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骸宝戦記録 決戦編④

「…目覚める」

学園内の廊下を駆けていたウィロウの耳に懐古や憎悪、恐怖の混じった声が届く。声の主はこれまでウィロウの夢や襲撃の際に話したアクストであった。先週の襲撃以降、初めて聞くアクストの声に一瞬驚くも、ウィロウが問いかける

「目覚めるって、一体何がですか。」

「ウィロウ、聞こえているのか。」

ウィロウに声が通じた喜びか、動揺を隠せていないのかアクストの声が普段よりも早口になっている。

「今は時間がない。単刀直入に言う。」

そしてアクストはできるだけ動揺を抑えてウィロウに話した。

「あいつの、トロイシアの封印が解けた。」


その頃オノグラムの地価の一室ではアクスが斧を構えて戦闘態勢になっている。彼が睨む先には笑い声とともに激しく振動する扉と、前に倒れるディアスの死体があった。しばらく揺れと笑い声が響いた後、落雷のような音と共に、ディアスの死体を吹き飛ばすかたちで扉が開かれる。そして開かれた扉の中にある空間から一人の少女が外に出てきた。黒色の厚いコートのような服を羽織り、燃えるような赤色をツインテールにしている小柄な少女は、はるか昔に封印されたであろう瞬間のままであり、千切れかかった左手や全身に残っている骨や臓器が見える傷もついさっき出来たもののように見える。そんな彼女の右手には赤黒いモーニングスターがあり、長い柄の先にある鉄球からは無数の鋭い棘が生えている。

「全く僕としたことが、えらい目にあったよ。」

トロイシアが何百年間の封印をまるで外出中に少し強い雨に降られたかのように話す。その間にも彼女から震えるほど冷たい殺気と、悪臭をまとったヘドロのような悪意が溢れ出ている。殺気と悪意に触れたアクスが反射に近い形で斧の柄を一層強く握ったその瞬間、トロイシアのそばにあったディアスの死体が弾丸の何十倍という速さでアクスの元へ跳んできた。何とかアクスが斧で死体を弾き飛ばすも、その隙にトロイシアがアクスの右腕をモーニングスターで叩き付ける。アクスの右肩から先が無くなり血が流れ落ちると同時に、傷や封印によって全力を出せていないトロイシアが、自身が反応できない速度で攻撃してきたことに驚愕する。

「死んでなくてよかったよ。そうじゃないとつまらないからね。」

アクスを見たトロイシアがにっこりと微笑みながら話す。

「それより、君はアクストの子供だろう。あるいは子孫かな。君とあいつと顔が似ている。」

苦痛をこらえるアクスの顔を見ながらトロイシアが懐かしむように話し続ける。

「僕はね、ずっっっと生き物を殺してみたかったんだ。あいつが能力を持つ武器の作り方を僕に宝物みたいに教えてくれたから、たくさん殺せて楽しかったよ。でもあいつは僕をしつこく止めようとしたんだっけ。」

