Wau×4 刀匠
「……美!」
『兄上また夢を見られていたようだ』
『そう、みたいだ』
ずっと、前世から引き摺っている想い。後悔ではない、それこそ神を殴り倒してでも知りたかった事。
力がない自分に対する憤りが見せる幻想。
ただそれだけだ、時間を飛び越える力があれば……
そんな都合の良い物なんて存在し無い事は理解している。
でもあの『あ!』の神に出会ったら聞き出そう。
そういえば長年『あ!』の神だと云っているが果たして名前はあるのだろうか、いっそバカ神とか間抜け神とでも名付けてしまおうか。
『そろそろ起きる時間であるぞ兄上』
「っしょっと」
5年も一緒に暮らすとリックも慣れたもので知覚や嗅覚の敏感な部分を担当してくれる。
仕組みはわからないがメインは俺でサブがリックといった感じで魂が存在するのだろう。後ろに目がある訳ではないが、2人で共有する情報を一つの脳で判断する。最初は戸惑った。右に神経を張り詰めて左からの情報を同時進行で処理しないといけなかったからだ。今では問題なくこなせるけれど、普段は一旦リックの意識で留めた情報で必要な物だけを抜粋して伝えてくれるので非常に重宝しているし、犬獣人を超える性能を発揮しているのでは無いかと思う程だ。音や匂いについての感覚は本体である俺よりもリックの感覚からの情報の方が凄いのだ。
全く不思議な体だと思う。今もノンノが近づいていると知らせてくれた。関係はあるのか不明だけどリックが其処から聞こえるの? と思う距離で親父の運転する車の帰りに気が付いていたりしていた事がある。
もしかすると其の手の判断する何かを聞こえてはいても判断しきれていないのが人間の脳だったりするのかも知れない。一種の達人の領域じゃないだろうか。
剣豪が虫の知らせを能力として持っていたなんて逸話は意外と転がっている、知人が尋ねてくる事を予見したりした話も知っているし、前世の母の家には死ぬ挨拶に叔父が訪ねてきたなんて話もあったぐらいだ。世の中人間が理解していない能力なんかが溢れていて当たり前なんだろう。なにせここは異世界だ。超常現象如きで事象改変能力の使えるこの世の中を驚いていられるか。
そんな訳でノックの音と共にノンノが入ってくる。妹とはどうしてここまで可愛い存在なのだろうか。全く不思議だ。
「お兄ちゃんおはよう」
「おはようノン」
毎朝こうして起こしに来てくれるなんて、何歳までしてくれるのだろう……
ずっと続けて貰え、尊敬してもらえる兄でいたいものだ。
「今日はお兄ちゃんが待ちに待った日なんだよ」
「そうだね、ありがとう」
ワシャワシャと頭をなでてやると気持ち良さそうにしている。
『兄上の撫でスキルの高さは生前と変わらぬのである』
『なんだかそれを云われる度に申し訳なく思うな』
『仕方ないのである』
どうやら生前の俺の撫で撫では破壊力が凄かったらしい。まあ確かに仰向けにまでなる犬が続出していたもんな、リックや散歩で知り合った犬達にしていたのは大好評だったらしい。同族よりも犬にモテてた俺って何なんだろう。時折だけど呆け神に送られたこの世界でのこの運命も予定調和だったのではないかと思えてくる。
「よし、じゃあ朝ごはんの用意をしないとな」
「お手伝いするの」
日が昇れば動き出し、日が沈むと家で過ごす。ランプはあるし、夜目も働く獣人種はヒトに比べると動く時間帯は長いが基本自然に合わせたライフスタイルになっている。
水道なんかが無いから水汲みなどが子供の仕事で、言うに違わず我が家でも基本の仕事は変わらない。小川まで行くのが面倒だった事から井戸を掘ったのは記憶に新しい。以前は桶を天秤棒に担いで家と小川を毎朝往復していたのだけど、両親を必死に説得して穴を掘りまくったのだ。
