0006. 選べるチートはハズレ有り
「ちょっと待ってね。このまま話をしていると時間が足りないわね。少し〝時の始原霊〟に力を借りましょうか。時間をゆっくりにしてもらうわ」
「時の、しげんれい……?精霊ですか?妖精ですか?なんですか、それは」
「日本人的に言うと、八百万の神の一柱よ。この三千世界における、時を司る神の一柱ね。
あなたの国の神話も、かの国の神話も、クトゥルフでさえも、ここでは皆ひとつの大きな家族みたいなものなの。
神々の間で上下は無いから、人間みたいに様を付けたりしないわよ。名前の無い神々もいるしね」
そう言うと、卑弥呼はぱちん、と指を鳴らした。その瞬間、空気が粘性を帯びたように重くなる。窓の外、遠くに見える車のヘッドライトの光跡が、まるでスローモーション映像のようにゆっくりと尾を引いた。モノクロームの世界が、さらに深淵な静けさに包まれる。
「これで、この部屋の中だけ体感時間が10倍速になったわ。外の1時間が、私たちにとっては10時間。これだけあれば、じっくり話せるでしょう?
あなたの魂が耐えられるギリギリのラインだけどね。転生まであと1〜2時間くらいは待てるから、これであなたの体感だと10〜20時間くらいになるわよ。
体と脳に影響が出ても良いなら、100倍まではいけるわよ。どうする?」
体感10倍速――私が愛したVRMMO【八百幻】ですら、脳への負荷を考慮して3倍速が限界だったのに。これが、本物の神の力……。
「……いっ、いや、はい。10倍速でお願いします」
私はごくりと喉を鳴らし、覚悟を決めた。
「では、改めてお聞かせください。どうやってエネルギーを集めて使えば良いか、教えて下さい」
「エネルギーの利用法、つまりあなたのチート能力ね。これには簡単な方法と難しい方法があるわ。
簡単な方法は消費量は少ないけど、頑張れば消費量が増やせる。難しい方法は使い始めるのに、時間と知識が必要だけど、使い始めれば、入ってくる量を全て使用できるわ。
どちらがいい?」
そう言って、卑弥呼は悪戯っぽく微笑んだ。
(うーん、そうすると初めは簡単な方で、徐々に難しい方に切り替えていく感じで行けば良いかな)
「……それじゃ、両方教えていただいて、初めは簡単な方で、徐々に難しい方に切り替える、というのは?」
「だーめ。エネルギーを利用出来るようにするチートは一つだけ、どちらかしか、渡せないわぁ〜。それがルールよ」
うわ〜、ニヤニヤと笑う顔をしてる。絶対に両方渡せるくせに、私で遊ぼうという魂胆が透けて見える。ここで食い下がっても無駄だろう。無理せず、大人しく受け入れよう。絶対に狐火ちゃんをゲットするという目的を達成するため、ここは戦略的撤退だ。
「……じゃぁ、簡単でいいので、それぞれの違いを教えてください。聞いて決めたいです」
「物分かりが良くて助かるわ。じゃあ説明するわね」
ニヤけた顔からキリッとした真面目な顔に切り替わった。
「難しい方法は、並行世界のあなたが作った〝エネルギー変換装置〟の劣化版の設計図と使い方の知識を、あなたの頭にインストールしてあげる。
ただ、材料は現地調達、製作も自力でしてもらう必要があるけど、完成すればエネルギーを望むいろんなモノに変換できるわ。
生活に使えるから、やろうと思えば、令和の生活ができるようになるわよ。ただし、異世界へエネルギーを送ったり、別の時間線にも送れない。あくまでエネルギー吸収と変換だけが出来る機械ね」
(便利そうだけど、無理ゲーすぎる! 機械オンチのただのOLに、戦国時代で図面と知識だけで精密機械を作れって? 原材料からして揃うわけないし、部品の加工とかできないでしょ!!完全にハズレくじだね)
「そして、簡単な方法は、あなた自身の力を〝依り代〟として、神々やそれに連なる者をこの世に顕現させる力よ。
最初は慣れないから、未熟な精霊や、力の弱い神しか呼べないでしょうけど、頑張ってあなたの器が育てば、いずれはより高位の神格さえも呼び降ろせるようになるわ」
神々を、顕現させる。その言葉に、私の脳裏を一つの希望がよぎった。
(えっ、それって、八百幻の子たちも呼べるのかな?それだったら、簡単な方法の一択じゃない!)
「――卑弥呼様、一つだけ。その〝簡単な方法〟で、幻獣を呼び出すことはできますか?」
私の問いに、卑弥呼様は少しだけ考えるそぶりを見せた。
「幻獣、ね……」
そして、彼女は意味深に口の端を吊り上げた。
「それは、あなたとその幻獣との〝縁〟の深さ次第、かしらね」




