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骸宝戦記録 決戦編③

かつての「激戦」において、「悪魔」のリーダーであったトロイシアの封印をかけて、オノグラムの理事長であるアクスとインプのリーダーであるディアスの戦いが幕をあける。

オノグラムには地下に物資の運搬や教職員の移動、有事の際の避難経路という名目で複数のトンネルが張り巡らされているが、そのほとんどは「激戦」の末に、トロイシアが封印された扉の骸宝が置かれた部屋につながる通路のカモフラージュであり、理事長のアクスを含めて十数人しか正解の通路を知らなかった。しかしインプとの戦いが起きたこの日、招かれざる者が二名、この部屋に入ってきた。

石造りの壁で囲われた巨大な空間は天井や壁にある無数の電球で明るく照らされている。その部屋の西側にはトロイシアを封印している簡素な木製の扉が設置されており、扉を守るようにアクスが鈍く輝く斧の長い柄を持ち立っている。そして東側の入口には二人の招かれざる者たちが立っていた。一人は長い白髪と右目の眼帯が特徴であり、曲刀を持つ男性、インプのリーダーであるディアスだ。もう一人は黒色の髪を腹部まで伸ばしたスーツ姿の女性で、背後には彼女の身長と同じくらいの厚さの歯車が回転しながら宙に浮いている。恐らくインプの幹部の一人だろう。

「全く、ここまで来るのも大変だったんだぜ。」

とディアスが苦労する演技をしながら話す。

「スピアの歯車に乗って城壁を乗り越えたのはいいものの、先週の襲撃で目星を付けたトンネル全部探さないといけなかったからな。通路も暗いし雑魚狩りも面倒だし、もっと楽に来させてくれよ。」

アクスもディアスの冗談に冷静に対応する。

「ご意見ありがとう。だが貴様らは二度とここへ来ることはないから、そのことは気にしなくていい。」

それを聞いたディアスはしばらくの間笑った後、

「確かに、ここでお前を殺して封印を解けば、もうここへ来なくていいなぁ!」

と曲刀を強く握りしめアクスへと一直線に駆ける。それに対してアクスは一切退くことなく、周囲の空気が変わるような勢いで斧を振るった。次の瞬間アクスの斧を曲刀で防いだディアスが、耐え切れずに後ろに吹き飛ぶ。宙を舞ったディアスだったが、一瞬のうちに体制を整えながら着地して、再び攻撃を仕掛ける。速度を落とさないどころか上げてくるディアスの攻撃を、アクスは無駄な動きを一切行わず弾く。曲刀と斧がぶつかる中で、斧を受けきれなかったディアスの左胸に傷ができる。アクスがそのまま追撃を狙うが、巨大な歯車が迫ってきたため追撃をやめ、歯車を斧で受け止める。歯車の重さと力が予想よりも強く気を抜くと力負けするところだったが、そのまま歯車を退けることに成功する。

「あれを止めるの⁉」

と自身の骸宝によほど自信があったのか、スピアが驚愕する。しかしアクスが歯車に対処した時間は大きな隙となった。ディアスの曲刀がアクスの腹に三回突き刺さる。それと同時にアクスが吐血し、激しい吐き気や眩暈も起きる。

「終わりだな。」

とディアスが話す。

「俺の骸宝は相手を攻撃したり、武器同士がぶつかったりすると相手の体に毒が回るようになっている。しっかりと刺したから、このまま時間が経てば間違いなく死ぬ。」

「それに、ディアス様の毒を食らった状態で、私の歯車もこのままお相手できると考えているのですか。」

とスピアもアクスに話す。そんな二人に対してアクスは

「…それがなんだ。」

と呟く。今この瞬間、アクスの脳裏にはオノグラムの生徒や教職員、自分と同じ髪色の妻と右目の目尻にホクロをつけた息子の笑顔が浮んでいる。

「この戦いに多くの者たちの命や無念がかかっているんだ!お前らを殺すまで死んでたまるか!」

アクスの強い意志を感じる声に対してディアスが返す。

「そうこなっくちゃなぁ。だが、あまり手間をかけさせるなよ。」


スピアの目の前で再びディアスがアクスに向けて駆け、小さな火花とともに武器同士がぶつかる音が連続で鳴り響く。毒を食らって先ほどよりも動きづらいはずなのに、アクスは長年の経験を駆使するかのように斧を使い、致命傷となる攻撃をすべて防ぐ。周囲の柱や壁を破壊しながら回転するスピアの歯車も、アクスの大振りによって防がれてしまう。しかし異常な速度のディアスの攻撃と、力強く重い攻撃であるスピアの攻撃の連携でアクスの体にいくつもの傷ができる。また曲刀の攻撃で更に毒がアクスの体を蝕み、手が震えに加えて、目も充血し血の涙が流れる。その様子を見て、先ほどの発言も虚しくアクスは自分たちを殺す前に死ぬとスピアが確信した。