そして山の湧水を掘り当てる事ができ、湧き出してくれたので汲み上げる必要も無くなって水汲み場として活用できるようになった。今では村の共有財産で、朝になると子供の社交場として、昼は母たち女性の社交場になっている。親父たちは湧き水で作る酒が美味しくなったと喜んでいて、ともあれ大活躍の湧き水を掘り当てた俺と我が家は村でも感謝される対象になっている。
「おはよう」
「ちっアルトハルトか」
舌打ちしたのは以前に懲らしめた前ガキ大将のノーム。悲しいかな彼はガキ大将の地位を奪われたまま、現在は7歳になっていてるので狩りに付き添うようになっていた。とは言えど、依然としてまだ家族と共に暮らす子供なのでこうして水は汲みに来る。しかしコイツはわざわざフルネームで呼ぶとか、まだまだ敵対心剥き出しだな。
こちらが気にしなくてもプライドやらなんだと色々とあるのだろう。だがそんなのは知った事じゃない。弱いもの虐めをしていないならこちらから突っかかる必要もないし、狭い村でそんな事をしても何にもならない。しかしそんな風に割り切っていたのはこちらだけだったようだ。
「お前には借りがあるからな、残念だったな、俺は既に狩にでかけ獲物も仕留めてるぜ」
「そうか、頑張ってくれ」
「テメエ、年上に対して生意気だぞ」
ノームの子分其の一が突っかかってきても知らない振りでやり過ごす。うーん俺達の漁や普段の狩の成果を知らないらしい。そもそも喧嘩して仲間外れにする気は無かったが、あれ以来こちらのグループとノームの取り巻きだけは別行動だったからな。
「プッ」と堪えきれなかった年少組みの子供が笑ってしまっていた。まあ実際にノーム達が毎日のようにビルシュなりを仕留めているならともかく、此方の子供達はコンスタントにラビトや魚、ケッコーやホッコ鳥なんかを捕まえて、時にはビルシュまで仕留めてくるのを知っている。そんな俺に対して高飛車な言葉が滑稽だったようだ。
毎日配られるようになったケッコーの卵も狩にだけ一生懸命で実情を知らなかったのだろう。
「何笑ってんだ」
「だって、アルトは沢山獲物を取ったり村に貢献してるのに」
「なっ」
「知らないのか、ケッコーの卵毎日貰ってるだろ、あれはアルトのお蔭だぜ」
小さな子供を脅したのでピックとプラドが前に立ち塞がりながら説明する。
「それに加えてビルシュも仕留めちゃうわよ」
シャルティがさらにダメ押しで、ノームのプライドを言葉の剣で切り裂いてしまった。実際見習いとして狩に付いて行ってるだけのノーム達はまだ自分で獲物が取れてない事を知っていたのだ。
「そ、そんなバカな話があるかっ」
「嘘をついても無駄だからな」
「そんな嘘までついて自慢したいのか」
ノームに取り巻き其の一其の二も必死になって言い返すが久しぶりに会ったからな、何というか、相変わらず性格が変わってないのだけは解ったが、鬱陶しいままなのはどうにかして欲しい。
「ならお父さんにでも聞いてみたら」
「長老さんに聞いてもいいと思う」
「でもだからって仕返しにきたらまた穴に落とされるからね」
「クソッ、行くぞ、ガキの相手なんてやってられるか」
「「はい」」
「ちなみに卵の所で悪戯とかしたら長老達に叱られるだけじゃすまないよ」
口々に言い返されてしまい引き上げるノーム達、見事な捨て台詞だと思うよ、これぞテンプレだ。
一応最後に、ありえないとは思うけども、腹いせにケッコーの飼育を邪魔されると困るから釘を刺しておいた。どちらかと言えば彼等の為だろうなあ、野獣なんかに襲われたら問題にはならないけど、自分達子供の世話の対象だからといって既に村の財産だからね。壊したらきっと罰を受ける。
