ものしりじいさん
あるところに、大層ものしりなじいさんと、その妻であるばあさんがいました。
ある日じいさんはばあさんに言いました。
「ばあさん、わしは何でも知っとる。例えばなぜ雲ができるのかとか、なぜ地震は起きるのかとか、とにかく何でも知っとるんじゃ」
そうしてじいさんは自慢げに胸を張りました。そして目を閉じると、まるで何も知らない近所のガキンチョに教えを説くような口ぶりでばあさんに言いました。
「だからな、ばあさん。何か分からない事があったら、わしに尋ねなさい。例えどれだけ不思議な事でも、チョチョイと答えを教えてあげるから」
それだけ言うと、じいさんは座っていた縁側から居間へ戻りました。この頃急に冷えてきた外気に、今までずっと浸かっていたので体が冷えてしまったのです。
居間に戻るとじいさんは迷わずコタツに潜り込みました。じわじわと足先から温かさが染み込んできます。幸せが体一杯に注がれていくようです。
暫くそうしていると、ばあさんも居間に入ってきました。そしてコタツに入るなり、開口一番、こんな事を聞いてきました。
「じいさん、じいさん。先程、何でも尋ねなさいと仰ってましたね。実は私、この頃不思議でならない事があるんですよ」
じいさんは、ああ、と言いました。
「ええ、ええ。じいさんも分かってると思うのですが、私はここにいるはずがないのです。なんせ私は一昨日死んだばかりなんですもの。なのにどうしてここにいるのでしょうか」
じいさんは困りました。確にばあさんは一昨日ポックリと死んでしまったのです。突然の心臓発作でしたから、じいさんは何もできなくて、悲しみに暮れていました。
ところが、今朝じいさんは夢を見ました。ばあさんがとても大きな存在によって生き返されるといった内容の夢でした。驚き、ハッと目を醒ましたじいさんは、居ても立ってもいられなくなって、玄関まで急ぐと、思いきって扉を開け放したのです。そこには生前のばあさんがキョトンとした顔で立っていました。
そんなばあさんが自分が生き返った事を不思議に思っている。今までほとんど大切にしてこなかったばあさんに対してした初めての優しさが、このような形で牙を向いてくるとは思いもしていませんでした。
じいさんは答えに困りましたが、やっとの事で答えを見付だしました。
「わしがお前を強く思ったから……。こんなんじゃ駄目かね」
少し頬を赤らめて、恥ずかしそうに鼻の頭を掻くじいさんを見て、ばあさんは優しく微笑みました。
「滅相もありません。十分すぎますよ」
二人の間には優しい絆があったのでした。




