第1話:永田町が凍りついた日
本作品に登場する出来事、人物、団体はすべて架空のものであり、実在のいかなるものとも関係ありません。
1. 激動の代表質問
「静粛に! 議場は静粛に願います!」
衆議院本会議場。議長の叩く木槌の音が、マイクを通して空虚に響き渡る。
しかし、すり鉢状の議場を埋め尽くす数百人の国会議員たちのざわめきは、一向に収まる気配を見せなかった。
壇上に立つ男――内閣総理大臣・春三は、向こうの喧騒を、冷徹な一瞥であしらった。その背中に浴びせられるのは、野党席からの怒号と、与党席からの困惑、そして生々しい驚愕の視線だ。
「おいおいおい……総理、正気かよ!」
「今なんて言ったんだ!? 聞き間違いか!?」
事の始まりは、ほんの数十分前。野党第一党である改革連合の頭過委員による、人口減少社会における国家戦略についての代表質問だった。
『総理、我が国はすでに人口減少が確定した社会に突入しています! にもかかわらず、政府の政策は依然として人口が増える前提、労働力が確保できる前提に依存したままだ!』
頭過は演壇を叩かんばかりの勢いで言葉を続けていた。
『そこで伺います! 総理、人口減少を前提とした“国家の形”をどう再設計するおつもりですか! 都市集中を維持するのか、地方を縮小しつつ集約するのか、外国人労働力をどの程度受け入れるのか、社会保障の持続性をどう確保するのか! これらは避けて通れない選択です! 率率なご答弁をお願いします!』
議場はにわかにざわつき始めた。
「おいおい、それは言いすぎだろ!」
「地方を切り捨てる気か!」
議長がすかさず言う。
「静粛に!」
壇上に立った春三は、官僚が用意した無難な答弁を口にしていた。
「まず、人口減少の問題としての政府の解としては、今後の人口減少を少しでも食い止めるため、子育て世代への支援、出産支援などを強化していくことが大切だと思っています。そのうえで、生まれた子どもへの手当ても強化し、今後10年で人口を1億3000万人へと増大させることを目標といたします」
その答弁に、頭過がすかさず噛みつく。
「総理、答弁ありがとうございます。いや……率直に言って、10年で人口1億3000万というのは、かなり“攻めた目標”を掲げられたなと感じました」
与党席から「当然だ!」「夢を持って何が悪い!」という声が上がる一方、野党席からは「いやいや無理だろ!」「現実を見ろ!」と激しいヤジが飛ぶ。
「静粛に!」
「総理、まあ議場は置いといて、ちょっとだけ雑談っぽく言うとですね、出生数が80万人を切ってる現状で、10年で人口を増やすって、相当な覚悟が必要なんですよ。現場では『お金より時間がない』『保育園が足りない』『働き方が変わらないと産めない』『住宅費が高すぎる』という声が出ている。手当て以外でどんな構造改革を行うおつもりですか? 働き方改革か、住宅政策か、保育の拡充か、教育費の構造改革か。ここが曖昧だと、目標だけが独り歩きします」
春三は再びマイクの前に立つ。
「予算は、責任ある積極財政を軸に、資金に強い日本を目指すとともに、国内の保育園等の教育施設の充実化、住宅支援などをします」
与党席から「よっ、総理!」と声がかかるが、野党席からは「また積極財政かよ……。財源はどこだよ!」と冷ややかな声が漏れる。
「静粛に!」
頭過はニヤリと笑って追撃する。
「『責任ある積極財政』って言葉、最近どの党も使いすぎて、正直もう国会の流行語みたいになってるんですよ」
議場にクスクスと乾いた笑いが広がる。
「静粛に!」
「持続的な財政運営と言いつつ、結局国債頼みになるんじゃないかという懸念が拭えない。金利上昇局面で積極財政を続けるリスクをどう管理するのか。明確にしないと、ただのスローガンで終わってしまいます」
春三は真っ直ぐに野党席を見据えて答えた。
「皆さんもご存知の通り、先進国の中でも日本の国債はとてつもなく安いのが実態です。せめて先進国の平均まであげることが大切なのでは?」
