如意とのこと
「ボス部屋っぽいところだな」
クレマシオンと遭遇し、やつに見つからないよう警戒しながら、十分ほど戦闘も含めて探索を続けていると、目の前の、大きな丸型の赤い扉の前へとやってきていた。
ほかの部屋も色は違えど、似たような丸型の扉。
フィールドマップを確認すると、中央奥で、まだ入っていない場所だった。
「ボス部屋だったら入ったら最後、倒すまでは出られないかもしれない。相当な覚悟がいるな」
オレは視線をメイゲツとセイフウそれぞれに向けた。
双子はまっすぐにオレを見てコクリとうなずく。
覚悟はできているようだ。
全員のHPとMPの残高を確認する。オレは[玉兎の法衣]の効果で、常時HPが回復しているのですこし休めば全快になる。
双子はメイゲツがチャージをかけたヒールで全回復。
その時に減ったMPは、オレがアイテムで回復させた。
「ボスを確認したらまずメイゲツは補助魔法を。それからできるかぎりモンスターとの間合いをグリーンに保って。セイフウはメイゲツをかばうかたちで援護射撃。オレはモンスターとの間合いがレッドになってもいくらかは大丈夫だろうから」
正直、やせがまんだ。
[刹那の見切り]に対するオレの期待値は、いまのところ五分五分でハッキリ言うと信頼できない。
「なんか書いてありますよ」
セイフウが、扉の横にある石盤のモニュメントに手をかざすと、虚空に青色のウィンドゥが表示された。
[このなかからそらをとぶとりをえらびなさい]
【チィオ】 【コンチュエ】
【トゥオニアオ】【インウ】
……はっ?
意味がよくわからん。
「なんでボス部屋っぽいところに、こんなクイズが?」
とりあえず英語ではないことはたしかだと思うが、聞き覚えがまったくない。
「この中から選べってことか?」
「なんかヒントはないんですかね?」
セイフウはウィンドゥに触れようとするが、間違ってはずれを押してしまってはいけないと躊躇していた。
ウィンドゥを注視していると、選択肢にうっすらと絵が浮かんでいたことに気付く。
ほんと、レイヤーの上絵の濃度が30%も無いんじゃないかといえるほどにうっすらと。
[チィオ]の項目には『ペンギン』の影絵。
[コンチュエ]の項目には『クジャク』の影絵。
[トゥオニアオ]の項目には『ダチョウ』の影絵。
[インウ]の項目には『オウム』の影絵。
「…………」
双子もそれに気付いたようだが、なんか納得のいってない表情だった。
「なんで鳥なのにペンギンが入ってるんですか?」
「あぁ、ペンギンって生物学的には鳥に分類されるんだよ」
鳥類の定義は『現状の鳥類と始祖鳥のもっとも新しい共通の、祖先から進化したすべての生物』とされているようだ。
つまりは、鳥類の特徴である『クチバシ』と『翼』があり、『卵を産む』、『恒温動物(環境に関係なく、ほぼ一定の体温を保つ動物)』であることが鳥類の定義とされている。
ペンギンにはまずクチバシがあることと、前足が翼となっていること。さらには産卵するため、鳥類に分類されるということだ。
「とりあえず、ペンギンは除外していいですね」
答えはまぁ、オウムの影絵だろうけど。
「なんかそれも引っ掛けな気が」
いや、そこまで不親切なことはないだろう。
「シャミセンさんのLUKでどうにかなりませんかね?」
そこまで期待しなくても、この中に正解があると思うのが普通だろう。
「これ、はずれを選んだらどうなるんだろ?」
「ステージの最初に戻されるとか?」
なにそれ? 地味に嫌なんだけど。
「保留にしておくか」
というかそれもありだろう。
時間制限がかけられていても、別にすべてのステージをクリアしようとは思っていない。
それはどうやら双子もおなじ考えで、ひとつでもクリアできれば万々歳といったところらしい。
まぁお互いレベル低いしね、高望みはしないでおこう。
「押さないんですか?」
「なんか、どれを選んでも正解って気がしないんだよなぁ」
どう見てもオウムが正解なのだけど、それが正解だとして、ここが本当にボス部屋だという証拠もない。
なにせほかにも部屋があるから、もしかしたらそっちが正解という可能性だってある。
「他のプレイヤーがここに来るかもしれないから、それを確認してからでもいいかな?」
その問いかけに、双子はちいさくうなずいた。
さて、話が決まったところで、どこに身を隠すかだ。
「それだったら私に考えがあります」
メイゲツがアイテムボックスから半透明の布を取り出した。
「それは?」
「魔法効果がある布です。シュエットさんがこしらえてくれたんですよ」
オレがそれに手を取ると、そこだけ消えていた。
「えっ? なにこれ?」
早速アイテムを鑑定してみた。
[影狼の毛皮+3] 素材アイテム ランク?
