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三角波とのこと

装備の効果に対する計算の修正。


 ボス部屋らしき部屋の赤い扉が完全に開き切り、オレと双子はジッとその奥を見ていた。


「くもりガラスみたいになっていて見えませんね」


 中に入らないと全貌がわからないようだ。


「メイゲツ、ボスを確認してから補助を頼む」


 オレの言葉に、メイゲツは応えるようにうなずく。


「セイフウはオレが奇襲をかけて三秒あたりで攻撃」


「了解」


 セイフウもうなずいてみせた。

 ボスのレベルがわからない以上、どう攻略するべきか。……

 ハッキリ言って、オレの魔法はライトニング以外使い道がない。

 場所が場所だけに、属性が水だから相性が最悪だ。

 プレイヤーに属性がないだけまだマシか。


「うし、いくぞ」


 オレたちは意を決してボス部屋の中へと入った。



 部屋の中は思ったよりも涼しかった。

 というよりは、寒いといったほうがいいかもしれない。

 夏に開けた冷蔵庫くらいか。


「……っ」


 横にいたメイゲツが身体を震わせる。


「大丈夫か?」


「へ、平気です。でも……なんでここだけ寒いんでしょうか?」


 メイゲツが吐く息が白い。

 彼女の言うとおり、廊下の空気は身体を震わせるほど冷たくなかった。

 なのにこの部屋だけ、妙に肌寒い。


「緋炎の錫杖を握ってみたら?」


 オレは常時暖かみを放っている[緋炎の錫杖]をメイゲツに握らせた。


「暖かい」


「セイフウもこっちに来て、暖まってくれ」


 最悪[凍傷]なんてバッドステータスもありえるからな。

 アイテムボックスを確認して、なにかいらない、紙状のアイテムはないものか。



「でも、なんか怖いくらいに静かですね」


 セイフウが周りを見渡しながら言う。

 RPGのお約束だろうか、ボス部屋に入ったとしても、特定の場所まで進まない限りはエンカウントしないようだ。

 部屋はぐるりと円形で、ドアはさっきの……



「姉さん、事件です。扉がどこにもありません」


 もうね、事件ばかり起きるホテルの従業員の気持ちだ。


「えっ? なに? 閉じ込められたの?」


 双子がパッと警戒態勢に入る。

 モンスターとの間合いを示すアイコンは表示されていない。

 つまりは部屋に入った時点で閉じ込められたと考えられるのが自然だ。


「油断した」


 ダンジョンステータスを見ると[転移不可]と出ている。

 転移魔法やアイテムによる脱出は不可能ということ。



「シャミセンさんっ! あれっ!」


 セイフウがオレに呼びかける。



 [ゴウコウ]   レベル30 属性 水・陽

 [ジアオシュア]Lv24 属性 水

 [ズヌイシュア]Lv23 属性 金・陰

 [ズヌイシュア]Lv25 属性 金・陰



 玉座に半人半龍の大男が坐っており、その周りに三匹の蛇が佇んでいた。

 その半人半龍が、ゆっくりと人差し指で天井を示した。


「……っ?」


 次の瞬間、なんか赤外線のようなものが、オレや双子の身体を差し……。


「……っ! 逃げろっ!」


 オレの声と一緒に、強烈な水の鉄砲が虚空から発射された。



 オレの声が先だったこともあり、間一髪避けることができた。


「大丈夫か?」


「な、なんとか」


「っていうか、ちょっと反則じゃない? だってまだモンスターとの間合いに入って――」


 セイフウが中腰の状態で矢をジアオシュアへと射る。

 良い判断だ。この中で厄介なのはジアオシュアのマヒ効果。

 動けなくなったら正直言ってヤバイ。


「くそっ!」


 オレも遅れを取ったが、ライトニングの詠唱を始める。


「[フィジカルベイレ]」


 チャージングはなし。メイゲツがセイフウを先にVIT増加の魔法をかけた。


「ありがとうメイゲツ」


 そう言うや、セイフウは三本の矢を同時に弓の糸にかけた。



「[三連撃(トリプレット)]ッ!」


 セイフウは三本の矢を間髪入れずに撃った。

 狙ったのはゴウコウ。


「ぐぬぅああぁ」


 ゴウコウはその大きな手で、三本の矢を叩き落とす。


「[チャージ]ッ! [ライトニング]ッ!」


 その瞬間、オレも弓の構えでライトニングを放つ。

 ゴウコウとジアオシュアに命中。

 したのはいいが、あまり効果はないようだ。

 これはあれかね? ライトニングの属性が陽だから、同じ属性には効果が無いってことでしょうか?


