これば恭子のイライラは臨界点を越えるだろう。
夏実「兄さん」
急に声を掛けてくる夏実、振り向くととびっきりの笑顔がそこに。ただ、物凄く殺意のある笑顔だ。
孝之「なっ何?」
思わず冷や汗が出る。
夏実「留萌さんと何かありましたか?」
孝之「はい?」
夏実の背後を見るとテーブル席に奏とその友人がいる。
恭子「もう手出したの」
夏実「不潔ですね」
孝之「何もやってないし!何もないし!」
夏実「兄さんに話があるそうですよ」
孝之「俺に?」
首を傾げる孝之に何だかイラつく二人。孝之は取り合えず席を立ち、奏達の元に近づいたその矢先だった。
雅「弟くん!恭子くん!面白い事が起こっておるぞ!」
恭子「はい?」
孝之「面白い……事?」
雅「兎に角来るんじゃ!あやつら本当に可笑しいのぉ」
恭子「あの雅先輩?あやつらって?」
興奮してやって来た雅に恭子はキョトンとした顔付きで問う。
雅「そんなの決まっておろう、ブラックサンタじゃよ」
孝之・恭子「「ぶっブラックサンタぁ!?」」
即座に飛び出していった二人。
雅「あー、待ちなんし!わしを置いていくなぁ」
雅がそう呼び掛けると二人は立ち止まった。そして一番大事な事を聞いた。
孝之・恭子「「何処に居るんですかブラックサンタ!」」
雅「アトリウムじゃ」
三人は足早にアトリウムへ向かったのだった。
其れをただ茫然と見つめる奏達。
巴「……見に行く?」
巴がそう言うと奏は首を横に振った。ただでさえ孝之が他の女の子と仲良くしている光景を見てしまったのだ。その衝撃に奏は動けないでいたのだった。
アトリウムに着いた一同はその光景に絶句する。
恭子「何よこれ……って臭っ!牛丼臭っ!!」
雅「凄まじい男臭じゃの」
アトリウムは御輿を担いだ祭男達がむさ苦しく騒いでいた。
恭子「今すぐ止めないと」
そう言って男達の元に駆け寄ろうとするが、
花梨「無駄ですよ」
花梨と由香が引き止めた。
恭子「副会長!…止めないで下さい」
花梨「止めるつもりはありませんが…、事態は混乱を招くだけです」
既に混乱しているのだがこれ以上混乱は避けたい所だ。
急にギュイーンと言う機械音がする。
「野郎ども!離れてろ!」
チェーンソーをもった男子生徒がクリスマスツリーの前に立つ。
孝之「まさか……」
嫌な予感がする。そしてその予感は的中した。
男子生徒はチェーンソーでクリスマスツリーを切る。
孝之「マジかマジかマジか!?」
孝之は即座に浮遊魔法を使ってチェーンソーをあげようとするが、急に横腹がくすぐったくなった。
孝之「なっは!ナハハハハ!だっ誰だ!ハハハハ!」
孝之をこちょばしたのは、褌姿の渓だった。
渓「邪魔はさせねーぞ!」
孝之「やっやめろ渓!」
チェーンソーにかけた浮遊魔法を強制的に解かされた、そしてチェーンソーを再び男子生徒がチェーンソーを持ちクリスマスツリーをぶった伐った。
ツリーは東側に倒れていった。男祭に参加してない生徒は避難していたため被害はないが凄惨すぎる。
渓「野郎ども!次行くぞ!」
「「「「「わっしょい!わっしょい!クリスマスなんてくそ食らえ!!」」」」」
そう言ってその場から立ち去って行った。
何も出来なかった生徒会一同達、悔しさが滲み出る。
孝之「こりゃ……大変な事になったな」
恭子「大変な事以上よ」
花梨「最早クリスマスパーティーも中止せざるを得ませんね」
花梨の言うことも最もだと思う。これだけの騒ぎを鎮められる策を孝之は持っていなかった。
たが諦めていない人も此処に居た。
雅「いんや……、中止などせんでも、この騒ぎを終わらせる方法がある」
そう言って雅が取り出したのは一冊の漫画本だった。随分と古めかしい。
雅「じゃが、我一人ではどうしようもない。弟くん、春音くんが居れば完遂する」
そして雅の対男祭作戦が決行されるのであった。
