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悪役令嬢ぴるぴる15



 天上人のような美貌ながらぼっちのリリウムです。

 破滅を前にますます美貌に磨きがかかっております。

 そして相変わらず一人寂しく授業風景に身を置いています。

 クラスメイトに護衛がいることが判明しましたが、護衛という立場上接触できるわけもなく、どこかで見守られながら教室移動はいつも一人です。

 今日も今日とてぼっちな学校生活を終えてきました。



「エディ、ただいま」

「おかえりなさいませ、お嬢様。今日もお疲れさまでございました」

学園と寮の敷地の境で待機していたエド君が、すかさず抱き上げて、ゆっくりと歩みだす。

さりげなく巡る視線は、私の顔色や髪のほつれなどをチェックするものだ。

「ご無事のお帰り、ようございました」

たかだか学校で授業を受けてきただけというのにここまで労ってもらえるのは、リリウムとエド君の関係ゆえだろう。

「ええ、またエディに会えて嬉しいわ」

いつも以上にうきうきした声で応えれば、エド君も楽しそうに笑う。

「晩餐の用意は調っております。イヴリーヌのショコラティエも、厨房で待機してございますよ」

「まあ、まあ。イヴリーヌの? 今年はチョコレートケーキなのね?」

イヴリーヌとは、ずいぶん前からチョコレートを購入するにあたり贔屓にしている店だ。

チョコレート専門店のようだったのだけれど、あの濃厚なチョコレートで作るケーキを食べてみたくなって、ついついエド君の前で願望を零したのはいつだっただろうか。

「仕上げには飴細工の趣向です」

「まあ、エディ」

「詳細は見てのお楽しみにしましょう」

 そんなふうに期待を煽られては、早く見たくてしょうがない。

「エド君は悪い子ね。私をこんなに焦らすだなんて」

 まったく、もう。

 眉を顰めつつも、笑う口元を隠し切れない。

「申し訳ありません、お嬢様。ですが、楽しみは少々焦らした方が、後の喜びがいや増すことでしょう」

「まあ、エディったら、いやに実感がこもっているわね」

 いったいどんな焦らしプレイにあったというのか。

 おばさんに教えてごらんなさい。

 なんてね。

 私はやっぱり浮かれているらしい。

 エド君はあまりの浮かれっぷりの私に、苦笑するしかないのだろう。

 しかもその苦笑する様は私よりも色っぽいとかね。

 なにはともあれ。

「お嬢様、お誕生日おめでとうございます」

 リリウム、無事にこの日を迎えることができました。



 なんと、今日は私の誕生日なのです。

 おめでとう、おめでとう、リリウム。

 ありがとう、ありがとう、リリウム。

 一人二役でお祝してみました。

 誕生日は毎年エド君が祝ってくれます。

 私の好物で埋め尽くした食卓に、一日べったりとエド君の腕に抱っこされる一日。

 そうなんです、一日中わたしはエド君に抱っこされるのです。

 誕生日だけは私が私に許しました。

 よしと言ってやりました。

 存分にエド君に甘えられる日なのです。

 セバスチャンにはほかの日とどう違うのかと真顔で聞かれたこともありますが、失礼な、私は普段はエド君に甘えたい思いをセーブしているんです。

 なんといっても中身いい大人ですからね。

 さて、この日の晩餐は、前菜9種盛りに、スープ、メイン、サラダ、デザート、果物、紅茶でした。

 前菜は、小さな魚のマリネ、メレンゲ仕立ての桃のムース、プチトマトのファルシー、鶏ハムのチーズ巻き、クリーミーなマッシュポテト、小さな魚を丸ごと春巻きにしたスパイス風味の揚げ物、温野菜にマスタード風味のマヨネーズ擬きを和えたもの、粉チーズやスパイスをかけた半熟卵、魚介のオイル煮が、それぞれ一口サイズで大皿に盛りつけられている。

