蒼と幼馴染
幼馴染は美味しいんです
四月の風が、まだ少し冷たい。
星城高校の正門をくぐると満開の桜がアーチのように覆いかぶさっていた。入学式から二週間。新入生たちの初々しい緊張はすでに薄れ、二年生になった俺たちは新しいクラスにもようやく慣れてきたところだ。
「おい蒼、またぼーっとして」
肩を小突かれて振り返ると、翔太が呆れた顔で立っていた。サッカー部のジャージ姿で額にはうっすら汗が光っている。朝練帰りなのだろう。
「してない」
「してたね。どうせ美咲のこと考えてたんだろ」
図星だった。俺は黙って歩き出す。
「いい加減告ればいいのに。幼馴染なんだから、他のやつよりずっと有利だろ」
「……幼馴染だからこそ、だ」
俺の返事に、翔太は大げさにため息をついた。
「お前なあ、小学校の頃から一緒にいるんだろ? もう十年以上だぞ。今さら何を遠慮することがあるんだ」
「遠慮じゃない。ただ……」
言葉が続かない。翔太にはわからない。幼い頃からずっと隣にいて彼女のすべてを見てきたからこそ、一歩を踏み出せないことだってあるのだ。
美咲は同じクラスになって二年目になるけれど、未だにまともに目も合わせられない瞬間がある。彼女はいつも教室の窓際で柔らかな日差しを浴びながら本を読んでいる。その横顔があまりに完璧で、幼い頃に隣で鼻水たらして泣いていたあの少女と同一人物だとは思えない時がある。
「お前さあ、自分がどんなに見られてるか知らないだろ」
翔太が何か言いかけたとき、後ろから「おはよう」と声がした。
振り返らなくてもわかる。少し高めの、でも落ち着いた声。美咲だ。
「お、おはよう」
俺がどもりながら返すと、美咲は小さく笑って俺たちを追い越していった。長い黒髪が朝日に透けて金色に輝いている。その後ろ姿を俺はただ見送るしかできない。
「……なあ蒼」
翔太が急に真面目な声を出した。
「なんだよ」
「お前さ、自分をどう思ってる?」
変な質問だ。
「どうって……普通、かな」
「普通ねえ」
翔太は何かを言いたげだったが結局「まあいいや」と言って、じゃあなと手を振って教室へ走っていった。
教室に入ると、美咲はすでに自分の席に座っていた。窓際の一番後ろ。昔から変わらない彼女の定位置だ。
俺の席は廊下側の真ん中あたり。距離がある。それはたかが数メートルの物理的な距離で、だけど今の俺たちには途方もなく遠く感じられた。
美咲がふと顔を上げて、こちらを見た。目が合う。
一瞬、時が止まったような気がした。
でも美咲はすぐに微笑んで、軽く手を振るとまた本に視線を落とした。
俺も小さく手を上げかけて、途中でやめる。
(なにやってんだ、俺は)
高校生にもなって、幼馴染に手を振ることもできないなんて。
でも、彼女のあの笑顔は昔と変わらないはずなのに、なんでこんなに胸が苦しくなるんだろう。
蒼くんはめっちゃ美麗ってわけじゃないって設定です
清潔感ある感じのイケメンです




