幕間9
竜司がストームドラゴンと戦っている時に、隠れ里のラビッター族達は何をしていたのかという話し。
僕はジローというラビッター族の里の戦士だ。
ついこの前までは農作業をする唯の一般人だったのだけども、僕が住んでいた里にウサ正宗教官と竜司殿がやってきて、里は大きく変わった。
ウサ正宗教官達が来るまで僕や里の人達は、その日の食べ物にも苦労していて、かなり生活はギリギリだった。農作業で得られる作物だけでは、里の人達の食料を全てまかなう事が出来ないからだ。
皆ガリガリでやせ細り、このままでは飢え死にしてしまうんじゃないかと思っていた。
もっと言えば里が滅んでしまう。その現実が迫っていると感じていたのだ。
そんな時に、突如現れたウサ正宗教官と竜司殿が里を改革していった。
竜司殿が里で休ませてもらったお礼として目の前で調理してくれた、久しぶりの肉料理を食べた時には感動して泣いてしまった。
「・・・・・・ああ、鳥肉ってこんな味だったんだ。」
今まで食べた事もない美味すぎる料理の数々をご馳走してもらって、お腹一杯になるまで食べた。
そうなると生きる気力と未来への希望を抱いた。僕が一番強く思ったのは、またこのから揚げという食べ物を必ず食べるという食欲だったけど。
その後、彼らは手分けして里を様々な形で支援してくれた。
大量の塩を里に提供してくれた事に始まり、沢山の動物やモンスターを狩ってきてそのまま提供してくれたりした。
更に、里の農作業の効率を高める為にミスリルで出来た農具の提供や、様々な鍋やナイフ等の調理器具、それに里の戦士達の為にラビッター族用のミスリル製の武器や防具まで戴いてしまった。
特にこれら提供してもらったミスリル製の道具の価値がどれ程の物なのか、里で一番物知りな長老ですら高すぎて分からないと言った程だ。なので、検討も付かないくらい高価な品々であるという事は、はっきりと分かっていた。
そんな品を惜しげもなく里の皆に配ったのだ。
皆初めはミスリル製の品々を見ても、「キラキラしてキレイな農具をもらってスゲー」と言っていた。そして無造作に普段通りに使っていた。
だが、非常に高価な物であると聞かされてみんなビックリ。そして返却しようとする者も中にはいたが、作った本人が古い農具や野菜や作物と引き換えにしてくれた事や、「道具は使ってこそ意味がある。」と言って積極的に使うように言われたので、次第に気にしなくなったみたい。
今までボロボロの鉄の農具や錆びた剣等を使っていたのは、それしかこの里に無かったというのもある。だが、そうなった理由はこのラビッター族の里に鍛冶技術を持った者が居なくなってしまったからだ。
だから、新しい金属の品が作れなくなったり、本格的なメンテナンスが出来なくなってしまい、ボロボロのままなのだ。古くなった道具をそのまま使うしか手段がなかったのだが、それが竜司殿のお陰で一変した。
農作業の効率だけでも以前の2倍~5倍に跳ね上がった。
切れ味の良いハサミや鉈、クワ等のお陰で収穫や農作業が早くなったのだ。
良い道具があれば、それだけで農作業に掛かる時間や手間隙が圧倒的に違うことが皆実感出来た様だ。
この時点で僕はこの多大な恩を必ず返すと決めていた。
それと脆弱であった里の戦士達や訓練の希望者達を、ウサ正宗教官が徹底的に鍛えなおしてくれた。
今までが貧しい生活だった所為で、僕や仲間達は走れば直ぐに息切れしてしまい、体力も無ければ戦う能力も何も無い状態だった。
そんな僕でも厳しい訓練に耐え、最後まで仲間の訓練生と共に乗り切れたのは、美味しい食事がお腹一杯に食べられるという事と、ウサ正宗教官に対する憧れと感謝の気持ちがあったからだろう。
あの人達が居なければこのまま滅亡していたかも知れない。
だからどんな無茶な内容の訓練でも必死に喰らい付いた。
そして、気づけば一月後にはモンスターを狩れる程に成長していた。
振り返れば感慨深い。
あんなに苦労していたが、今振り返ればあの厳しい訓練や里の改革は必要な事だったという事が分かる。
旅に出てから強くそう思った。
自分達の力だけで自活する能力を、ウサ正宗教官と竜司殿は与えてくれたのだと。
僕達里のラビッター族は返し切れない多大な恩をこのお二人に受けた。
だから、今度は僕達が少しずつでもこの恩を返して行く事が何よりも重要だと、里の人達全員で話し合って決めた。
最悪、他の人間に売り飛ばされても文句は言わない様にと言い聞かされた。
それ以上の対価を既にもらっているからと。
それからウサ正宗教官と竜司殿に付き添って、僕は冒険の旅に出た。僕とパーティーを組んでいた子達も一緒の為、総勢六人もついて行く事になった。
僕達ラビッター族が里から出て、旅に出るのは非常に珍しい事だ。
戦闘力の低いラビッター族が無防備に里から出れば、モンスターの餌食になってしまうからだ。
だが、実際に里から遠く離れてみると、驚きの連続であった。
まずは里の周辺のモンスターと違う種類のモンスターがこんなに沢山生息して居る事だ。里の周囲には大きな群れがあまり存在せず、多くても10頭未満であった為、こんなに多くのモンスターと戦って苦戦する事も無かった。
