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第1話

 今日も俺は、最前列の真ん中よりちょっと左に立った。リュックからペンライトを取り出し、電源を入れる。家を出る前に電池を入れ替えてきたから、消える心配はないだろう。

 ぼーっと待っていると、ステージが暗くなりSEが鳴り始めた。水色のペンライトをリズムに合わせて胸の前で振る。

 十秒くらい経ったところで、ステージ袖から五人の女の子が出てきてそれぞれの立ち位置についた。お、今日はチェック衣装か。最近見てなかったから嬉しい。

 前奏が流れ、彼女達は踊りだした。俺の大好きなアイドルグループ──百輝☆夜光のステージの始まりだ。

 百輝☆夜光、通称ひゃっこは地下アイドルだ。一年前に結成され、初期メンバーのまま今日まで続いている。彼女達のパフォーマンスはオタクの贔屓目を抜きにしても、かなりレベルが高い。

 実は俺はデビューライブからひゃっこを見てきた最古参だったりする。それまでは地下アイドルとは無縁の無い生活を送っていたが、重度のドルオタだったバイト先の先輩に連れられて渋々訪れたそのライブで、とあるメンバーに一目惚れし、先輩が飽きて別のグループに行くようになった今でも足繁く通っているのだ。現場数が多く毎回行くのは大変だが、ライブを見ればその苦労なんて吹き飛んでしまう。最初の頃は片手で数えられるほどだったオタクも徐々に増え、今では毎回五十人程度の動員がある、ちょっとした人気グループになってきた。二週間後には過去最大規模の一周年ワンマンライブも控えている。

 おっといけない、ライブに集中しないと。俺はステージに意識を集中させた。

 黄色担当のつのちゃんは今日もダンスが冴えてるなぁ。つのちゃんの弾けるようなパフォーマンスにはいつも元気をもらえる。彼女はショートの金髪が汗で顔に張り付くのも構わず、眩しい笑顔を見せている。

ピンク担当のもえちゃんの煽りも健在だ。赤いメッシュがチャームポイントの彼女はMCも得意で、いつも楽しみにしている。もえちゃんの力強い声に呼応するように、俺も声を張り上げる。

「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」

 彼女はオタクの声量に満足感したのか親指を立てた。

 センターで客席を指差しているのは紫担当のたまちゃん。最年少ながら一番人気のメンバーだ。お決まりのツインテールを揺らし、振り付けにはないファンサをしてはオタクをメロメロにしている。彼女は間違いなくひゃっこの絶対的エースだ。

 たまちゃんの隣で、プラチナブロンドの髪をふわふわ揺らして踊っているのはリーダーで白担当のりぃちゃんだ。激しいパフォーマンスの中でも笑顔を絶やさないが、どこか掴み所が無くいつも飄々としている。そんな彼女がリーダーを務めているというアンバランスさもひゃっこの魅力のひとつだ。

 そして俺の推し──いわちゃん。水色担当の彼女はすらりと背が高く、可愛い系というよりは大人っぽい美人だ。そして何より歌が飛び抜けて上手い。難しいパートを涼しげな顔で歌いこなし、とんでもない高音も難なく響かせる、ひゃっこの歌姫だ。彼女の歌声が万病に効くという研究結果もいずれ出るだろう。初めていわちゃんが歌うのを聞いた瞬間、俺はいわちゃんのオタクになると決めた。彼女の歌をいつまでも聞いていたい、彼女の支えになりたいと心から思ったのだ。彼女の食費の食費になりたい。あわよくば、シャンプー代になりたい。

 目の前でいわちゃんがひらりとターンを決める。俺はデビュー時から変わらないサラサラの黒髪が靡くのを、ペンライトを振るのも忘れて見惚れていた。

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