「[チャージ]ッ! [フィジカルベイレ]ッ!」


 メイゲツがオレのうしろに回りこみ、そこからVIT増加の魔法をかけてくれた。

 近くにいたので、アイテムボックスからMP回復ポーションをメイゲツに手渡す。



「[チャージ]ッ! [フレア]ッ!」


 オレはフレアをズヌイシュアに向けて放つ。

 ズヌイシュアは炎に焼かれるが、HPが半分減ったくらい。

 レベルの関係もあるか?

 しかもVITを上げたのか、見た目が硬くなっていた。

 なら、間合いをグリーンから一気にレッドに持って、[緋炎の錫杖]の魔法効果で攻撃してみる。


「セイフウ、援護頼む」


「……了解っ! メイゲツッ!」


「[ジイモファ]・[トゥワ]」


 メイゲツが錫杖を掲げ、魔法をセイフウに放った。

 なに? その魔法。



「[三連撃(トリプレット)]ッ!」


 セイフウが、さっきのやつと同様に、三本の矢をゴウコウ目掛けて放った。

 矢はゴウコウの腕に突き刺さる。


「ぐぅぎゃぁ?」


 ゴウコウのHPが一割ちかく減った。

 クリティカル? 違う。腕は急所にはならないはずだ。

 それならこれは――弱点属性によるダメージ?



