かりんとう小話 真朱さまの受難
「おはようございます。真朱さま〜!」
……朝から、なんじゃ。騒がしいのぉ。
ああ、真黒か。
ほんの六、七日ほど前にきた神犬の子ども。
物怖じせず、元気に挨拶をしておったな。もともと子どもではあるが、人界に来て霊力を消費しているのであろう。中身も幼いが、見た目もコロコロとした赤ん坊じみた子犬だった。
「朝からうるさいのぉ。どうした?」
「あ、真朱さま!おはようございます!」
真黒が耳をピンと立たせ、しっぽを振りながら、挨拶をくれる。
子どもは朝から元気じゃな。
後ろには気だるく、毛づくろい中の揚巻が控えておる。
「おはよう。いかがした?」
「ご相談があります!」
「あぁ?なんぞ、困りごとか?」
「いえ、困りごとではないんです。真朱さま、かりんとうって食べたことありますか?」
「ない」
「おいしいらしいです。食べたくありませんか?」
「? 別に食べたくないが?」
「えー、伊勢どのも太一ちゃんもおいしいって食べてました」
「さよか。で、それがどうした?」
「吾、食べてみたいんですけど、犬の身体には合わないと言われて、代わりに煮干しをもらいました」
「おぅ。さようか。で?」
「吾、人化できます」
「ああ」
「神界にいって、人化してかりんとう食べて、ついでに母さまに会うっていうのはやってもいいですか?」
「え?」
「犬じゃなくなれば、かりんとう食べれるなって」
「……お主、修行にきてから何日目だ?」
「えーと、六日か七日かな」
「お前はバカか!?修行に来て、たったそこらで神界に帰るだと?しかも理由がかりんとうを食べたいため?なんじゃ、その理由は!」
「えぇ〜〜〜」
「ほら、言った通りじゃないか。お前の常識は世の中の常識じゃないんだよ」
猫又なりかかりの三毛猫が子犬に声をかけていた。
「揚巻。なんじゃこれは」
「食い意地が張っていると、ちびなりにいろいろと考えたみたいだよ」
「いいこと思いついたと思ったのに」
真黒はブツブツいいながら、前足で地面を掘っている。
ほ・る・な!
「突拍子なさすぎて、怒る気も失せたわ」
「なんで神界に帰っちゃいけないのですか?」
「お前、かりんとうの味をしりたいから帰りたいんだろ?なんでかりんとうの味を知りたいんだ?おいしいって聞いたからだろ。それはお前の欲のためだ。おかげ犬になるのに、その欲は必要か?」
「う〜ん」
「そこは考え込むところかねぇ」
「でも、好奇心は大事でしょ?」
「……お前、めんどくさいな」
確か、月凛さまは真黒がかわいくて、と言っていたよな。
月凛さま!真黒はかわいいっていうより、どっちかって言うとめんどくさいですよ!
いや、月凛さまの器がでかいのか?
だから月凛さまは修行後に翼が生えてきたのかもしれぬ。
そうだ。もしかしたら、これはてんよう様が下さった我への修行かもしれんぞ。
「……確かに好奇心は大事だ。それで世界は広がる。ただな。まだ、お前は修行が始まったばかり。今のお前の願いが欲なのか好奇心なのか、我にはまだ判断できん。よって、今しばらくはかりんとうは我慢しろ」
「……はい」
耳もしっぽもペしゃんと潰れた。分かりやすいことよ。
「まぁ、なんだ。突拍子もないと思ったが、お前の問いには我も考えさせられた。これからも共に考えようぞ」
「はい!ありがとうございます!」
ははは。今泣いていた烏がもう笑った。
すでにしっぽを振っておる。確かにかわいい真黒だな。
真黒はそれなりに納得したらしく、笑って挨拶すると走って伊勢の家へ戻っていった。
残されたのは、我と揚巻だ。
「うまくあのちびを納得させたねぇ。さすが、真朱さま」
「まったく、突拍子もない子どもじゃな。一瞬、こちらが納得しそうになったわ」
「あの子は修行にきた翌朝にめしを食べすぎてヘソ天してたからねぇ」
「ははは。なんじゃ、そりゃ。あいつ、大物じゃな」
「大物だねぇ。わっちは思い出すだけで、笑えるよ」
「これからが思いやられるわ」
「これも修行なのかねぇ」
「修行なんじゃろうのぉ」
そう言うと、ふたりで同時に吹き出した。
まぁ、なんじゃ、今度神界に行った際には、月凛さまに報告がてら、真黒への助言をいただくか。
我も、もしかしたら、翼をいただけるかもしれんのぉ。