そしてトロイシアがアクスに目を見開き口角を吊り上げて笑いながら話した。

「ねぇ、君たちも僕を止めるかな。」

トロイシアの問いにアクスが左手で無理やり斧を構えながら話す。

「愚問だな、この時代でもお前に虐殺を繰り返すことを許すほど私達はお人好しでない。」

アクスの言葉が終わると同時に、

「そうですね。」

とボークが巨大な蛇の骸宝とともに部屋に入る。目の前にいる赤髪の少女の威圧感に冷や汗をかきながらも恐怖を抑えながらアクスに話す。

「遅くなって申し訳ありません。ここからは私も手伝います。」

ボークの言葉にアクスが力強く頷く。

「いいね、面白くなってきた。」

トロイシアの眼がわずかに輝いた直後、彼女が一気に動き出した。ボークの蛇がトロイシアの速く重い一撃を壁として受けて、ボークが短剣を、アクスが左腕のみで斧をトロイシアに向けて振る。先刻のディアスとの戦闘に勝るとも劣らない闘いが繰り広げられ、数秒のうちに天井や壁が次々と崩れ落ちる。激戦の怪我があることや封印直後という状況を含んでもトロイシアの攻撃はこれまで経験した比ではなく、アクスとボークの体を次々と抉っていく。しかしアクス達の攻撃もまったく無駄ではなく、トロイシアの体に傷をつけていく。加えてボークは援護に回る直前に少しでも戦力を増やすため、レインスに戦える人物の応急処置をして今いる部屋へ向かわせるよう伝えることを頼んである。こちら側の戦力が増えればやがてトロイシアの命に届く、とボークが希望を持ったそのとき、トロイシアが顔をゆがませながら笑った。それと同時にモーニングスターの鉄球が光を放って輝き、アクスへと振り下ろされる。あれに当たったらまずい。戦慄と同時にそう考えたボークが咄嗟に骸宝の蛇をアクスの前に出して攻撃を防ごうとする。何百の砲弾を浴びても傷一つつかない骸宝である蛇に鉄球が触れた瞬間、鉛色の鱗を持つ身体がガラス細工の様に砕け散る。そして鉄球は蛇の体を吹き飛ばしながら勢いを殺さず、アクスの体を構えていた斧ごと地面に叩き潰した。一連の光景が絵画のようにボークの目に焼き付き、地面についたモーニングスターの鉄球から放たれた衝撃にボークの視界が途切れた。


ボークの蛇が破壊される直前、校舎内の崩れかけた廊下でウィロウはトロイシアが復活したこと、そして当時持っていた骸宝の能力を仲間たちと共有していた。

「マジかよ!?」

とウィロウが話した内容にタングが驚愕する。メイやフリーナも信じられないという表情をしている。

「あぁ、アクストの話だとトロイシアの骸宝はモーニングスターだ。鉄球に強力なエネルギーを宿すことができて、最大まで貯まった状態だと骸宝まで破壊されるらしい。」

正直、アクストから話を聞いたウィロウでも簡単に信じられない内容だ。今まで見てきた骸宝は破壊どころか傷がついたこともなかった。そんな骸宝を破壊してしまうとは一体どれほどのエネルギーなのだろうか。そう考えながらもウィロウは続きを話す。

「もちろん、そんな力は連続して放てないそうだ。一度放ったらエネルギーを貯める時間が必要なうえに、トロイシアの体にも負担になるから鉄球が光ってなければ能力を警戒しすぎなくていい。」

そう話したウィロウの視線の先でアクストが頷く。ついさっきも武器を持って戦うことができず悔しがっていたが、事前にトロイシアの情報を教えてくれただけでも非常にありがたい。アクストに感謝をして、ウィロウがトロイシアの元へ行こうと言い出そうとしたその時、宙に浮いたと錯覚したくらい大きな衝撃が地面から突き上げる。廊下が激しく揺れて天井や壁の破片が崩れ落ちる中、ウィロウ達は立つことができず、その場に倒れこむ。揺れは数秒で収まり、タングが真っ先に無事を確認する声を出す。

「みんな、大丈夫か!」

タングの声にウィロウたちが返事をして立ち上がる。そして土煙の先の光景を見てウィロウたちは言葉を失った。自分達から数十メートル先まであった校舎の建物が無くなり曇り空が見える。そして消えた校舎の部分や、インプとオノグラムの兵士が戦っていた正門部分、その間にあった市場や建物があった範囲に巨大な窪みができ、瓦礫や岩が散乱した窪みの中央には二人の人物がいる。一人は傷や血肉で全身が紅く染まって倒れ込んだボークであり、彼の周りには彼の骸宝である蛇の鱗や欠片が何枚か落ちている。そしてもう一人は爆発の反動で左腕が千切れている中でも狂気的な笑みを浮かべる赤髪の少女、トロイシアだ。彼女はボロ雑巾のようなボークには目を向けず、明るさと冷酷さを持ち合わせた視線をウィロウに向ける。視線を受けたウィロウ達に戦慄が走り、足が震える。一目見ただけで目の前の少女の強さがこれまで戦ってきた敵たちの比でないことをウィロウたちは直感すると同時に、彼女に目をつけられた今、戦って勝つことでしか生き延びられないことも理解した。