議場がドッと沸いた。
「おいおい、それは乱暴だろ……金利を上げるってことか!?」
「静粛に!」
頭過の目が鋭くなる。
「『日本の国債は安い』って言うと、議場が一気にざわつくんですよね。今もほら、ざわざわしてる」
議場が再びざわめく。
「静粛に!」
「金利が低いのは事実ですが、単純に先進国平均まで上げればいいという話にはならない。総理、『先進国平均まで上げる』という発言は、金利上昇を容認するという意味なのか、それとも市場に委ねるという意味なのか。ここを明確にしていただきたい」
春三は短く、言い切った。
「国民の働き場所を増やし、日本経済を50年前のバブル期のように活発化させる。これが基本です」
議長が慌てて身を乗り出す。
「約束の時間が過ぎています。速やかに質問を終了してください!」
野党席から一斉にツッコミが入る。
「50年前ってバブルじゃないだろ! 1970年代だぞ!」
「年数が違うぞ、総理!」
「静粛に!」
頭過は苦笑交じりに話をまとめる。
「総理、ご答弁ありがとうございました。いや、あの……まず一つだけ、ちょっと雑談っぽく言わせてください。『日本経済を50年前のバブル期のように』って、議場が一瞬『えっ?』ってなったんですよ。まあ、総理の言いたい熱量はわかります。ただ、現場からは『どの産業を伸ばすのかが見えない』という声が出ている。働き場所を増やすとは、具体的にどの産業を指しているのですか? デジタルか、観光か、製造業か、医療・介護か、スタートアップか。そして、賃金をどう上げるのか。ここがなければ人口減少対策にはつながりません」
春三は短く答える。
「自動車産業など日本の得意な分野です」
「時間が過ぎています!」
議長が声を張り上げる。
与党席からは「よっ、総理!」と拍手が起きるが、野党席からは「説明になってないぞ!」と不満が噴出する。
「静粛に!!」
頭過が席に戻ると、議長が次の質問者を呼び上げる。
「これ以上の私語は慎んでください! 総理、答弁は簡潔にお願いいたします。続いて――共産党、赤獅子委員」
議場の空気が一変した。「来たぞ赤獅子……」「今日は一段と噛みつくぞ……」
ゆっくりと立ち上がり、資料をトントンと揃えながら、赤獅子委員がマイクの前に立つ。眼鏡を外して軽くため息をつく、あの独特の皮肉っぽい空気だ。
「総理。先ほどからのやり取り、ずっと聞いておりましたが……どうにも中身が見えない答弁が続いていると言わざるを得ません。失礼を承知で申し上げます。国民は勢いではなく、具体策を求めているんです。……しかし、先ほどまでの経済議論も重要ですが、安全保障の議論を避けて通るわけにはいきません。特に――中国、台湾、指定などの防衛政策。これは国民の命に直結する問題です」
与党席から「お前らが言うな!」「防衛を語る資格があるのか!」とヤジが飛ぶが、赤獅子はそれを黙殺して質問を突きつける。
「総理、中国は最大の貿易相手国である一方、安全保障上の懸念も大きい。尖閣周辺での活動、軍事力の増増(増強)、経済的依存のリスク、台湾情勢への影響。総理、中国との関係を“競争”と“協調”のどちらに軸足を置くのか、明確にお答えください。さらに、防衛費の増額について、増税の懸念や不透明さを指摘する声がある中、何を最優先にするのか。率直にお答えいただきたい」
手元の原稿を静かに伏せ、春三はマイクの前に一歩進み出た。
「私としては――中国とは断交もいいのでは、と思いますが」
その瞬間、議場がバチンと音を立てて凍りついた。
一瞬の静寂。次いで、爆弾が落ちたかのような怒号が議場を揺るがした。
「ちょっ……総理!?」
「おいおいおいおい……ついに言ったぞ……」
「これは国際問題だぞ!! 取り消せ!!」
与党席の重鎮たちが顔を青ざめさせ、野党議員たちが一斉に総立ちになる。議長が慌ててマイクを叩くが、誰も聞いていない。
赤獅子が鬼の首を取ったように目を細め、壇上の春三を指差した。