 スープは冷たい桃のスープにコンソメジュレを浮かべたもの、メインはパテアンクルートで、中に織り込まれたフォアグラと無花果が良いアクセントになっている。

 サラダはサラダ菜にベビーリーフと色とりどりのエディブルフラワーを散らし、彩りも華やかだった。

 デザートにはチョコレートケーキを目の前でサーブしてもらった。

 ちなみにサーブしてくれたのはエド君だ。

 エド君はほんとに色々超越してるよね。

 艶やかなチョコレートケーキに花を象るようなレース状の飴細工が施されて、そしてそれを美しくも端正なエド君がスーツ姿で切り分け、小さな皿にのせて差し出してくれた時のあの感動。

 断頭台に送られるまでもなく昇天するかと思ったよ。

 チョコレートケーキの中には絶妙な加減で木の実の薄くスライスしたものが入っていて、スポンジ自体もどっしりとしてザ・チョコレートという感じだったし、表面を覆うチョコレートもビターな風味が身もだえるほど美味しかった。

 紅茶は少し薄めに淹れられていて、それがまた濃厚なケーキにこの上なくマッチしていた。

 果物はもちろん桃である。

 この時期に桃を用意することは難しいのではないかと思うけれど、なんといってもリリウムといえば桃なのである。

 それにしても、勉強熱心なエド君のおかげで、年々私好みに、なおかつグレードが上がっている気がする。

 私が物心ついたばかりの頃って、まだまだ簡素というか手の込んでいないメニューが多かった。

 ふう。

 余は満足じゃ。

 私の専用椅子と化しているエド君の膝の上で、過ごす食後のくつろぎのひと時は最高です。

 前菜から食後の休憩まで、ずっとエド君の膝の上で過ごしたリリウムです。

 この日一日はべったべたに甘えると決めているのです。

 毎年のことなので、エド君だってきっと覚悟を決めていたはず。

 本当は、できることなら学園だって休んで朝からずっとエド君と部屋に籠っていたかったぐらいだ。

 後ろ髪をひかれる思いで登校した私を盛大に褒めてほしい。

「今年もとても美味しかったわ」

「ようございました」

「ありがとう、エディ」

 いくらエド君が私の世話係といっても、これだけの食事やらを用意するのは、すでに職分を超えている。

 イヴリーヌのショコラティエにケーキを依頼するなど、自分の道一筋でやってきた職人気質の人をその気にさせるのは、容易ではないだろう。

 いうなれば、自分の立場の中でこの上なく誕生日のプレゼントを用意してくれたのである。

「居間に公爵閣下とアラン様、王太子殿下からのプレゼントをまとめてございます」

 王太子・・・ようやく私のこの心情を汲み取ってくれる気になったのだろうか。

「まあ。お礼状を書かないと・・・」

 さすがにエド君の代筆は使えない。

「ご覧になりますか?」

「もう少し、ここでゆっくりしてからね」

 目を閉じて、うっとりとエド君の胸に耳をつける。

 白いシャツと濃紺のベスト越しに、エド君の心音が聞こえた。

「ねむい」

「そのようですね」

「何か目の覚める話をして」

「よろしいのですか」

「うん・・・?」

 なにかまずかった?

「収穫祭でお泊りになられる宿が決まったと連絡がありましたよ。候補は多くあったようですが、差雌雄的にリッツを貸切ることにしたそうです」

「そうなの」

 リッツとは言わずと知れた、世で世界的に有名だったあのホテルをイメージしたもので、今世でも最高級ホテルといってもいいもの、らしい。

 ゲームの中では、そのラウンジで攻略対象者や友人と過ごすことが多かった。

 授業や習い事をこなすとストレス値が溜まり、そのストレス値は休養や栄養ドリンク、ラウンジのケーキなどで減らすこともできる。

 休養を選択するとお金が減らないけれど一日が潰れてしまうので、主に栄養ドリンクを使っていた。

 ただ、攻略対象によってはラウンジに出没するキャラもいたり、ライバルキャラと友人になりラウンジのケーキを一緒に食べることを繰り返すと親友になって、平和的に攻略対象との仲を認めてもらえるルートもあったりしたので、ラウンジを多用する回も多かった。

