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クロと伊佐

◆真黒

吾(われ)の名は真黒(まくろ)。てんよう様の眷属の神犬である。母さまは、真っ白ですらりとした姿の神犬だ。いつも吾にやさしくてきれいな自慢の母さまである。


父さまには、お会いしたことがない。吾が生まれる前に亡くなられたのだ。

父さまは神犬ではなく、人間界で暮らしていた猟犬だった。母さまがとあることから霊力を失い、人間界に取り残されたとき、さっそうと助けてくれたそうだ。


「父さまはどんな犬だったの?」

吾が尋ねると、母さまはいつも目を細め、幸せそうに笑う。

「そりゃあ、いい男だったのよ〜」


なんでも、狼の血を引く大きな黒い犬で、せいかんで、やさしく、かしこく、そして、つよくて、とてもかっこよかったそうだ。

吾も黒い毛並みなので、父さま似だ。父さまは黒一色だったそうだが、吾は父さまと母さまの子どもであるから、腹や足先やらが白と茶が入っている。母さまに茶色はないけどな。


……まぁ、いい。いまは子どもだが、吾も父さまのようにつよくてかっこよくなるのである。


あと、吾には眉毛がある。麻呂眉というそうだ。これはてんよう様から教えてもらった。てんよう様はいつも「かわいい」とほめてくださるが、大きくなったら、てんよう様をお守りできる、かしこくてつよくてかっこいい神犬になるのだ。


てんよう様の本当のお名前は、天要比売命(あめのかなめのひめみこ)さま。

でも、みんな「てんよう様」とお呼びしている。それに、てんよう様はいつもやさしく答えてくれる。吾はやさしくてきれいなてんよう様が大好きなのだ。


大きくなったらてんよう様をお守りしようと思うが、吾にはもう一つ、願い事がある。

「おかげ犬」になりたい。


吾が今よりもっと小さい時に、おかげ犬に会ったことがある。白い静かな犬だった。たった一匹で江戸から伊勢の大神様のところまで歩いてお参りに行ったという。すごい。かっこよかったんだ。


「おかげ犬」は神犬だけができるお役目だ。白狐も霊狼も龍だって、そのお役目はない。

おかげ犬になるには、人間界で修行する。そして、人と神様のご縁を結ぶのだ。

白いおかげ犬を見たその日から、吾はずっとおかげ犬になりたいと思っている。


修行はまずは人化できるようになることから始まるのだ。小さいうちは人化はできない。大きくなって霊力が増えてくると、人化ができるようになる。


母さまが霊力の増やし方を教えてくれた。

ごはんをおいしくいただき、たくさん走って、いっぱい笑って、いろんなものにありがとうをいって、ぐっすり寝る。

だから吾は、早く人化できるように、毎日がんばるのだ。



てんよう様のところには、たくさんの眷属が住んでいる。吾と同じ神犬の他、稲荷や霊狼や管狐のような霊獣もいるし、麒麟や龍もいる。


白狐の月凛さんは、まっしろいふくふくの襟巻きとしっぽに小さい翼を持つ、とてもきれいでやさしいお姉さんだ。

月凛さんは昔、江戸の長屋のお稲荷さまをしていた。稲荷社のお勤めが終わった時に小さい翼が生えてきたそうだ。どうして生えてきたのかはてんよう様でもよくわからないらしい。

でも、ちいさな白い翼はかわいくて、特別で、月凛さんにとても似合っていると思う。


吾の人化の修行も少しずつ、進んでいる。月凛さんが師匠になって、コツを教えてくれる。霊力が増えたからか、師匠のおかげか、だんだんと人化できる範囲が広くなってきた。

どうしても耳としっぽと足が犬のままなのだが、他の部分は人化できるようになったのだ。


嬉しくなって、母さまに走って伝えにいくと、母さまは少し笑って

「そんな急いで修行に行く必要もなかろ」

と言って、頭をなでてくれた。



そして、てんよう様から呼び出しがあり伺うと、なんと白い水干と袴と烏帽子をいただいたのだ。人化した時に着るものだ。


てんよう様より、真黒には浅葱色が合うと思い、選んだのですよ、というお言葉もいただいた。


白い水干の袖は浅葱色の括り紐が飾りにもなっている。袴は膝まで、しっぽが出せるように穴があいているので動きやすい。


烏帽子は犬の耳でも落ちないように顎の下で紐を結ぶ。でも、吾は、まだ指がうまく動かない。紐もうまく結べないので、母さまが結んでくれた。髪は肩のところまであったので、これも一本に結んでもらう。


