第3話
話を聞くと彼女は猫でも、化け猫だったようです。何百年以上を生きた猫は妖怪となり姿を変えるらしい。つまり、私はぜんぜんお姉ちゃんではなかったという事です。今までしてきた我慢はなんだったのでしょうか、ただ妖怪に化かされたというのですね。
しかし、気になる事が一つあります。なぜ深幸ちゃんはこんなにも幼い容姿なのかという事です。何百年も生きていたとしても妖怪にとっては、まだまだ子供なのかな。それとも妖怪は歳を取らない、もしくは取りにくくなってしまうのでしょうか。私は深幸ちゃんの白くて綺麗で柔らかそうな頬を見つめていた。
「ん? なに、お姉ちゃん?」
「いやなんでもない、ていうか耳が作り物なんじゃないのかなと思って……」
とっさに見ていた場所とは違う所に話を持っていった。彼女なんの疑問も持たずに、本物だよと言いながら耳をピクピクさせて私に見せてくれた。かわいい、つい触ってしまいそうになる手をすんでのところで止めた。私はもしかして他にも猫の要素があるのではと考えると止まらなくなり、見てみたくなった。
「しっぽもあるの?」
自分では何がしたいんだと思いながら、単なる興味本位という程を装い深幸ちゃんに聞いた。彼女はあるよと答えて、後ろのスカートの裾の下から二つの黒いしっぽを見せてくれた。歩く度にしっぽは互い違いに揺れ動き、それを私の目が追いかける。艷のある毛並みにとうとう我慢できず手を伸ばしてしっぽを掴もうとした。
しかし深幸ちゃんは高く飛び上がり私の手から逃れた。彼女は少し距離を取ってこちらに向いて着地して、ほくそ笑みながら喋りだした。
「お姉ちゃん、ずっとバレバレだよ」
「いやあ、その、さっきイタズラされたからその仕返しにと……」
かなり苦しい言い訳もすぐに気づかれたでしょう。なぜなら自分の思惑が全て相手にバレていた事が恥ずかしくて私はかなり赤面していたからです。妖怪に化かされる以前に子供じみた仕掛けでからかわれてしまった。
「ふ~ん、お姉ちゃんって深幸にイタズラする気だったんだ~」
そのまま深幸ちゃんは私に顔を近づける。もしかして、この子は自分の事が可愛いと分かっていて行動しているのかな。妖怪だから変化なのかもしれませんが、だとしたらこれは相当たちが悪いです。森に置いてきぼりにするようなイタズラもこの見た目で幾度となく許されてきたのでしょう。さっきは彼女の猫耳姿にあっけに取られていたという事もあり、怒るタイミングを逃してしまいましたが、それさえも彼女の計算通りだとしたら私の手にはもう終えません。
しかし、深幸ちゃんの追撃は止まりません。何をする気だったのか、そしてどうするつもりだったのか。根掘り葉掘り聞かれても、否定しながら言葉少なく相槌を打ち、この場をやり過ごしていました。すると彼女から思わぬ角度の質問が来ました。
「お姉ちゃんって変わった格好しているよね」
深幸ちゃんは私をジロジロと見ながらイジっている時に気がついたのでしょうか。確かに深幸ちゃんと比べると私の服装は違う。
よく考えると睦江さんの和装も三途の川にいるからなのか違和感はありませんでしたが、服装自体は変わった形をしていました。
深幸ちゃんの中華風の武闘家みたいな服を着ていますが、下はスカートを履いている。合わないように感じるが上下が紺色で統一されているから違和感が無く着こなしている。
それに比べて私の服装は、上は濃い緑色のトレーナーで下は黒い長ズボン。しかもだいぶ使い古された感じがします。
「私の服、なんていうか野暮ったいですね」
「それもあるけど、それより大きすぎない? その服」
それもあるんですか……まあ言われてみれば私の服はサイズがかなり合っていませんでした。上は袖で手が隠れるほどの大きさで、下はベルトを目一杯にきつく締めてズレ落ちないようにしています。ズボンの裾はここまで歩いている内に引きずっていたからなのか、少し破れています。外の世界から来たとはいえこんなに服が馴染んでいないのは何故なんでしょうか。
服の大きさは深幸ちゃんに言われるまで気が付きませんでした、正直それどころでなかったというのもあるんですけど。私のこの身なりは自分の事を知るのに役に立つのでしょうか。
「そういえばお姉ちゃんの名前ってなんて言うの?」
とうとう、この質問が来てしまいました。もし最初に出会った時に聞かれていたら渋々と私は名前が思い出せないって答えていたでしょう。しかし、先程から彼女には馬鹿にされ続けていたという事もあるので、ここは大義名分として私は不機嫌なふりをしました。
「深幸ちゃんには教えません」
ここはなんとしてでも切り抜けないと後が大変な気がします。深幸ちゃんは私より年上ですけど大人気ない事をしているなと思った。ごめんなさい、名前が分かったら改めて自己紹介しますからね。謝るから教えてと聞いてくる深幸ちゃんとじゃれ合いながら心の中で約束をした。