表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

3話 そしてデータは動き出す


 日曜日は、美里と久しぶりのデートを楽しんだ。

結婚指輪を注文し、縁起の良い日にちに入籍すること、両親への挨拶の日程も決めた。


「指輪、来月中旬に届くって」


 美里が笑う。律は胸が温かくなるのを感じた。



 そして月曜日。


 会議室の空気は重い。営業部長が資料を睨みながら口を開いた。


「神坂君。このプロトコルは、我々営業を疑っているという事かね?法律違反をした営業は今のところゼロだが?」


 律は落ち着いて答える。


「本ツールは〈違反検知〉ではなく、〈適正評価〉のためのものです。営業部長をはじめ、皆さんが部下を支援し、正しく評価するための新しい指標です。売上だけでなく、誠実さも可視化する時代にしたいんです」


 部長陣が顔を見合わせる。律はモニターを操作した。


「それでは機能デモに移ります。こちらのデモ用サンプルを共有ファイルへアップロードします」


 最初のサンプルは、青ランプが静かに点灯。


「クリーン案件です」


 次のサンプルをアップ。数秒後、赤ランプが光る。直後、律のメールに通知が届いた。


「メールが来ました。確認します……」


 律が画面を共有すると、内部監査室長が前のめりになる。


「このサンプル、仕入先に利益がほとんどないようだな。原価率が異様に高い」


 室長の声は冷静だが、目は鋭い。営業部長の顔がわずかに強張った。


「記録は自動で監査サーバに転送されます。

人の主観ではなく、データが語る仕組みです」



 律は静かに付け加え、次のスライドに切り替えた。



「そしてこちらが、昨年度営業トップ5の方々の、5億円以上の大型案件を各10件ランダム抽出して読み込ませた結果です」


画面に散布図が映し出される。

X軸「案件金額(億円)」、Y軸「グレー警告率(%)」。

5つの記号(A〜E)がプロットされているが、E点だけが明らかに突出していた。

他が20〜30%の範囲に収まる中、E点は45.2%——赤い警告ゾーンに単独で浮かんでいる。


営業部長の視線がその一点に吸い寄せられた。喉が小さく動く。


 律は淡々と説明を続けた。


「個人名は伏せておりますが、営業手法によるばらつきが明確に見えます。一方で、クリーン率の高い担当者は一貫して安定しています」


 内部監査室長が静かに手を挙げた。


「神坂君。このE点の元データ、後ほど詳細を見られる形になっているか?」

「はい。検証用フォルダを監査室向けに整理してあります。照合用のデータも含めて」


 情シス部長が頷き、口を開いた。


「傾向分析としては非常に興味深い。まず監査室での4週間試験運用を認めよう。神坂くんは開発者として監修に入ってくれ」


 営業部長は腕を組んだまま、無言だった。


「では、本日はこれにて終了」


 情シス部長の声で会議が締めくくられた。



 律が資料をまとめていると、監査室長が静かに近づいてきた。


「神坂君。あのフォルダ、昼休みにでも共有してもらえるか。早速検証を始めたい」

「承知しました」


 会議室を出た監査室長は、監査室に戻ると端末を開いた。テストログに残る赤い警告文字列。その中に、見覚えのある案件コード——多崎の名前が確かにあった。


「……なるほどな」


 室長は小さくつぶやき、調査フォルダを新規作成した。


「暫定監査リスト」と名付けて。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