「総理……今の発言、議場だけでなく、国際社会にも即座に波紋を広げるレベルのものです。あなたが今の発言を本気でお考えなら、日本企業の中国依存をどう断ち切るのか、資源供給をどう確保するのか、在留邦人の安全をどう守るのか説明する必要がある。断交という言葉は、勢いで使っていい言葉ではありません。先ほどの発言は“言い間違い”なのか、それとも“本気の方針”なのか。明確にお答えください!」
激しい追撃に対し、春三は一歩も引かなかった。むしろ、その瞳に冷たい炎を宿し、言葉を重ねていく。
「中国との断交は中国の政治を認めないと同時に、台湾を支持することを示します。私は台湾を支持します。資源等については国内生産、レアアースは南鳥島など、日本には取れていないだけで海洋資源がたくさん眠っています。法人保護については速やかに希望者を移送したいと思います」
議場は完全にパニック状態に陥った。
「外政の大転換だぞ!?」「南鳥島!?そんな簡単に言うな!!」「終わった……これ国会史に残るぞ……」
赤獅子はさらに畳みかける。
「総理、断交というのは――戦争の一歩手前の外交措置です! それを準備も説明もなく、国会の場で言ってしまうのは極めて危険だ! 改めて伺います。今の発言は、政府としての正式な方針なのか。それとも、総理個人の“政治的意見”なのか!」
「これはあくまでも私自身の意見であり、政府として検討しているものではありません」
与党席から「はぁぁぁ……よかった……」と安堵の息が漏れるが、野党席からは「個人の意見で断交とか言うな!!」「責任の所在を曖昧にするな!!」と激しい抗議が飛ぶ。
「静粛に!」
「総理、総理大臣の個人的意見は、その瞬間に“国家の意見”として受け取られるというのが外交の現実です! あなたの個人的意見は、政府の外交方針とは完全に無関係なのですか! 台湾支持も、断交も、南鳥島も、法人移送も、すべて政府方針ではないと明確に否定しなければ、国際社会は日本が方針転換したと受け取ります!」
「無関係であります」
春三は冷徹に言い切った。
「約束の時間が迫っています! 速やかに終わらせてください!!」
議長の声がかき消されるほどのざわめきの中、赤獅子が叫ぶ。
「無関係!? 外交の世界では最も言ってはいけない火消しです! では、あなたの個人的意見が外交に影響を与えた場合、その責任は誰が取るのですか! 総理自身なのか、外務省なのか、政府全体なのか!」
春三はフッと息を漏らし、正面を見据えた。
「では、国民に問いましょう。この代表質問が終わる明後日、解散します」
「うおおおおおおおおおお!!!!!!」
議場がひっくり返るような大絶張(大絶叫)が響き渡る。
「今ここで解散宣言!?」「聞いてないぞ!!」「官邸も党本部もパニックだぞ!!」
「静粛に!! 静粛に!!! 総理!! ただいまの発言は議場を著しく混乱させています!! 静粛に!!!!!」
赤獅子も驚きを隠せないまま、マイクにしがみつく。
「外交問題の火消しの最中に、突然の解散宣言ですか!? 国民に問う前に、あなたは国会に説明すべきことが山ほど残っている! 説明責任の放棄だ!」
春三はふっと表情を和らげ、言葉を修正した。
「国民の意見を聞きましょう。明後日解散は言いすぎました。会期末。解散です。その前までに皆さんで国会の意見をまとめましょう」
「会期末解散!?」「逃げたぞ総理!!」「外交の火消しの後に解散宣言とか前代未聞だぞ!!」
「総理、会期末解散は、先ほどの外交発言の“責任回避”ではないのですね!? 国民に問うための解散なのか、火消しのためなのか、明確にお答えいただきたい!」
春三はマイクを掴み、全議員の鼓膜に突き刺すように言い放った。
「国民に問うための解散です。名前をつけるとしたら――断交解散です。全てです」
2. 保守の同調
「共産党・赤獅子委員の質問は終了します。続いて――保守党、翔鶴委員」
