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 彼の町にはもう仕事がなく、隣町まで仕事を探しに行かなければならない。

 彼の町は海町で、カネを持っている者はみな船を買う。

 船で漁に出るのだが、今ではもう魚の数も少なくなり、船の油代と家族を食べさせることで精一杯で、人を雇ってまでする仕事がなくなってしまったのだ。

 もう少し遠くの都会に行けば大きな会社もあるのだが、彼の学歴で定職に就くのは非常に難しく、履歴書も写真も結構な値段がするのでそうそう作ることもできない。だから日払いで、案外いい給料がもらえる隣町で毎日仕事を探す日々を送っている。

 この隣町の大人たちはいい人が多く、彼の働きぶりが気に入ったのもあって、いつも昼飯を食べさせてくれる。彼の母親は徹底した和食党なので、カレーライスやスパゲティなどは家では食べることが出来ないご馳走なのだ。彼が嬉しそうに食べる笑顔を見て、大人たちも彼への好感度を上げる。

 今日は仕事にあぶれてしまった。

 帰り道、惨めな気持ちを持て余しながら、なんでこんなふうになってしまったかを考える。

 答えはすぐ出てくる。学校で真面目に勉強をしなかったからだ。学校は楽しかった。仲の良い友達が大勢いて、みんなと喋ることが宝物のように思えた。授業中でも隣や後ろの奴とずっと喋っていて、授業内容は何も聞かなかった。だから彼には大人になるための大切な知識がない。

 友達はいる。今でも仲はいい。しかし全員彼と同じで職に就いていない。どこかに集まって、今でもお喋りをしている。

 今の彼は友達と違う。親の存在が全く違うからだ。

 彼には生まれたときから父親がおらず、母親はずいぶん前に体を壊してしまい、国からお金をもらっている。母親と彼は基本的にそれで生活をしているのだが、体を壊した影響で、母親は買い物に行くにも一大冒険をするほど気を張らないといけなくなっている。

 昔は何度も代わりに買い物に行くと言ったのだが、ずっと寝てるだけだと却って体が悪くなるだけだから買い物くらいはいかないとね、と譲らない。

 だから彼は学校を卒業したら、自分も働かないといけないと心に決めたのだが、決意した時期が遅かった。彼の学歴や学力では都会に就職することができないのだ。

 それでも毎日仕事を探し、これはと思った会社に履歴書を送っているので母親は優しい笑顔を絶やさない。彼を心の支えにしていて、彼もそのことを解っている。

 しかし友達の家はそうではない。夫婦喧嘩が絶えず、子供達への大声も止まないため、みんななるべく家にいないようにして仲間たちで集まっている。


 彼の町が貧しくとも秩序が保たれているのは、誰一人としてカネをせびる者がいないからである。

 彼が一人隣町まで働きに行ってることに嫌なことを言う者はいない。

 日払いの給料を持ち帰ってもそのカネをあてにする者もいない。彼の母親が国からお金をもらっていることを知っている者はいても、そのカネを貸してくれと言ってくる者はいない。

 その町の者は全て、それをやったらこの町は終わりだと、心のどこかで思っているのだ。

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