その時スピアの脳裏にふと違和感が生じる。アクスの毒は武器同士がぶつかるだけでも、武器の表面を伝って相手の体内に侵入する。今までの攻防の中で明らかにアクスの体には致死量を遥かに超える毒が流れ込んだはずだ。それなのにアクスは生きていて、自分達の攻撃を捌くことすらできている。アクスは毒が効きにくいのか。しかしそれだけでは説明できない量の毒を食らったはずだ。仮に解毒をしていたとしてもそんな素振りは一切なかったし、勝手に解毒できるような骸宝があっても、骸宝を二つ以上持つと両方の能力が使えなくなるため、扉の能力を維持しているアクスには使えない。そこまで考えたスピアの頭に一つの可能性が浮ぶ。もし、解毒が可能な骸宝を持つ者がアクスの解毒をしているのならば。

「ディアス様」

とスピアがディアスに呼びかける。

「あぁ、恐らくそうだろうな。解毒を行っている奴がいる。」

ディアスもスピアと同じことを考えていたのだろう。

「しばらく足止めをする。解毒している奴を見つけて殺せ。」

「かしこまりました。」

とスピアが返事をして捜索を開始する。この部屋には自分たち以外はおらず、今まで安定して隠れられる場所も見当たらない。そうなると治療者は部屋の外にいる。そう考えたスピアはトンネルのほうへ戻り、薄暗い通路を来た時よりも念入りに調べる。しばらく探して壁の一部が僅かに新しいことに気づき、歯車で壁を破壊する。隠し部屋の中には睡蓮の入った鉢を持つ桃色の髪の女性、レインスがいた。襲撃に気づいたレインスが腰から拳銃を引き抜こうとするが、その前に歯車が彼女に当たってボールのように吹き飛ばされる。苦しそうに息を吐いてもだえ苦しむレインスに、スピアが落とした拳銃を拾い上げて話す。

「見つかってしまって残念でしたね。今楽にしてあげます。」

激しく回転した歯車がレインスに再び迫ろうとしたその時、スピア達のいる部屋の天井にひびが入り崩れ落ちる。驚いたスピアが天井を見ると、瓦礫とともに鉛色の硬い鱗を持った巨大な蛇が、歯車に頭からぶつかり地面に叩きつける。天井の崩落や歯車と蛇の落下で部屋中に土煙が舞う中、スピアがレインスの前に一人の男が立っていることに気づく。目の下についさっき目覚めたようなクマのある、暗い緑色の髪のを見てその男が一週間前にディアスの毒を食らった者であることに気づく。

「ボーク、いつ目覚めたの!」

レインスがボークに呼びかける。

「ついさっきだ。こんな状況で寝続けるわけにもいかないからな。」

ボークが返事をしたその時、ボークの骸宝の蛇が宙に浮く。蛇を押しのけた歯車が先ほどよりも速く力強く回転して宙に浮き始める。

「お喋りはそこまでです。あの人の望み、トロイシア様の解放のために貴方たちは死になさい!」

歯車が狂ったように突進し、それに対して蛇が攻撃を防ぐ。大型の骸宝が互いにぶつかり合う中、この場で最も脅威になるであろう蛇を止めるべく、スピアは思考のほとんどを歯車の操作に割いていた。激しい攻防の中でボークの蛇が何度も歯車の攻撃を食らって、勢いを止める。

「…今のうちに!」

蛇を止めて操作に余裕ができたスピアは、骸宝の持ち主であるボークへ攻撃をしようとさっき拾った銃を向けようとした。その瞬間、スピアの喉元に冷たい短剣が突き刺さる。喉と口から血が流れる中、

「どう、して…」

とスピアはかすれた呼吸を激しく繰り返す。

「骸宝の操作に気を取られ過ぎていたな。俺がここまで接近しているのにも全く気づかないほどに。」

ボークが言葉を終えると同時に喉元を引き裂きながら短剣を引き抜き、スピアと歯車は地面に倒れ込んだ。


扉の骸宝が静かにたたずむ前で、曲刀と斧が衝突の音が響き渡る。スピアが離脱したことでアクスの負担が減り、ディアスの体に多くの傷をつけることに成功して、いくつかの傷からは骨や筋肉が露出している。一方、レインスの骸宝で解毒はできているが完全に解毒できたわけではない。また傷の治りも完治しておらず、右目を切られ内臓もいくつか破壊されている。あと数分戦闘を継続したら、どちらかは死ぬことは確実であった。