議長が慌てて次の質問者を呼び上げる。「翔鶴が来たぞ」「総理寄りの保守だろ」「空気どうなるんだこれ」という声が飛び交う中、ゆっくりと立ち上がった翔鶴は、赤獅子とは対照的に落ち着いた口調だった。しかし、その目は鋭く、総理の「断交解散」発言を正面から受け止める姿勢を見せていた。
「総理。先ほどのやり取り、すべて拝聴いたしました。まず申し上げたいのは――国民に問うという総理の決断、私は評価いたします」
与党席から「おお……」と声が漏れ、野党席からは「いやいやいや! 持ち上げるな!」とヤジが飛ぶ。
「静粛に!」
「総理、外交・安全保障は国家の根幹です。そして今の日本は、スパイ防止法もない、情報機関も脆弱、中国の影響力も強まっている。この状況で、国民に方向性を問うという判断は、私は“逃げ”ではなく“覚覚悟”だと受け止めています。総理、スパイ防止法の制定を、次期国会の最優先課題とするお考えはありますか。また、“断交解散”とおっしゃいましたが、その背景には、ミサイル防衛や反撃能力などの防衛力強化の必要性も含まれていると理解してよろしいですか。さらに、レアアースの国内調達など、中国依存からの脱却という意味での経済安全保障を国家戦略の柱に据えるお考えはありますか。率直にお答えください」
春三は、これまでの答弁とは打って変わって、力強いトーンで応じた。
「スパイ防止法については断交と同時に早急に検討したいと思っています。防衛力の強化はアメリカに依存しない自立した防衛力を保持し、改憲も視野に入れています。フィリピン、オーストラリアなどの準同盟国とのかかわりを増やし、そこから貿易を行いたいと思います」
与党・保守系席から「総理!! よく言った!!」「自立防衛を言える総理は久しぶりだ!」と歓声が上がり、野党席からは「改憲をここで言うな!!」「軍事路線宣言か!」と怒号が飛び交う。
「静粛に!」
翔鶴の表情が、明らかに満足げに緩んだ。
「総理……今の答弁、保守として、国家安全保障を重視する立場として、極めて評価できる内容です。アメリカ依存から脱却し、自立した防衛力を保持、改憲も視野に入れる。これは、戦後日本の安全保障政策を根本から見直す宣言に等しい。そこでさらに伺います。スパイ防止法の守備範囲を、軍事機密だけでなく重要インフラや企業技術、外国勢力のロビー活動など、どこまで広げるお考えですか。また、自立防衛の具体像として、ミサイル防衛の国産化や防衛産業の再構築のどこを柱に据えるのか。お示しください」
春三は一歩も引かずに言い切る。
「日本の安全保障に関わるもの全てです。国産兵器の増産、五類型を高市前総理が撤廃してくださったことによって可能になった兵器輸出などを通して自立に向けます。安倍総理が提言した自由で開かれたインド太平洋。これを実現します」
与党・保守系席から「おおおおお!! 国産兵器の増産だ!!」と拍手が沸き起こる。
翔鶴は深く深く頷いた。
「総理、戦後日本が避け続けてきた“核心”に踏み込む政策です。では、総理が掲げた、これらを集約する言葉――『新しい日本型民主主義』とは、どのような国家像を指すのですか。強靭な安全保障、自立した外交、改憲を含む統治機構改革。どれを柱に据えるのか、明確にお示しください」
「新しい日本型民主主義を、完成させるために国民に問いましょう」
「終わりです! これにて質問を終了します!」
議長が木槌を叩き、激動の代表質問が幕を閉じた。
3. 密室の抱擁と政界大再編
国会内、非公開の某応接室。
重い防音扉が閉まった瞬間、外の喧騒が嘘のように消え去った。部屋の中にいるのは、総理大臣・春三と、保守党代表・翔鶴の二人だけ。
「……総理。今日の答弁、あれは“覚悟”と受け取りました」
翔鶴がソファーに深く腰掛け、不敵な笑みを浮かべた。
「私は国民に問います、翔鶴代表。新しい日本型民主主義を完成させるためにね」
春三は窓の外、夕暮れに染まる永田町の空を見つめたまま、静かに言った。
「ええ。演説、比較的賛成です。そして――そのためには、あなた一人では足りない。国会も、政権も、“体制”そのものを組み替える必要がある」
