襲撃 後編
「お前、回復魔法は使えるか?」
「え?」
男の子は「俺はもう使ってしまったからな」と呟きながら、わたしの手を取った。
「魔力を手元に集めろ。そして傷が癒えた状態を想像するんだ」
「は、はぁ……」
わたしはとりあえず目を閉じて、男の子と共に足の傷に手をかざした。でも、何も起こらない。男の子は呆れたようにため息を吐く。
「あのなあ、魔力を込めろって言ってるんだよ」
「あっのねぇ! そんなこと言われても、わたしやったことないんだよ!?」
つい素がでてしまった。自分でもびっくりして唇を手で押さえる。男の子は驚いて呆気に取られていた。
この男の子はおそらく貴族だ。服装や所作がそれを物語っている。だららだろうか、きっと誰にも怒られたことのないおぼっちゃまなのだろう。
「……じゃあそうだな。お前、貴族だろう? なら、身体の中にぐるぐると魔力は流れているはずだ。感じてみろ」
「感じる……ねえ」
わたしは今一度目を閉じると、集中した。「魔力」というものを感じるために。
しばらくそうしていると、確かに自分の身体の中に、何かが流れているのがわかった。わたしはそれを動かして、手のひらに集める。そして、言われた通りに傷が元通りになるように想像すると、手のひらが赤い光で光った。
「治れ……治れぇ……!」
「お前、本当に回復魔法、使ったことがないのか? 習得が早すぎる」
「お褒めに預かり光栄ですよ! てか集中してんの! 話しかけるな!」
おそらく薫の時よりも年下であろう子供にムキになってキレるわたしはダメな大人かもしれないが、本当に集中しなければ難しいのだ。仕方がないだろう。
「お、おぉ! 治った! すご……」
「はっ! そんなに騒ぐことじゃねぇだろ」
目の前の男の子……いや、残念なイケメンが片眉を上げて笑う。わたしもニッコリと微笑んだ。大人の余裕を見せてやろう。
「申し訳ございません。わたくし世間知らずなもので」
「ふ〜ん、今度は挑発に乗らないんだな」
さっきのも挑発だったのかよ!? と、言いそうになるのをグッと堪えていると、木にもたれかけさせていたルックルドが目を覚ました。
「……ハーリン様! 無事ですか!?」
「えぇ、ルックルドこそ。もう痛みはありませんか?」
「はい……まさか、ハーリン様が?」
わたしはこくりと頷いた。すると、ルックルドが息を呑んだのが聞こえた。その心はおそらく、「魔力を知らなかったハーリン様が!?」といったところだろう。
「失礼なこと考えているでしょう?」
「そそそ、そんなこと、考えているわけがないでしょう!? ……あ、癒しを与えてくださりありがとうございます」
「んぶっふ!」
そんな失礼極まりないやりとりをしていると、残念なイケメンが吹き出した。わたしはムカっとしつつ、大人の余裕をさらに見せてやった。
「……回復魔法について教えていただきありがとうございました。えっと……」
「俺はルザウェイト。……ルザウェイト•アイゼダーフだ」
わたしはその名前に聞き覚えがあった。いや、正確には見覚えだろうか。
「ルザウェイト……って、サンクルレンの次期公爵!?」
残念なイケメンこと、ルザウェイト。
サンクルレンの次期公爵でした。
ハーリンと同じ立場ですね。
気づきましたか? 薫は超短気です。




