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骸宝戦記録 襲撃編④

かつて世界を危機に陥れた「悪魔」に影響された組織「インプ」による襲撃は学園都市オノグラムのいたるところを壊し、両陣営に少なくない犠牲を産みながらもインプの撤退として終った。しかしその襲撃の最中、更なる大きな戦いが示唆されていた。

インプ撤退より少し前、骨と肉が完全に潰されるのと同時にローブの男の断末魔が完全に途切れ、ボークが張り詰めた肩を少しだけ緩めた。しかし、襲撃がまだ続きウィロウ達の安否がわからない以上、ここで気を緩めてはいけない、と再び気を引き締める。とりあえずここからの移動と相手の骸宝を回収するため、蛇に嚙み潰されたローブの男の死体を床に置いたその時、ボークの背後から冷えた泥としか例えられないような殺気が迫ってくるのを感じた。瞬時に殺気の源に体を向けてボークが短剣を突き刺す。短剣は相手の頬を掠めるも次の瞬間、その人物はローブの男の死体のそばに移動していた。

「残虐性だけが取り柄とはいえ、初見でこいつに勝てるとは…」

感心しているかのように話す男をはっきりと見たことで、ボークの警戒はより一層高くなった。腰まで伸びたボサボサの白髪、インプの紋章がついたぼろ布のような服、右目につけた眼帯、それらを含めた様々な特徴がインプのリーダー、ディアスの数少ない情報と一致している。

「お前、なかなかやるな。しかも俺のことまで知っている。」

ディアスがボークの心を読んだかのように話す。

「いくつかの任務でお前の特徴の記載を目に焼き付けたからな。それより、普段表に出てこないお前がなぜここにいる。」

「なぁに、自分でも様子見くらいはしておこう、っていう理由さ。それに…」

ディアスの右手に禍々しい色と模様がついた曲刀が見える。

「戦力は予め減らしておかないとね。」

言葉が終わるかどうかの前に、骸宝の蛇が口を開けてディアスに飛びかかり、ボークも短剣を持ち切りかかる。曲刀と短剣、骸宝の蛇が何度も激しくぶつかり合う。力こそ弱めだが驚異的な速さで動くディアスに対して、ボークは蛇や短剣で攻撃を防ぎ反撃する。ディアスとボークの体に少しずつ傷ができていく中、徐々に戦局が変わり始めていた。ディアスとの攻防が長引くにつれ、ボークの身体が徐々に痛みを感じるようになった。加えて鼻血や激しい眩暈がしてまともに攻撃を防ぐのも厳しくなってくる。そのような中でも何とか耐えていたが、ボークがふらついた瞬間、この時を待っていたかのように曲刀がボークの腹部に突き刺さった。その途端、これまで以上の苦痛と息苦しさを感じ、ボークが片膝をつく。何とか動いて追撃を回避しようとするが、呼吸をするのが精一杯で動くという動作までたどり着けない。ディアスが蛇の攻撃を素早くかわしながら跪くボークの元に近づき、首に曲刀を突き刺そうとしたその時、突然ディアスの背後から鋭い刃と長い柄の斧を振り下ろす人影が現れた。気配に気付いたディアスが人影から距離を置き、ボークへの攻撃は中断される。そしてもう一人の人影が現れボークの元へ駆け寄る。

「大丈夫かい、ボーク。今治療するからね。」

ボークに目線を合わせながら桃髪の女性、レインスが作り物の睡蓮の花がスッポリと入った小さな鉢を地面に置き、応急処置を始める。彼女の睡蓮は骸宝であり、怪我や病気、毒の症状を抑える能力がある。

「す…ま、な…」

「なぁに、たいしたことないよ。」

何とか言葉を出すボークにレインスがいつものように笑いながらボークに話す。

「それに、礼は私とあんたを助けてくれたあの方にいいな。」

レインスが斧を持つ人物に目を向け、ボークもぼやける意識の中でその人物を見る。整えられた髭にやせこけた頬、右目の目尻にホクロがあり、返り血を浴びた黒色のコートを身に着けている茶髪の男性。学園都市オノグラムの現理事長、アクスが敵の前に立っていた。

