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ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第7章 前方の研修、後方の再編成

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第52話 課題の回答は?

「あれ、良かったんですかね?」


 閉じていくオフィスの扉を見ながら緑谷がぼやいた。

 同時にわずかにフロアの外から響く声を聞きながら、ユウヤは首を傾げる。

 曖昧な答えに緑谷はもとより細い目をさらに細めた。

 有名な漫画家のイラストを連想させるその顔を見ながらユウヤは「いつものことだから」と、肩をすくめる。


「それより、オレに何か相談が有ったんじゃないですか?」


 そう言いながらユウヤは端末のディスプレイを見つめていた。

 宛先(to)に記載されたアドレス、『本年度契約のお見積り』と書かれた件名を確認しメールを送信する。

 一連の操作を終えたユウヤはイスを回転させ緑谷の方を向いた。


「あ、ええ。課題(OJT)の件、少し仕様を変えたので見てもらえますか?」


 そう言いながら緑谷は抱えていた端末を広げた。

 そこに表示されていたのは、先日も見たプレゼンテーション。

 だが、そのファイルには数ページの追加があるようだった。


「了解です」


 軽く答えながら端末を受け取ったユウヤは、タッチパッドを操作する。

 下のページへとスクロールされていく中、ユウヤは見た覚えのないページに目を止めた。


「ふむ……」


 小さく声を上げながら、ユウヤは目を素早く動かし資料を確認していく。


「つまり、対戦モードと妨害を追加したいってことですよね?」


 追加1ページ目から目を離さずにユウヤが尋ねる。

 その顔に表情はなく、まだ意図を考えている様子だった。


「ええ、パズルゲームは目標などを設置しないとゲームオーバーまでやり続けることになりますからね」


 緑谷も同じく無表情で答える。

 緑谷は緑谷で、ユウヤの出方をうかがっているようだ。


(オレの考え方を確認したいのか?)


 その瞬間、ユウヤは緑谷の目が鋭く光るのを感じた。

 ユウヤの頭の中にかつての二階堂興産での出来事がよぎる。

 背中に冷たいモノを感じつつも資料を吟味していく。

 ユウヤの中で嫌な想像が膨らむ。


 ――緑谷の温厚な態度は、オレの実力を測るためだったのか?


