骸宝戦記録 決戦編①
かつて世界の崩壊を目的とした組織「悪魔」のリーダー、トロイシアがオノグラムに封印されていることが明かされたウィロウたちは、彼女の封印の解除が目的であろうディアスをはじめとするインプとの総力戦に備えて覚悟を決めた。
滝のように雨が降る中、いつものように汚物とゴミが散乱する路地裏を、少年が一人の少女の手を引いて行く当てもなく駆けていた。数年前は自分たちの余裕すらない中でなぜ助けてしまったのだろうと感じていたこの少女も、今の少年にとっては唯一の生きる希望となっていた。
「ウィネロ、寒くない?」
マントを羽織っていながらも少し寒そうな表情の少女が呼びかける。
「あぁ、大丈夫だ。それよりも早くこの雨をしのげる場所を…」
大丈夫なふりをするために少女のほうを見ながら笑顔を見せていたためか、足元の小石に躓き激しく転ぶ。
「ウィネロ!」
心配そうに名前を呼ぶ少女に対して、ゆっくりと顔を上げて大丈夫だと告げようとしたとき、自分たちの元に一人の人影が近づいてくるのが見えた。すぐにウィネロが立ち上がり、ナイフを構える。
「キャート、後ろに隠れろ」
そういいながらウィネロは警戒を続ける。白髪でスーツをきた隻眼の男はウィネロたちを
「二人か、多少は使えそうだな。」
まるで獲物を捕まえる蛇のようにじろじろと見る。
「お前たち、孤児か。」
「だったらなんだよ!」
そう叫ぶウィネロと後ろにいながらも睨みつけるキャートに、男はゆっくりと手を伸ばす。
「何の真似だ!人さらいなら…」
警戒を強めるウィネロたちの前に男は伸ばした他の中にあった二枚の金貨を見せる。
「私たちの夢に近づくため、少し人殺しを手伝ってほしい。そうすれば二人くらいならこの地獄から抜け出させてあげよう。」
男がにやりと笑うなか
「…て、起きてウィネロ」
と声が聞こえ、ウィネロは夢から覚める。
「大丈夫?」
「なぁに、昔の夢を見ていたのさ。」
と笑いながらウィネロが話す。オノグラムの襲撃から撤退したウィネロたちは一度拠点の村に戻り、ある程度の休息と次なる戦いに向けて人員や道具の準備をしていたところだ。そして今日準備が整い、オノグラムへ移動をはじめる。少し離れた場所で皆が、この戦いで勝利すればオノグラムにある莫大な物資を得られたり、自分たちの憧れである悪魔のリーダーであるトロイシアが復活したりすると意気込んでいる。その声を聞きながらウィネロは軽く目を閉じて夢の続きを思い出す。あの後ウィネロたちはディアスの勧誘にのり、インプへと加入した。それ以来、確実に地獄で八つ裂きにされるくらい大量に人を殺してきた。しかし自分やキャートは安全な水や食糧、雨風をしのげ、自分たちを虐げる者がいない場所など以前よりも安心した場所と暮らしを送ることができたのだ。
「さて…と」
そして、再び瞼を開けたウィネロがその場からゆっくりと立ち上がった。暮らしを提供してくれたディアスに恩がないわけではない。でも一番はキャートが安心して暮らせる、それだけのためにオノグラムに向かい大勢の人を殺そう、例え相手がだれであっても。
「それじゃあ、行くとしますかね。」
そう考えたウィネロはキャートとともにインプの集団の中に向かっていった。
青空を隠している暗い雲の下で、ウィロウが屋外訓練場の凹凸の激しい荒野を駆け、骸宝の爪楊枝を目標の案山子に激しく打ちつける。インプの襲撃から一週間がすぎ、ウィロウの身体も元の様に動かせるようになった。案山子に攻撃を当て一息つくウィロウの前に同じく訓練をしていたメイが現れる。
「体調が元に戻ってきたな。」
「あぁ、ある程度時間があったから何とか動かせるようになったな。」
「ほかのみんなも元の様に動けてよかった。後は先生だけが…」
声が少し下がり、メイが心配した表情で話す。ボークの解毒もほとんど終わり、回復傾向にあるが、未だ昏睡状態は続いたままだ。
「確かに、次の襲撃の前には起きてほしいな。」
ウィロウの言葉にメイが頷く。