「シャミセンさんっ! ボーッとしないでっ!」


 そうだった。

 オレとの間合いがレッドゾーンに入ったからか、ズヌイシュアが身体をバネのようにしてオレに突撃してきた。

 [刹那の見切り]で避ける。

 ズヌイシュアとすれ違った瞬間、ズヌイシュアを右手で掴んだ。


「そのまま寝てろや……」


 オレはもんどり打つように、[緋炎の錫杖]の先でズヌイシュアを突き刺した。

 油断していたのか、勢いで手にも錫杖の先がかすった。地味に痛い。

 [緋炎の錫杖]の魔法効果で、ズヌイシュアの身体が一気に燃え上がる。

 そのままHPが全焼……。射抜いたズヌイシュアは光の粒子となって消えた。



「シャミセンさんっ! うしろっ!」


 双子が同時に危険を教えてくれた。

 ゴウコウとの間合いがレッドゾーンに入ってる。

 [刹那の見切り]で、うしろからの奇襲をなんとか回避。

 そのまま転がるように間合いをイエローに持っていく。



 その瞬間、ジアオシュアが大口を上げた。


「[ライトニング]ッ!」


 オレは体勢を崩しながらも、弓で射るようにライトニングを放った。

 狙うはジアオシュアの――喉奥。

 ライトニングの矢は綺麗にジアオシュアの口の中に入っていく。

 クリティカルの判定。

 HPが一気に半分まで削れた。

 一撃で倒せなかったのは、レベルによるものだな。



「[エアロシュート]」


 セイフウが風をまとった矢でジアオシュアを射る。

 射られたジアオシュアの身体に突風が吹き荒れ、木っ端微塵のごとく切り刻まれていった。

 これで残るはもう一匹のズヌイシュアとゴウコウだ。



「もう一回っ! [ジイモファ]・[トゥワ]」


 メイゲツがさっきと同じ魔法をセイフウにかける。


「[三連撃(トリプレット)]ッ!」


 セイフウの[三連撃(トリプレット)]。その三本の矢はすべてゴウコウに命中する。


「ぐぅぬぅ」


 ダメージはだいたいHPの一割くらい。

 いや、だからなにその魔法。


「えっと、これは攻撃に魔法効果をあたえるものです」


 メイゲツが教えてくれた。すごい魔法です。

 そういえば[三連撃(トリプレット)]って、魔法じゃなくて体現スキルなのな。


「これでもリアルでは子供弓道やってますから」


 誰も聞いてないんだけど。でもすごいことは確か。

 ただそういう特殊な魔法だからなのか、チャージでオレにも属性変化くれればいいのだけど、それができないんだと。



「[フレア]ッ」


 飛び上がっていたズヌイシュアに向けて放つ。

 なんとか命中。弱点属性でレッドゾーンでの攻撃。

 クリティカルも相まって、ズヌイシュアのHPが一気に減っていく。

 ギリギリでとどまった。運良すぎだ。



「[三連撃(トリプレット)]ッ!」


 セイフウがゴウコウの頭を射ろうとするが、腕で防御をしていて、クリティカルにならない。

 しかも[ジイモファ]という魔法は、かなりのMP消費らしく、詠唱も5秒と長い。

 連続して出すにはあまり不向きだ。



「ぐぅぬぅ」


 ゴウコウが大きく手をかざし、ゆっくりと構える。


「なにか来るぞっ!」


 また赤外線みたいなやつがオレや、双子の身体を差している。


「くそっ!」


 しかもさっきのやつとは違って、タイムラグなし。

 避けるのが精一杯だ。

 ただありがたいのは光の線が出ているおかげで、どこに流れているのかがわかるところだろう。

 さらに思った以上に部屋の中は広く、はじまりの町の裏山にある隠しダンジョンで遭遇したヒャクガンマクンとの戦闘と比べれば、まだありがたかった。


 ただそれがいつ放たれるのかわからないことと、そのあいだゴウコウからの攻撃もあることだ。


「くそっ!」


 オレとの間合いがレッドゾーンに入ったゴウコウは、手に持ったや槍の(やじり)をオレに向けて振り下ろす。

 魔法効果がないのか[刹那の見切り]で避けることができた。

 が、油断した。

 光の線に沿って発射される強烈な水の弾で左腕にダメージを受けてしまった。

 しかも……クリティカル判定。

 HPが一気に三割まで持っていかれた。

 最適化したのに、全然意味なくないですか?



「あぁもうっ! しつこいなっ! この光」


 双子は基本的に立ち止まって攻撃するから、足場を持っていかれると攻撃するタイミングが亡くなってしまう。

 おそらくゴウコウの狙いはそこだろう。

 オレみたいに法術士なのに接近戦に持っていっているのは珍しいだろうけど。


「しかもこれ、動いたらなんか陣形が変わってるし」


 追撃するようです。

 動き回っていたから気づかなかった。


「追撃……する?」


 なんか引っかかる。



「きゃっ?」


 悲鳴が聞こえ、そちらに視線を向ける。

 メイゲツが長いマントの裾に足を取られてしまい、転んでいる。

 その瞬間、光の線が一斉にメイゲツに向けられた。

 オレはメイゲツのところへと駈け出す。

 AGIには自信がない。メイゲツとの間合いが離れすぎている。

 水の弾がメイゲツを射抜いた。



「きゃあああっ!」


 メイゲツのHPが一気に八割減った。


「[キュア]ッ!」


 オレは咄嗟に魔法をかける。

 ついでに[玉兎の法衣]を脱ぎ、それをメイゲツに渡した。


「これを着て回復して」


 これを装備すれば常時HPが回復するはずだ。


「でもそれじゃシャミセンさんの防御力が」


 メイゲツが申し訳ない表情で言う。そんなこと言ってる場合じゃない。

 ……のだけど、なんか首のところが妙に暖かい。



「な、なんだ?」


 よく見てみると、[水神の首飾り]が青白く光っていた。

 その光が一気にオレの全身を包んだ。



 ……なんか涼しい。


「シャ、シャミセンさん……それっていったい……」


 メイゲツがおどろいた声を上げている。

 なんか[水神の首飾り]を中心に、妙な法衣が纏われてるんですが?



 [紫雲の法衣] I+40 L+20 ランク?