「貴様がインプの頭か。面と向かって会うのもこれが初めてだな。」

「そうだな。でも、これほど簡単に攻め込んで会えるならもっと早くから幹部を向かわせるべきだった。」

「ふん、構成員や骸宝持ちの幹部もかなり失って、まだそのような余裕があるとは。」

「なぁに、今回の襲撃は下調べ。また数日後には全勢力をもってオノグラムに攻め込むさ。オノグラムで眠りについた悪魔を起こしにね。」

その言葉を聞いたアクスの瞳孔が開き、血走った眼付きでディアスを見る。

「貴様っ!どこでそれを…」

その直後、重低音とともに屋外で黄色い煙が上がる。それと同時にインプの構成員が十人でアクスたちに襲い掛かる。アクスが斧で構成員を次々に叩き切る中、ディアスは背中を向けて話す。

「また会おう諸君、悪魔が目覚めるその時に。」

最後の一人を切り殺し、アクスがさっきまでディアスのいた場所を向くも、そこに彼の姿はどこにもなかった。


「…ってことは、あいつらまた近いうちに攻めに来るのか。ふざけやがって。」

事の顛末を聞き、いつもは戦闘好きであるタングも苛立たしそうにつぶやく。無理もない、今回の襲撃で多くのオノグラムの職員や兵士が犠牲となった。また襲撃当時、オノグラムにいた1,2年生もほとんどが重傷を負い、ウィロウ達の担任のボークはディアスの武器に含まれた毒が多く流れ込み、命は助かったものの、現在は昏睡状態である。

「まずは落ち着け。再び攻めることが分かっただけでも打つ手は考えられる。」

メイがタングを落ち着かせる。

「そうはいっても!…」

とタングが叫ぼうとするが腹の傷に響き、言葉を中断して痛みに耐える。襲撃が起きてから丸一日経ち、ウィロウ達は壁や天井の一部が崩壊した空き教室で治療を受けていた。今も教室の外では忙しそうな音が聞こえる。

「メイの言うとおりだよ。今は落ち着いて次の戦いで戦えるようにしよう。」

とガインスも宥め、ようやくタングも落ち着きを取り戻す。

「それもとっても大事なことだけど、ディアス、が言っていたオノグラムの悪魔って何のことだろう。」

とフリーナが話題を変える。

「話の内容からインプの目的って多分その悪魔を目覚めさせることでしょ。じゃあそれを起こさないようにするのが私たちの目標なんじゃないかな、って。」

フリーナの言葉に全員が考える。

「悪魔つったらあれだろ。激戦で連合と戦った勢力の」

「確かにそうだが、激戦は今から何百年前の出来事だ。悪魔の当事者たちってのは考えにくい。」

とタングの言葉にウィロウが返す。

「そうなると、激戦に関係した骸宝か文書か…いったい何なのだろうな。」

ウィロウたちが話し合っているその時、空き教室に理事長のアクスが挨拶と共に入ってきた。

「1年生だな。全員大丈夫そうか。」

「はい」

とウィロウ挨拶とともに答える。

「そうか、あまり無理はせず、何かあったらすぐに知らせてくれ。」

と生徒を安心させるような口調で話し、立ち去ろうとするアクスに

「すみません」

とウィロウが呼び止める。目の前の理事長がどこかで見た人物に似ていると感じながらも話す。

「あの、オノグラムにいる悪魔って何のことかわかりますか。」

途端にアクスが考え込んでいる表情をし、少しの沈黙が流れた後

「そうか、確かに知りたいよな。」

とアクスが呟く。

「向こうに知られている以上、口止めも意味をなさない。いいだろう少し待っていてくれ。」

とアクスが部屋を一度出た後、数枚の資料を持って戻ってくる。

「では説明しよう。オノグラムの悪魔のこと、そしてそれに至るまでの過程を」


かつてとある王国の村に鍛冶屋の息子、アクストと村長の娘、トロイシアがいた。好奇心旺盛なアクストと無垢で活発なトロイシアはよく行動を共にしていた。ある日アクストと彼の父親は加工すると特殊な能力を発現する物質を見つけた。その物質を用いて様々な能力を持つ道具―今でいう「骸宝」を開発した。やがて王都にもそのうわさが届き、すぐにアクストたちは王都へ引っ越すことになった。