 ゲームの中で気になっていた店に行けたりホテルに行けたりするのって、ゲーム転生の醍醐味よね。

「建物の説明をいたしますと、5階建てになっておりまして、1階はロビーとラウンジ、大広間、2階と3階には客室が20部屋ずつ、4階にはメインダイニングとダンスホール、5階には客室が5部屋ございます。5階の客室を、中央の部屋を公爵閣下の部屋とし、その両隣の部屋をアラン様とお嬢様がそれぞれお使いになります。両端の部屋にはそれぞれ護衛が待機することとなっております」

「・・・・・」

 目が覚めるどころか、呼吸が止まりそうなんですけど。

 誕生日にどでかい爆弾くれちゃって。

 これもプレゼントですとか言ったら、おばさん怒っちゃうよ?

 たしかに私が目の覚めるような話とかってふったんだけれど、もうちょっとゆるい目覚め話はなかったの。

「3階には公爵家のメイド、2階には公爵家のメインシェフらが控えております」

 あらまあ、すごいのね。

 公爵家の屋敷の半分ほどを引き連れてのお泊りになるらしい。

 それほど支度していたわけではないけれど、見知った顔が久しぶりに揃うとは、なんだか嬉しい。

「セバスチャンは来ないの?」

「屋敷の守りがございますから。宿では僭越ながら、エドワードめが使用人の差配を預からせていただきます」

「それでは、エド君は忙しいの?」

 折角エド君と収穫祭の屋台巡りをしようと思っていたのに。

 今度こそ公爵家のリリウムとばれないような完璧な変装も用意してもらうつもりだったのだ。

 そして叶うことならそのまま逃亡・・・。

「基本方針は決まっておりますし、皆顔ぶれも同じですので、場所が変わっただけで細かく指示が必要ということもありません。何よりも、エドワードの一番の仕事はお嬢様のお世話です」

 きりっと言ってくれました。

 ありがとうございます。

「傍にいてくれるのね?」

「勿論でございます、お嬢様」

「屋台に行ってみたいの。学園の方々にリリウムだとばれないように変装して」

「畏れながら、それは難しいかと」

「髪の色なら、結い上げてヴェールを被ってしまえばいいわ。瞳の色も、ヴェールを目深に被れば、覗き込まないと見えないでしょう。ちょっと怪しい人に見えるかもしれないけれど、この王都の収穫祭ならば、そのぐらい注目されるようなことじゃないわ」

 前世で例えれば、花粉やインフルの時期でもないのに、マスクサングラスで大都会を歩くようなものだ。

「そうですね。次回、機会がありました時には、そのようにいたしましょう」

「うん?」

 次回とな?

「公爵閣下が、テラス席でお嬢様とアラン様と収穫祭をご観覧されるそうです」

「ごかんらん?」

 遠くから見るだけ?