 想像が全身に広がり指がわずかに震える。

 その震えを隠すためコントロールパッドから指を離す。

 バレないように深呼吸するため、画面を凝視するふりをする。

 よし、大きく息を吸う……。


「あっ!」

「っ!? ぐっ、ゴホゴホ!」


 突然、緑谷は大きな声を上げる。

 その声に驚いたユウヤは、想定以上の空気を吸い込んでしまい、えづくような咳があふれ出た。


「大丈夫ですか?」


 ゆったりとした声で緑谷が問いかける。


「だ、大丈夫です……。す、少し驚いただけで」

「なら、いいんですが」


 慌てて弁明するユウヤに、緑谷は目尻を下ろし安堵の表情を見せる。


「……、それでどうしたんです?」


 呼吸を整えたユウヤは問いかける。


「いや、このページ削除するやつだったんですけど、残っていたんで」

「ああっ、そう言うことですか……」


 緑谷の答えを聞いてほっと胸をなでおろしたユウヤは、改めて資料に目を通した。

 内容は細かい仕様ではなくイメージが中心であり、緑谷が作ったにしては意外な感じだった。


「すみません。急いで追加したんでざっくりとした物しか用意できなかったんで」


 そう言うと緑谷は申し訳なさそうに肩をすぼめる。

 だがユウヤは、笑顔で首を横に振った。


「いえ、企画書なのでこちらで大丈夫ですよ。むしろ細かい仕様を書かれると修正が大変ですし」

「確かに!」


 そうだったとばかりに緑谷は胸の前で開いた左手を右手で打った。

 一瞬「気が付かなかったんかいっ!」と心の中でツッコんだが、その感情をおくびにも出さず笑顔のまま資料を読み続ける。

 ところどころ粗はあるが、内容自体は理路整然としており、彼の言わんとするところは容易に把握できた。


「なるほどね、飽きさせないための対戦モードか」


 ユウヤは小さくうなずくと端末を緑谷に返した。

 その僅かな感想で、緑谷は我が意を得たりと言わんばかりに笑顔を見せる。


「ええ、画面デザインは少し変更しますが、これなら()()()()()()()にいけます!」


 力強く答える緑谷に、ユウヤは「ええ」と軽く返すと横の席に目を移す。

 コノハはまだ戻っていない。

 先ほど小豆に連行さ(引きずら)れて行ったのだ。そう簡単には戻ってこないだろう。


「まったく何やってんだか……」

「え、何がです?」


 思わずため息とともに漏れた言葉に緑谷が反応する。


「ああ何でもないですよ。ただ実行に移す前に確認してもらおうかと思ったんですがね……」


 顔の前で手を横に振り苦笑するユウヤ。

 緑谷も横目でユウヤの横の誰もいない席を目にし、無言でうなずいた。


「ん? どうしたんだい二人とも」


 突然かけられた涼やかな声に、ユウヤたちは反射的に緑谷の後ろを見る。

 そこにはレイトがいつものように穏やかな表情で立っていた。

 レイトは視線をこちらに向けたユウヤたちに軽く手を挙げると静かに近づく。


「えっと、君が二課に入った緑谷さんだね」


 スッと自然な動作で右手を持ち上げる。

 レイトのその手を見た緑谷は、それまでと一転し緊張した面持ちでその手を握った。


「よ、よろしくお願いいたします。赤根部長補佐」


 答える緑谷の声は少し上ずっていた。

 目が開いているのか分からないくらいに細め強張った表情の緑谷に対し、レイトは小首をかしげるようにし柔らかい笑みを返す。


「レイトでいいよ。苗字だと妹と紛らわしいだろ?」

「し、しかし、部長補佐の実績とか……」


 慌てて反論しようとする緑谷にレイトはウインクをしつつ上へと向けた人差し指を自分の口に当てた。


「過去の実績は僕だけの力で成し遂げた物じゃないし、肩書きだって大型プロジェクトを率いるための仮の物だよ」


 子どものような笑顔を浮かべるレイト。

 対する緑谷は「はぁ」と力ない返答を返すしかなかった。


「それで、どうしたんだい?」


 改めてレイトがユウヤたちの顔を見ながら尋ねる。

 一瞬ユウヤと緑谷は互いの視線をあわせる。

 だがすぐに小さく首を縦に振ると、緑谷が手に持った端末をレイトに向ける。


「実はOJTの課題について話していたんです。よければレイトさんも見ていただけますか?」


 一歩前へと踏み出したユウヤがレイトに説明する。


「ああっ! もちろん!」


 その言葉を待っていたとばかりにレイトは緑谷に近づくと、端末を覗き込む。

 緊張しきって固まった緑谷だが、わずかに視線を下に向ける。


「……」


 そこには先ほどから一転し、真剣な表情で画面を食い入るように見るレイトの姿があった。

 その鬼気迫る表情に緑谷は思わず唾をのみ込む。


「ふむ……、対戦型のパズルゲームか」


 端末から顔を離したレイトが独り言をつぶやきつつ腕を組み、唇の下に曲げた人差し指を当てた。

 その状態のまま視線を床に向けるレイトだったが、すぐにユウヤたちのほうを向く。

 思わず半歩後ずさる二人。狭いオフィスでなければ全力で後退していそうな雰囲気だった。


「うん、いいんじゃないかな。堅実ながら対戦型にしたことで製作難易度もそこそこ高いし」


 満面の笑みを浮かべ、レイトは感想を述べた。

 瞬間、緑谷は喜びをかみしめるように少し身体を縮め震え、ユウヤは大きく息をついた。


 だが次の瞬間「でもね」とレイトが続けた。


 ――周囲の気温が一気に下がる。


 レイトの一言にユウヤは再び顔を上げる。

 そこには一転して何の表情も浮かべていないレイトが立っていた。

 その視線にユウヤは完全に射抜かれていた。


「でも、とは?」


 絞り出すような緑谷の声。

 (緑谷)もまたレイトの静かな圧力を感じているようだった。

 二人の感情を知っているのか、レイトは静かに微笑んだ。


「今回、作業感を減らすために対戦を入れたんだよね?」


 幼子をあやすかのような柔らかい口調。

 緑谷は無言で大きく頭を縦に振る。まるで鋭いナイフを喉元に向けられているかのように。


「それはいい着眼点だね」


 レイトがわずかに首を傾け、笑みを向ける。

 だがすぐに顔から表情が消える。


「だけど、()()()()()は良くないよね」


 レイトの静かな言葉がユウヤに響く。


 ()()()()()……。


 何を指しているんだ?

 ユウヤの思考がフル回転する。

 頭の中で緑谷の資料を思い描く。


 レイトの言葉から考えれば、細かい誤字脱字や伝達の齟齬ではないはず。

 ならば大雑把な内容把握でも問題ないはずだ。


「? 蒼馬さん……」


 腕を組んだまま黙り込んだユウヤに気がついた緑谷は不安げに声をかける。


「うん。それじゃあ」


 一方のレイトはユウヤのその姿を見ると、満足そうにうなずき踵を返した。


 一人残された緑谷は端末を抱え困り顔で二人を交互に見ている。

 その姿が見えていないのかユウヤは、考え込んだまま動かなかった。


「そういう事か……?」


 ふと顔を上げたユウヤが声を上げる。

 その視線は横にいる緑谷、いや彼の持つ端末へと向けられた。


「ちょっと借ります!」


 手早く指を動かし資料をスクロールさせる。

 画面のなかで目まぐるしくページが変わっていく。

 その一枚一枚を一瞥していく中、「あった!」と小さく声をあげた。

 ユウヤの行動に驚き固まっていた緑谷が、その言葉に反応するように身体を折り曲げ、ディスプレイを覗き込む。


 二人の視線の先にあったのは削除予定のページだった。 

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