Wau×5 狩×弓×勝負
用意万端整った状態でケッコーの小屋で待ち構えていたグェンドリン達と一緒に平原へと向かう。
小さな子供達は今日は交換会があるので連れて行かない。
「それで、アルト獲物は何を狙うんだ」
「うーん、一応平原だからね、ラピド、ビルシュ、ブブーベ、ケッコーとかかなあ、痕跡が見つかればその獲物を狙うし、基本的に決め付けて狩はしてないんだ、森にでも入ればそういう狩もできるけど」
「そうか、できればあの道具の使い道を見て見たいからな」
「全員もう使い慣れてるから期待してていいよ、但し石で出来た奴だけどね」
「成程な、でも態々鉄で用意した意味もあるんだろ」
「そりゃ勿論あるよ、この紐もその為だけに準備してたんだから」
「そいつは」
「蟲糸から作った紐だよ」
「よくもこんなに沢山集めたわね」
サラさんが呆れるのも解る、実際この量を集めるのは大変だった。暇を見ては蜘蛛を捕まえる地道な作業が必要だからね。こんな風に紐にして使う人なんて居ないだろう。
「計画してたからね」
「な、面白いだろ」
「親父が見込んだだけはあるわね」
納得が蟲糸でというのも妙な話だけど、まあ使ってるのをみて吃驚して欲しい。そう考えて歩いていると獣の臭いを捕らえた、手振りだけで獣の居る事を伝える。
本当なら弓を試して見たいところだけど、今日の本命はボーラをグェンドリンさんに教える事だ、
都合よくビルシュの群れに遭遇できた。風下から接近する。草を食んでいるとはいえ草食動物達は視界も広く音にも敏感だ、近づきすぎると直に逃げられてしまう。その距離の見極めが草原の狩での基本だ。
ハンドサインで狙う獲物を決めていく、一番右からピック、プラド、シャルティに狙わせる。左端からは自分が狙う。
草に隠れながら進んでいく。グェンドリンさんとサラさんには悪いがその場で待機してもらった。僅かでも気配を察知すると臆病なビルシュは一目散に逃げ出してしまう。
勝負は一瞬……
「それ!」
「「「えい!」」」
見事に全員の投げたボーラがビルシュの足に絡みつく。同時に群れは慌てて逃げ出していくが一頭だけ此方に威嚇して残った。草食動物だからと云って弱いわけではない。その一頭に向けて再度ボーラを投げつける。
一度の狩で5匹もの獲物を取れれば上等だ。素早く首を裂いて止めを刺していく。
「うーむ凄いな、いくら犬獣人と云えどもこうもあっさり仕留めるとは」
「大人の狩方より俺たちの方が多い事もあるんだぜ」
プラドにとっては大人に負けない獲物の量は誇りなのだろう。
「まあ森だと使えないんだけどね」
「うむ、あの要領で使うのは草原である必要があるのだな」
「森だとやっぱり弓の腕になるからね」
「でも大人より獲物を沢山捕まえる事もあるから凄いのよ」
シャルティが褒めるのは毎度の事だけど、グェンドリンさんとサラさん相手にだとちょっと恥ずかしい。
「うんうん、その年齢でこれだけの獲物を仕留めるのだもの」
サラさんもちょっと興奮し過ぎだと思います。
「そうか、こうやって狩をして取った獲物だから俺の交換した毛皮は傷が少ない上物だったんだな」
「そう云うことです」
「それだけじゃないよ、この方法だから家畜にする動物も捕まえてるんだ、村のケッコーは全部俺たちが捕まえたんだよ」
ピックとしても自慢の出来る事だからな。
「それにしてもこのナイフ最高の切れ味だ」
「俺も、こんなに切れ味がいいナイフなんて父ちゃんも持ってない」
「嬉しい事言ってくれるね、アタシのナイフは一級品だろ」