影狼の毛皮を布状にした素材アイテム。
アイテムとして使用した場合、相手から姿が見えなくなる。
使用者のLUKによって発見される確率が変わる。
最大一時間使用可能。
「…………」
双子がオレをジッと見てる。
使うのはオレってことだな。
「隠れるのはいいとして、どこで使うかだ」
オレは周りを見渡す。
隠れられるような場所が……ひとつだけあった。
「ちょっと危ないけど、見つかるよりはマシか」
オレは双子をそれぞれオレのところに引き寄せた。
「キャッ?」
それにおどろき小さな悲鳴を上げるメイゲツ。
「な、なにするんですか?」
「あぁ、ジタバタするな。飛べなくなるから」
「えっ? 飛ぶ?」
オレは右手の[土毒蛾の指環]をかざした。
ふわりと、オレの身体が浮く。
「へっ? 飛んでる?」
双子は目をまんまるにしておどろいている。
そういえば、あの時は気を失っていて、[土毒蛾の指環]のことを覚えていないんだっけか。
「しっかり捕まってろ」
双子はギュッと、オレの両脇にしかみ付いた。
ふたりの、すこし膨らんだ胸が両脇で同時に感じ取られたが、それで興奮するほど人間落ちぶれてない。
ただ、若干ではあるがセイフウのほうが反力があった。
「さてと、ここからなら見つからないだろう」
オレが降り立ったのは……シャンデリアの上だった。
思いの外大きい作りだったので、三人乗れることができた。
ここからなら見つからないだろうし、ましてや、まさか人が乗っていようとは思うまいて。
「高いっ! 揺れるっ!」
セイフウがしゃがみ込み、しっかりと縁に手で支えている。
「バランスが取れやすいように真ん中に下りたんだから、あまり動くと揺れるぞ」
それこそ遊園地のバイキングだな。
「流凪、もうすこし右、右によってっ!」
「楓、そっち左ッ! あ、わたしが楓のほうによればいいのかな?」
オレはシャンデリアが落ちないように、中心で鎖を支えることにしよう。
というか想像以上に頑丈だなこの鎖。
よく見たら金でできてた。
「お~い二人とも、三人一緒のところにいたほうがいいんじゃないか?」
双子の体重が違えば、それだけかたむきが違うわけだし。
双子はオレに、それこそ飛ぶ前以上にしがみついてきた。
三人固まったところで、[影狼の毛皮]を羽織る。
大きさはだいたい百五十センチ四方だった。三人が隠れるには十分の大きさだ。
隠れ始めてから三十分後、ちょうど別のパーティーが眼下の廊下へとやってくる気配がした。
「みんな大丈夫か?」
パーティーは戦士、剣士、法術士、弓師といった感じで、バランスがいい。
「……みんな気付いていないみたいですね」
セイフウが小声で言う。
法術士が警戒するように周りを見渡している。
ちょうど天井の方に視線を向けた。
「見つかったか?」
オレは攻撃に備え、錫杖を握った。
……が、その心配はなく、法術士は仲間のほうに視線を向け直した。
「すげぇ、本当に見えてないんだな」
「影狼は夜にしか出現しないモンスターで、姿を隠して攻撃してくるそうです。その特性を活かしたのがこの[影狼の毛皮]ということになります」
シュエットさん、すごいもの作りやがります。
クエストが終わったら、影狼がどこにいるか教えてもらおう。
ただ、モンスターからしてみたら、近付き過ぎると臭いで気付かれるらしい。
完全にプレイヤーキラー御用達じゃないのか? これ。……
さて、眼下でなにか話し合っているパーティー。
議題は、オレたちが押さなかったクイズについてだろう。
「ここはオウムだろ?」
と戦士系のプレイヤーが言う。
「いや、ペンギンという可能性だって。海を泳ぐと空を飛ぶをかけているかもしれません」
剣士系のプレイヤーが物腰の柔らかい声で反論する。
「クジャクじゃないのか?」
