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馬酔木  作者: 川蝉
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数ヶ月後の二人

 ここカルレア王国の王都には天高くそびえる白色の城を囲むように城壁があり、その壁内の一画に軍の訓練場はある。そこに私と黒崎はいた。



「次の私達の出番は一週間後だってさ。…うわっと、相変わらず黒崎の一撃は当たったら一発でやられそう」


 黒崎の剣を後ろに跳んで避けながら私は言った。


「そりゃ楽しみだ。この前の初陣以降、城に戻されてすっかり戦場から遠ざけられてたからな。だったらさっさと当たれ。紺野は相変わらずちょこまか動きやがる」


 攻撃の手を緩めずに黒崎は言葉を返す。


「初陣でうっかり敵味方関係なく周囲殲滅しちゃった誰かさんの扱いに悩んでたんじゃない?私はパワーじゃお前に勝てないからね」


 隠し持っていたナイフを何本か連続で投げたが、黒崎に剣で弾かれた。しかしその隙に一気に黒崎の背後に回り込んでその首に剣を当てる。よっしゃ今回は私の勝ちだ。


「俺はお前にスピードじゃ勝てねえよ」


 そう言ってから黒崎は「まいった」と続けた。お互い剣を下ろすと、黒崎は悔しそうな顔をしながらこちらを見る。


「大体、結構な数の敵を減らしたんだからその話はもういいだろ。もともとあの戦いは俺達の御披露目みたいな意味もあったんだ。相手にインパクト与えるっていう仕事は俺は十分やった」


 まあ確かに倒れ伏す兵士達の中心に、全身血を浴びて真っ赤になった黒崎が立っていたのは、相手にとって衝撃的だったと思う。つかみはOKだ。味方も恐怖に震えてたけどな。


「その点お前は不合格だろ。もっと目立てよ。気づかねえうちに俺の近くからいなくなってると思ったら、なんで敵の隊長格の首を何個も抱えて帰ってきてんだよ。味方もビビってたぞ」


 あの時の空気は最悪だった。


 敵の階級が高そうなやつらの首を取って、自慢しようと意気揚々と黒崎の元へ戻ったら、「信じられない」という恐怖の眼差しを向けてくる味方兵、「まさか隊長達が…!」という愕然とした顔をする敵兵、そして「なんで俺が戦う相手を残しておかなかったんだ!」とキレる黒崎。ひどいもんだった。


「全然大したことない強さのやつらだったから」と必死で黒崎をなだめたが、キレた黒崎は周囲を気にせずに暴れ始めたため、私は説得を放棄してその場を離脱、しばらくして様子を見に戻るとそこには敵味方関係なく倒れ伏す兵士達の中心に血まみれで立っている黒崎がいた。あれは壮観だった。


「じゃあ今度から黒崎の近くで戦うよ。そしたら私も目立つはず。それに一緒にいたら、どっちかだけが強い敵と戦うってことにはならないだろうし。ちゃんとお互い強いやつらと戦えるようにしよう」


「おう、そうしとけ。俺は紺野と一緒の方が戦ってて楽しいし戦いやすいから丁度いい」


「うん、私も黒崎と一緒に戦うのは楽しい。それにこっちに召喚されてからずっと一緒にいたからか、なんか近くにいないと落ち着かなくなってきたんだよね」


 そう言うと、黒崎は目を見開いて驚いた顔をした。数ヶ月一緒にいたら黒崎の凶悪な顔つきなど気にならなくなった。まあ召喚された初日に一気に距離が縮まってしまったからということもある。


 いろんな表情をしても、基本的にその目つきの悪さは変わらない。けれど、驚いた後にその目が細められ、口の端が緩んでいる今のような表情を見ることができた時はなんだか嬉しい。


「俺も最近はお前が近くにいないと落ち着かねえな」


 黒崎はいきなり私の頭に自分の手を乗せるとわしゃわしゃと頭を撫でだした。力が強いから頭がぐわんぐわんするし、顔を上げられない。でも黒崎が肯定してくれたことに安心したので文句は言わないことにし、そのまま会話を続けた。


「ほんと一緒にいる時間が長いしね。結局ずっと初日と同じ部屋で生活してるし」


「まあいいんじゃねえの?ジジイ達にとっても都合が良いみたいだしな」


「ヤバいやつらはまとめて置いときたいみたいだね。見張りの兵も集中させられるし。このまま二人ともこの部屋で良いって言ったらあからさまにほっとした顔してたよ」


 頭を撫でていた黒崎の手が止まりやっと離れたたため、私は顔を上げた。そこには何か考え込んでいるような顔をした黒崎がいた。いつもより眉間に皺が寄っている。そして黒崎はぼそりと呟いた。


「お前と一緒ならずっとこっちの世界にいるのも悪くないかもな。ここなら思いっきり暴れられるし、お前と勝負できるのは悪くない。むしろいい」


「あ、それは私も少し思った」


 剣を握り、それを振るうのはとても興奮する。特に黒崎との勝負は最高に楽しい。


 最初は戦闘訓練ということで軍の兵士から武器の扱い方などを教わっていたが、実際に打ち合いを始めると、すぐに訓練場にいる兵士達では相手にならなくなったので、ほとんどお互いとの勝負ばかりをしていた。


 勝ったり負けたりを繰り返して、勝敗の数など途中から数えるのを止めてしまったけれど、ギリギリの勝負というものは素晴らしい。ゾクゾクする。


 前線にほとんどの兵士が投入されているから、この訓練場に来る兵士は城にいる王族を守るのが仕事の人達くらいで、みんな結構プライドが高い。そんな人達をあっさり負かしてしまったから、訓練場で私達に近寄ってくる人はおらず、実に快適だ。まあ遠巻きにこちらを見て何かごちゃごちゃは言っているようだが気にしない。


「でも流石に家族には会いたいしなあ」


 我が家が恋しくなったりもするのだ。ずっとこっちにいるというのはできれば遠慮したい。


「じゃあもし元の世界に帰れなくなったら?この国がロスディアナに負けちまったらお前はどうするつもりなんだ」


 ロスディアナにカルレアが負けてしまったら、救世主としての役割が果たせなかったってことだから帰れなくなってしまうんだよな。まあ、そうなったらもうどうしようもない。






「その時はこの国から逃げ出して二人で旅でもしようか」


「そりゃ楽しみだ」


 黒崎はニヤリと笑って、また私の頭を撫でた。頭を撫でるのを気に入っているんだろうか。私は黒崎に撫でられるのは結構落ち着く。この豪快にわしゃわしゃする感じが良い。






「しっかし、救世主なのにヤバくなったら国を見捨てて逃げるなんて言って良いのかよ」


「三十六計逃げるに如かずってやつだよ。じゃあ黒崎はどうすんの?この国に最後まで付き合いそうには見えないけど」


「馬鹿か、お前と一緒にこんな国逃げ出すに決まってんだろ。さっきお前が言った旅も悪くねえな。どこに行く?俺はロスディアナに行ってみてえ。あそこは武器の製造が盛んらしいし、良い剣が手に入りそうだ」


「それもう完璧に観光旅行気分じゃん。しかも敵国だし、バレたら殺されるよ?…ああでもいろんな剣がたくさんあるんだろうなあ。私だって行けるなら行ってみたい」


「だろ?そうだ、今日はもう一勝負したら城下にでも行こうぜ。武器屋巡りしたくなった」


「いいね。じゃあ始めようか」






こんな私達が救世主だなんて、まったくひどい話もあったもんだ。




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