月凛さんが、「よく似合っていますよ。真黒のちょんちょこりんはかわいいですね」とほめてくれた。


烏帽子に犬耳、しっぽがでているが、足は人間。もうほとんど人である。おかげ犬の修行にいけるのももう少しだ。




◆伊佐次

「はぁ……。どうしたもんかねぇ」

書き損じの草紙は手の中だ。


「……おもしれぇと思ったんだけどなぁ」

そう思うのは自分だけで、どうにも俺の書いた話はつまんねぇらしい。


「ネタでも取りに伊勢でも行ってこい」だの「巷で話題の忠犬の方がよっぽど話にならぁ」

「よっぽど、用心棒の方が向いてないかい」と、今日も言いたい放題にいわれて帰ってきた。


「うるせぇや、腕っぷしには自信があるが、おれは戯作者になりてぇんだ」

ぶつぶつと呟きながら、当てもなく歩いているうちに、気づけば、歩いた覚えのない道に出ていた。


どこだ、ここは?と一人ごち、しょうがねぇ、帰るか、とあたりを見回すと、川がある。川には飛び石が置いてあり、向こう側に行けるようだ。


知らねぇ場所だが、興が乗った。ちっとばっかり、向こう側に行ってみるか。

飛び石は平らかで歩きやすい。向こう岸に渡ると一本道。周りは大きな木々に囲まれている。


「こんなとこ、あったかねぇ」


進んでいくと、こじんまりとした鳥居があった。お辞儀をして通り過ぎると階段。そこを登ると左右に大きな木があり、その先に小さなお社。なんとなくだが、空気が違う。シンとしながらも、心地よい。


これもご縁だ。お参りするか。

ちゃりんと小銭を賽銭箱に入れ、「ご縁をいただき、ありがとうございます」と挨拶する。ガキのころの伊佐次は少し不思議なものを見聞きしていた。だから、爺は他の兄弟より伊左次をよくお参りに連れて行ってくれた。帰りに買ってくれる団子が楽しみだったものだ。


「神様には願うんじゃねぇ。ご縁をいただいた礼を言え」


それが爺の口癖だった。この教えはいっそ清々しくて伊佐次好みだ。

最近はとんとそんなこともねぇが、久しぶりに昔を思い出した。うん、なんとなくここの神様はやさしそうだ。


「犬の方がよっぽど話になると言われましてね」

ついつい、ため息交じりとなる。


「ガキのころに見た不思議なもんを物語にしたかったんですがねぇ」と、こぼした途端、我に返る。爺の教えに背いちまったな。


「申し訳ありやせん」と謝り、さて帰るか、と改めてお辞儀をしてからお社を後にする。


階段を降り、鳥居を通って、川に出る。飛び石を渡ろうとすると、川べりに黒柴の子犬がいた。やっと乳離れしたってところか。まだコロコロした赤ん坊の名残りのあるちびすけだ。