「「はい」」
既に2人はサラを姉のように慕っているようだ。サラ自身も姐御肌なので丁度いいのだろう。しかも手に入れたナイフの製作者が目の前にいて、美人な上に質も上等とくれば上せても仕方ない。
獲物を担いで皮の処理をする為に川へと向かう。そこで食事も取る予定だ。
「アルトのナイフの切れ味はどうだ」
「苦労してるよ、砥石を探すのも大変だった」
「そうか、今度はサラが持ってきてるから頼めばいいさ」
「でも親父、この子のナイフ見てみなよ、綺麗に磨き上げてあるよ」
「どれ、なかなかいい研ぎ具合だな、ガハハ、サラお前が弟子入りする必要があるかも知れんな」
「でもサラさんが居てくれて手入れから簡単な刃物まで注文を受けてくれるのなら助かるよ」
「まあ、修行ついでに何でも作らせればいいぞ」
「任せな、親父を超えるには色々とやる必要があるからね」
川に到着すると早速臓物の処理と皮の処理を行っていく。剥いだ皮をピックとプラドに任せ臓物を洗っていく。臓器は足が早いが尤も美味しい部分だ。洗い終わった分を鍋に入れて塩で揉んで置いておく。基本的に捨てる部分なんて存在しない。骨も昔は釣具なんかに加工していたし、現在でも焼いた後で細かく砕いて畑に撒くようにさせた。
堆肥をつくる知識は無いし、疫病でも流行ると困るからその辺りは逆に清潔にするようにさせたぐらいだ。
生半可な知識でアレを扱うのは怖いし、この鼻の能力的に臭いは勘弁したい部分でもある。
肉を獲物として仕留めてきたがお昼の予定は飽くまで魚、というのも夜に肉を使った宴が用意されているからだ。ここでモツなどを振舞ってもいいのだが大人達の顔を潰すのも躊躇われる。
しかし毎回子供達でやるような追い込み漁は出来ないので生簀から人数分の魚を捕まえて調理する。
その様子をみていてサラが驚くのは当然だろう。寧ろグェンドリンが感心しながらも平然と興味深く観察している方が変なのだ。
「親父、魚が意図も簡単に……」
「うーむ」
「アタシ達が苦労して食べる魚が、あんなにアッサリ出てきたらもう驚くのも馬鹿らしくなってきた」
「あれと同じ事が闇輝人の里でも可能だといいのだが」
「どうしたの」
「いや、その魚ひょいっと獲ってきたじゃないか」
「うん、夜は宴になるから肉がでるでしょ、だから魚にしたんだけど、肉が良かった?」
「いや、ありがたい」
「それより、魚をいとも簡単に獲ってきたけど……」
「ああ、これね、生簀を作って其処に捕まえてあるんだよ」
「それは俺たちにも可能か、犬獣人の秘伝か何かか」
「可能だよ、ただ水は常に流れるようにしないといけなかったりするから後で説明するよ」
「いや、まあそれはお前たちの技術だからなそこまでしてもらう訳にはいかん」
「そう? 大した事まではしてないんだけど」
「その代わり干物を増やしてもらえたりすると嬉しいな」
「猫獣人みたいな事をいうね、あの人達も態々海から来るのに干物を嬉しがるんだよ」
「俺たちは山と森の中間にいるが魚が大量に獲れるって訳じゃないからな、下手をすると肉より魚の方が珍重されるし、俺の女房なんかも肉より魚が好きなんだよ」
「じゃあ帰りに持って帰れるように後で包んでおくよ」
「助かるな」
「も、もしかして、この村に住んだら魚食べ放題か」
サラさんにとってはかなり重要な事なのだろう。
「うーん、食べ放題というか、食べたい時に言ってくれれば子供達で用意するよ?」
「アタシは絶対この村に残る!」
え、ソンナ理由でいいの?