「はあ、相変わらずなんだな」
「あれから2年経って、狩に出かけるようになったから態度が元に戻ってたな」
「アルト君にやられてから大人しくなってたんだけどね」
「反省はして無かったみたいよ」
10歳になって狩さえできれば一人前と見做される犬獣人族なのでそろそろ落ち着いてくれるといいんだけど、でないと今後狩に参加するようになった時にきっと問題が起こる。
アルトは憂鬱な気分になりながらも桶に水を満たして天秤棒に担ぐと「また後でな」と声を掛けて家へと帰った。
『懲りぬ輩である』
『人ってのはそんな簡単には変わらないってことだな』
『兄上は素晴らしいのである』
『ありがとう』
家にアルトが戻るとノンノが野菜を剥いていた。水瓶に桶から水を移してやる。面倒だから身体能力の上昇を使って3回分を一度で済ましているが、子供としては規格外だと両親も解ってくれてるから問題は無い。
「アルト今日は例の刀匠が来るんだろ、獲物も出来たしそろそろ」
「まだ5歳ですよあ・な・た」
父親であるラインハルトがもう狩に連れて行っても良いんじゃないかと考えるのだ、妻であるアンからはまだ早いと言われ続けているが此れを機会に狩に連れて行きたいのだろう。
「いや、それは解っているがな、既にアルトは一人前だぞ」
「だからなお更です、子供のうちにしか出来ない事もあるし、こうして卵の料理が毎朝並ぶのはアルトのお蔭だし、年少の子供達の面倒もみてくれて毎日獲物を確実に取ってくる。しかも同い年の子供達もアルトと一緒に居る事で狩りの腕前も伸びているでしょ。それなのに態々急いで森の狩に連れて行ったりしない方が村の為なるわよ」
父もアルトの才能を伸ばそうと思っての発言だったのだが、アンからの一言に対して三倍をもって言い返す勢いに押されている。
「父さん、確かに早く狩には行きたいんだけど」
「そうか、そうだよな」
「でも、狩に行くならピックやプラドと一緒にと考えてるし。まだ年少の子達を僕達が抜けた後に面倒をみる子が大きくなってない。だからもう少し僕は子供達と一緒に狩の練習をしてるよ」
「そうか、年少の面倒を見るのも大切だからな」
一瞬尻尾を振って喜んだ父には申し訳ないが、やはり仲間を育ててから狩には出かけたい。それに母の云う通り、実際狩にでなくても十二分な戦果を常に出している。
「どちらにせよ自慢の兄上なのです」
「そうそう、自慢の息子なんだからそんなに落ち込まない」
「別に落ち込んでる訳じゃない、だが森に入っての狩こそが一人前の証だからと思ってな」
「まったく男衆って頭が固いのよ、平野や森の入り口だけであれだけ獲物を捕らえる腕を持ってるのに森の中じゃないと腕を認めないとか、長老達と協議しようかしら」
さすがに母さんそれは……
「嫌、悪気があって言ってるんじゃないんだぞ、だがそう見做す連中もいるのは確かだ」
「大丈夫、別に一人前とかそう云うのは狩に参加しだしてからだから」
「流石私の息子」
「流石私の兄上」
「なんだか疎外感があるのは気のせいだよな、アルト」
「そこで話を振らないでよ父さん」
「フフフ」
朝食を食べ終わった父から狩に出かける準備をして家を出かける。俺とノンノは洗い物を済ませてから先ずはケッコーの飼育小屋を掃除しに向かう。
「おはようシャル」
「おはようアルト、ノン」
「おはようなのです」
家の前で待っていてくれるのも既に日課に近い。雨でも降らない限りは必ず3人で飼育小屋に向かっている。
『兄上はとうとう同族にも……いや我が一緒だからか、うむそうだろう』
リックが何やら考えているが、あれか犬にモテる才能云々だっけ。幼馴染と仲良くするのは別だと思うのだが如何なものだろうか。