一人前に人待ち顔をしてやがる。しっぽをぶんぶんと振りながら、なぜか俺を見るなり「わん!」と吠えた。

まるで、「遅い!」と言っているかのようだ。


「お前、おふくろはどうした?はぐれたか?」

ついつい、話しかけたが、そこは犬。足元にじゃれかかってくる。この懐っこさは野良じゃねぇな。


「もう、暗くなるぞ。早く帰りな」

母犬が近くにいる気配はない。だが、ここで俺が連れて帰ったところでかえってかわいそうなことになる。


「またな」と言って、飛び石を渡る。すると、子犬は、くんくん、きゅんきゅんと鳴き始めた。こっちが振り返らずにはいられないほど悲壮な鳴き声を出してきやがる。


つい、振り返ると、ちびのくせにやる気だ。俺を追いかけて、飛び石に飛び乗るつもりらしい。一つ目の石には飛び乗れたらしいが、それは運が良かっただけだ。


「待て待て待て!」

ちびに声をかけながら、急いで戻り、片手で子犬を抱き上げた。


「お前、ちいせぇな。母ちゃんはどうした?」と聞いたところで、犬が答えるわけもない。

子犬はグルグルうれしそうな喉声を出してじゃれついてくる。お気楽なもんだ。つい、そのまま子犬を抱えたまま向こう岸へ渡ってしまった。


「……しまった。何やってんだ」

自分のうかつさに気がついた。こっち側に連れてきちまった。ちゃんと向こう岸に戻さないとな、と振り返ると、飛び石が消えていた。


「……こりゃあ、どういうことだ」

確かに飛び石を渡って向こうに行って、こっちに帰ってきた。化かされたか、とも思ったが、神社に行った帰りだ。そういったことはないだろう。


「さては、お前はそこの神さんのお使いかい?」

冗談めかして腕の中の子犬に聞いてみると、四つ足をばたつかせ、尻尾を振り回し、「わん!」と元気よく答えてきたもんだ。


「ははは。そうかい。お使いかい」

さて、こまった。置いてけねぇし、こうなっちゃ、連れて帰るしかねぇか。

長屋の婆に見つかったら、うるせぇからな。バレねぇようにしないとな。

はしゃぎすぎたせいか、まだちびだからか、もう眠りはじめていやがる。


こりゃあ、大変な授かりものだ、と思ったそばから、子犬の温かさはすでに腕に馴染んでいた。




◆真黒

吾も霊力がつき、人化ができるようになった。

それからは神界でもなるべく人化で過ごすようにしている。修行のため、というのもあるし、手を使うのもおもしろい。 


でも、一番はてんよう様からいただいた水干と袴を着ていたいからなのだ。母さまに髪を結んでもらい、烏帽子をつけてもらう。腕を振るごとに袖がひらひらするのが楽しくて、ついつい笑ってしまう。


ただ、人型になっても耳はそのまま、しっぽも出している。引っ込めようと思えば引っ込められるので大丈夫なのだ。


そして不思議なことに、人界に行ったら、人化するのは禁止だった。

だったら、人化できなくても修行に行けるのではないかと聞いたところ、

「人化ができないような霊力しかないのであれば、人界になぞ行くものではない。神界でちゃんとできないものが、ましてや人界に行ってちゃんとできるわけがない」と月凛さんに諭された。


人界はただでさえ霊力を使うらしい。霊力が少なくなると実体が小さくなる。

さらに、人化は霊力をかなり使うので、ずっと人になっているのはとても疲れるし、場合によっては霊力が足りなくなって消えてしまうものもいると教えてもらった。


まぁ、いい。吾は人化もできるようになったし、いつでも修行に行ける。神犬の修行は人界のご縁が大事だ。修行先は、てんよう様がお決めになる。


「真黒を守り、真黒が守りたいと思えるお人のところにしましょうね」と、てんよう様はやさしくおっしゃった。


それはどんな人なのか、楽しみなのだ。

母さまは「まだ行かずともよかろうに。お前の年で人界に修行にいくのは早すぎる」とよくおっしゃり、「まぁ、お前はあの人の子どもなんだからね、それもしょうがないかもしれないねぇ」と吾を膝に乗せながら呟いているが、その後いつも最後には、笑いながら、「でも、真黒が好きなことをやるのが一番よいことね」と言ってくれるのだ。