「そうだな。しかしもうそろそろ襲撃が起きてもおかしくない。むしろ私がインプの立場なら今日起こすだろう。そうなれば恐らく先生抜きでの戦闘になるはずだ。」
メイの予測は間違いないだろう。前回の襲撃の後、オノグラムは周辺の国々へ救援を送り、返事があった数か国の兵士が今日の夜ごろに到着する予定だ。それにインプの攻撃が遅れるほど防衛の準備や、相手の遺品である傘やローブをこちら側の戦力として投入することが可能になるなど不利になってしまう。だからインプとしてはこれらの条件がそろう前に何としてでも攻め込みたいだろう。
「多分そうなるだろうな。せめて兵士が到着するまでは警戒を緩めずに…」
そうウィロウが話していたその時、一週間前にも聞いたけたたましい鐘の音がウィロウたちの耳に飛び込む。そしてその数秒後、屋外演習場とは反対の方角である正門付近から煙が上がり始める。
「メイ」
「あぁ、攻めてきたようだな。」
そう話して、ウィロウとメイは正門のほうへと駆ける。屋外訓練場から食堂のところまで進んだとき、三人の人影がこちらに向かって走ってくる。学園内の施設修復の当番だったフリーナとタング、ガインスだ。
「ウィロウ、メイ、合流できてよかった!」
ガインスが嬉しそうに言う。
「あぁ、無事でよかった。」
とウィロウも笑顔で返す。
「正門のほうを中心に攻防が起きているようだな」
「うん、早く加勢に向かわないと…」
とメイの言葉にフリーナが返したその時、以前の襲撃でも感じた死の感触がウィロウたちの肌に触れる。そしてウィロウの背後にあるオノグラムを囲う外壁が破裂した風船のように吹き飛ぶと同時に凄まじい風が襲い掛かり、ウィロウたちは体制を低くして体制を崩さないことだけを意識して何とか風に耐える。高く舞い上がった小さな瓦礫が地面に落ち、土煙が舞う中、数人の人物が土煙の中で中央にある学園のほうに向かっている。
「待てっ!」
と叫び追いかけようとするウィロウ達の体に以前も喰らった、しかしその時よりも激しい圧が加わり体の動きが鈍る。圧に対してウィロウたちが必死に動こうとする中、タングが何故か普段通りに体を動かして土煙の方へ突っ込み、少し遅れてフリーナの人形と急激に伸びる爪楊枝が人影たちへ向かう。タングが土煙に入る直前、鈍く光る鉈がタングの側頭部に迫り、回避のためにタングが飛びのく。またウィロウが狙いを定めた人影が爪楊枝を躱す動きをしたと同時に、数発の銃声が鳴り響いてフリーナの人形が吹き飛ばされる。そのころには全員圧が解けたのに加えて土煙も収まり、タングと人形に攻撃をした人物が明らかになった。一人は重く鋭い刃を持つ鉈と鉄のような羽の風車を持った青色の髪の少年、もう一人は首からランタンを下げて両手に拳銃を構え、マントを羽織っている金髪の少女。一週間前の襲撃で命がけの攻防をした目の前の二人を見て、ウィロウとフリーナが思わず息をのむ。
「キャート」
「久しぶりだね。」
思わず名前を呼んだフリーナに対してキャートが冷静な声で話す。
「そうだな、再会を喜び合おうじゃないか。ウィロウ。」
「全く、そんなに喜び合いたいんだったら、もう少ししてから来いっての。」
煽りっぽく言うウィネロの言葉に対してウィロウが愚痴を言う。
「ウィロウ、もしかしてあいつらがウィロウの言ってた…」
ほんのわずかな不安が混じった声で話すガインスにウィロウがそっとうなずく。ウィネロたちのことはタングたちやアクスと共有済みだ。
「チェッ、俺たちのことはある程度知ってるのか。せっかく自己紹介考えてきたっていうのに。」
と半分冗談半分不服にウィネロが話した後、
「まぁいいか。とりあえず、あの人の理想ために、俺たちのために死んでくれ。」
と鉛色の雲が空を隠す中、ウィネロがより凶悪な笑みを浮かべて言葉を発した。
こんにちは、千藁田蛍です。骸宝戦記録 決戦編①いかがでしたでしょうか。ついにオノグラムとインプとの戦いが始まりました。またウィロウたちとウィネロ、キャートの戦闘も起きる中、今後戦いはどうなっていくのか。不定期ではありますがどうぞよろしくお願いいたします。