深々と雪が降る。日は落ち辺りは暗闇に包まれるがイルミネーションが一層輝きをはなつ。そんな中煙突広場にて褌姿の男達が最後の騒動を引き起こす。
その内容を既に生徒会は仕入れていた。
そしてその対処法も雅が発見していた。
孝之「上手くいくかな…」
孝之はこれからやる浮遊魔法の新技に不安を覚える。
春音「お姉ちゃんも自信ないよぉ」
雅に言われた通りのバズーカを魔法を使って作り出した。
雅「自信がなくてもやってもらうしかないの」
雅の計画は問題点がなく完璧だった。このむさ苦しいムードを吹き飛ばす程の計画だ。
花梨「これで失敗したら中止確定ですね」
由香「大丈夫~ですよ~」
恭子「健闘を祈るわ」
三人に見守られた孝之と春音、そして男達はとうとう煙突に登りだし、サンタクロースに抱きつき煙突から落とそうとする。
雅「今だ弟くん!」
孝之「はい!」
孝之は両手を上げ空気を掴むように握り、おもいっきり振り降ろす。すると男達は一瞬の内に遥か上空にうち上がる。更に孝之は男達を一ヶ所に纏める。
雅「春音くん!」
春音「はい!」
纏めた男達目掛けてバズーカを放った。
バズーカから放たれた弾丸は男達に命中しハート型の花火となった。
雅「こち亀40周年おめでとー」
孝之「いや、いつの話をしてるんですか!」
花火を見るために外に出るカップル達がクリスマスムードを作り出す。
由香「綺麗~ですね~」
春音「よかったぁ…、上手くいったよぉ~」
へろへろんっと座り込む春音に孝之が寄り添う。
孝之「お疲れ」
春音「孝くん…、チュー……」
恭子「何してるんですか」
春音「キスしようかと、だってみんなしてるんだよ!」
辺りを見回せば恋人達がキスをしてる光景も目に写る。
花梨「風紀的に問題ありますね」
雅「堅苦しい事言うな、彼らのお陰でクリスマスムードが起きてるんじゃぞ」
またもや口論になる二人、見慣れた光景だから誰も気にも止めないい。
春音「孝くんチュー、チュー!」
恭子「いい加減にしなさい!」
春音「やーだーチューしてー」
もみくちゃになる孝之、それらの光景を由香は満足そうに眺めていたのだった。
一連の騒動も終わり一同は生徒会室に向かう。
孝之「ありがとうございます釧路先輩、先輩が居なかったらクリスマスパーティーがなくなるところでした」
春音に抱き寄せられながら歩く孝之に雅は満足そうに言う。
雅「なぁに、全ては秋本先生のお陰じゃよ」
花梨「漫画見たいな終わりかたでしたね」
本当に雅が用意した漫画の通りに終わった。何ならあの男祭も漫画みたいな展開だった。
雅「さーて、これで明日も無事に迎えられるの」
孝之「助かります釧路先輩」
雅「んー、その釧路先輩は気に食わんな、雅先輩と呼ぶがよい」
孝之「はい?」
雅「ほれ、雅先輩」
孝之「雅…先輩?」
雅「ふむ、宜しい。さて我はボランティア活動でもしてこようかの」
そう言って雅は何処かへと去っていった。その入れ違いに神楽sがやってくる。
西神楽「居た居た!」
東神楽「お疲れさま」
恭子「お疲れ、どうしたの?」
西神楽「其れが大変なの!お店のケーキ全部売れちゃて」
東神楽「新しく作るから手を貸して欲しいの」
孝之「何だそんな事か」
恭子「大変って言うからてっきり男祭の連中が何かやってくれたのかと思ったじゃない」
孝之「てかストックはもうないのか?」
東神楽「夏実ちゃんが全滅させたわ」
その言葉に言葉を失う。
孝之「仕方ない、妹の責任をとるのも兄のつとめだからな」
恭子「かったるいけど仕方ないわね」
春音「お姉ちゃんも手伝うよ!」
凄く心強い提案だ。
孝之「じゃやりますか!」
こうして孝之、恭子、春音、神楽sは一条館の家庭科教室に向かうのであった。
因みにバズーカを食らった渓達は寒空の下、保温魔法が切れた為、殆んど裸のままファクトリアに帰るのであった。