法術士はしごくどっちでもいいという表情。
「ダチョウという可能性も否定できんぞ。跳ぶように走ると言われれば、そう考えられんこともない」
最後に弓師が言った。
まったく結論が出なさそうだ。
「でもそういう考えもありだな」
問題を一度思い出す。
[このなかからそらをとぶとりをえらびなさい]
そらをとぶ……空を飛ぶ。
飛ぶ……か。
「あ、痺れを切らしたリーダーみたいな人が押しました」
セイフウがそうオレに知らせる。
なにを押したのか……
ここからだとあまり見えない。
「オウムを押してます」
「ここから見えるの?」
オレがおどろいた表情でセイエイを見やった。
セイフウは、それこそ胸を張るように、
「弓師なめないでください。遠くにいるモンスターに奇襲かけられるくらいの訓練はしてますから」
と威張った。
「ほう、すごいやね」
と、オレが感心していると、ちょいちょいとメイゲツがオレのお腹を突いてきた。
「本当は白水さんが作った装飾品で命中率を上げているだけですよ」
と注訳してきた。
さて、例のパーティーだが、果たして正解だったのか。……
[エラー エラー コタエガチガイマス コタエガチガイマス]
警戒音が鳴り響くと同時に、
「あぎゃごがこれじおがめつわぽいっ?」
メンバー全員、なんか雷落とされてる。
「…………」
それを見ていたオレと双子は、なにも言えなかった。
彼らのHPゲージが見えていたのだが、全快だったゲージが一気に0になる。
そして、かれらは無残にも光の粒子となって、水晶宮の外へと飛ばされていった。
「お、押さなくてよかったぁっ!」
セイフウが涙目でオレとメイゲツを見る。
「シャミセンさんが一緒で良かったですよぉっ!」
メイゲツも同じようにオレを見ていた。
「でもこれでわからなくなったぞ? あの中で空を飛ぶ鳥っていったら、オウムくらいだったし」
さて、どうしたものか……。
「そういえば、サーバーに飛ばされた時、セイエイさんが言ってましたよね?」
セイフウが思い出したような表情で言った。
「あぁ、セイエイが教えてくれたことを考えれば、四海の龍神を攻略して……」
オレはハッとした表情を見せる。
このステージは……いわば海の中だ。
なら、海の中にいる鳥と言ったら……。
双子もそれに気付いたようだ。
オレは眼下を見渡した。……プレイヤーの姿は見当たらない。
例の、クレマシオンの姿も……なかった。
[土毒蛾の指環]のラグはすでに回復しているから、それを使ってゆっくりと床に降りた。
「さて、これではずれてたら、ちょっとビコウに文句言ってやる」
オレはモニュメントに手をかざした。
セイフウの時と同様に、虚空に青色のウィンドゥが表示された。
[このなかからそらをとぶとりをえらびなさい]
【チィオ】 【コンチュエ】
【トゥオニアオ】【インウ】
オレは双子を一瞥する。
「恨みはしませんよ。私たちだってそれかもしれないって思ってますから」
ハッキリと言ってくれた。
なんとも頼りになる返事だ。
「うしっ! これだっ!」
オレは、勢い良く『ペンギン』……[チィオ]の項目を押した。
…………静寂。
まだ警戒を解いてはいけない。
「――はずした?」
オレが苦痛に満ちた表情で双子を見た時だった。
[コングラチュレーションズ トゥ ユゥ オープン ザ ドゥアァ]
なんかアナウンスがながれ、ファンファーレと同時に、ゴゴゴ……という地響きとともに赤い扉が開き始めた。
「せ、正解だった?」
オレは今まで以上に緊張していたせいもあり、その場に座り込んだ。
双子もホッとした表情。というよりは若干青ざめた表情をしているが、徐々に顔色も良くなってきている。
ほんと、ありえないくらいの緊張で、三人とも思わず吐きそうになっていた。