「ケッコー!」「ココココッ」「コケーッ」と中々にケッコー達は騒がしい、予定より多く捕まえているが順調に卵も産んでくれている。小屋は二日に一度のペースで掃除をしてやる。かなり広いスペースで飼っているのだけど餌がなくならないように散歩に連れ出す係りまで今は居る。其の間に別の者が小屋の中を綺麗にしてやって糞などを集める。あとは水の容器を綺麗にしてやって水を入れ替えてやれば終了だ。
最初のケッコーの雛も既に大きくなってきているし、グェンドリンに番を渡すことも了承を得ている。
散歩から帰ってきたケッコー達を放してやって、いつもなら狩に出かけるのだが、今日はそのままグェンドリン達闇輝人の一団を待つ事になった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「ようアルト元気にしてたか!」
「うん、グェンドリンも元気そうだね」
「フッハッハ、例の注文以来やる気が出て来てな20歳は若返った気分だ」
本気で若返ったような気がするな。ファンタジー世界だけにほんとに若返ったのかも知れない。
そもそもグェンドリンの年齢を知らないのだが、闇輝人だしな。
「早速だが、こいつが例の品だ、長く鍛治職人として頑張ってきたが今回程の一振り程面白かった仕事はねえぞ。おい、サラ持ってきてくれ」
「ふうーん君がこの刀の持ち主になるのか」
「?」
「おっと、こいつはサラって言ってな俺の娘だ、生意気にも鍛冶職人になるって聞かなくてな」
「はじめまして、サラさん」
「うん、初めましてだね、そうか面白いな親父」
「そうだろう?」
「ほら、この刀っていう剣だよ抜いてみて」
「刃の部分……なんの素材使ったんだ? 黒銀な訳が無いし」
「最高傑作を作ろうと思ったんだ、そいつの芯の部分材料は嘘か本当か竜の鱗さ」
「竜の鱗?」
「ああ竜鱗鋼ってのが闇輝人の鍛治職人が呼んでるそいつの名前だな」
「いや、でも鱗だろ?」
「なんで竜の鱗が硬いのかって話だ。竜は普通の魔獣や魔物なんかとは訳が違う、世界最強を占める奴等だぜ、祖先の言い伝えだが竜は成長する時に魔素を吸い込みながら成長して魔力を肉体にしていくらしいんだ。そしてその時に竜が生み出すのが竜鱗鋼って訳だ。」
刀の作り方を話した事に興味を持ってくれたのが切っ掛けで、俺の刀を作ってくれるって話になった。そこで竜鱗鋼の量が少ない事から丁度いいと芯鋼の部分に竜鱗鋼を使い、皮鉄にあたる部分に聖銀鋼という合金にしたのだとか……
そんなファンタジー物質で出来てるのかこの刀。刃の部分だけが鈍い黒銀色、合金の部分が聖銀の性質が強いのか白金のような輝きを放っている。
「こいつの特徴はな、成長するってことだ、どんな刀になるか楽しみってもんだ」
「ちょっと、俺もそれなりに獲物を取ったけど、そんな凄い刀の代金払えないぜ」
「そんなの初めっから解ってるわよ」
「うむ、アルトの依頼の材料の刀は脇差の方できちんと作ってるさ、まあちょっといじってるけどな」
「今回の刀ね、悔しいけど本当に最高の出来だと思うわ、なんで両刃の剣にしなかったのか今でも惜しいと思ってるくらいですもの」
「だからこの刀は俺が好きに打たせてもらった一振りだから、約束通りの品が手に入ればそれで構わんさ、それにそっちも予定外の品を用意してくれたんだろ、長老に聞いたぜ」
「ケッコーの番な、毎日卵を産んでくれるから便利だよ、予備の餌もつけておいた」
「まあ、成長した刀がどうなるかそれも時折見せてくれる約束してくれればそれでいいさ」
「よし、決めた親父暫くアタシは此村で修行する」
「「へ?」」
思わずグェンドリンと一緒に間抜けな声をだしてしまった。修行、この村で、何するの?