翔鶴がゆっくりと立ち上がり、春三の背中に歩み寄る。
「連立です、総理。“断交解散”を掲げるなら、保守勢力を一つにまとめなければ勝てません。我々保守党は、スパイ防止法、自立防衛、FOIP、指定、そして国産兵器増産――すべて総理と方向性が一致しています。しかし、与党内にはまだ“日和見”が多い。外交で踏み込めば腰が引ける者もいる」
春三は小さく笑った。
「今日の議場を見れば分かる。保守は熱狂し、野党は混乱し、与党の一部は怯えていたな」
「だからこそ、春三政権に“第二の柱”が必要なのです。我々がその柱になる。条件は三つだけです。――スパイ防止法の今国会提出、防衛産業再編の国家戦略化、FOIPを国家目標として明文化。これが飲めるなら、保守党は“断交解散”を全面的に支えます」
春三はゆっくりと振り返り、翔鶴の目を正面から見据えた。
「途中で引き返せない道だぞ。世界を敵に回すかもしれない」
「光栄です。この国を変えるなら、今しかない。そして――あなたしかいない」
二人の手が、静かに、しかし力強く握られた。その瞬間、戦後日本の政治体制を根底から覆す「超巨大保守連立」が誕生した。
その日の夜、日本、そして世界はパニックに陥った。テレビ各局はレギュラー番組をすべて中断し、画面には【緊急速報】の赤帯が点滅し続けた。
『速報です! 代表質問で中国との断交を明言した春三総理率いる日本民主党と、比較的賛成の立場で質問をした翔鶴代表率いる全日本保守党が、先ほど連立文書を公開しました!』
スタジオのキャスターの声が震えている。
『さらに緊急速報です! 日本民主党の齋藤議員が緊急会見を行い、石橋元総理を含む民主党内のリベラル派52人が一斉に離党することを公表しました! 齋藤議員らは、共産党、改革連合、さらに無所属議員2名と合流し、新党を結成することを発表。これにより、いままで過半数を超える284議席を保持していた与党民主党は232議席となり、単独過半数割れをいたしました!』
『過半数割れ!? では、政権崩壊ですか!?』
『いえ、違います! 先ほど発表された保守党との連立により、与党側の議席数は離党前を遥かに超える302議席となりました! 一方、野党が一体化した新党の議席数は160議席。これにより、永田町は完全に二極化しました』
4. 世界大炎上とドミノ倒しの危機
衝撃は国境を越え、地球規模の地殻変動を起こした。
『中国の小籠包外相が緊急声明を発表しました!』
テレビ画面に映し出された中国外務省の会見。小籠包外相は、怒りに顔を紅潮させて演壇を叩いた。
「我が国に対しての過去最大の侮辱行為だ! 日本の再軍備、軍国主義化を絶対に止めなければならない!」
さらに小籠包外相は、ウクライナ侵攻を続けているロシア、北朝鮮、そしてアメリカと交戦中のイランなどへ協力を要請したと明言。国際社会に凄まじい緊張が走る。
しかし、これに即座に反応したのが、アメリカのトルンプ大統領だった。彼は自身のSNSに、大文字を交えた激しい文章を投稿した。
『我々は日本を全面的に支持する! アメリカも中国との断交をするべきだ!』
世界中のSNSが一夜にして大炎上する中、インド太平洋の国々も動いた。オーストラリア、フィリピン、インドの3カ国が、異例のスピードで共同声明を発表したのだ。
『日本への支持と、台湾、日本の支援を明言する。インド太平洋の自由を守るため、我々は共に行動する』
一方、隣国の韓国・ウジェミョン大統領は、緊迫する報道陣を前に、硬い表情を崩さぬままこう告げた。
「……コメントは控える」
韓国国内では、この沈黙に対して賛否が激しく割れ、政権の足元が揺らぎ始めていた。
だが、世界が外交ルートで火花を散らしているその裏で、最も危険な物理的危機が首をもたげていた。日本からわずか数百キロ離れた、朝鮮半島。深夜、平壌郊外の闇の中に佇む北朝鮮軍の司令部では、すべての部屋に灯がともり、緊迫した空気が流れていた。
「中国の小籠包外相からの要請だ。南への圧力を最大級に高めよ」