「来るぞ!!」

とメイが言い切る前にトロイシアがウィロウたちの目の前に来る。振り下ろされるモーニングスターをメイが刀で受け止め、間髪入れずにタングの拳とフリーナの銃弾がトロイシアを襲うも最低限の動きだけでそれを躱してタングの腹に蹴りを入れる。骨が砕ける音とともにタングが大きく吹き飛び壁に激突する。タングを吹き飛ばしてメイへ再び攻撃を仕掛けようとするトロイシアにフリーナの人形がナイフをふるって、ウィロウが爪楊枝を伸ばして攻撃をする。攻撃自体はトロイシアが距離を開けたため当たらなかったが、メイへの攻撃を中断させることには成功した。

「大丈夫か。」

「あぁ」

そう話しながらウィロウとメイ、フリーナと起き上がったタングがトロイシアを見る。トロイシアはウィロウの持つ爪楊枝を見つめた後、懐かしさと少しの恨めしさを込めた声でウィロウに話す。

「全く、君はもう死んでいるんだろう。死んでまで僕の邪魔をするのか。」

「どういうことだ。」

とウィロウが問いかけると、トロイシアは大げさな手ぶりとともに笑顔で話す。

「おっと、ごめんごめん、ただの独り言だよ。気にしないでくれ。」

そしてトロイシアは話し終わると再びウィロウたちへ攻撃を仕掛けた。トロイシアの攻撃は今まで戦ってきたどの敵よりも早くて力強く、メイとフリーナの人形が防御、ウィロウとタング、フリーナが攻撃と4人と1体で連携してもトロイシアにかすり傷すら与えることができず、逆にウィロウたちの体に次々と傷ができ、人形によって回復が早いフリーナでさえ受けた傷が回復速度を上回っていた。そうして一方的に攻撃されじり貧となる中、トロイシアの鉄球が眩しく光り始めた。光り輝く鉄球は攻撃のため近くにいたウィロウに向かって振るわれる。

「ウィロウ!」

ウィロウだけでは回避も防御も間に合わない中、誰かの叫び声と同時に鉄球が振るわれ再び爆発が発生した。爆発によって視界が真っ赤に染まり、耳鳴りで辺りの音が聞こえなくなる。しばらく視覚と聴覚の異常が続いた後、元に戻る中でウィロウの目の前にフリーナの人形が見え始めてきた。おそらくウィロウを鉄球の直撃から突き飛ばして守ってくれたであろうフリーナの人形は、下半身から下が無くなり切れ目から綿が見えてしまっていた。

そして直撃は避けられたが、ウィロウも自身も無傷ではなく、全身から肉や骨が見えており、左足は肉と骨の塊のような状態となっている。

「ウィロウ…生きてる…よね、」

ふと微かにフリーナの声が聞こえ、ウィロウがそっちを見る。人形の骸宝が壊れる位のダメージを負っても、フリーナの体にはいくつもの傷ができて額が大きく裂けて血が滝のように流れている。比較的爆発から離れていたタングやメイにも全身に傷を負い、タングは頬が引き裂かれ右腕があり得ない形に曲がり、メイは右足と腹部に瓦礫が突き刺さっている。そんな中でトロイシアだけが一人軽く息切れしながらも笑っていた。ウィロウたちが重症で今すぐには動けない状態の中、トロイシアがモーニングスターを持ち、ウィロウのほうへ向かってくる。

