0005. 卑弥呼様と交渉開始
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私は意を決すると、両手で自分の頬を力いっぱい叩いた。
バチン!
音のない世界で、衝撃だけが鋭く響き渡る。これは交渉開始のゴングだ。
「――卑弥呼様、お話は理解いたしました」
私は顔を上げ、できる限り殊勝な態度で深々と頭を下げた。
「並行世界の私が、神々の皆様、そして三千世界にまでご迷惑をおかけしているとのこと、誠に申し訳ございません。この私が、責任をもって世界の崩壊を食い止めてみせます!」
その言葉を聞いた瞬間、卑弥呼の表情がモノクロの世界で一輪の花が咲いたかのように、ぱぁーっと明るく華やいだ。
(よし、オッシャー、食いついた!これで気持ちよく交渉してくれたら)
心の中でガッツポーズを決める。まずは相手を気分良くさせる。交渉の基本だ。全ては、愛しの狐火ちゃんを私の腕に取り戻すために。
「まぁ、ありがとうねぇ。いやあ、助かるわ! 話が早くて。じゃあ、善は急げよ。もう、このまま行っちゃう?行けるわよね、早速、転生の準備しちゃうから5分ほど待っていてちょうだい」
卑弥呼は満足げに頷くと、くるりと背を向け、何やら術を発動しようとする。
「えぇ、ちょっと待ってください!」
私は思わず声を張り上げていた。危ない、危ない。卑弥呼様、思った以上に面倒くさがり屋だ。このまま言いくるめられて、何も理解らず、丸腰で戦国時代に放り出されるところだった。少しポンコツなのかな?
「卑弥呼様、まだ肝心なことを何一つお聞きしていません」
私は彼女の前に回り込むと、まくし立てた。
「まず、どんな場所に転生するか具体的な状況を聞いてないですし。それと、転生が赤ちゃんからなのか、誰か子供の体に意識だけ行くのかとかも聞いてないですよ。あと、私が向こうに行った後、私の部屋の荷物や仕事はどうなるのですか? それも気になります。それに、チートくれるって言って、何も決めて無いですよ。そして最後に、1番重要な事なんですが、私が向こうに行って、具体的に何をすれば、向こうのわたしを止められるんですか」
理路整然と疑問を並べ立てると、卑弥呼様は「あ」と小さく口を開けて、きょとんとした顔で私を見つめていた。
「……そうだったわね。ごめんなさい。じゃあ、ちゃんと説明しましょう」
卑弥呼は少しバツが悪そうに咳払いをすると、指を一本立てた。
「まずは、簡単な質問から答えておくわね。転生は、赤ちゃんからよ。
すでに自我がしっかりあって生きてる人の上に、新しい精神を重ねるのは、かなり危険なのよ。だから、赤ちゃんからね、まだ自我がほとんど無いからね、危険が少ないのよ。
あとの質問だけど、一応、こっちの世界では、死亡したことになるわね。失踪した感じにも、事故で死亡でも、部屋とかどこかで突然死も思いのままよ。
あと荷物は、こちらで適当処理するから、部屋を空にして誰かに見られることは無いようにしておくわね。まぁ、違和感は残るけど、転生してるんだし、いいわよね?
仕事については、何もしないわ。ブラック企業なんだし、あなたもフォローする気ないでしょ」
死に方を選べるなんて、思った以上に、しっかりと普通に死なす感じなのね。まだ死んでもないけど、自分の死に方を選ぶなんて、なんかイヤだな。
転生モノだと、その辺が曖昧にしてることが多いけど、その辺をさわらないようにしてるためなのかな。死んでもないけど死んだことにしての転生かぁ。
まぁ、神でも私一人の痕跡を消すのは、大変って事なのね。しょうがない、死に方を考えるかぁ。それと私の会社がブラック企業って、かなり私のことを調べてるな。
確かに会社なんて、もうどうでも良いけど、部長と課長がハゲるくらいあれば、面白いんだけどねぇ〜
「それじゃ、死亡は事故でお願いします。荷物は見られて恥ずかしいモノは無いけど、まぁ、空にしてもらえると助かります。会社は何もしないで結構ですが、逆に倒産してくれると、他の人も助かるかも?」
「何言ってるの、会社は何もしないわよ。それ以外は、希望通りに転生後処理しておくわね。それじゃ、ちゃんと何をしてほしいかの話をするわね。
でも、そんな難しい事じゃないのよ。並行世界の戦国時代に送られてきているエネルギーを向こうで使って消費してほしいのよ。
もうわかっちゃってるから言うけど、並行世界のあなたが亡くなって、機械がメンテナンス出来なくなれば、直に壊れてエネルギーが入って行かなくなるので、それまで生きてるだけよ。
機械部分のメンテナンスは他の人にもできるけど、肝心な心臓部は、彼女以外はメンテナンスできないようにしているから、亡くなればしばらくしてメンテナンス出来なくなるから」
おぉ、思ってた以上に荒事では無かったぁ、良かったぁ〜、私は、そういう暴力とか野蛮なことは嫌いだから、信長さんみたいに天下布武とかはできないからね。
でも、イマイチ、よくわからないな。エネルギーが入って来るのは、良いとして、それを使うのもまぁ、わかる。でも、使う期間が向こうの私が死ぬまでって、どういうことなのかな。
令和でエネルギーを送っていて、戦国時代で受け取る。私だったら、令和でエネルギーが思った以上に溜まってなかったら、送る量を増やすと思う。そうすると、戦国時代に行く今の私が使用量をもっと増やす事になるわね。
アレ?今日、この時点でエネルギーがそこまで溜まって無いって事は、私が戦国時代でそのエネルギーを使ってるってことよね。
えっ、そうすると、もう未来が決まってるってことよね。未来は不確定じゃないの。壊れる未来があるから、行くのではなくて、壊れない未来があるから、その為に行くってこと?頭が整理しきれないわ、諦めよう。
世の中には自分の理解を越える、理解出来ぬことがあるってことだけ、理解しておこう。
「まぁ、よくわからないですけど、わかりました。とにかく長生きして、そのエネルギー?を使いまくればいいわけですね。ところで、そのエネルギー?って、どうやって集めて使えば良いんですか?」




