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志考

「あなたはだあれ?」

 暗い暗い、真っ暗闇の光の中で、幼いその子はぼくに聞いてきた。

「あなたはだあれ? どうしてここにいるの?」

 ぼくはぼくです。他の何者でもない、ぼくです。あなたは誰ですか?

「あなたはだあれ? どうしてここにいるの?」

 ぼくはぼくです。ぼくはぼくだから、ここにいるのです。いえ、ここにいるのがぼくで、そのぼくがぼくかもしれません。

「あなたはだあれ? どうしてここにいるの?」

 はぁ……。なあ、君はどう思う。君は一体誰なんだろうか。なぜ君はここにいるのだろうか。なあ、答えてくれないか。彼女に答えているうちに、ぼくはぼくである事を失ってしまいそうなんだ。だから、その前に君の存在をはっきりさせておきたいんだ。

「俺はお前の光だ。お前の鏡であって、全くの正反対。対であるが、決して共に在ることは許されない者だよ」

 そうか、わかった。ぼくは君の光なんだね。わかったよ。理解した。あぁ、これでようやくぼくは解放される。

「駄目だよ。君は君なんでしょ? 一体何から解放されようとしているんだい? 君は君である限り、君からは解放されはしないんだよ?」

 そうなのか? ぼくは解放されないのか? この暖かな鎖や冷たい掌を全てはねのければ、自由に、意識からの自由を手に入れる事が出来るんじゃないのか?

「ばっかじゃないの? あんたがいるなら、あんたはあんたから逃げられる訳がないじゃない。もしかして、そんな事が出来るとでも思ってたわけ? あっはっはっ! 馬鹿ねあんた。馬鹿すぎて何も出来ないじゃない」

 で、でも、ぼくがぼくである事を止める事が出来たなら、ぼくは逃げられるんだろう? だってそうじゃないか。ぼくがいなくなればぼくの意識は消えて、何もなくなるのだから。

「理論上ではな。だが考えてもみたまえ。君は君が君でなくなる事を、君が君でなくなった後を感知する事が出来るかね。そうさ、出来ない。全く不可能なのだよ。それにだね、今の君を形作っているのは、何も君自身だけではないのだよ」

 それは一体どういう事なのだろう。今感じるこの気持は、紛れもなくぼくだけの気持だし、この気持を産み出すのも他でもない、ぼく自身しかいないんじゃないのか。

「そんな悲しい事をいわないでよ。君の気持を作り出すのは確に君自身だけど、その心を形作っているのは私たちとの関わり大きいんだよ。君は、いえ、どんな人もなかなかその事には気付けないけど、君という心の中には、いろんな誰かが住み着いているんだよ。例えばほら、私たちみたいに」

 いや、でも君たちは自身から言ってたじゃないか。自分たちは君の分身だよって。それはつまり君たちもぼくであるって事じゃないのか?

「あなたは根本的な間違いをしているようです。確に私たちはあなたの分身に違いありません。しかし聞こえるでしょう。私たちの声の違いが。そこから想像できる人物の違いが。私たちはあなたの分身です。しかしそれはあなたという鏡に写った他者の虚像でしかないのです。言わばあなたが感じているあの人の雰囲気、性格、新密度の現れなのです」

 わかんないよ。わかんないよ。わかんない! ぼくは今までで君たちをぼくとして認識してきたんだ。それなのに君たちはぼくであってぼくじゃないという。じゃあ、今いる君たちは何なんだ。ここにいるぼくって何なんだよ!

「そんなん決まってんじゃねえか。お前が考えてるまんまだよ。今あるお前は、決してお前だけの意思があるわけじゃなくて、いろんな人の集合体なんだ。まあ、俺なんかは違ったりするんだけどな。でも、今、お前はお前の中でお前自信を感じている。そこで感じたお前の姿こそ、ここでの真実だ。まあ、真理とはまた違うんだけどな」

 ぼくはぼくであってぼくじゃない……。そういう事なんだろう。でも、じゃあぼくは何から自由になりたかったんだよ。こんなにごちゃごちゃした世界から逃げ出したくて、自由を望んだのに。

「その自由の先に、お主の望むものはあったのじゃろうか? お主ははなから何も得られない事を知っていたのではないかの? むろん今、わしが話す内容も全てじゃ。だからここから一気に話をはしょるぞ。お主は自由など望んでおらなんだのではないか?」

 はっ、ぼくが自由を望んでいなかったのではないのかだって。馬鹿にするよ。そんな事始めっから分かってるくせに。

「ええ、分かってるわん。でもね、こういう事はあなたに訪ねてからじゃないといけない事になってるのん。そこのところをわかってちょうだい」

 つまりは、ぼく自身が全ての答えなんだろ? はぁ。全くとんでもない連中だよ。ぼくの中でも自我を持ち、対話をしてくるなんて。

「それだけおもわれているのよ」

 だね。じゃあそろそろ目を覚まそうと思うよ。きっと今まで見た事がない朝日に出会えるだろうから。

「最後に」

 何だい?

「俺を」

「僕を」

「あたしを」

「私を」

「わたしを」

「私を」

「俺を」

「わしを」

「あたしを」


「「よろしくね」」


 うん。わかった。じゃあね。




「あなたはだあれ?」

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