脱出作戦 その一
「さて、僕は諦める気は無い」
「それは俺も」
「交代ってどうやるの?」
「え、裏切る気なの?」
「はぁ? 防げるものかと思って聞いただけだわ、馬鹿か」
「くっそ、安定の毒舌! ……知らないけど、時間かな?」
「おいおい、それ不味いじゃん」
「うん」
「何落着いているんだよ!?」
「吐き出したら、一周回って落着いた……?」
そう言う要は、確かに清々しい表情だ。なんかムカついたので、軽く頭をはたいておいた。
そういや、ようやく達成できたわ。なんだかんだと逃していたからな、コイツを叩くという目標。
「痛い! 何その、満足そうな表情」
「あ? 事実満足しているからじゃね? ……なぁ、時計の中に何かヒントみたいなものは無いわけ?」
「俺が探していないと思う?」
「だよなぁ」
「あっ! でも、火室は見ていないけど。開かなかったから。……それに、ちょっと怖いし」
「おーけー、見に行こう」
「即決だね? びっくりだよ、もう!」
要は、文句を零しながらも時計に近付いていく。
そして、時計に手を当てる。
「主、帰還す。道を開け」
その姿が妙に貫禄があって、先ほどまでのふざけたヤツと同一人物には思えなかった。
見守っている間に、時計から光の板のようなものが下りてきた。それを確認すると、要は僕を振り返ってにっこりと笑った。
「なに? 見惚れちゃった?」
「うわぁ……。ないわー」
「ちょっと、その反応傷つくってば。泣くよ?」
「うん、お前はそっちの方が良いや」
僕の呟きに首を傾げてから、要は板を登り始めた。
僕は主じゃないから本当に板の上を歩けるのか半信半疑だったが、恐る恐る踏み出した一歩が空を切ることはなかった。
「へぇ、こんな造りになっているんだな」
間近で見た時計は、遠くから見て思っていたよりも更に緻密なものだった。
いつも要が出てきていた扉をくぐると、中は意外に広々としていた。というか、妙に生活観がある。
「どうして、おこたがあるんだよ!?」
「寒かったから持ち込んだ」
「おい、随分自由だな。……で、火室は何処? 見当たらないが」
「ん? この下だよ?」
要が指で示すのは、正しく今話題に上がっているおこた。
「はぁ!? お前何なの? さっき怖いって言っていなかった?」
「うん、だから見えないようにしようと思って」
「なんだそりゃ。……お前図太いのか馬鹿なのかはっきりしてくれ、本当に」
「?」
……馬鹿で図太くてウザくて打たれ弱くて、その上更に天然とか勘弁してくれ。キャラが濃すぎて飽和状態だわ!
おこたをどけると、そこには下に向かって広がる火室があった。本物の火室を見たことが無いので確証は無いが、普通は横に向かって伸びるものである気がする。
まあ、時計のデザイン的に横にスペースが取れなかっただけかもしれないが。
「さて、開くと良いけど……」
要は、僕のほうに助けを求めるような視線を向けてきた。ここまでやったなら自分で開けろよ。
「はいはい、開ければ良いんだろ。やってやるよ。……なんてな、お前も道連れだ!」
「うぎゃっ、ちょ、なにするのさ?!」
火室の入り口の扉らしき部分の片側を自分で掴み、もう片方を要に掴ませた。
「ほい、せーの」
適当に声を掛けて力をかけると、それは何の抵抗もなく開いた。なんだかんだ文句を言っていた要の方も無事に開いている。
「え、どうして?」
「まあ、どうでも良いじゃん」
驚いている様子の要を無視して、中を覗き込んでみた。
「あ、何かあるな」
「本当!? 取れる?」
「ああ、普通に届きそう。あ、これ手入れても大丈夫だよな?」
「今更!? 知らないけど、大丈夫だよ、きっと」
「うわ、不安しかない。まあ、男は度胸!」
言いながら手を入れると、熱いということもなく簡単にその「何か」を入手できた。
「紙切れ、みたいだな」
右手を見ると、そこにあったのは少し黄ばんだ、四つ折りの紙切れだった。古い物なんだろうか、破れそうで開くのが少し怖い。
「要パス。僕そこまで手先の器用さに自信ない」
「ファッ! 俺もないよ!?」
「まあ、今度はお前が頑張る番ってことで」
「ぐぬぬ……」
何も言い返せないという表情で紙切れを受け取った要は、恐る恐るそれを開いた。
「「同じ名前を呼べばいい」……だって? 柏、意味分かる?」
「此処に居る歴の先輩が知らないのに、僕が知っているとでも?」
「だよねー」
「よし、他にはなさそうだし、ちょっと推理しますか」




