表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/380

如意とのこと


「ボス部屋っぽいところだな」


 クレマシオンと遭遇し、やつに見つからないよう警戒しながら、十分ほど戦闘も含めて探索を続けていると、目の前の、大きな丸型の赤い扉の前へとやってきていた。

 ほかの部屋も色は違えど、似たような丸型の扉。

 フィールドマップを確認すると、中央奥で、まだ入っていない場所だった。


「ボス部屋だったら入ったら最後、倒すまでは出られないかもしれない。相当な覚悟がいるな」


 オレは視線をメイゲツとセイフウそれぞれに向けた。

 双子はまっすぐにオレを見てコクリとうなずく。

 覚悟はできているようだ。



 全員のHPとMPの残高を確認する。オレは[玉兎の法衣]の効果で、常時HPが回復しているのですこし休めば全快になる。

 双子はメイゲツがチャージをかけたヒールで全回復。

 その時に減ったMPは、オレがアイテムで回復させた。


「ボスを確認したらまずメイゲツは補助魔法を。それからできるかぎりモンスターとの間合いをグリーンに保って。セイフウはメイゲツをかばうかたちで援護射撃。オレはモンスターとの間合いがレッドになってもいくらかは大丈夫だろうから」


 正直、やせがまんだ。

 [刹那の見切り]に対するオレの期待値は、いまのところ五分五分でハッキリ言うと信頼できない。



「なんか書いてありますよ」


 セイフウが、扉の横にある石盤のモニュメントに手をかざすと、虚空に青色のウィンドゥが表示された。



[このなかからそらをとぶとりをえらびなさい]

 【チィオ】   【コンチュエ】

 【トゥオニアオ】【インウ】



 ……はっ?

 意味がよくわからん。


「なんでボス部屋っぽいところに、こんなクイズが?」


 とりあえず英語ではないことはたしかだと思うが、聞き覚えがまったくない。


「この中から選べってことか?」


「なんかヒントはないんですかね?」


 セイフウはウィンドゥに触れようとするが、間違ってはずれを押してしまってはいけないと躊躇していた。



 ウィンドゥを注視していると、選択肢にうっすらと絵が浮かんでいたことに気付く。

 ほんと、レイヤーの上絵の濃度が30%も無いんじゃないかといえるほどにうっすらと。



 [チィオ]の項目には『ペンギン』の影絵(シルエット)

 [コンチュエ]の項目には『クジャク』の影絵(シルエット)

 [トゥオニアオ]の項目には『ダチョウ』の影絵(シルエット)

 [インウ]の項目には『オウム』の影絵(シルエット)