◆伊佐次

子犬は懐にすっぽり収まり、居心地がよさそうだ。ぬくぬくした顔をしてやがる。

まぁ、ちっとばかし、めんどくさい気持ちもあったが、こっちとしても、授かりものが懐にあるとなれば悪い気はしない。


「さて、帰るか」

ふと、思い立ち、川向こうのお社に向かって、「こいつは確かに受け取りました。大事に預からせていただきます」と手を合わせて、挨拶をした。


ガキの頃、犬を飼ったことがあるので、飼い方はだいたいわかる。まずは飯を盛る皿があった方がいいか。皿かぁ。ちょうどいいのがうちにあったか覚えちゃいねぇが、まぁ、どうにかなるだろう。


懐の子犬は、もう寝入ったようで静かだ。

「もう寝ちまったのか。お気楽だねぇ。名前も考えねぇといけねぇな」


さて、どうするか。未来の有名戯作者様の犬だ。凝った名前でもつけるか。と思いつつ、長屋の戸に手をかけた途端に、「伊佐ァ!」と大家の婆(ばばあ)の怒鳴り声がした。


隠そうと思っていたら、すぐこれだ。あの婆は妖怪かなんかか。太った三毛猫を抱えて仁王立ちしてこっちを見てやがる。


「おぅ。なんでぇ」と顔だけ婆に向ける。

「あんたに頼みたいことがあるって、空文堂の若旦那からの使いが来たよ。早くお行き」


この婆、なんで普通に名前を呼べないのかね。懐の子犬がバレたと思うじゃねぇか。


「あ〜、もう遅ぇから、明日行くわ。ありがとよ」

「なんだい。戯作よりよろず屋家業の方が売れっこだねぇ」

「うるせぇよ。伝言は受け取ったからよ。じゃあな」

と、さっさと中へ入ろうとすると、

「ちょっと待ちな。なんか変だねぇ。こっちをお向きな」

「なんで婆の言うことを聞かないといけねぇんだよ」

「んみゃぁぁぁ〜」


婆の猫まで、鳴き出した。ほんとにこいつら、妖怪だろ。怖ぇな。

と、思った途端に、「わん!」と鳴き声。懐の子犬が目を覚ましたらしい。律儀に猫の鳴き声に答えてやがる。


「おや、なんだい。おかしいねぇ。犬の鳴き声がするねぇ。伊佐、ちゃんとこっち向きな」


こうなったら、婆の勝ちだ。とっとと観念した方が早い。


「そりゃ、ここに子犬がいるから、鳴き声がすんのは当たり前だ」


ちょうど懐からきょとんとした子犬が顔を出してきた。こちらを見上げ、婆たちを見て、またワンワンと吠え始める。


「おいおい、怖ぇ婆どもがいるから、あんまり吠えんな」

「かわいい子じゃないか。お前の犬ってことはないよねぇ」

「こいつは、大事な預かりものだ」

「へぇ〜、そうかい。どこのどなたさまのお犬さまなのかねぇ。なんて名なんだい?」

「クロだ」


子犬は黒柴だ。おかしかない。

俺の声を聞いてか、名前を呼ばれたと思ったからか、子犬はますます興奮して、バタバタと足をばたつかせている。


「わかった。わかった。落ち着け、クロ」

「なぁぁぁ〜」


婆の猫が鳴いた途端に、クロが静かになった。やっぱ、怖ぇなこの猫。


「揚巻(あげまき)の声にちゃんと答えるたぁ、利口な子だね。まぁ、大事な預かりものってんなら、大切にしなよ。お前さん、ちゃんと育てられるのかい?なんなら、うちの子にしてもいいよ」