「リッツは大広場に臨むテラス席を有しておりまして、今回の宿選びの決め手の一つとなりました」

 大広場は収穫祭の様々な競技が開催される場所だ。

 大広場の正面に王家の観覧席が用意されるけれど、本当はホテルのテラス席で見た方がゆっくりのんびり見られるので人気らしい。

 公務も大変だよね。

 私は絶対に王族なんかにはなりたくないよ。

 見るもの着るもの笑顔の口角の角度まで決められてるなんて冗談じゃない。

「まいにち?」

 聞きながらも、答えは予想がついていた。

 一日でも自由時間があれば、エド君は次の機会だなどと言わないだろう。

「はい」

 厳かにエド君は頷いた。

「毎日?」

 じわりと涙が滲む。

 声にも水が混じるのに気づいて、抱きしめる腕の力が強くなった。

 涙の滲む目元に接吻けられる。

「はい」

「エディ、私、どうすればいいのかしら」

 ゲームのリリウムは収穫祭の時どうしていただろう。

 少なくとも、兄の行動はゲームの時と変わった。

 テラス席に一日拘束される兄が、収穫祭の人ごみの中でヒロインと鉢合わせするわけがない。

 すでに出会ってはいるけれど、兄が収穫祭でヒロインと会わずに済めば、少なくとも兄ルートのゲーム展開の一つを砕いたことになるのではないだろうか。

 兄をホテルに留めおく。

 そのことに限っていえば、今回の家族団欒?は良いこと・・・かもしれない。

「お嬢様におかれましては、ただただ公爵閣下とアラン様との団欒の時間をお過ごしいただければと思います」

 団欒・・・。

 そうだよね、形式的には団欒なんだよね・・・。

 ただただと言われてもそれが一番大変なんです。

 心配そうに覗いている緑色の瞳を見る。

 いつも板挟みにしてごめんね。

 エド君のことは大切なクッションだと思ってるよ。

「お嬢様、プレゼントをご覧になりますか」

「そうね」

 話題の転換は望むところです。

 どうせ何が何でもその日を迎えることに変わりないならば、その当日まではもう考えたくない。

 それに、あまりゆっくりしていると、お返事を書く時間がなくなるしね。

 私が直筆の手紙を書くとき、私の伝えたいニュアンスをエド君に言うと、文面はエド君が考えてくれる。

 実のところ、私はただ書けばいいだけである。

 ただ、その書く作業が、私の場合は時間がかかる。

 なんといっても手の力が足りないからね。

 休み休み書いていると、どうしても時間がかかってしまうのである。

 私の人生は多分どこかで間違えている。

 エド君が私を抱いたまま立ち上がり、居間へと移動する。

 居間にはソファの前に丸テーブルが置かれ、プレゼントらしいものが3つのっていた。

 それぞれ包みを包装するリボンにメッセージカードが挟まれている。

 エド君に抱かれたままソファに座る。

 お膝抱っこ継続中です。

「こちらが公爵閣下からです」

 最初に差し出されたのは、小さな箱である。

 メッセージカードには短くおめでとうと書かれている。

「・・・何かしら」

 手を出しあぐねていると、私を腕に収めたままのエド君が開けてくれる。

 薄い桃色の光沢のあるリボンをするりとほどき、宝石を散りばめた陶器の箱の蓋を開ける。

 かちゃりと重そうな音が鳴り、私が持ち上げることはできないだろうと遠い目になる。

 箱の中には、銀色に光る鍵が入っていた。

 掌に収まるほどの鍵にも小さな宝石が二つ埋められている。

 私はそれを手に取ろうとして。

「重い・・・」

 持ち上げられなかった。

 鍵自体も多分重いよね、これ。

 いったい何でできてるの。

 そもそも、これ何の鍵?

それとも、鍵の形のインテリアとかなの?

 いったい私は何をもらったの?

その疑問に答えてくれたのは、もちろんエド君だった。

「公爵閣下がド・ルーナ領に新しく建てられた屋敷の鍵でございます」

「まあ」

と言いつつ、何を言われているのか理解が追いついておりません。

父が何をしたと?

「お嬢様が学園を卒業されましたら、そちらが新居となります」

「まあ」

卒業して無事に命が繋がっていれば、我が家が待っていてくれるのね。

「うふふ」

堪えきれない笑いが洩れる。

でも安心してください、淑女教育ばっちりなリリウムは、知らず知らずにお嬢笑いができるんです。

「エド君との新居ね。楽しみだわ」

「エドワードもでございます」

 にっこり笑う私に、エド君もにっこり笑って返してくれる。

 ああ、幸せ。

 やっぱりこうじゃないとね。

 最近はなんだかエド君がブリザード系になってどうしようかと思っていたけれど、遅い反抗期だったのかしら。

 そういえば反抗期なんてなかったものね。

 ちょっと遅すぎる気もするけれど、のんびり屋のエド君も可愛らしいこと。

「アラン様からは、こちらになります」

 20センチ四方ほどの、白い正方形の箱だ。

 こちらは、系統は陶器だけれど、陶器よりもやや軽い材質で作られているようだった。

 薄青色のリボンをほどいて蓋を開けるときも、パコ、という感じだ。

 中には5センチほどの小さな牙のようなものがあり、箱の中はそれを固定するように形作られていた。

 牙の周囲には、ユニコーンの角の欠片であることを証明する旨の文言が彫り込まれていた。

 まるで標本みたいだ。

「まあ・・・まあ、まあ」

「はい」

 ・・・・・。

 私はまあしか言っていないのに、エド君がはいって言った。

 何に対してエド君は返事してくれたのかな?

