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エピローグ ―親愛なるテオへ―

親愛なるテオへ


ご機嫌いかがですか。


ご存じの通り、アーノルドさんと結婚するまでは、困難を極めました。


私を連れて、アーノルドさんが両親のいる役場に押しかけたときには、心臓が破裂しそうでした。


父も母も、さすがに身分が上の方を殴ることはできなかったけれど、 「娘を誘拐した」と騒ぎ立て、衛兵を呼ぶ始末。


衛兵の方も困ったように「令嬢はご成人ですし、双方の合意があるならば……」と繰り返し、 両親をなだめることしかできませんでした。


アーノルドさんは慌てる私を見ては、嬉しそうに笑っていました。 優雅で品のある彼が、あのときばかりはまるで少年のようで……思わず微笑んでしまったのはここだけの秘密です。


その後、私は彼の屋敷に身を寄せましたが、 彼のご両親は、森の中で育った私をまったく快く思ってはおらず、 当初は、食卓を共にすることすら許されませんでした。


そんな中でも、彼は毎日、自ら料理を私の部屋まで運び、 「これはなかなかうまく焼けたと思う」などと笑いながら、 私と二人だけの食事を続けてくれました。


気づけば、それが五か月。 さすがのご両親も根負けし、ようやく結婚の許しをくださったのです。


その日、私たちはシャンパンを開けて祝いました。


酔った彼が、私の膝枕で眠ってしまった夜のことを、私は今でも鮮明に覚えています。 あんなに整った寝顔を間近で見たのは初めてで、 私はいつの間にか、彼のまつげの形まで暗記してしまいました。


結婚までの間、私は社交界に出るためのダンスを学び、 礼儀作法や詩の朗誦、歴史や政治に至るまで、毎日勉強漬けでした。


夜が明けても、目の下に疲れを隠せないこともしばしば。 それでも、ひとつひとつの学びが「私自身の選択」であると感じられたからこそ、乗り越えることができたのだと思います。


そして結婚した今もなお、 彼は毎朝、そして毎晩、変わらぬ情熱で私を抱きしめ、キスを求めてきます。 ときどき、それを“息苦しい”と思う自分がいることも事実です。


それでも、あの森で、ひとり孤独に息をひそめていたあの頃と比べれば、 私は今、とても自由です。


誰かと手を取り、互いに言葉を交わし、時に衝突しながらも、 心を開いて生きていけるこの日々を、私は愛しています。


何より──私は彼を愛しています。


この不自由さえも、彼と共にあるならば、ちっぽけなものです。


そろそろ、彼が帰ってくる時間。 筆を置かなければなりません。


あなたの人生は、いかがですか。


どうか、あなたも、 “それでよかった”と心から思える日々を歩まれていますように。


心からの感謝を込めて、

ソフィア


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