第二章 第三話 アカツキの武者修行講座 体力編
説明しよう!
SPとは何か!
《ステータス・システム》には閲覧者の脳内言語に応じた翻訳機能があり、地球人類にはSPと表記されていても、イグノーテラの人々には全く異なる言語として表記されているだろう。
しかし意味する事象は同じだ。
スタミナ・ポイント。
それがSPの正式名称であり、そのままどんなエネルギーかを示している。
生命力から精製され、肉体を循環し、このエネルギーが尽きない限り、『イグノーテラ』の全生物は肉体面でのベストとは言わないまでもベターなパフォーマンスを約束される。
具体的に言えば、『イグノーテラ』の人々は呼吸さえ続けばSPが尽きるまで全力疾走ができるのだ。
SPとは自家製の生物用ガソリンともいえる。
地球人類の多くが、何なら『イグノーテラ』の人々の大半も同様にSPは近接系スキル、通称『闘技』を行使するためのMPの代わりと考えているが、そんなちんけなものではない。
そもそも地球人類の言うスタミナ――『イグノーテラ』の生物にも共通しているが――とは、心肺持久力というものを指しているのがほとんどである。
一定時間内にどれだけの酸素を取り込むことができ、なおかつその酸素をどれだけ満遍なく肉体の隅々に供給できるかということだ。
そうして全身の細胞に供給された酸素によって有機物からエネルギーを取り出すことで、人体はあらゆる運動を可能とする。
この肉体面の従来ある働きを補助及び強化していくのがSPである。
興奮時にSPが循環している状態――戦闘状態と一般的に呼ばれている――のならば、運動不足の人間が急に激しい運動した時にありがちな、足がつったりだとかの不調はSPによって未然に防がれていくのだ。
そして運動機能の強化。
先ほどSPは生物用のガソリンと述べ、通常の肉体は酸素を用いてエネルギーを作り出しているといった。
この二つは併用可能だ。
もっと厳密に言えば、酸素によるエネルギー供給が十全に行われている場合、SPは筋骨、そして関節の運動機能を一段上の物へと押し上げる。
闘技を発動する際は、霊体を軸にSPを供給していき、闘技用の術式回路を励起していくのでこれらの話とは少々趣が違ってくるので割愛する。
ここからが本題だ。
SPには二つの効果がある。
肉体に起こり得る不調を打ち消すための『補助』と、十全に能力値を発揮するための『補強』。
この二つは基本的に両立しているが、当然肉体がポンコツならば、それを正常化するための補助により多くのリソースを割かれてしまう。
ならば!
肉体を徹底的に鍛え上げることによって!
起こり得る不調を事前に予防してしまえば!
よりSPというものが持つ可能性を120%引き出すことができるのではないだろうか!
□
「そ、それがっ、…【ゼノギフト】を鍛えるこ、ッになんの……」
「はい、そこで風を放出し続けて」
「んびゃぁああぁー……」
息も絶え絶えといった様子のリーナに、容赦なく指示を出すアカツキ。
少女の掌からは【ゼノギフト】による【風】が絶え間なく放出されていた。
【風に乗せて】の本領である他の能力の付与などは行われていない。が、それでも今現在彼女が発しているコースを鑑みれば、この並行作業による疲労感は並みのソレではないだろう。
ふらっ、と身体が傾いだ直後に盛大な水音共に落下する。
「ぷはっ! せ、せめて説明してください!」
「それも走りながらだ。さ、早く川から上がって!」
鬼畜の所業だった。
これが単なる広場を走らされているのなら、転んだ程度で済むだろうが、今リーナがヘロヘロなりながら走ることを強要されているのは、アカツキ特製のアスレチックコースだ。
アカツキと鎧穴熊、そして『疾風の剣』が協力し作り上げられたそれは、並の地球人なら走破する前に命を落としかねない危険な難所満載となっている。
横倒しの丸太の上をバランスを取りながら走ることから始まり、崖上り、川の横断、綱渡りなど、四肢と脳髄をフル稼働しなければ走破もままならない。
(せ、せっかく《上級勇者》に上がって、新しい《ジョブ》にも就けたのに。これじゃあ、昔と変わんないよ……)
胸中でかつての無力感を思い出すリーナ。
十割こんなコースを初心者に走らせるアカツキが悪いのだが、それでも彼を責めない辺りが彼女の人の良さを表していた。
一歩一歩踏み出すたびにへにょん、へにょん、と言う奇妙な擬態語が聞こえてきそうなぐらいおぼつかない足取りのリーナに並走しながら、アカツキは説明していく。
「さっき説明した様に、【ゼノギフト】には主に三種類の強化法がある。反復練習による精度の向上。等級の向上。そして最後の【ルール】の付け足し」
「いまやろうとしてるのが、その、最後の【ルール】の付け足しで、……よね。それになんの関係が? というかずっと【風】を出し続けて、魔力も切れそうなんですが……」
少女の両手からはそよ風程度の【風】が常に放出されており、それが少女の消耗に拍車をかけていた。
魔力がゼロになったとしても、死ぬことはない。
しかし死ぬほどつらい。今にもぶっ倒れそうなぐらいの倦怠感が全身を侵食してくるのだ。
そしてそこからさらに無理をすれば実際に命に関わる。
その倦怠感に負けたのか、へにゃりと座り込むリーナ。
そんな彼女に《部分憑依》を行って、魔力などを供給しながら会話を続ける。
「その【ルール】の付け足し自体に、今みたいな【ゼノギフト】を扱うことと並行して幾つものことをしなければならない。だからこうして険しいコースを走ることと【ゼノギフト】の使用を同時にやってもらう必要があったんだ」
次いで《生霊術師》の力で少女の傷を治しながら、その手を取って立ち上がらせる。
「それに、実戦では【ゼノギフト】を使うことだけに意識を集中させていては、それ以外の戦闘行動が疎かになってしまう。それを防ぐためにこうして、このコースを走ってもらっている」
そんな少女の手を取りながら、アカツキは《部分憑依》を発動。
アカツキもレベルアップと新しい《ジョブ》の獲得に伴って能力値が向上したため、対『ユニークス』戦よりも効率よく魔力を供給していく。
「つまり、強くなるためには、これぐらい楽にこなせないといけないってことですね……!」
「そういうこと。ま、安心してくれ。落っこちた時なんかは《エア・クッション》で受け止めるから、怪我は最小限で済むぞ」
すでにボロボロのリーナは、その言葉を聞いても素直には喜べなかった。
戦闘状態
SPが全身を循環しており、戦闘態勢の整った状態。
主に三つの効果がある。
・肉体の補強。準備運動なしでもベストパフォーマンス。
・五感の活性。素早く敵の動きを察知。
・消化関連の機能の抑制。つまり三日三晩戦い続けてもトイレに行く必要はない。
これらの戦闘状態の元は《ステイタス・システム》の恩恵、というわけではなく、『イグノーテラ』の生物が生き残りのため、進化によって獲得した生来の機能である。
地球人類も緊張状態においては交感神経が活発化し、上記と似たような状態となる。
テラリアンも。モンスターという地球の野生動物とは比較にならない驚異と戦うために、こういった能力を進化の果てに獲得した。
そこに《ステイタス・システム》が加わることで、このような形になった。
テラリアンの体を模した《探究者》のアバターにも同様の機能が備わっている。