「ウィロウに…、近づくなっ!!」

フリーナが怒鳴りながら銃を構えようとするなか、それに気づいたトロイシアが銃を持った左腕を踏み潰す。フリーナが悲鳴を上げる中、

「そうかい、君はそんなに彼に死んでほしくないのかい。なら先に君から殺すことにしよう。」

とトロイシアが笑顔で話しながらモーニングスターを振り上げる。このままではまずい、フリーナやタング、メイも同じように思ったのだろう。何とか体に鞭を撃って起こそうとするも、傷は思ったより深くてフリーナを助けるのに間に合わない。トロイシアがフリーナの頭部へモーニングスターを振り下ろそうとしたその時、トロイシアの動きが激しい圧を食らったかのように止まり、それに続けて5発の銃弾がトロイシアを襲い、右腕と右肩に銃弾がめり込む。圧と銃弾によってトロイシアの動きが鈍った隙に体を無理やり動かしたウィロウがフリーナを抱えてトロイシアの攻撃から離脱する。

「全く、誰の攻撃だい。」

攻撃を邪魔されたトロイシアがわずかに苛立ちながら銃が飛んできた場所を見ると同時に、ウィロウも同じ場所を見る。そこには最低限の治療を済ませた茶髪で丸眼鏡をかけたサイコロを持つ少年、ガインスと金髪で血がついたマントを羽織ったランタンを持つ少女、キャートの二人が立っていた。


少し前にウィネロによってオノグラムの外に飛ばされたキャートは、切断された左腕を止血して近くの森の中を一人で歩いていた。遠くからの叫び声や武器の音、煙が情報として入ってこないほどキャートの頭は次々と感情が押し寄せてきた。

ずっと一緒だったウィネロが死んでしまったことへの悲しみと動揺、人殺しの自分達には当然の報いであるといった諦め、これは夢でまだウィネロが生きているというありえない希望、ウィネロがいなくなったことに対する喪失感、かつての仲間が死んでしまった経験から来る落ち着き、フリーナたちと話したいといったかつての望み、ウィネロを殺したウィロウたちへの復讐、なぜ自分を生かしたのかという疑問

様々な感情が濁流のように押し寄せてきて、それに連動するかのように体が震えてキャートの目から涙がこぼれ落ちる。

「どうしていなくなっちゃうの…」

あの日、路地裏で捨てられた自分を拾ってくれてから、ウィネロはずっとそばにいてくれる人であり、こんな世界で自分が生きていて楽しいと思う理由になっていた。かつて路地裏で一緒に生活していた仲間たちも死に、最後の仲間であるウィネロも死んでしまって今のキャートの中の生きる理由がなくなってしまった。

「ねぇウィネロ、私、何を目的に生きていけばいいのかな。」

キャートの口からそんな言葉が漏れるも返事はなく、そのことがまたキャートを悲しみへと誘う。いっそのこと自分も死ぬべきではないのだろうかと考えるが、キャートは自らそれを否定する。ウィネロは死の間際でも自分のことを想ってくれたのだ。だからここですぐに死ぬことはウィネロの行動を無意味にしてしまうからそれは今、絶対にやるべきことでない。ならば自分は何を目的に生きていくのか。そう考えながらキャートは溢れ出る感情を必死に整理し始めたその時、オノグラムのほうで轟音が鳴り、キャートが今いる森も激しく揺れた。それと同時にキャートの脳裏にふとかつての自分の発言がよみがえった。

『ねぇフリーナ、あなた前にもっと私と話したかったって言っていたよね。もしこの後生きていたら、私の話聞いてくれる?』

今の爆発でフリーナは無事だろうか。フリーナは自分と話してくれるだろうか。もし生きて話してくれるなら話してみたい。もちろんキャート自身もフリーナを傷つけ、オノグラムの関係者にも手をかけてきた。今話をしたいからとオノグラムへ戻っても、それすら叶わずに殺されるかもしれない。それでもフリーナと話してみたい。それが今、自分が生きていたいと思える理由の一つだから。キャートは確かな足取りでオノグラムへと向かっていった。