食べ物はどんな時代でも女性の心を捕らえるのだろう。サラがこの村に定住してくれるのは嬉しいがそれでいいのかとも思ってしまう。
「お袋もこの事を知ったら移住してくるかもしれないな」
「俺が一人山に残るのは勘弁して欲しいな」
「やっぱり簡単な魚の捕まえ方だけ教えておこうか」
「……頼んでもいいか」
「うん」
まあ至って簡単な方法で現代では禁止されているのだが岩に岩をぶつけて、その衝撃波で魚を気絶させて獲る方法をグェンドリンには教えてあげた。岩を持ち上げるのは面倒だろうからハンマーで打っ叩けばいいよとアレンジした方法を教え、やりすぎたら魚が居なくなるから注意してねと伝えておくのも忘れない。これでグェンドリンが一人寂しく残る危機は回避されただろう。
いや、そう願いたい。余りにも可哀想だろう。一人残る理由が魚ってさ。
「この方法を聞いただけで俺は今回の仕事を終えた」
「良かったな親父殿」
「じゃあこの醤油もきっと奥さんが気に入るはずだよ」
「これがさっきからしてる香ばしい匂いの元か」
「猫獣人に頼めばまた手に入るからこれはグェンドリンさんが持って帰っても大丈夫だよ」
「そうか、助かるな、流石にあいつ等の村まで行くのは遠いからな、有り難たく頂くよ」
闇輝人の技術や光輝人の事象改変能力や魔術の知識によって道具等のレベルは中世程のレベルには達していると云っても遜色はないけれど、実質の文化レベルはそこまで到達していない。人に属するものよりも獣や魔獣の支配する地域の方が多い世界で他の村との交流は危険も伴う。
優れた肉体を持つ犬獣人にしろ闇輝人にしろ魔獣が相手になれば死亡する者だって年に数人はいるのだから交易は命がけの行為でもある。
「じゃあ今度猫獣人の人達が来た時には大量に置いて行ってもらうよ」
「助かるな、そう考えると犬獣人の村は交易点としては中々の立地となるな」
「まだ他の村まで行った事がないからわからないけど、そうなの」
「ああ、これでも闇輝人の責任者の一人なんだ、若い頃は一人で旅もした」
近隣といっても四日以上はかかるのだが交流があるのは闇輝人と猫獣人のみで他の種族なんかとは彼等と行っている程の大きな交流を持っていない。
「あの山の方角が俺らの里がある、そしてこの村を挟んで反対側が猫獣人の村だ、そして太陽の昇るこの方角に十日もいくと狼獣人の村がある。反対に沈む方角へ二十日程の距離に虎獣人の村がある。さらに進めば人族や光輝人の村なんかもあるな。だがどの村と村も20日程の距離があるし間には危険な森が広がっている」
世界は厳しい、国を作るほど自然を克服できていない。時折だが変わり者が旅をしたりするが実力が無ければ魔獣の餌になるだけだ。そう考えればグェンドリンは相当の変わり者という事になる。
「世界は広い俺も数年かけて歩いたが歩ききれなかった。まあ女房と結婚してからは出歩く事も少なくなったんだがな」
村の外の世界か……
いつか馬鹿神に一撃入れる為にも村を離れる。まだ誰にも話しては無いがこれだけは譲れない目標だ。それに村だけに留まるより見識を広める意味でも早く外には出て見たい。
だがいくら生前の大人程の力を有していると云えどまだ無理だ。今の話を聞いても解るように最低でも十日以上、二十日間の旅を耐えれる程にならなければいけない。
「まあ俺が歩き回っただけでも相当に広い世界だったぜ、残念なのは本物の竜に出会えなかった事だな」
「本物以外には遭ったの」
「ああ、ベルドラってデカイ蜥蜴にゃ出遭ったが、爺様から聞いた竜にゃ会えなかったな、なにせ人と話せるらしいからな」
やっぱり竜もいるのな……
焼きあがった串を配り、粥を碗に掬っていく。仮に竜が現れたとしたら……
うん勝てないな。妄想しても無理なほどだ。