「…………」


 双子もそれに気付いたようだが、なんか納得のいってない表情だった。


「なんで鳥なのにペンギンが入ってるんですか?」


「あぁ、ペンギンって生物学的には鳥に分類されるんだよ」


 鳥類の定義は『現状の鳥類と始祖鳥のもっとも新しい共通の、祖先から進化したすべての生物』とされているようだ。

 つまりは、鳥類の特徴である『クチバシ』と『翼』があり、『卵を産む』、『恒温動物(環境に関係なく、ほぼ一定の体温を保つ動物)』であることが鳥類の定義とされている。

 ペンギンにはまずクチバシがあることと、前足が翼となっていること。さらには産卵するため、鳥類に分類されるということだ。



「とりあえず、ペンギンは除外していいですね」


 答えはまぁ、オウムの影絵(シルエット)だろうけど。


「なんかそれも引っ掛けな気が」


 いや、そこまで不親切なことはないだろう。


「シャミセンさんのLUKでどうにかなりませんかね?」


 そこまで期待しなくても、この中に正解があると思うのが普通だろう。


「これ、はずれを選んだらどうなるんだろ?」


「ステージの最初に戻されるとか?」


 なにそれ? 地味に嫌なんだけど。



「保留にしておくか」


 というかそれもありだろう。

 時間制限がかけられていても、別にすべてのステージをクリアしようとは思っていない。

 それはどうやら双子もおなじ考えで、ひとつでもクリアできれば万々歳といったところらしい。

 まぁお互いレベル低いしね、高望みはしないでおこう。


「押さないんですか?」


「なんか、どれを選んでも正解って気がしないんだよなぁ」


 どう見てもオウムが正解なのだけど、それが正解だとして、ここが本当にボス部屋だという証拠もない。

 なにせほかにも部屋があるから、もしかしたらそっちが正解という可能性だってある。


「他のプレイヤーがここに来るかもしれないから、それを確認してからでもいいかな?」


 その問いかけに、双子はちいさくうなずいた。



 さて、話が決まったところで、どこに身を隠すかだ。


「それだったら私に考えがあります」


 メイゲツがアイテムボックスから半透明の布を取り出した。


「それは?」


「魔法効果がある布です。シュエットさんがこしらえてくれたんですよ」


 オレがそれに手を取ると、そこだけ消えていた。


「えっ? なにこれ?」


 早速アイテムを鑑定してみた。



 [影狼の毛皮+3] 素材アイテム ランク?

