脱出作戦 その二
とりあえずおこたは除けたままにしておいて、火室を挟んで向かい合う。
「まず、目標は此処から脱出すること。ヒントはあの紙切れのみ。……まあ、本当にヒントか分からないが、そう仮定しないと進まないからな」
「はい、気になること! どうして火室が開いたのか」
「……そうだな。前回あけようとした時との相違点は?」
「俺の主歴、開けようとした時の心情、あとは……、勿論、柏が居るか居ないか」
「ふむ。やっぱり僕が原因か? 他は曖昧すぎるよな。まあ、僕に特別な力があるとも思わないからな。……人数とかか?」
「なるほど。柏、なんか探偵っぽい」
「は? まあいいや。……次はさっきの紙切れをもう一度検証してみようか」
「はいっ! なんか助手みたいで楽しい」
「お? 良かったな……?」
要に渡された紙切れは、良く見ると端の辺りが綺麗な直線ではないことに気付いた。
……もしかして、これで全てではないのか? でも、他にそれらしいものは無かったんだが。
「おい、要。この紙、何処の紙か……、分かるわけないか」
言っている途中で、流石に無茶な質問だったと気付いた。だが、当の要はきょとんとした表情でしれっと言ってのけた。
「多分あれだと思うよ? 他に紙は見当たらないし」
示された先には、小さなメモ帳の束。
紙切れをあてがってみると、やはりいくらか紙切れの方が小さいことが分かった。もしかしたら、あれは四つ折りではなく六つ折りで一番端が無くなってしまったのではないだろうか。
「ね、要はあのメモ用紙使ったことあるか?」
「いや、ないけど? 多分、娯楽グッズとかいくらでも持ち込めるから、俺に限らず殆ど使われていないと思うよ?」
「よし。だったら何とかなるかもしれないな。……鉛筆あるか?」
「うん」
メモ用紙の上を軽く鉛筆で撫でるように擦っていくと、うっすらと文字が浮き上がってきた。良くサスペンスとかで見る方法の真似事だが上手くいったらしい。
「「火室で互いに同じ名前を呼べばいい」……おおう。なにこれ凄い。って火室で!? 火は無いとはいえ危なくない? これが悪戯だったら、俺らの人生終わりでしょ!?」
「……このままのんびりしていても、どっちにしろ人生終了だけどな。僕は試す価値があると思う」
「……そうだね、俺も同意見。ところで、同じ名前ってなに?」
「互いに、だから相手と同じ名前、つまり、そいつの名前を呼べって意味で取っていたんだが、違う可能性もあるのか……」
「いや、もうそれで良いや。……実はさっきから、もう限界な感じがしているんだよね? 多分別の推理を考える暇はないよ」
「はぁ!? 何でそういうことを早く言わない?」
「推理の邪魔しちゃ悪いかと思って……? 此処まで君の力できたんだから、最後まで信じてみるよ。……悲観主義者の俺に、楽天的な夢を見させてよ? 楽天的な思考には自信があるんでしょ?」
「……色々言いたいことはあるが、分かった。現世に戻ったら覚悟しておけよ? お前を根っからの楽観……、オプティミストに生まれ変わらせてやる」
「言い直した意味とは?」
「ないな。強いて言うならお前の真似だ」
要は小さく笑った。やはり諦めた表情よりこういう表情の方が見ていて気持ちが良い。
……僕は「楽天思考に自信がある」と言っていたが、実は語弊がある。本当のところ、僕を形容するにふさわしい言葉は、「楽天主義でありたいと思っているだけの一般人」だ。
まあ、今くらいコイツのために本物の楽天主義者になってみるのも悪くない。
次で最終話です。