しかし、彼が村からいなくなった後、トロイシアがそれまで隠していた人をたくさん殺したらどうなるのか試したい、という生まれついての残虐性を表し始めた。不幸なことにアクストがトロイシアに能力を持った道具の作り方を教えていたため、彼女は能力を持った武器を密かに作成して、村の者を赤子や老人、自分の両親まで殺しつくした。その後、彼女は同じ意思を持つ者や世間に恨みを持つ者を仲間にして、「悪魔」と名乗り人々や街を蹂躙した。世界中の国々が「悪魔」討伐を考え、アクストも父親が出張先で殺害されたこともあり、被害拡大の阻止のため彼女を止めることを決めた。すぐに各国の連合軍ができて骸宝が支給された。こうして連合軍と「悪魔」が山岳にある帝国で衝突し、後に「激戦」と呼ばれる戦いが始まった。

互いに能力を持った武器を持つ者たちが激突し、戦場の山岳が帝国ごと崩れ去るほどの戦いの中でも、驚異的な身体と強力な骸宝を使うトロイシアだけは殺すどころか致命傷を与えることすらも厳しく、多くの人々が犠牲となった。そのような状況で業を煮やしたアクストはトロイシアの殺害を諦めて封印する事にし、入ったものを封印できる扉の骸宝を作成した。荒野と化した戦場において、アクストはトロイシアと相打ちという形で封印に成功し、大将を失った「悪魔」は瓦解していった。その後、封印されたトロイシアの復活を恐れた連合はアクストの遺書の元、骸宝の扉を建物や壁で囲み警戒をより厳重にするため、また万が一封印が解かれたときも彼女に抵抗できる者が即座に殺せるように、学園都市オノグラムを創立した。また骸宝は所有者が死亡すると能力が解除される特徴があるため、アクストの家系に近い者が代々、扉の骸宝を受け継いできた。


「…そして現在でもトロイシアはこのオノグラムで厳重に封印されている。おそらくディアスの言う悪魔とは彼女のことだろう。そして彼女の封印を解くことこそが彼らの目的だ。」

家系図や激戦の際にわずかに残った資料を見せながら説明し終え、アクスがそっと口を閉じる。

「そんなことがあったなんて…」

タングが驚愕を隠し切れずつぶやく。

「この話は本来、彼女に影響され結成されたインプの連中にこの情報が渡る可能性を出来るだけ抑えるため、ある程度時間がたち、信頼できるようになった者に極秘に話し、世間にもこのことは伏せられていた。もっともその制限も今回でする必要がなくなったがな。」

アクスが苦笑いをする。

「じゃあディアスがどこかでその情報を聞いて今回の襲撃を起こした、ってことですか。」

「恐らくそうだろう。どんな情報網にも抜け穴はあるものだ。それに私のせがれを殺した今、悲願達成のために必死になっているのだろう。」

フリーナの言葉にアクスが丁寧に返しつつも、両手が強く握りしめられ細かく震える。半月前にインプが行った無差別襲撃の中で不幸なことに、アクスの息子たちが密かに暮らしていた地域も巻き込まれてしまったこの出来事は重大な事件となり、国を越えて知らされたほどだ。

「息子や妻がなくなり、親類も消えた中、私が殺されればトロイシアが封印から解かれる。所有者か血縁者が開けるか、所有者が死亡するかでしかあの扉は開かれないようになっている。だから連中は血縁者が私しかいないうちに殺したいのだろう。」