「だってこの子面白いじゃない、5歳の犬獣人にしては落ち着いてるし、この年齢で刀を欲しがって親父が鍛治で特注品を渡す相手だろ」
「いや、まあな確かにアルトは凄いが本気かオメエ」
「アタシの目標は親父を超える鍛冶職人、それに親父だって最初は旅をして見聞を広めたんだろ」
「うーん、滞在の許可は長老に言えばなんとかなるだろうが、ハンナにどう説明するんだ」
「母さんには親父が説得してくれると信じてるわ、それにアタシの事なんだから母さんだって諦めるわよ」
「サラさん、此村に残るの?」
「ええ、まあ本格的な親父みたいな刀とか剣は無理だけどこれでも若手では一番の腕よ」
「いいのグェンドリンさん」
「言い出したら最後だ、反対だっていっても聞かねえだろうからな」
「と云う訳で宜しくね、アルト君」
「はい、宜しくお願いしますサラさん」
「おっと、残りの品物も渡さないといかんな」
鏃や槍の穂先、鎖に弓の部品とか。これも大事だからな。
「しかし、この皮は見事なもんだ」
「本当、なんでこの皮は刺し傷が無いのかしら」
「今回注文したこの鉄の球があるでしょ」
「おう、とにかく硬けりゃ問題ないって言ってた奴だな」
「これを使うとその皮を仕留めた武器がより強力になるんだ」
「へえ、ちょっと見せて欲しいんだが構わんか」
「私も興味があるわ」
「構わないよ、グェンドリンさんの用事が全部片付いたら一緒に狩に行こうよ」
「おお、まあ昼過ぎには終わるからそれまで待っててくれ」
「じゃあ其の間に武器を用意してくるよ」
「アタシもついていって」
「サラは村長や長老達に滞在の許可を取るから後でだ」
「うーん、それじゃ仕方ないわ、アルト君また後でね」
「それじゃグェンドリンさんもサラさんも後で迎えに来るね」
なんだか凄い一振りを貰う事になっちゃったな。
『兄上に相応しい業物である』
『いや、この刀に相応しい腕にはまだまだ修行が足りないよ、それに本物の竜の素材なんて聞いた事も無かったって事は超お高いんだと思うんだ』
これは以前にまして修行の時間を増やさないとな、今は先ず体を作らないといけない。
「アルト、もう用事は済んだの?」
戻る所でシャルティに声を掛けられた。どうやらシャルティは包丁を手に入れたらしい。
「シャルももう帰るのかい」
「うん、ほら、新しい自分専用の包丁なの」
「良かったね」
5歳にもなれば料理の手伝いなども女の子は始める事になるからな、弓やナイフより家事用の道具になるのは仕方ない。シャルティだったら鍛えれば間違いなくプラドよりも腕が良くなるんだけど。
「どうしたの黙っちゃったりして」
「ううん、大したことじゃないさ、包丁を持つなら来年からはいよいよ小母さんの手伝いを始めるんだね」
「もう習い始めてるから料理はアルトより上手くなるわよ」
「凄いな、もう手伝ってるんだ」
「えへへ、先月からなんだけどやっぱり料理ぐらいは美味しい物が作れるようになりたいじゃない」
「小母さんの料理は美味しいからな」
「アルトのお母さんだって美味しいから、きっとノンも料理上手になるわ」
「そうだ、この後なんだけど、グェンドリンの親方に例のボーラの使い方を教える狩に行くんだけど一緒に行かないか」
「行くわよ、勿論だわ」
「じゃあ俺はプラドとピックに声を掛けてくるから」
「何処で待ってたらいいのかな」
「そうだなあ、ケッコーの小屋にしよう」
「はーい」
っと一応そういったもののピック達はどこにいるかなあ、きっと何処かの品物を交換するのに回ってると思うんだけど。
「生意気なんだよ、お前等がナイフを持つなんて早いんだ、だーかーら、俺様がこのナイフを交換する」
「俺達が先に交渉してたのになんで割り込んでくるんだよ」
探す必要も無かった……狭い村だから直にわかっちゃうんだけどなあ。
「ピック、プラド」
「「アルト」」
「またアルトか、一度俺達に勝ったぐらいで偉そうにガキ大将気取りになりやがって」
「口出ししてすんなよ、これは俺達こそ使うに値するナイフだ」
