無数の穴の巡り合い
近くの穴から生えてきた白色の触手。それによって穴から出てきたのは、フォルズもレイニーもよく知っている人に違いなかった。頭に布のようなものを被った、片目が前髪で隠れた女の子。
「…シトラ!?随分変わった方法使ったな。」
「え、キミだったのかい?」
二人揃って目を丸くしていると、シトラは気にせず触手を指の中へ引っ込ませた。そしてキョトンとした顔でフォルズの方を見た。
「二人とも驚きすぎだよ。というかフォルズ君、何か疲れてる?」
「あぁこれは…半分くらいレイニーのせいだ、多分。」
レイニーに脇腹を蹴られたことや、自力で崖を登らせようとしたことが沸々と蘇ってくる。本人は不服そうだったが、間違いではないのでハッキリと訂正できないようだ。
「ところでシトラちゃん。さっきの触手は何だったんだい?」
「これがあたしの魔法だよ。片手の五本の指から触手を出すの。」
「なるほど、ね…魔法か。」
レイニーの何処か含みのある言い方に疑問を持ちつつも、一旦は入口の方へ向かった。やはりドアは開かないようだ。焼けども叩けどもびくともしない。
「やっぱり駄目かぁ。仕方ない、別の出口を探すしかないな。」
「かなり頑丈だね。レイニー君の魔法でも駄目だなんて。」
「まぁ良いんだ。ぼくはまだここから出る気はないし。」
レイニーのその言葉に、フォルズとシトラは呆気にとられて彼の顔を覗き込んだ。しかしレイニーは視線に気づかないふりをし、近くの穴を覗き込んだ。
「さて、誰かいないかな。」
「ん…誰もいないじゃんか。何する気か知らないが、用事があるなら早く済ませようぜ。」
フォルズに催促され、レイニーが覗くのを止めて穴から遠ざかった次の瞬間。何か硬いものがフォルズの頭に当たり、彼は派手に吹っ飛んだ。一瞬その場の時が止まったが、確認してみるとそれは何と人だ。
「ロゼット君だ。どうして飛ばされてきたんだろう?」
「案外冷静だね、シトラちゃん…」
二人とも気絶して目覚める気配がないので、どちらかの意識が戻るまで待つことにした。その間、何故か穴の下から厳つい男性の声が聞こえてきたが、わざわざ確認する気にはレイニーもシトラもならなかった。
十数分後、フォルズの方が早く意識が戻った。痛々しい痣が出来た頭をさすりながら起き上がり、周りをキョロキョロし出した。そして何故かもう一度穴を覗き込むと、穴から出てきた筋肉質の男と目があった。数秒間見つめ合った末、フォルズがハッとしたように声を上げた。
「あぁー!ゴリちゃん何でいるんだよ!?」
「ゴリちゃん!?誰なの、その人?」
そう、穴から這い上がってきたその人は、今年ラヴィーネ達に講義をしてくれたあのゴルドー・ニードリッヒだったのだ。
「明日から臨時講師として勤務する予定だったんだがな。何故か三年生の修学旅行にも駆り出されたという訳だ。先に入って見回りをしてたら、まさかこうなるとは…」
ゴルドーが深くため息を付いた傍らで、レイニーは彼の顔をまじまじと見つめて聞いた。
「もしかして、フォルズと住んでいる方ですか?その、彼の言うおやっさん…」
「ん?あぁいや、それは俺の双子の兄だ。兄貴と仲良くしてくれて、ありがとうな。」
「道理で似ているわけで…」
レイニーが人知れず納得していると、気絶していたロゼットの指がピクリと動いた。そしてロゼットはムクッと頭を上げ、ゆっくりと体を起こした。
「イタタ…あ、ニードリッヒ先生。届いたから良いですけど、投げるならもっと優しくしてくださいよ。」
「ロゼット君…いやぁすまん、すまん。自分でも上手く加減ができないんだ。あぁそうだ、改めて自己紹介しよう。臨時講師のゴルドー・ニードリッヒだ。愛称はゴリちゃん。」
「シトラ・カシヤップです。えっと…よろしくお願いします。」
「レイニー・ド・ルジューヌです。友人のフォルズが何やらお世話になっているようで。」
愛称の説明は必要なのかよくわからないが、こうして集まった五人は今度の行動について話し合いを始めた。
「僕はラヴィを探そうかなって思ってるよ。一人だと心配だし。」
「そう、じゃああたしはロゼット君について行こうかな。」
「うむ…何が起こるかわからないし、ここは皆で行動した方が良いだろうな。よし、俺もついていくとしよう。」
五人でまとまって行動する流れになったところで、レイニーは控えめに手を挙げた。皆の視線が一気にレイニーに集まり、彼は話し始めた。
「悪いんだけど、ぼくは行かない。ぼくにはぼくの目的地があるから、そこに行かせてもらうよ。」
「しかしな、生徒を一人にしておけんよ。危険すぎる。」
ゴルドーはレイニーの言葉に難色を示し、少なくとも快諾してくれる雰囲気では無さそうだ。レイニーは少し考え、隣りに座っていたフォルズの体をグイッと寄せた。
「それならフォルズと行くよ。それなら良いよね?」
「あ、あぁ。それなら良いか。」
レイニーの笑顔から感じる圧に驚き、ゴルドーは渋々彼の提案を承諾した。そしてフォルズは心の底から嫌そうな顔をし、レイニーに文句たらたらで耳打ちした。
「(何で俺を巻き添えにするんだよ。そんな気はしてたが。)」
「(うーん…親友だから?)」
「(適当だなおい。)」
長話で怪しまれない内にフォルズの首根っこを掴んで立ち上がり、レイニーは洞窟の奥へと進んでいった。しかし直ぐに立ち止まり、振り返ってシトラの方を見た。
「あぁそうだ。シトラちゃん、一応忠告しておく。その触手を出す魔法、あまり使わないほうが良いと思うよ。」
「…分かってるよ。大丈夫、心配しないで。」
レイニーは無言で頷き、その場を去ってしまった。フォルズは去り際に何かを嘆いていた気がするが、悲しくもレイニーにしか内容が聞こえなかったという。
二人の姿が完全に見えなくなった後、残された三人は顔を見合わせた。
「行ってしまったな。さて、どうする?」
「下手に動くと見つけにくいですし、ラヴィちゃんの方から来てくれるのを待つのが良いでしょうね。穴の下に来たら、あたし達で引き上げましょう。」
シトラの提案にロゼットもゴルドーも賛成し、三人はそれぞれ別の穴の近くで待機することとなった。数分おきに穴の様子を確認するが、誰も人がいるという報告をしない。諦めかけたその時、ロゼットが声を出した。
「ねぇ、何かさっき声がしなかった?」
「え、そうなの?あたしは何も聞こえなかったよ。」
シトラは耳を澄ませ、小さな音を聞き漏らさないように心掛けた。
「誰か!聞いて…のでしょう?ここよ、…て頂戴!」
誰かの足音も風の音もしない中で、確かに女性の声がする。シトラは声のする方向へ急ぎ、ロゼットの近くの穴を手当たり次第に覗いた。すると、その内の穴の一つにラヴィーネの姿が確認できた。
「ラヴィちゃーん?今から引き上げるから、待っててねー!」
「ちょっと待ってよ。引き上げるって言ってもどうするの?」
「ロゼ君の魔法で、疑似竜巻を作るんだよ。危なかったらあたしが引き上げるから。」
ロゼットは頷き、あまりイメージが沸かない中で風を起こす魔法を唱え始めた。咄嗟の思いつきで始まった引き上げ作戦だが、果たしてそう上手くいくだろうか?




