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プロローグ

「きもっ! ぶつからないで」

「ねぇそこどいてくれる? 邪魔なんだけど」

「何? なんか文句でもあんの?」

「あ〜。……うん、ありがと。そこ置いといて」

「ちょっとやめなよ〜! かわいそうでしょ〜」


 つくづく思う。この世の中はなんて理不尽なんだ、と。わたし、何もしてないよね? 何も言ってないよね? なんなの本当に。

 わたし、水城薫みずきかおるはため息を吐く。


 ……はやく帰りたい。


 わたしは階段をおりて、靴箱の前に立ち、中からローファーを取り出した。すると、取りだした拍子に、カサリと何かが地面に落ちた。それは、ラブレター……なはずもなく、まるめられた紙に、いくつかの飴のゴミだった。

 紙を開いてみると、「学校くんな」「臭いんだよ」などという、様々な字癖で辛辣な言葉が並べられていた。キリリ、とまた胃が痛くなる。


 わたしは母子家庭で、母は夜遅くまで働いている。わたしもバイトのシフトをたくさん入れているけれど、家庭の金銭状態は一切良くならない。だから、節約する。風呂みずも、電気もなるべく使わないようにしている。


 靴箱に入っていたゴミと紙をゴミ箱に投げ入れる。


 別に私は優しくなんかない。自分の生活のために働いて、節電しているだけであって、母の為ではない。でも、わたしをいじめた奴らは絶対に許さない。いつかきっと復讐してやる。


 そんなことを思いながら学校を出る。辛くないわけがない。でも、わたしは必死で生きていく。こんなクソみたいな世界に呑まれないように。


 長い長い階段を登っている途中で、わたしはふと、振り返る。後ろに広がるのは、茜色や薄い紫色の混じった幻想的で美しい夕焼け空だ。


 ふいに、わたしを見下すようにみる目や、平気で人の心を抉るようなことを言う奴らの顔が思い浮かぶ。キリキリキリ、と今までなんて比ではないような痛みが胃に走る。

 うっ、とうめき声をもらしながら座り込んだ。その時、ぐらりと体が傾く。そのまま階段を転げ落ち、ガンッ、っと頭をぶつけた。

 もう痛みも何も感じない。


 ……あぁ、わたし、死ぬんだ。


 朦朧とする意識の中、そう思った。ぼんやりとした視界の端には赤いみずたまりが広がっていくのが見える。


 ……ごめん、お母さん。ごめん、お父さん……もしも生まれかわったら、今度こそ家族を幸せにしてみせるから。


 そう誓ったところで、彼女の意識は途切れた。そんな彼女の耳には聞こえるはずもなかった。女神の鈴を転がすような笑い声が。


「あなたの願い、叶えてあげましょう」

「ハーリン転生物語 〜片手に絵筆でこの世界を征服します〜」はじまりました。

不運な少女の転生物語!

お楽しみいただけると嬉しいです。

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