 影狼の毛皮を布状にした素材アイテム。

 アイテムとして使用した場合、相手から姿が見えなくなる。

 使用者のLUKによって発見される確率が変わる。

 最大一時間使用可能。



「…………」


 双子がオレをジッと見てる。

 使うのはオレってことだな。


「隠れるのはいいとして、どこで使うかだ」


 オレは周りを見渡す。

 隠れられるような場所が……ひとつだけあった。



「ちょっと危ないけど、見つかるよりはマシか」


 オレは双子をそれぞれオレのところに引き寄せた。


「キャッ?」


 それにおどろき小さな悲鳴を上げるメイゲツ。


「な、なにするんですか?」


「あぁ、ジタバタするな。飛べなくなるから」


「えっ? 飛ぶ?」


 オレは右手の[土毒蛾の指環]をかざした。

 ふわりと、オレの身体が浮く。


「へっ? 飛んでる?」


 双子は目をまんまるにしておどろいている。

 そういえば、あの時は気を失っていて、[土毒蛾の指環]のことを覚えていないんだっけか。


「しっかり捕まってろ」


 双子はギュッと、オレの両脇にしかみ付いた。

 ふたりの、すこし膨らんだ胸が両脇で同時に感じ取られたが、それで興奮するほど人間落ちぶれてない。

 ただ、若干ではあるがセイフウのほうが反力があった。



「さてと、ここからなら見つからないだろう」


 オレが降り立ったのは……シャンデリアの上だった。

 思いの外大きい作りだったので、三人乗れることができた。

 ここからなら見つからないだろうし、ましてや、まさか人が乗っていようとは思うまいて。


「高いっ! 揺れるっ!」


 セイフウがしゃがみ込み、しっかりと縁に手で支えている。


「バランスが取れやすいように真ん中に下りたんだから、あまり動くと揺れるぞ」


 それこそ遊園地のバイキングだな。


「流凪、もうすこし右、右によってっ!」


「楓、そっち左ッ! あ、わたしが楓のほうによればいいのかな?」


 オレはシャンデリアが落ちないように、中心で鎖を支えることにしよう。

 というか想像以上に頑丈だなこの鎖。

 よく見たら金でできてた。


「お~い二人とも、三人一緒のところにいたほうがいいんじゃないか?」


 双子の体重が違えば、それだけかたむきが違うわけだし。

 双子はオレに、それこそ飛ぶ前以上にしがみついてきた。



 三人固まったところで、[影狼の毛皮]を羽織る。

 大きさはだいたい百五十センチ四方だった。三人が隠れるには十分の大きさだ。



 隠れ始めてから三十分後、ちょうど別のパーティーが眼下の廊下へとやってくる気配がした。


「みんな大丈夫か?」


 パーティーは戦士、剣士、法術士、弓師といった感じで、バランスがいい。


「……みんな気付いていないみたいですね」


 セイフウが小声で言う。

 法術士が警戒するように周りを見渡している。

 ちょうど天井の方に視線を向けた。


「見つかったか?」


 オレは攻撃に備え、錫杖を握った。

 ……が、その心配はなく、法術士は仲間のほうに視線を向け直した。



「すげぇ、本当に見えてないんだな」


「影狼は夜にしか出現しないモンスターで、姿を隠して攻撃してくるそうです。その特性を活かしたのがこの[影狼の毛皮]ということになります」


 シュエットさん、すごいもの作りやがります。

 クエストが終わったら、影狼がどこにいるか教えてもらおう。

 ただ、モンスターからしてみたら、近付き過ぎると臭いで気付かれるらしい。

 完全にプレイヤーキラー御用達じゃないのか? これ。……



 さて、眼下でなにか話し合っているパーティー。

 議題は、オレたちが押さなかったクイズについてだろう。


「ここはオウムだろ?」


 と戦士系のプレイヤーが言う。


「いや、ペンギンという可能性だって。海を泳ぐと空を飛ぶをかけているかもしれません」


 剣士系のプレイヤーが物腰の柔らかい声で反論する。


「クジャクじゃないのか?」


 法術士はしごくどっちでもいいという表情。


「ダチョウという可能性も否定できんぞ。跳ぶように走ると言われれば、そう考えられんこともない」


 最後に弓師が言った。

 まったく結論が出なさそうだ。



「でもそういう考えもありだな」


 問題を一度思い出す。


 [このなかからそらをとぶとりをえらびなさい]


 そらをとぶ……空を飛ぶ。

 飛ぶ……か。



「あ、痺れを切らしたリーダーみたいな人が押しました」


 セイフウがそうオレに知らせる。

 なにを押したのか……

 ここからだとあまり見えない。


「オウムを押してます」


「ここから見えるの?」


 オレがおどろいた表情でセイエイを見やった。

 セイフウは、それこそ胸を張るように、


「弓師なめないでください。遠くにいるモンスターに奇襲かけられるくらいの訓練はしてますから」


 と威張った。


「ほう、すごいやね」


 と、オレが感心していると、ちょいちょいとメイゲツがオレのお腹を突いてきた。


「本当は白水さんが作った装飾品で命中率を上げているだけですよ」


 と注訳してきた。



 さて、例のパーティーだが、果たして正解だったのか。……



 [エラー エラー コタエガチガイマス コタエガチガイマス]



 警戒音が鳴り響くと同時に、


「あぎゃごがこれじおがめつわぽいっ?」


 メンバー全員、なんか雷落とされてる。



「…………」


 それを見ていたオレと双子は、なにも言えなかった。

 彼らのHPゲージが見えていたのだが、全快だったゲージが一気に0になる。

 そして、かれらは無残にも光の粒子となって、水晶宮の外へと飛ばされていった。



「お、押さなくてよかったぁっ!」


 セイフウが涙目でオレとメイゲツを見る。


「シャミセンさんが一緒で良かったですよぉっ!」


 メイゲツも同じようにオレを見ていた。


「でもこれでわからなくなったぞ? あの中で空を飛ぶ鳥っていったら、オウムくらいだったし」


 さて、どうしたものか……。



「そういえば、サーバーに飛ばされた時、セイエイさんが言ってましたよね?」


 セイフウが思い出したような表情で言った。


「あぁ、セイエイが教えてくれたことを考えれば、四海の龍神を攻略して……」


 オレはハッとした表情を見せる。

 このステージは……いわば海の中だ。

 なら、海の中にいる鳥と言ったら……。



 双子もそれに気付いたようだ。

 オレは眼下を見渡した。……プレイヤーの姿は見当たらない。

 例の、クレマシオンの姿も……なかった。



 [土毒蛾の指環]のラグはすでに回復しているから、それを使ってゆっくりと床に降りた。



「さて、これではずれてたら、ちょっとビコウに文句言ってやる」


 オレはモニュメントに手をかざした。

 セイフウの時と同様に、虚空に青色のウィンドゥが表示された。



[このなかからそらをとぶとりをえらびなさい]

 【チィオ】   【コンチュエ】

 【トゥオニアオ】【インウ】



 オレは双子を一瞥する。


「恨みはしませんよ。私たちだってそれかもしれないって思ってますから」


 ハッキリと言ってくれた。

 なんとも頼りになる返事だ。


「うしっ! これだっ!」


 オレは、勢い良く『ペンギン』……[チィオ]の項目を押した。



 …………静寂。

 まだ警戒を解いてはいけない。


「――はずした?」


 オレが苦痛に満ちた表情で双子を見た時だった。



 [コングラチュレーションズ トゥ ユゥ オープン ザ ドゥアァ]



 なんかアナウンスがながれ、ファンファーレと同時に、ゴゴゴ……という地響きとともに赤い扉が開き始めた。



「せ、正解だった?」


 オレは今まで以上に緊張していたせいもあり、その場に座り込んだ。

 双子もホッとした表情。というよりは若干青ざめた表情をしているが、徐々に顔色も良くなってきている。

 ほんと、ありえないくらいの緊張で、三人とも思わず吐きそうになっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