第578話 不平等である
SIDE クリスティール
「観に来ておいて、正解でしたね」
ある観客席に、麗しい金髪ポニーテルの美女が同僚たちと共に激闘祭を観戦していた。
「はぁ~~~~~~」
「あら、そんな大きなため息を吐いて大丈夫ですか?」
「どう見たら大丈夫に思えるんだよ、クリスティール」
同僚の騎士ということもあり、大きなため息を零していた男性騎士は公爵家の次女である彼女に対して、壁のない言葉で返す。
「はぁ~~~~、クソ」
「後輩たちの試合を観て悪態突かないの」
「別にちょっとぐらい良いだろうが……つか、こんな試合見せられて突くなって方が無理だろ」
彼らは現役の騎士たち。
若手騎士ではあるが、数ある騎士団の中でも有望株と認識された者しか入団出来ない騎士団に所属している。
そのため、その騎士団に所属できたというだけで騎士たちの自己肯定感が上がる。
入団して数か月……彼らの自己肯定は確かに上がっていた。
数回ほど新米騎士たちだけで任務を達成し、評価も上々。
だが、クリスティールに誘われて身に来た大会……かつて、自身も学生の際に参加していた激闘祭のとある試合を観て、その上がった自己肯定感はズタボロに砕かれていた。
いや……その試合の前に、ある程度削がれ、砕かれ、貫かれ、燃やされていた。
それほどまでに途中から……主にベスト八が出揃ってからの試合は、今年新米騎士となった者たちの心を、自尊心をぶち壊すのに十分過ぎるほどハイレベルな試合が行われていた。
そんな中でも現在、クリスティールたちが昔から知っている学生たち同士の試合が行われていた。
方やまさに王子と呼ぶに相応しい風貌に強さを併せ持つ風の細剣士。
方やどこか刺々しさを感じるも、貴公子と呼ぶに値する風格と強さを合わせ持つ雷の細剣士。
男性騎士たちからすれば、昔から恐ろしさを感じさせる者たちだった。
理由は、至極単純。
二人の実力は歳上である彼らに届きうるものだったから。
世の中は、不平等である。
権力者ではない平民たちが思い、強く感じる事実。
だが……血の配合によって、常に才能を高めていく貴族だからこそ、世の中は不平等であると……世界を呪いたくなるほど強く思うことがある。
「ったく……だからって、もう少し言葉を選びなさいよ。アドレアス様はクリスティールの後輩なのよ」
「ふふ、大丈夫よ。そこまで親交があったかと言われると、あまり断言は出来ないから」
「そうなの? ほら、ミシェラちゃん繋がりで割と仲良くしてたんじゃないの?」
同年代たちの中で、クリスティールが二つ下のミシェラ・マクセランに物凄く慕われているというのは周知の事実。
学生時代の最後の一年、ミシェラと共にいる機会が増えたのは事実であり、確かにアドレアスと接する機会も増えていた。
「どうでしょうか…………あくまで、先輩と後輩といった適切な距離で接していたと思いますよ」
「ふ~~~ん? けどまっ、とりあえず本当の意味での後輩のアドレアス様に勝ってほしいのよね」
「そうですね……それはそうですが、アドレアス様が……ディムナが、二人の心が満足すれば、それで良いとも思っています」
「………………あぁ~~~、まぁ~~~……うん、なんとなく言いたいことは解る、かな」
本能をむき出しに、自身の闘争心に従って戦う二人は本気で勝利を奪おうと刃を振るい、攻撃魔法をぶっ放している。
その表情は真剣そのものだが……解る者たちには解る。
二人は、心のどこかで笑っていると。
「卒業した身としては、あのような戦いが出来る彼らを少し羨ましく思います」
「…………解らんでもないな」
「それは確かに解るわね!」
騎士団に就職し、騎士となったクリスティールたち。
騎士になりはしたが、一応各騎士団の有望な若手やベテラン、トップクラスなどクラスを別けて参加者を募って行うトーナメントがある。
それはそれで充分盛り上がるイベントである、騎士となった彼らとしても、いつか参加したいと思っている大祭。
過去、その大祭を観たことがあり、大いに盛り上がった。
だからこそ、解ることがある。
激闘祭には、激闘祭でした生み出せない熱があると。
激闘祭でしたか……自分たちが感じることの出来ない熱がある。
(……懐かしいもんだぜ)
(本当に熱い一日でした)
(本当に、お祭りって感じだものね)
三人とも過去、激闘祭に参加しており……その熱を感じ、その熱を生み出す一人だった。
「やっぱりあれか。三年の時、優勝した時が一番熱く、満足したか?」
「三年の時はクリスティールが優勝したものね」
「そうですね…………本当に、心の底から熱さが込み上げてきたのを今でも覚えてます……その熱さが、序章に過ぎなかったことに」
「序章? ……あっ」
「そういえば……はは、そうだったわね」
一年前の出来事。
新生活が始まり、その事で頭が一杯だったということもあり、二人は去年……何があったのかを忘れてしまっていた。