そして10頭以上の群れが一日に何回も襲ってくる事もあるという事。これが、スタミナが多くない僕達にはとても大変だった。まだまだ修行不足であるという事を痛感させられた。
基本的にウサ正宗教官が教えてくれた里での戦い方は、命を大事にする戦い方だったのだろう。だから、こんなに多彩なモンスターと一日に何度も戦うという事は、里の周辺では無かったのだ。
更に陣形が違う事や、野宿する為の野営スキル。
様々な点で今までと違い四苦八苦しながら旅をしていた。
モンスターと何度も戦闘を繰り返して改めて分かったのは、ウサ正宗教官がとんでもなく強いという事と、実は竜司殿も非常に強かったという事だ。
竜司殿が取る指揮も悪くないし、戦闘時の判断も素早い。
流石はウサ正宗教官がご主人様と呼ぶだけはあると思う。
色々な道具を作っていたり、美味しい料理を作っていたりしている人という印象が強かった。だから、戦闘はどうなんだろうと僕達は思っていた。
だけど、僕達では到底敵わない人であるという事が、一緒に戦っていて分かったのだ。
特にその扱う武器の威力が凄すぎる。
大抵のモンスターが一撃で倒せてしまう強力なボウガンを筆頭に、様々な武器を持っていたのだ。
正直この人だけでも里を滅ぼす事が簡単に出来たと言う事なんだろうな。
その驚異的な威力の武器や、鉄壁の防御力を誇る防具を見て、僕はそう思った。
それから旅が進み、ようやくストームドラゴンの居場所を特定出来た。
パーティーメンバーである里の6人 (僕を含めて)は二人一組に分かれて、ストームドラゴンを倒す為に山の洞窟が見える場所で待機していた。
それぞれの担当する役目やトラップは違ったが、一番大事なのは生き残る事であるといわれている。
それと命令を遵守せよ、としつこく言われているので注意していた。
洞窟からストームドラゴンが何時出て来るのか分からないから、不必要な緊張を常にしていると、疲労で動けなくなる可能性がある。
だから、小まめに相方のミコと交代で見張りを続けた。
僕達の担当は城塞設置型バリスタという大きな機械弓を使った攻撃を仕掛ける事だ。このバリスタは地面に設置するタイプの物らしく、移動する事が出来ない様に作られた巨大な代物だ。
方向や角度を変える為の変わった機構があるけど、こんな物は里には無かったから、みんな初めて見た時は興奮していた。
僕も初めて見るその異様な武器が珍しくて、長い時間見たり触ったりしていた。僕の体よりも大きい武器を簡単に扱える工夫に感動したし、ベタベタと触りながらどんな構造になっているのか知りたくなったし、とても強い興味を持ったのだ。
僕達の出番のタイミングは、他のトラップが着弾した後に、矢を放つ事になっている。
それにしても、この城塞設置型バリスタは非常に大きい。
そんなものを竜司殿はどこからともなく取り出して見せて、簡単に設置したのだからとても驚いたよ。
そして使い方を聞いて、実際に試射してみてその威力に驚愕した。
太い木に狙いをつけて撃ってみると一撃でその大木を貫通したのだ。しかも勢いはそれで止まらず、更に二本ほど大木を貫通してようやく止まったのだ。
これだけの威力があればストームドラゴンもひとたまりもないと思った。
それから次の日の昼になって、ようやくストームドラゴンは洞窟から出て来た。
トラップが効果的に決まるタイミングまで待ってから、投網投射トラップを発動させる。
トラップの発動タイミングはウサ正宗教官が合図してくれたので、ばっちり決まっていた。
そして墜落していくストームドラゴンに追撃でバリスタの極太矢を放つミコ。
大きな音を立てて飛んでいったその矢は、見事に命中した。
「よしっ!
直ぐに指定の場所に行こう。」
このバリスタを当てれば僕達の役目は終了である。
特に墜落した後は、ストームドラゴンと接近戦をする事になる。
それは僕達には荷が重過ぎた。
だから、比較的安全な場所で待機して居る事になっていた。
墜落した場所は、このバリスタが設置してある位置からでは木々が邪魔をして狙えないしね。
それからウサ正宗教官と竜司殿は、ストームドラゴンという沢山の人間が住む町ですら全滅しかねない程強力なモンスターさえも、たった二人だけで討伐したのだ。
僕達もトラップやバリスタを使って打ち落とすという手伝いはしたが、それさえも彼らだけでも可能な作業であったと思う。
そして最期は撃墜したストームドラゴンの首を切り落としたというのだから、本当に凄まじいものだと思う。果てしない実力の差をヒシヒシと感じた。
だが、そのトドメを刺す光景を僕達は見る事は出来なかった。
戦場から退避していたのもあるけど、避難する途中で驚く光景を目の当たりにしたからだ。
新手のストームドラゴンが洞窟から出てきたのだ。
まさか二頭も同時に居るとは、露ほども考えていなかったし、その可能性を誰も指摘しなかったから気づかなかった。
ヤバイ。あれはヤバイ。
合流されたら竜司殿やウサ正宗教官がいくら強くてもピンチになる。そう思ったのでみんなに呼びかけた。
「みんな、教官達を助けよう。
このままじゃあストームドラゴンを二頭同時に相手して戦わなくちゃいけないよ。
それじゃあ流石のあの二人も危ないよ。」
「っていってもさー、どうするっていうんすか?