「おお、美味しそう」
「これはいい」
「魚はやっぱりアルトの用意した飯の方が美味しいよな」
「ウチで食べるより美味しいんだよ」
「猫獣人から手に入れた米がもっとあれば良かったんだけどな」
「これはやっぱり猫獣人の食事に出てくるやつか、だが記憶より遥かに美味いな」
「アルト専用の土鍋で炊くと、何でか知らないけど美味しいんだよな」
前回の取引にもってきたくれた猫獣人には感謝している。塩は別として醤油に興味を示していた事や米はないかと探していたのを知ったらしく持って来てくれた人が居たのだ。川の魚の日干しや質の良い皮を交換する子供と知られていて、しかも自分たちと同じく魚を好み米が好きだと知って共感してくれたらしい。
もしもこの米が手に入らなければ奴は殴るだけに留まらなかっただろう、猫獣人にあの馬鹿《神》は感謝すべきだと思う。
品質改良されていなくてもやはり米は美味しい。将来は絶対猫獣人の村へ行って田畑の改良にも勤めたい。
鰹節などは見当たらなかったのだが持ってこれない魚がいるのは確認している。きっと鯖やカツオといった類の魚だろう。塩漬けにすればいけるが塩を作るのもなかなか大変な作業なので贅沢は言えない。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
ご飯も食べ終わったし、既に5匹も獲物を取っているので後は訓練の時間に割り振る事ができる。
折角なので早速新しい刀を構えてみた。
身体能力を上げないと少し扱い辛いかな。刀を依頼してから木刀を振る回数も増やしてはいたが重さも違えば重心なども変わってくる、そうなれば必然として自らの重心も変わってくるので本物を振り続けるしかない。
「まあ、5歳でそこまで剣を振れれば大したもんだが、なんというか変わった構えだな」
犬獣人の骨格は人間のそれと変わらない。刀を振るうという事で構えは自然と身に付いている物を選んだようだ、剣道というか武術という考えが無いこの世界ではこうした構え自体が珍しく写る。自然と振りやすい型になるが、それを想定するのは人や獣。もしかすれば、人を相手にしなくてはいけなくなる事も十二分に考えられる、というより刀は本来はそちら向きの武器なのだ。
腰をおとし重心を低く、斬るという感覚を研ぎ澄ませて刀を振るう。剣はその重量で振りかぶって叩き付けるのだが刀は斬る事を念頭に置かないと十全な力が発揮されない。
犬獣人のメインウェポンは槍、弓、ナイフもしくはナタである。剣を使う者も居なくはないが森の狩で接近戦は行わない。剣を持つと言うことは少なくとも対人戦も考慮している事を示す。
刀を鞘に収めて弓を取り出す。普段から練習している物と違い本来は引き絞るのも難しい鋼鉄製の弓、滑車の力で引き絞り放たれる弓は的に向かって飛んでいき、20歩先の的に吸い込まれた矢はそのまま激しい音と共に的を射抜いて突き抜けた。
「む、その弓引けたのか、力自慢の闇輝人でも厳しかったのだがな」
無論滑車の原理を理解せずに弦を張っただけなら通常に引く事なんて身体能力を上げてもギリギリだろう。
「その弓だけは刀と違って流石になんの酔狂かと思ったんだが……」
個人的には30メム(90m)以上の的を狙えるように頑張ってみたいと思っている。集中…………
『兄上、風が吹いてきます、右から少し……』
風も吹いていない状況で先読みがされる。
少し右へと狙いをつけて矢を放つ。弦の音が微かに耳に残りながら放った矢を見届ける。20メム(60m)先の的より少し右へと逸れている矢に横風が吹きつける。一瞬だけの風、それをリックは読み取ったのだろう。照準の参考にはならないが的に当たる小気味よい音が響き渡った。