 オノグラムに戻って、キャートが盗み聞きした情報は信じがたいものであった。「悪魔」のリーダーであるトロイシアが復活したこと、正門や校舎の一部を破壊したこと、そしてトロイシアとフリーナたちが戦闘していることを聞いたキャートの心に不安が生じる。インプにいたころからトロイシアの強さの伝承ついては耳にタコができるほど聞いてきた。いくらウィロウやフリーナたちが強くてもトロイシア相手に生き残ることはできるだろうか。そんな中、キャートは自分のランタンを見つめた。キャートの骸宝であるランタンは圧をかける対象の選別が可能だ。自分の骸宝の能力がトロイシアに効くのかわからないが、やらなかったせいでフリーナたちが殺されてしまうよりはマシだ。そう考えてキャートがフリーナたちの援護に向かおうとしたその時、

「止まれ!」

と背後から声がした。声のした方に視線を移すと二人の男女がいた。一人は桃色の髪の女性で銃を構えている。もう一人は至る所に包帯を巻いている茶髪の少年-確かガインスと呼ばれていた-がサイコロを持って立っている。先ほどキャートに叫んだのは女性のほうだ。

「お前は何者だ!現在、オノグラムは現在、関係者以外は立ち入り禁止だ!」

「私は敵ではないです。フリーナの援護及びトロイシアの撃破に協力したくてここに来ました。」

女性の質問にそう答えながらキャートは二人にばれないようにつばを飲み込む。目の前のガインスとはついさっきまで殺し合いを行っていたのだ。彼が自分をインプ幹部だと女性に報告すれば敵である自分は即座に殺される可能性が高い。もしそうなったときはランタンで二人を足止めしてフリーナの元へ行こう。といつでも能力を発動できるように構える。暫くの間沈黙が流れ、ガインスが口を開く。