「封印が解かれないように扉や理事長が移動することは可能ですか。」

「残念だが、扉はしっかりと固定され、動かないようになっている。それに知っての通り、骸宝は持ち主が離れてから一定時間がたつと所有権が消えて能力が止まってしまう。その時までインプが立てこもることがあったら厳しいだろう。少なくとも私はここに残って戦わなければならない。」

ガインスの質問にアクスが返す。近いうちに起きる世界の存亡をかけた戦いを思い、ウィロウたちの間に緊張が走る。

「すまない、緊張させてしまったね。君たちは無理に戦う必要はない。まずはゆっくりと休むことだ。この後のことはそれから決めればよい。」

アクスがウィロウたちを落ち着けるように言う。そんな中、なんとなく視線をずらしたウィロウの目が、資料にあった一枚の似顔絵に固定される。アクストの似顔絵を見たウィロウの瞳孔が驚愕のために震え、息遣いも無意識のうちに早くなる。容姿、髪型、そして右目の目尻にあるホクロ、似顔絵の人物はウィロウが見た声の主に瓜二つであった。


その日の夜、なかなか眠りにつけずウィロウは中庭に出た。中庭に着くとフリーナが瓦礫に腰かけている

「フリーナも眠れない感じか。」

「うん、昼間の話が忘れられなくて、ウィロウも?」

「あぁ、自分はアクストの似顔絵のほうが印象的だったな。」

そういいながら、ウィロウはフリーナのとなりの瓦礫に腰かけて星空を眺める。

昼間アクストの似顔絵を見たとき、ウィロウの表情に気づいたアクスがどうかしたのか、と尋ねてきた。ウィロウはみんなに実践や襲撃の時にアクストがアドバイスや警告をしたこと、助けてくれたことを話した。話だけでは信じられない内容だが、ウィロウの真剣さやアクストが相打ちで封印したトロイシアが解き放たれる可能性があることから、見間違いではないかもしれないという結論になった。

「フリーナ、俺戦うよ。」

二人がしばらく無言で星を眺めるなか、ふとウィロウが話す。

「アクストには色々と助けてもらったからな。それに、襲撃でおれを引き上げてくれた時、自虐的な感じだったんだ。今回の話を聞いてトロイシアに骸宝の作り方を教えた自分を後悔しているんじゃないかな、って思ってさ。」

フリーナが話を聞く中、ウィロウは話し続ける。

「もちろん本人じゃないとどう思っているのかはわからない。でもこれ以上アクストが後悔しないためにも、大切な人の犠牲を食い止めるためにもここで戦うことが、俺がオノグラムに来たこと、そしてアクストに会えたことにつながってくると思う。」

少しの沈黙が流れた後、フリーナが口を開く。

「私も戦うよ。ここで逃げたらお姉ちゃんに顔向けできない。それに父さんや母さん、タングたちやウィロウが少しでも安心して生きていけるようにここで戦う。」

「そうだな。」

と突然後ろから聞きなれた声がする。振り向いてみるとタング、メイ、ガインスが中庭に出ていた。

「俺たちも眠れなくなってな。」

と照れくさそうに頬を人差し指で軽くかきながらタングが話す。

「俺も戦うぜ。オノグラムをボコボコにしたあいつらに一発食らわせてやらないと気が済まねぇ。」

「僕も、緊張しているし不安だけど、故郷のみんなのためにも世界の崩壊なんて絶対にさせない。」

「私も戦うさ。まだこの世界でみんなと色々なことをしてみたいからな。」

ガインスが力強く話し、メイも明るいながらも落ち着いた声で話す。

近いうちに起きる更なる大きな戦いに向けて、星空の下で五人は戦う覚悟を決めた。

こんにちは。千藁田蛍です。ついに明らかとなった「激戦」について、そして今後の戦いについてウィロウたちが覚悟を決めました。次回からはいよいよウィロウ達とインプの総力戦になって行く予定です。相変わらずの不定期連載ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

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