ど真ん中とはいかないまでも的の中心に当たっている。訓練を続ければもっと中心を狙う事も出来るようになるだろう。
『さっきのは……』
『風の声を聞いたのである』
風の声か……まあ元々犬だしな、と納得した。
「ふむ、あの距離を当てられるのだったらもう一人前以上だろう」
「でも連続しては厳しいですからまだまだですよ」
「いや、この距離なら十二分に誇って良いぞ、光輝人にだって負けてない」
「やっぱり光輝人は上手ですか」
「弓を使わせれば精霊の加護でもって遠距離からズドンだからな」
「闇輝人はそういうの無いんですか」
「俺たちはこの肉体、そして近接戦闘に秀でてる。獣人種には劣るが力だけなら俺らが上だから防御が強い。まあ金属をここまで加工できるのは俺たちだけってのが強い理由だわな」
「事象改変能力はやっぱり光輝人が秀でてるんだよね」
「そうだな、俺の知る限りだと精霊の魔法と言われるのは光輝人、事象改変能力や魔術操魔人、魔術だけなら人族、強力な種族事象改変能力を持つとされているのは竜獣人だな」
「闇輝人は」
「俺たちは光輝人の親戚みたいなもんだ、あいつらは森俺らは山だ、で好きな精霊が変わってくる。光輝人は光、風、水、生命と仲が良いんだ、闇輝人は闇、火、土、雷と仲が良い。気をつけないといけないのは光輝人は種としてのプライドが高い。闇輝人は個人主義だから己の誇りが重要になるって違いがすごく大きい。だから光輝人でも変わり者じゃないと里以外となかなか交流しない」
「交流しないで暮らしていけるの」
「まあ、今のところは大丈夫だろうな、それなりに交流も一応はしてるさ森だと鉄器は手に入らないからな」
「建前って大事だよね」
「そう云う事だな、ガハハハ」
「精霊と話すってどんな感じで話すの」
「うーん先祖にはそれこそ普通に話せた奴もいるって話だが、才能次第ってとこか、俺だとお前の周りで騒いでる奴らは認識まで出来ても会話は出来ないな、土の奴ならちょっとは話せるが……そのまともに話せる訳でもないんだ、光輝人でも同じらしい」
「何か喋ってるんだ」
「うーん、土の奴は悪気がないんだろうけどワンワンと連呼してるからな」
「会話になりそうにないね」
「だがな、こいつらが居ないと良い金属は出来上がらんのだ、俺の腕は修行によるものでもあるけど、こいつらに良い武器を作らせてくれってお願いするんだ、まあこれが闇輝人の種族というか精霊魔法だな」
「精霊にお願いかぁそんな魔法もいつか使ってみたいな」
「どうなんだろうな、種族的な制約があるのか無いのか分からんがアルトの周囲には精霊も集まりやすいみたいだが、見えない話せないじゃなあ」
「残念」
「まあ落ち込む事もないさ、犬獣人の中でもお前は間違いなく特別だ」
「おーい、そろそろ帰ろう」
「宴の準備も手伝う必要があるわよ」
「ぼ、僕はもう木刀が振るの疲れた」
「よし、それじゃ獲物をもって帰ろう」
グェンドリンとの話はこの後村に到着するまで続いた、人生の先輩でもあり旅人の先達で知識にしろ経験にしろ今の自分では敵わない。サラも親父と呼び捨てにはしているものの鍛冶師としてそして人生の先輩として親として尊敬しているのだろう。
神様相手に打っ飛ばすと息巻く俺がいうのもなんだがグェンドリンを追い抜く技術を蓄えるのは大変だと思う、是非ともめげないで頑張って頂きたい、決して美人だからと言う理由応援しているのでは無いとだけ言っておこう。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
交換に来てくれた人達は村で持て成しをする。一種の祭りのように騒ぐのだけど、この宴を楽しみに来てくれる人もいるし、村人達としても楽しみの一つだ。ある程度騒いでも奥さん連中から怒られないのが一番の要因なのではないだろうかと最近思っている。
