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第二十七話

 ウラシュの顔は、下を向いている。首筋に、人差し指と中指を軽く当てた。オルスの視界が、一気にぼやける。


「オルス、逃げろ。もう、どうにもならない。俺達の国は終わったんだ」


 テッドは目を閉じた。遠くから、足音が聞こえた。大声で指揮する声。


「いたぞ、オルスだ」


 クレチア王国の兵士と魔法使い。弓兵が入ってくる。オルスの姿を捕らえたと同時に、攻撃を開始した。


 矢やファイアボールが、オルスに襲いかかってくる。オルスは何とか避けながらも、逃げ場を探した。


「突撃!」


 兵士が襲いかかる。ため息をついたオルスは、地下へと逃げていった。


「ライト」



 杖から光の玉が出てきた。そのまま、オルスの頭上まで浮かび、先を照らしてくれる。


「コールド」


 振り返り、唱えた。床に氷面が出来る。追いかけてくる兵士が滑り、転んでいる。そのせいで、後ろにいる兵士が、行き詰まっている。


 目前に、屋外にある石版と魔方陣が見えた。右肩に激痛が走る。バランスを崩す。見ると、矢が刺さっていた。左ふくらはぎにも、矢が刺さる。


 走れなくなったオルスは、石版がある広場に入り、後ろを振り返る。目の前で、ピカッと光った。全身が痺れた。


「シールド」


 オルスの前に、透明な盾が出てきた。目の前には、重装兵。斧を振り下ろす。シールドが弾き返す。弾力で重装兵が後ろに飛んだ。オルスも吹き飛んでいく。


「ライトオード」


 オルスは逃げた。敵との距離を空けていく。


 数本の剣先が、腹部めがけて突き刺してくる。反射的に避けようとしたが、足が動かない。ロングソードで払おうとした。


「ぐっ……」


 オルスの口から、何かがこぼれ出る。杖を落とした。目の前の、ニヤついた兵士の首を突き刺す。他の兵士がたじろいだ。


 息が出来なかった。大きく吸った。静かに吐くと、血がこぼれ出る。膝をついた。下には、青く輝く文字が浮かんで見えた。


 左目が見えなくなった。痛みがない。触ると、矢が刺さっているのがわかった。引き抜けない。目の前にはクレチア王国の兵が、オルスを取り囲んでいた。


 ロングソードが握れない。右目の視界が、ぼやける。何も見えない。代わりに、思い出が鮮明に浮かび上がった。


 ガイコツ騎士に襲われた時。勇者の剣さばき。稽古。魔王城での戦い。仲間達の犠牲。魔王を倒した瞬間。


 オルスの口元が緩んだ。


 凱旋。勇者としての見世物。大雨。悲しい顔をした住民達。不安な顔をする仲間達。自分の事しか考えない、貴族達。


「ちくしょう」


 帰る場所も、家族も、仲間もいない。もう、何も残っていない。魔王を倒せば平和になるなんて、なんで信じた?


「ひっ」


 敵の叫び声が聞こえた。ぼやけた視界が、青色に染まっていく。


「引け、引け!」


 オルスは、自分の体が次第に楽になっていく感覚になった。呼吸が楽になる。何度も大きく深呼吸をする。目の前に敵はいない。青色しかない。


 体中の痛みが消えていく。肩もいつものように動く。握りこぶしが作れる。オルスは咆吼した。



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