あんなドラゴンなんてヤバヤバなのと戦ったら、時間稼ぎするだけでも全滅っすよ。」
確かに正面から戦えば勝ち目はないと僕も思う。
だけど、ここには使えるトラップが沢山ある。
「竜司殿が念のためにといって設置しておいてくれたトラップを活用しよう。
こちらの攻撃で有効打になりそうなのは城塞設置型バリスタだけだと思う。
他にも牽制で攻撃したいけど、あまり下手な攻撃を仕掛けると空を飛ぶストームドラゴンから逃げ切れず、襲われて命を落とす可能性が高いよ。
なので、投網トラップを使って機動力を奪う事を優先しよう。」
「本気っすか、ジロー?
今から戻っても直ぐに攻撃を仕掛けないと間に合わないっすよ。」
「ああ、だから直ぐに行くつもり。
みんなも手伝って欲しいんだ。お願いだ、頼む!」
「仕方ないっすね、付き合うっすよ。」
「こ、ここで逃げたら、付いてきた意味がないよね。」
「わいも賛成や。ほなはよ行こか。」
みんな手伝ってくれるようだ。
死ぬかも知れないのに付き合ってくれるのだから、本当に感謝している。
そして、心から信頼出来る仲間達に出会えて良かったと思った。
それから直ぐにトラップや城塞設置型バリスタがある場所まで戻ってきた。
その時にはもう既にストームドラゴンは投網投射トラップの射程圏内から離れてしまっていた。
ストームドラゴンは上空からブレス攻撃を森の中に向かって何度も放っていた。
今は一頭しか見かけないから、多分片方は倒せたんだと思う。
そして、倒した教官達をストームドラゴンが執拗に攻撃している時に、僕達は戻ってきた様だ。
僕達が居る場所は、ストームドラゴンからそれなりに距離があるけど、翼があるストームドラゴンの機動力なら見付かったら直ぐに追いつかれてしまう距離だ。
射程の短い投網投射トラップを使うのを諦めて、城塞設置型バリスタを使う事をみんなで話し合って決めた。
これしか超遠距離で攻撃出来る武器が無かったし、接近戦は論外だからだ。
だけど、なかなか攻撃するタイミングは訪れなかった。
こちらは未だ発見されていないけど、時間が経てば見付かる可能性が上がる。
だんだん焦燥感が強くなってきた所でウサ正宗教官が僕の所にやってきた。
「説教は後でします。
今はストームドラゴンを倒すのが先です。
ご主人様がバリスタが当たる位置まで誘導してくださるので、タイミングを合わせなさい。
他の子達にも指示を出すのでここから離れますが、自分の命を大事にしなさい。」
ウサ正宗教官はそう言うと、他のコゲトラやミコが担当するバリスタが設置してある場所に走って行った。
それからしばらくすると、森の木々がなぎ倒されたり、色んな激しい戦闘の轟音がだんだん近づいて来た。
緊張しながらバリスタをその音がする方向に向け、タイミングを計る。
そうすると、僕の目にもストームドラゴンと竜司殿が戦っている姿が見えたのだ。
追いかけられながらも果敢に反撃しているのが遠めにも分かった。
それはあまりにも危険な戦いに見えた。
だけど、バリスタの矢を放てるのは一度のチャンスしかない。
外せば、この場に風のブレスが飛んでくるだろう。
バリスタの矢が当たっても、逃げなくてはこちらが危険すぎるので、慎重に狙いをつけた。
そして丁度僕とストームドラゴンが一直線になる瞬間が訪れた。
このタイミングなら外さない!!
バシュバシュ
音を立ててバリスタの極太の矢が飛んでいった。
二本同時に放つのがこのバリスタの特徴でもあった。
「よしっ!
当たった。」
その矢は真っ直ぐに飛んでいき、飛び回りながら竜司殿を追いかけているストームドラゴンの翼に突き刺さった。
そして、ストームドラゴンは地面に落下していった。
そこからは先の事は、僕は見ていない。
一目散にその場から逃げ出していたからだ。
後から聞いた話しでは、見事に竜司殿が墜落したストームドラゴンを討伐したらしい。
途中でコゲトラが放ったバリスタの矢が命中して、それが決定打に繋がったとコゲトラから自慢された。
僕達はその日の野営の時に、ウサ正宗教官にこってり絞られていたが、同時に良く無事だったと抱きしめられた。
そして、その後は疲れの為に何時の間にグッスリと寝ていた。