未成年は禁酒なんて法律もないので酒は子供ですら飲んでいる。元々蒸留する技術もないのだが物によってアルコールの度数が変わるので油断をするとそこで寝転がっているピックやプラドのようになる。
「今日の宴の肉の用意はそこのアルト達の功績じゃ!」
「ほれ飲め飲め!」
「将来が楽しみじゃのぉ」
「うむ、ワシが五つの頃なんぞ畑で母者に構って貰ってただけじゃ」
「ビルシュの肉が美味い、この塩焼きの串のモツも美味くてたまらんな」
「男衆の成果はどうだったんじゃ」
「うむ、量としてはアルト達に負けたがこっちはグレムベルを仕留めてきたぞ、それにブブーベとケッコー、やキョッピも捕まえた」
まあ一応は大人の方も坊主でなくて良かった、グレムベルは大物だし、胆嚢は漢方材料として取引されるし、肉も意外なことに木の実を中心に食べている種が多いのか味は悪くない。
鍋の材料としては大人達の獲ってきた獲物の方が優秀だろう。個人的にもキョッピの鍋は最高だと思う。草原では取れないが森の中だとそれに加えて食用になるキノコや山菜が取れる。長い採取の経験がないと山菜はまだしもキノコの食用になるかどうかの見極めは出来ない。
ノーム達がこちらを睨んでいるが宴だからな、徹底的に無視しようと思っていたのに近づいてくる。
嫌ならこちらに来なければいいのにどうしてわざわざやってくるのだろう。まさかノン狙いじゃあるまいな、そうだったら打っ飛ばすよ?
「いい気になるな、たまたまビルシュが獲れたからって、こっちは弓でグレムベルに一撃いれたんだ」
自慢をしたいだけか、ならば好きにしてくれればいい、でもグレムベルに一撃いれれたなら大した物だと思う。少なくともまだ7歳だから山菜を取っていたか精々ケッコーかキョッピとかラビトを狙っていたのだとばかり思っていた。
「凄いな、グレムベルか、あれを倒せたら一人前だよね」
「そうだ、俺たちの方がエラ(ガツン)アイタッー」
「宴の席でまーた詰まらん話をしよってからに、偉そうな口を利くのはこの口か!」
「イダダダ」
「一人でグレムベルを倒してからにしろ」
「まあ、ノームのヒョロヒョロの矢が当たったのは事実だが、あれじゃまだまだ倒すのは無理だなぁ」
「グッ」
酒も入っているのでフォローも無い大人からの野次が飛ぶ、事実なのだろうがこの場で言われてしまえばプライドは傷つけられて、向かう先は俺になるんだが……
「勝負だぁアルトォ!」
「アルトハルトなんでアルトでは……」
「煩い勝負しろアルトハルトォ!」
もしかして酔っ払ってないか?
「俺の方が優れている所を見せてやる、弓で勝負だ!」
「「おーやれー、余興だやっとけー」」
「ヤンヤヤンヤ」と大合唱が始まる。
どうしてこうなった……
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
勝負は10メム(30m)の距離の的に5本中何本当たるか、的の大きさは直径が10セム(30cm)程。
選べるのは圧勝、引き分け、負けの三種類。
気に入らないのなら仕方が無いが出来れば同じ村で揉めたくないのだけど、こっちもガキ大将をさせられている(いた)責任と不満がある。
やるならトコトン最後までが前世からのポリシーだ。
「なんだ、その弓は糸が三本もついてても当たらねえぞ」
「ヘンテコだな」
「お前自分の弓はどうした」
普段使っていたのは木の弓だったがこれからはこの滑車式のコンパウンドボウが俺の相棒になる。
「これが俺の弓だよ」
「後から文句をつけるなよ」
「そっちこそ」
10メムの距離でこの弓を使ってなら外さない、スタビライザーもサイトも使わせてもらう。
