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第4話

 私は頑として自分の名前を言わなかった、もとい言えないのを隠していた。そうすると疲れたのか、なんとか諦めてくれました。とりあえず持ち堪えましたね。

 また遊ぶ時に不便だから教えてよ、と言われても冗談じゃありません。これ以上、彼女の遊びに付き合っていたら、こっちの身が持ちません。


「まあいっか、お姉ちゃんを朔來先生に会わせたら深幸はお家に帰るからね」


 深幸ちゃんは少しむくれた顔をしていた。悪い事をしたなと思いながら、この子がお家に帰るというのに気になった。私と違って帰る場所がある、だけどそれは何処なのだろうと。

 たとえば睦江さんは三途の川で仕事をしているから、それなりの収入があって何処かに住んでいるのでしょう。でも深幸ちゃんの場合はどうやって生きているんですかね。

 妖怪にも親がいていっしょにいるとか、それとも一人で暮らしているとかかな。見た目は可愛いらしい女の子ですけど、妖怪ですし木の上や洞窟に住んでいるのかもしれません。ご機嫌斜めな彼女の気分を変えて貰うため、会話のタネとしてついでに聞いてみた。


「深幸ちゃんのお家ってこの森にあるの?」


「深幸は違うよ、人里からの離れた所に住み込みで暮らしてる」


 猫だから自然や森の中で住んでいるのかと思っていましたが、なるほど住み込みでしたか。あえて言うなれば家猫ですね。

 つまり深幸ちゃんとここで出会ったのは偶然という事ですか。睦江さんが森を鬱陶しいと言っていたのは、彼女の事だと思っていましたけど私の思い違いですね。それなら鬱陶しいというのはどういう意味なんでしょうか。


「お姉ちゃんは何処に住んでるの?」


 やってしまいました、この質問が返ってくる可能性を考えていませんでした。名前は誤魔化せたけど、住まいはどうしましょう。土地勘の無い私が適当に言ってもすぐにボロが出てしまいます。


「えっと……実は家を探していましてね。どこに帰ればいいのか迷ってるんです」


 嘘は言ってません、記憶が無いのでどこに帰れば良いのか分からないのは本当ですから。でもこの理由で朔來先生に会う必要性があるのかと問われれば困りますけどね。


「へ~新しいお家探しか。今度遊びにいくね」


 うまく勘違いしてくれました、深幸ちゃんの遊びに来るというのは叶わないですが。

 それより自分で言っていて気づいたのですが、無理に帰る必要はないのかもしれませんね。元の世界の記憶は無い事ですし、ここに住むのも悪くないような気がしてきました。名前が分からなくても記憶が無くても、新しくこの世界に住んで立て直せばいいじゃありませんか。私もどこかで働き口を見つけて家に住んだり、住み込みを見つけるのもいいでしょう。最初は記憶が無い事で落ち込んでいましたが、すこし前向きになれたような気がします。

 しかし、落ち込むべき一番の問題なのは今日の話なんですけどね。森を抜けた後に人里で寝泊まり出来る所はあるのでしょうか。もしあれば泊まらせてもらう代わりにタダ働きで皿洗いとか出来ませんかね。

 森が深くて太陽は見えませんが日が沈む前に人里につきたいです。このままだと今夜は野宿が決定してしまいます。そうなる前に早く人里に着きたいところです。


「ねえ、この森っていつになったら抜けるの」


 一本道なので迷っているようには思えませんが、さすがにこの森は長すぎると思ったので聞いてみた。すると深幸ちゃんは急に黙りだして、私から手を離した。そしてニヤリとした顔でこちらに向きました、また嫌な予感がします。


「お姉ちゃんさ、知らない人には着いて行ったら駄目って教わらなかった?」


 なんですか、この感じはまた何かあるんですか。まさかここまで歩いて来ましたけど行き止まりにつれてこられたとか、わざと遠回りしていたとかですか。もしそうだとしたら、どんなに可愛く謝っても許せませんからね。妖怪とはいえ猫なんですから、悪い事をした時は躾けるのは当然の事です。

 すると深幸ちゃんは突然、走り出しました。私の怒りを察して逃げているのでしょうか。


「あっ、ちょっと待ってください」


 やっぱり何か魂胆がありそうですね。さっきは見失いましたが今度は逃しません、絶対にお仕置きします。ついでに耳や尻尾も触ってその毛並み具合も確かめます。

 彼女を追いかけて走り続けると奥の方から光が見えてきました。光は近づくにつれてだんだんと大きくなっていき、私は気がついた。


「もしかして出口ですか!」


 木々で遮られていない出口は木漏れ日で光輝いているようにも見えます。森を抜けると久しく当たる太陽の光に照らされて目が眩しいです。

 辺りを眺めると開けた土地の先に小さく家のような物がたくさん見えています。あれが人里でしょうか、また少し歩きますがとう遠くはないですね。


「お姉ちゃん、また私に置いてきぼりにされたと思った?」


 森を抜けた出口付近には深幸ちゃんが待ってくれていた。確かにそう思いました、本当にこの子はとんだ化け猫ですね。

 妖怪でも疲れはあるのですね、彼女は手を組み両腕を上げて体を伸ばしている。私も同じく日光に浴びながら体の筋肉を伸ばした。


「さあお姉ちゃん、人里はもうすぐだよ」


 私は深幸ちゃんに差し出された手をつなぎ、人里へと向かった。


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