冷徹な号令とともに、密かに攻撃準備が開始された。
特殊部隊が暗夜に乗じて国境付近へと前進移動を開始する。長距離砲の射角が、静かに、しかし正確に南の主要都市へと調整されていく。通信は完全に暗号化され、無人機が境界線を越えて偵察飛行を繰り返した。韓国軍の参謀本部モニターに映し出される異常な軍事アクティビティの数々に、オペレーターたちの顔がこわばる。
「北が何かを準備している……。作戦準備を完了しつつあるぞ」
しかし、青瓦台からの指示は、依然として「コメントは控える、刺激するな」の一点張りだった。沈黙の裏で、破滅の足音が確実に近づいていた。
5. 決戦の国会、そして――
激動の夜が明け、次の日の朝。国会前は、文字通り「戦場」と化していた。
「断交反対!」「春三の暴走を止めろ!」「戦争になるぞ!」
プラカードを掲げたリベラル派の巨大なデモ隊が声を張り上げる。そのすぐ隣では、日の丸を掲げた保守派のデモ隊が押し寄せていた。
「春三総理を支持するぞ!」「スパイ防止法を急げ!」「日本を守れ!」
警察の機動隊が必死に両者の間に割って入るが、怒号と熱気は国会周辺を完全に包み込んでいた。
そんな中、国会内では歴史的な動きが最終局面を迎えていた。離党した52名、共産党、改革連合、無所属が合流した野党新党――『新改革党』が正式に誕生。結党大会を終えた彼らは、160議席の巨大なブロックとして、春三政権への全面対決を挑んできた。
対する与党側。昨日まで去就が注目されていた残りの無所属議員3名が、緊迫した面持ちで記者団の前に立った。
「我々3名は、本日をもって与党の連立に参加いたします。この国難において、安全保障の議論を避けるわけにはいかない」
これにより、春三・翔鶴の与党連立は「305議席」に達した。改憲発議ラインの310議席まで、あとわずか5議席という、戦後最大級の怪物与党が完成したのだ。
そして、運命の衆議院本会議。新改革党の議員たちが、険しい表情で議場に突入する。
「まず、議長不信任決議案を提出する!」
新改革党の叫びとともに採決が行われたが、結果は火を見るより明らかだった。
「反対多数。よって、議長不信任決議案は否決されました!」
与党305議席の圧倒的な数の力が、野党の先制攻撃をいとも簡単に叩き潰した。
しかし、野党も引き下がらなかった。赤獅子をはじめとする新改革党の面々が、壇上に向かって叫ぶ。
「議長が否決されたなら、次だ! 内閣不信任決議案を提出する!」
議場は再び、割れんばかりの怒号に包まれた。
「春三内閣は外交を暴走させている! 国益を損なう総理に国を任せられない!」
「国民に問うと言っているんだ! 不信任案などただの政局目当てだろ!」
激しいヤジの応酬の中、春三は腕を組んで静かに閣僚席に座っていた。その隣では、翔鶴が不敵な笑みを浮かべて議場を見渡している。
「これより、内閣不信任決議案の採決を行います」
議長の声とともに、議員たちが投票に立つ。結果がアナウンスされた。
「賛成160、反対305。よって、内閣不信任決議案は、反対多数で否決されました!」
与党席から一斉に地鳴りのような拍手が沸き起こる。新改革党の議員たちは悔しそうに歯噛みし、一部の議員は吐き捨てるように議場を後にした。
内閣不信任案すら跳ね返した春三は、ゆっくりと立ち上がり、議場の中央へと進み出た。彼の手には、解散詔書が収められた紫の袱紗がある。
「不信任案は否決された。ならば、約束通り国民に問おう」
春三の声が、静まり返った議場に響く。
会期末。日本の命運を、世界の構造を真っ二つに割った、前代未聞の『断交解散』の火蓋が、ついに切られた。
国会前で響き渡るデモ隊の声。官邸で頭を抱える外務官僚たち。世界中で飛び交う、支持と非難のニュース。そして、不気味な沈黙を保ったまま、砲撃の引き金に指をかける北朝鮮軍。
誰も見たことのない、硝煙と謀略に満ちた選挙戦が、今、始まろうとしていた。
主のYTchの登録もお願いします!
@tzJAPAN