「この時間まで戻ってこないなら、仲間は死んだようだな。」

「…そうらしいな、俺たちインプもそろそろ危なくなってきたな。」

アクスの言葉に、さすがのディアスも余裕がない声で話す。しかしすぐに元の調子で

「だが、まだ終わっちゃいねぇよ!」

と話しアクスに攻撃を仕掛ける。体力的にも最後になるだろう攻防で、二人とも先程までよりも速く、より無駄のない動きを繰り広げる。

「何故そこまでしてトロイシアの復活や虐殺に拘る!?」

アクスが一切止まる気配の見せないディアスに叫びながら問う。

「そりゃ、今とは違う世界を見てみたいからだよ。昔に母さんが読み聞かせてくれた激戦の話!あの頃の混沌と破壊を今の退屈な世界でやってみたかったのさ!」

アクスの問いにディアスが爆笑しながら答える。

「そして3か月前に偶然、破壊した町であんたの妻と一人息子がいたときはもう興奮したものさ。あんたを殺すだけで簡単に俺の望みをかなえられるからな!あの町に息子を置いていてくれたこと感謝するぜ!!」

そう叫びながらディアスが曲刀をアクスの左胸に突き刺さす。アクスが吐血し、それを見たディアスが凶悪な笑みを浮かべる。

「…ふざけるな。」

しかしそのような中で、アクスの口からゆっくりと重い声がでる。

「今戦っている者たち、お前らに殺された者たち、私の妻と息子のために!もうこれ以上お前らの思い通りにさせない!」

そしてアクスは痛む体を無理やり動かして、斧の刃を力いっぱい振り下ろす。鈍く輝く斧の刃はディアスの左目を潰して、一気に腰まで叩き割った。

アクスの一撃を食らったディアスは、手に持っていた曲刀を落としてふらふらと後ろに下がる。左目から腰まで裂けたディアスの体は切断面から大量の血が流れており、呼吸をするのでさえ辛そうに感じる。このまま放っておいても死ぬだろうが、アクスは油断せずに斧を構えて止めを刺そうとする。損傷と失血のせいか、ふらついたままのディアスに近づこうとしたその時、ディアスが右目に着けていた眼帯が顔から外れて地面に落ちた。眼帯の中にあった右目は特に異常はなかった。しかし右目の目尻にある薄いホクロを見た時、アクスの脳内に一つの最悪の予想が入り込み、全身に言いようもない寒気が走る。代々オノグラムの理事長として扉を守ってきたアクストの家系の者は右目にホクロがあった。そのホクロが目の前にいるディアスにもある。これは偶然なのかそれとも…。

「一ついいこと教えてやるよ。」

アクスの動揺を見たディアスがふらつきながらも話す。

「両親曰く、俺の血は何百年前のご先祖様の、遠い親戚の影響を強く受けているらしくてな、先祖が遠い親戚とともに戦った様子を書いたスケッチを見せながら、母さんが俺によく話してくれたんだ。」

「まさか…」

その先の言葉を理解したアクスの瞳が開き瞳孔が細かく震える。

「そう、その先祖の親戚っていうのがアクストってわけだ。もっともあんたらの方の家系図はトロイシアの襲撃で一度焼失したらしいから、知らないっていうのも当然か。」

その瞬間、アクスが斧を構えて、ディアスへ向かい駆ける。ディアスの話は噓の可能性もある。しかし万が一話が本当なら、ディアスにも扉の骸宝を使える可能性がゼロではないということだ。一方ディアスは

「本当なら、お前を殺して確実に扉を開けたかったが…」

と呟き、直後に全身のリミッターを無視した光のような速度でアクスの背後にある扉に向かって突進する。凄まじい速度に何とか反応したアクスがすれ違いざまに斧を振ってディアスの頭部を吹き飛ばす。しかし何らかの偶然が重なった結果か、はたまたディアスの意思のせいか、ディアスの胴体はその場で止まることなく速度を保って扉の手前まで走り、前に倒れながら最期の力を使って右手でドアノブを掴んだ。次の瞬間、扉を中心に地面や空気が揺れ、同時に甲高い女性の笑い声が部屋中に響き渡る。首は無くなっていたが、ディアスが扉に触れたことによってトロイシアの封印が解かれてしまったのだ。こうなってしまった以上、もう後戻りはできない。アクスは斧を強く握り、今まさにかつての「悪魔」が出てこようとする扉を睨んだ。

こんにちは、千藁田蛍です。骸宝戦記録 決戦編③はいかがでしたでしょうか。アクスとディアスの戦いも、決着がつきました。そしてこの戦いもクライマックスに近づいてきました。ウィロウ達はどうなってしまうのか。今後もよろしくお願いいたします。

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