「はいはい、なあピック、プラドあっちで親方を紹介するよ、急いでナイフを仕立てなくてもサラさんもいるしさ」
「サラって誰だ」
「親方って、おーその腰の刀作ってくれた人か、よしじゃあ行こう」
「ごめんね小父さん、其のナイフはそっちのお兄さん達が交換してくれるから、騒がしちゃった」
「なに良いって事よ」
ノーム達の相手をしてやってもいいけど村で諍いを起こすってのは良くない。折角の物々交換の場だし、しかも刃物を持った状態でなんて危険すぎる。
「待てよ」
「何? ナイフはノーム達に譲ったんだ文句は無いだろう」
「生意気だ」
「「「は?」」」
「年下の癖に生意気だって言ってるんだ」
「そうだ、俺達は狩に出てるんだもっと敬いやがれ」
「だいたいピックなんてドジでのろまの癖にナイフを持とうとするのが可笑しいのさ」
「確かにお前たちは年長だ、だけどそれだけだろ? それを偉そうに」
「やるってのか?」
「泣かすぞガキど」
ゴンゴンゴンと小気味のいい音が鳴り響いた、最後まで喋らせてもらえなかった取り巻き其の二まで含めて、3人とも長老の杖で頭を叩かれていた。あれは痛いだろう。
「この馬鹿モンどもが、ナイフを持ったままで何をしとるんじゃ、危ないじゃろうが」
「年下に躾を(ゴン)」
「何が躾だ阿保タレが、アルト達はお前たちが5歳の頃には考えられんほど村に獲物を持って帰ってきおるし、問題も起こさん。それをお前等が躾じゃと? 10年早いわ!」
「嘘だっ(ガツン)」
「この戯け! 嘘じゃとは何事か」
「だってあり得ないだろ(ゴツン)」
「お主らもう狩から外れてアルトに教わるぐらいのレベルじゃぞ、まったくお主の父親どもに話を付けてくれるわ、ほれ歩かんかあ!」
「流石に教えるのは勘弁して欲しいよな」
「困ったね」
「まあ幾らなんでもそれは無いでしょ」
ナイフを受け取った3人は長老に頭を叩かれながら広場を去っていった。長老は未だ現役で狩をする人だから怒らせると怖い事で有名だ。ご愁傷様だが、身から出た錆だ潔く罰を受けてもらおう。
「坊主、その腰の剣だが、それはグェンドリンさんのか」
「そうだよ」
「なるほどな、これからこの村に来るのが楽しみだ、ハッハッハ」
何でそうなるのか解らないけど、やっぱりこの刀に使った竜鱗鋼が凄いって事だよな。
グェンドリンさんの所まで戻ってとりあえず2人にナイフを見せてやって欲しいと伝えた。
「成程、ふむアルトの仲間か、俺の打った品じゃあないが娘の打った物でもこのナイフとかは使えるぞ」
「失礼しちゃうわ、父さんには負けても他の鍛治師に負けてる心算はないわよ」
「まあ、こうやって云うだけの腕はもってるからな、仕上げなんかは一流だ」
「仕上げだけじゃないのに」
「じゃあグェンドリンさん頼んで良いかな、準備に帰る途中だったんだ」
「おう、まかせろ此奴らも狩に行くんだろ」
「そういうこと」
「じゃあアルト有り難う、何処に行けばいいんだ」
「ケッコーの小屋にグェンドリンさん達を案内してきて」
「任せろ」
これで時間をロスした分は帳消しだな、迎えに来る手間が無くなった。
急いで家に帰ると本命のボーラから組み上げる、組み上げるといっても蟲糸で作ったロープに結びつけるだけなんだけど。腰のベルトに下げれるように真ん中にリングを取り付けて左右に金属の球を結びつけて出来上がり。槍とかはまた時間のある時に作ればいいや、それよりもこの弓だ、まだ使いこなせないけど滑車を利用した弓は強力だからな。弦は勿論蟲糸で出来ている。絡繰を使って引っ張るクロスボウも考慮にいれたけどどうしも発射速度が遅くなりそうなのでコンパウンドボウになった、とは云っても身体強化の事象改変能力を使わないと引けないだろうけどね。まあ武器はボーラと弓、それに刀と脇差にナイフがあれば十二分かな。あんまりノンビリしてたら待たせちゃうだろうからこれで良いや。
後はお昼は魚でも焼いて食べればいいから魚篭と穀物の袋っと、それと調味料の筒をもって行こう。
家を飛び出したアルトは新しい武器も手に入れ、元気一杯の笑顔でケッコーの小屋へと走り出した。