「君は…どうしてフリーナを助けたいと思っているんだい。」

予想外の質問に驚きながらも、キャートは自分の思いを話す。

「フリーナと話がしたい。それが私の…私がいま生きている目的だから。」

キャートの言葉にガインスの眼が少し大きくなる。

「悪いがそんな理由で戦闘の援護に行かせられるほど…」

「レインスさん、彼女を自分と援護へ向かわせることはできないでしょうか。」

と呆れたように話す女性の言葉が終わる前にガインスが女性に話す。

「ガインス、いくらなんでもこんな信用できない奴を君と援護向かわせるわけにはいかない。」

「今は少しでも兵力が欲しい状況じゃないですか。それに万一があった場合は自分が責任を持って処理します。私からも彼女を向かわせてください。お願いします。」

ガインスが頭を下げるのを見て、キャートも頭を下げる。女性は桃色の髪をかき乱しながらガインスに話す。

「分かった。分かった。頭をそう下げるんじゃないよ。先に連れていきな。私もすぐに追いつくからさ。」

桃髪の女性、レインスにガインスが感謝してキャートと共に戦場へ駆けて行った。道中キャートがガインスに疑問を話す。

「どうしてこんな私を信じてくれたの。ついさっきまで殺し合いをしたのに。」

「どうして、どうしてか…」

少し考えてガインスが理由を話す。

「ついさっきまで殺し合いをしたからさ。君と戦った話した言葉は紛れもない本心のように感じたんだ。だから僕は君の言葉を信じたわけってことさ。」

優しく微笑むガインスの意外な言葉にキャートが自然と笑顔になり、ガインスに話す。

「ありがとう。あなたとも少し話してみたいかも。」

「いいよ、この戦いで生き延びられたらね。」

キャートの言葉にガインスが応え、二人は戦場へ向かった。


「ガインス!それにキャートもどうして!!」

突然の援護にフリーナがうれしさと驚きが混じったような声で話す。

「今は味方よ!あなたたちはトロイシアに集中して!!」

フリーナの声にキャートがウィロウ達にも聞こえるように話す。攻撃を予想外の形で邪魔されたトロイシアの瞳から光が消え、笑顔ではあるが苛立った声で話す。

「全く、喰らってみると厄介な能力だなぁ。」

そしてトロイシアがキャート達に向けて攻撃しようとするが、キャートのランタンが光り、トロイシアの動きが一瞬止まる。そのすきにガインスがサイコロを振って銃弾を放ち、タングがトロイシアに拳と蹴りを入れる。銃弾のほうは致命傷を何とか避けるがタングの攻撃は避けられずトロイシアがふらつく。直後、トロイシアが圧から解除される。彼女が自由に動かないようにメイが刀を振りウィロウが爪楊枝をこん棒の様にしてトロイシアに叩きつける。直後レインスがガインス達の近くに駆けつけてきた。

「すまないね、直接戦闘できないがここで回復するよ。」

そういうと共に鉢に入った睡蓮の骸宝が置かれ、ウィロウたちの身体の小さい傷が徐々に治っていく。そうしてキャートやガインス、そしてレインスが来たことで、トロイシアの体に少しずつではあるが傷をつけていくことができた。このままトロイシアを殺せると思ったその時、キャートの圧が終わったタイミングでトロイシアが足元の瓦礫を蹴り飛ばす。弾丸よりも早く飛んだ石はキャートの腹部に直撃したことでランタンの骸宝の発動が遅れた。試みが成功したトロイシアが狂気的に笑い、タングにモーニングスターを振り下ろす。咄嗟の出来事にタング含めてウィロウたちの対応が遅れる。そのまま鉄球がタングの頭部をつぶそうとした瞬間、トロイシアの喉に短剣が刺さった。トロイシアの動きが鈍った隙にタングが回避をして、キャートが血を吐きながらもランタンの骸宝を発動させる。動きが止まった隙にメイが刀を全力で振るい、トロイシアの右腕を切り落とす。ふと短剣を投げた方向にウィロウが視線を向けると弱い息遣いではあるが血まみれでボークが立っており、優しく力強い視線をウィロウに向ける。それを見てウィロウは頷きトロイシアへと駆ける。両腕を失ったトロイシアだったが、口でモーニングスターをくわえて戦いを続けようとしている。それと同時に彼女のモーニングスターが眩しく光り輝く。またあの爆発が来るとわかっていたがウィロウはためらわずトロイシアに向けて爪楊枝を伸ばす。対してトロイシアがウィロウに向かって飛び掛かりながら、全身の力を使ってモーニングスターを振るう。互いに攻撃が命中しそうになったその時、2人の間に一人の人物が現れた。右目の目尻にホクロのある茶髪の青年、アクストだ。アクストの顔を見たトロイシアが止まり、眼に驚愕とわずかな憎悪、そして懐古の感情を浮かべる。

「ようやく会えたね、彼らが君を弱らせてくれたから君に会えることができた。」

アクストがトロイシアにやさしく微笑みながら話す。

「君の野望もここで終わりだ。大丈夫、僕も一緒に行くさ。」

アクストが笑った直後、トロイシアの眉間に一発の銃弾がめり込んで穴をあける。フリーナが銃を撃ち、ウィロウの名を叫ぶ。

「ウィロウ!!」

ウィロウは止まらずトロイシアの心臓に爪楊枝を突き刺す。真っ直ぐに伸びた爪楊枝はトロイシアの肉を抉り心臓を貫き、肉体を貫通した。ウィロウに鉄球が当たる直前、トロイシアが止まり、光を失ったモーニングスターが口から落下する。うつろな目でトロイシアが最期の言葉を発する。