「いや、授かりもんなんでね」

「そうかい。何かあったらいつでもいいな。伊佐、犬飼ったことあるのかい?まだ小さいんだ。ちゃんと気をつけておやり」

「わかってら。これから飯をつくってやるよ」

「そうかい。……ちょうどクロに合う皿がうちにあるよ。いるなら取りにおいで」

そういうと、婆は背を向けて帰っていった。


まぁ、さっさとバレちまったほうが後々楽だ。かえって、よかったな。

妖怪婆は怖ぇが皿をもらえるのはありがてぇ。後で、婆のところに取りに行くか。




◆真黒

てんよう様の選んだお人は「伊佐」という名前らしい。今、吾のごはんを用意してくれている。いい人だ。

はじめて川の近くで会った時は、吾を置いていくのかと思ったが、ちゃんと戻ってきてくれた。

そして、てんよう様のお使いと吾は何も話していないのに、わかったのはさすがだ。すごい。


その後、着物の中に入れてくれ、吾はあったかくって、気持ちよくなり、揚巻どのの声を聞くまでずっと寝ていた。だから、ここがどこかわからぬ。てんよう様のお社からは遠いのかな。そう思った途端に母さまに会いたくなった。いかぬ。修行まだ一日目だ。


揚巻どのは吾の姿も見ていないのに「神気の気配がするねぇ〜。誰かいるのかい?」と言った。すごい。

吾は思わず「吾だ!真黒だ!」と返事をした。そして、伊佐が吾の名前をクロといった。

「そうだ!真黒だ!」と叫んだら、「落ち着きな!」と揚巻どのに注意された。迫力があったけど、やさしい気もでていた。猫の婆さまと人の婆さま。二人とも仲良しのようだった。



「ほら、できたぞ」

伊佐が皿を吾の前に置いてくれた。おいしそうな匂い。


「大根と小松菜とかつお節の粥だぞ。ゆっくり食べな」

一口食べた。おいしい!吾のごはん!おいしい!伊佐、好き!


ごはんの時は伊佐が近くにいたけど、その後は奥に行ってしまって姿が見えない。

誰もいないとさみしい。寒い。伊佐。母さま。

おかげ犬は一匹で伊勢に行くんだ。さみしくない。さみしくない。がんばって「さみしくない」と言うと、さみしくなくなる気がした。


「さみしくない」と言っていたら、伊佐が「どうした?」と声をかけてくれた。

「まだ、ちびだからな。しょうがないか。ちっと大人しくしてな」と言って、吾を持ち上げて、温かい布で足を拭く。身体を拭く。あったかくって気持ちいい。くすぐったくて楽しい。


「ほら、これでいい。足を拭くまでは土間にいろ。足を拭いたら、上に上がっていいぞ。

わかったな?」

「わかった!」

「じゃあ、今日は特別に一緒に寝てやる」


そういって、伊佐は横になり手を広げて吾を呼んだ。呼ばれるままに伊佐のところに行く。

ついでに、ペロと伊佐を舐めると、笑い声が聞こえた。


「今日からよろしくな」

「うん。吾こそよろしくなのだ」


伊佐の腕の中はあったかくて、もうさみしくなかった。




◆伊佐次

子犬の夜は早い。起きたと思ったら、またすぐ寝る。

クロもご多分に漏れず、普通の子犬だった。飯の後、そのままひとりにしておいたら、クンクン鳴き出し止まらない。声をかけ、抱き上げると鳴きやんだ。


まだちびだからな。おふくろでも恋しくなったか。でもなぁ、クロがいたところは、飛び石が消えちまったところだからなぁ。


その後、思い立ち、手ぬぐいでクロの足を拭き、ついでに身体も拭う。寂しがって鳴かれるより、一緒に部屋にいた方がこっちも気が楽だ。

預かってすぐに風邪を引いたら大変だ。湯につけしぼった手ぬぐいが温かいからか、はしゃぎながらも眠そうだ。


「足を拭くまでは土間にいろ。足を拭いたら、上に上がっていいぞ」と言い聞かせたら、

「わん!」と吠えやがった。こいつ、わかってるのか?どうにもわかって返事をしているようにみえる。賢いやつだ。


その後、クロを呼ぶと、テトテトと俺のところに来る。ペロリと俺の顔を舐めると、脇の間に収まり、すぐに丸まってころっと寝入った。ちびだからなぁ。


明日は空文堂の若旦那のところに顔を出さないとな。若旦那のところなら、力仕事じゃないだろうし、クロを連れて行くか、それとも婆に預けるか、どうするかね。

俺はクロの背中を撫でながら、とりとめなく思案していた。


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