 水神の首飾りが変化した法衣。

 LUKの合計値の30%がVITに振り分けられ、LUKの合計値の30%の確率で相手の魔法攻撃を無効にすることができる。



 ということは? ステータス画面を開いてみた。



 【シャミセン】/【職業:法術士】/4983N

  ◇Lv:22

  ◇HP:693/693 ◇MP:770/770

   ・【STR:14+10】

   ・【VIT:9+54】

   ・【DEX:19】

   ・【AGI:13+40】

   ・【INT:10+60】

   ・【LUK:140】


  ◇装 備

   ・【頭 部】

   ・【身 体】紫雲の法衣(V+54 I+40 L+20)

   ・【右 手】

   ・【左 手】緋炎の錫杖(S+10 I+20)

   ・【装飾品】女王蜂のイヤリング(L+10)

         土毒蛾の指環+α2(A+40 L+10)



 装飾品の項目に[水神の首飾り]がなくなっている。

 そのかわり、VITのところに見たことのない『+54』の文字がついてた。

 これが[紫雲の法衣]の効果だろう。


「……んっ?」


 オレがおどろいた声を上げ、ステータスを閉じようとした時だった。

 ……なんか新しい魔法を覚えてた。

 オレは急いでそれを魔法ストックに入れ替える。

 入れ替えたのは[アクアラング]。



「ちょ、シャミセンさんっ! うしろうしろっ!」


 双子が悲鳴を上げる。

 なんかゾッと寒気が……。

 うしろを振り返ったら、ゴウコウが大きく口をあけていた。

 その口元には水の弾が膨れ上がっている。



「[アクアボール]ッ!」


 強烈な水の砲撃を、オレはもろに受けた。


「うわぁあああああっ?」


「シャミセンさんっ!」


 双子の悲鳴が聞こえ、オレはさすがにやられたなと思ったのだ。



 が……


「これが生きてるんだからなぁ」


 オレは唖然とした表情で言い放った。

 どうやら[紫雲の法衣]の効果で助かったようだ。

 属性的に体現スキルかと思ったが、魔法判定になってた。


「運の風はこっちに吹き始めたってことか」


 オレはセイフウに視線を向けた。



「メイゲツ、もう一回セイフウに[ジイモファ]を使ってくれ」


「わかりました」


 メイゲツはギュッと錫杖を握りしめ、詠唱を始める。


「セイフウは魔法がかかったと同時に[三連撃(トリプレット)]でゴウコウを撹乱してくれ」


 セイフウは黙ってうなずく。



「いくよセイフウッ! [ジイモファ]・[トゥワ]」


 メイゲツは錫杖を掲げ、属性変化の魔法をセイフウにかけた。


「[三連撃(トリプレット)]ッ!」


 セイフウは三本の矢をゴウコウを狙う。

 その一本がゴウコウの胸に突き刺さる。

 クリティカルの判定。さらには弱点属性も付加され、ゴウコウのHPが残り三割を切った。



 オレは弓を引く構えで、ゴウコウを見据えた。

 魔法の発動ゲージが青から緑、緑から赤へと変化する。

 ……もしかしたら、その先もあるかもしれない。



 その予感は……当たっていた。


「ぐぅぎゅぁ?」


 ゴウコウがはじめて、悲鳴にも近い声を発した。



 オレの周りの、魔法詠唱エフェクトが赤から金に変わっていた。

 ゲージが貯まる早さは青色の時の1/5。

 その隙を狙って、ゴウコウが大きく腕を振り下ろす。


「[三連撃(トリプレット)]ッ!」


「[フリーズ]ッ!」


 双子がオレへの攻撃を防ぐために、攻撃を繰り返す。

 その瞬間、ゲージが溜まった。



「[ワンチュエン]ッ! [ライティング・ブラスト]ォッ!」


 指先から放たれた光の矢は、思った以上に細かった。



 その矢がゴウコウの額に刺さるや、その光の矢から放射線状に光が放たれ、新たな光の矢を作り出す。

 その光の矢がゴウコウに向けて放たれていった。

 その攻撃にクリティカルの判定がつく。

 そして急所に刺さった光の矢が、さらに放射線状の光を発し、ふたたび光の矢を作り出し、ゴウコウに放たれる。

 そしてふたたびクリティカルの判定。

 同じようにそこから放射線状に光が放たれ、三度光の矢を作り出し、ゴウコウに向けられていく。

 それが輪廻のように繰り返されていき、ゴウコウのHPが徐々に削られ――最後には0となった。


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