「全く…、どこまで…僕の、邪魔を…。」

そしてトロイシアはうなだれ動かなくなった。何百年前の「激戦」で封印するしか手がなかった「悪魔」のリーダー、トロイシアは長い時をかけて、その生涯を終えたのだ。そしてトロイシアの死を見送ったアクストはウィロウのほうを見て深く礼をした後に、静かに微笑んでゆっくりと姿を消した。それを見たウィロウは爪楊枝を手から離し、アクストがいた場所をみて微笑み、その後フリーナたちのほうを見る。タング、メイ、ガインス、ボーク、レインス、キャートそしてフリーナがウィロウのほうを見て笑みを浮かべている。ウィロウもフリーナたちに手を振りながらゆっくりと向かっていった。


 インプ及びトロイシアとの決戦から4ヶ月が過ぎ、気温が段々と涼しい季節となってきている中、ウィロウはオノグラム復興のための物質運搬の手伝いを終えて、ベンチで一息ついていた。入院とリハビリを経て、最近は走ったり重い荷物を持ったりできるようになったがまだ決戦前の調子には完全に戻ってない。オノグラムの方もインプの襲撃や決戦において校舎や正門、城壁や市場辺りは崩壊が激しく、周辺諸国の支援の元、復興が行われている。その復興作業でボークとレインスが決戦で亡くなったアクスの事業を引き継いで行っているため、最近多忙な二人には会えていない。近いうちに会えるだろうか。とウィロウが考えていると

「お疲れ様」

とウィロウの隣にあやめ色の目を持つ水色の髪の少女が座った。

「お疲れフリーナ、キャートは元気そうだったか。」

「うん、最近の趣味やけがの様子とかいろいろ話したかな。あと、この間ウィロウが作ったシチューおいしかったって。」

「そうか、なら良かった。また作るから差し入れで持ってこうかな。」

「分かった。私もまたウィロウの作ったシチュー食べたいな。」

とフリーナが喜びながら話す。決戦後に僅かに生き残ったインプの構成員は拘束されて、聴取のために周辺諸国の収容所に入れられている。キャートも決戦後にインプ幹部であることを自ら告げ近くの収容所に拘束されることとなった。しかしトロイシアの討伐に貢献したことやインプ幹部のほとんどは戦死してしまったため、扱いは良く面会も自由に許可されており、週に何度かのウィロウたちとの面会を楽しみにしている。

「今は流石に厳しいだろうけど、いつかキャートとも買い物や旅行に行けたらいいね。」

「確かにな、でも俺たちも買い物や旅行を満喫できるようにしないとな。今度の実技演習はいろいろ必要だから早めに用意しておかないと。」

「そうだね、演習場所もこれまでと違うから前みたいに間違えないようにしないと。」

「この間は本当にびっくりしたからな。」

決戦後も、ウィロウたちはオノグラムの学生として様々なことに取り組んでいく必要がある。加えてインプの残存勢力の確認やほかの盗賊の調査などまだまだやらなければならないことはたくさん存在している。

「これからもやらなくちゃいけないことはまだまだあるからな。」

ポツリと呟くウィロウにフリーナが明るく話す。

「大丈夫だよ!私達は巨大な敵に勝ったんだから。これからもみんなと一緒にやっていけば私達に怖いものなしだよ!!」

「あぁ、そうだな。」

ウィロウが笑顔で答えたその時、前方で人影とともにおーい、と声が聞こえた。

「二人とも間食の時間だぞ。」

「今日の間食はバウムクーヘンだってさ!」

「早く来ないと全部平らげちまうぞ!!」

とメイ、ガインス、タングが2人に呼びかける。

「待てよタング、俺の分も残しておいてくれ!!」

とタングの言葉に叫び返すウィロウにフリーナが話しかける。

「私たちも行こう!」

フリーナの言葉にウィロウが頷き、二人はベンチから立ち上がって駆けて行った。

 こんにちは。千藁田蛍です。骸宝戦記録決戦編④いかがでしたかでしょうか。この話を持ちまして「骸宝戦記録」は完結ということになります。不定期投稿ということでしたが、皆様のおかげで無事に書き終えることができました。今まで本当にありがとうございました。

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