当たり前だが身体能力も上げていく。
「賭けるのはお互いのプライドじゃ、勝っても負けても文句は言うな良いな」
一方的に勝負を挑まれてちょっと不服なんですけど。
「はじめ!」
弦を引き絞る……昼に調整を済ませておいて良かった。スタビライザーもセットする事で安定性も増す上に衝撃も吸収されてリリースからブレを軽減する。
材質が金属なのと部品も多いので重たいが通常の弓を引くのに比べれば弦を引く力は少なくて済む。これが命中率の高さの秘密でもある。
さらにサイトを設けているのだから通常のリカーブに比べれば格段の差どころではない。レンズが無いから流石にスコープまでは求めれないが身体強化は元々目のいい犬獣人の能力の底上げだ、ある程度はそれだけで十二分に役目を果たしてくれる。
2、3撃目でノームが外してこちらは一発も外していない。
弓本体もそうだが矢も特注品、今のところ30本しか無いし普通の矢も飛ばせるがシャフトで重さもすべて均一に作り出してくれたグェンドリンに感謝だ。矢の重心も僅かに前方になるように重石が入っている。矢羽の角度も悪くない。
次に俺が決めれば5本の勝負を待たずに決着、外しても5本目を当てれば勝ち。
引き絞って……放つ、矢は綺麗に的へと吸い込まれていく。衝撃に耐え切れなかった木の的が砕ける。
歓声が上がるけれど勝手当たり前の勝負なのだから嬉しさは別に沸いてこない。できればこれで突っかかってくるのが無くなればいいなと思う程度の話だ。
無理だろうけど……というか道具は大事にしたほうがいい、弓が悪い……うーんコンパウンドボウに比べると全部がそうなるから、弓が悪い訳じゃないんだから叩き付けたりしたら歪んで使えなくなるじゃないか。
ゲシゲシと蹴りつけても勝負の結果は覆らないよ?
あの弓が可哀想だ。あ、弦がきれて顔にベチって、うん天罰だろう。神様なんてロクなもんじゃないが中々に粋な罰だと思う。
「しかし、アルト既に身体強化まで出来るようになってたか」
「まだ完璧じゃないですけどね」
「いやいやその年でそれだけの弓を引けるんじゃ」
「まったくラインハルトの息子は父親の狩の腕を引き継いだな」
「いや、ノームも外してはいたが中々のもんだった」
「うむ、勝負には負けたがまああれで普通じゃ」
「まあ負けて悔しけりゃ練習するだろうよ」
「んだ、それで上手になったのがノームの父親だっぺ」
「ハッハッハ畜生思いださえるな」
「そりゃアンを取り合った話は忘れられないっぺよ」
「グヌヌヌ」
「ってことはシャルティが目的の勝負だったべか」
「ウフフフ」
ナンデソウナルンデスカ、オサケノミスギヨクナイ。そもそも最初に誇りの勝負だって言ってたし!
つーかそうなの? それで俺に突っかかるのは見当違いとまでは言わないが、気を引く方法間違ってないかな。俺より仮に弓が上手いと証明したらシャルティが惚れるって図式は成り立たないと思うんだけど。
『恋の強敵としては物足りないのである』
リックよお前もか!
そしてそこで顔を赤らめてる美少女よ……4歳で顔を赤らめてるんじゃないよ。
「ヒューヒュー」とかいい年したオッサンどもが煽るんじゃあない。
ちょっとまて小母さんが涙ぐんでて小父さんが怒りの形相って何コレ。既成事実が告白もヘッタクレもなしに作られた!?
「フフフ、アルト君男と男の話をしようじゃ……ブゲラ」
「娘を宜しくね」
「兄上はノンの物です!」
ノンの物じゃあないけどある意味でかした我が妹よ!そしてゲラゲラ笑ってんじゃねぇ酔っ払い共。
思わず夜空を見上げるしか逃げ道はありませんでした。
某作品の主人公なら叫びたくなる所なのだろうけども、生憎とそのような恥ずかしい事は5歳にしてする勇気は無い。
「まあ、あれだ、そのうちなんとかなるだろう」