「ユニコーンの角ですって」

「ようございましたね」

「・・・うん」

ずっと欲しかったものなので、うれしい。

嬉しいけれど、微妙に素直に喜べないのは何故だろう。

「殿下からの贈り物は何かしら」

得意の話題転換を発動。

「こちらでございます」

王太子からのプレゼントの箱も、兄と同じぐらいの大きさのものだった。

こちらは見てすぐに木箱と分かる。

白色のリボンをほどき、蓋が外される。

中に入っていたのは、契約に使われる羊皮紙だ。

羊皮紙は重いので箱の中に置いたままつらつらと読んでみると、以前見せていただいた妖精の絵の画家の、これから出る新しい絵について優先的に買い取ることができるという契約書だった。

王太子は前世でいえば未成年。

それが従姉妹の誕生日プレゼントにこのチョイスって。

恐ろしいのは異世界なのか、王太子という身分なのか、それともあの人個人の資質なのか・・・。

何はともあれ、貰えるものは、貰いましょう。

何故か常よりもポイントにぐさりと突き刺さる内容ではあるけれど、例年通りのプレゼントには違いない。

確か誕生日プレゼントの内容は断罪ルートと関係なかったはず。

「素晴らしいわ」

「ようございました」

「ほんとうに」

 テーブルに置かれた3つのプレゼントを見つめる。

 今までで一番嬉しいプレゼントかもしれない。

「ねえ、エディ」

 振り向くと、思いのほかエド君の顔が近くにあった。

 相変わらず端正な顔。

 髭も生えないみたいで、夜だというのに顎もすっきりしたままだ。

 そろりと頬をこすりつけても、痛むようなことはない。

「お嬢様」

「なあに、エディ」

「何をなさっておいでですか」

「エド君はおひげが生えていないのねと思って」

「それで、どうして頬ずりするんです」

「痛くないかなあと思ったのよ」

 特に他意はなかったのだけれど、なんだかエド君の中では大事になっているのかな?

 もしや、セクハラ問題に発展している?

 ちらりとエド君を見れば、頭の痛そうな表情はしているけれど、あれ?

「お嬢様はおいくつでしたか」

「やあね、エド君。さっきお祝いしてくれたばかりじゃない。17歳よ? いつのまにか大きくなっているものねえ」

 私もエド君も。

「他人事のような仰りようですね」

「あら、まあ。そんなことないわよ。ただ少し、実感に乏しいだけで」

 何しろ、大人の前世の意識が幼い今世の中で目覚めてしまったせいで、今一つ統一感が足りていない。

 私がリリウムである自覚もあるし、そのつもりでいるのだけれど、ふとした拍子に自分を客観視する意識がどこかにある。

 それは冷静に自分を客観的に省みるとかそういうレベルの話ではなく、ほんとうに自分のものすごく身近で育った少女を眺める気持ちに近い。

「それで、私の年齢がどうかしたのかしら」

「いいえ、お嬢様。エドワードめが反省すべきことでした」

「まあ・・・」

 なんだか既視感のある話の流れだ。

「ちなみに、何をエドワードが反省することがあるというの?」

 エド君に反省するところなんて・・・。

 あ。

「お嬢様の育て方です」

 申し訳ございません。

 エド君の苦節十・・・何年だかの総結集がこんなんで、心苦しいばかりです。

 でもでも、見た目にはエド君の努力の爪痕が刻まれているので。

 中身についてはもうご容赦ください。

 多分もう改善はありません。

「ごめんね、エディ」

 万感の思いを込めて謝罪する。

「お嬢様は何一つ悪くありません。すべてはエドワードの不徳の致すところでございます」

 いやぁ、エド君だって、悪いことなんて一つもないよ。

「よろしいですか、お嬢様」

 何が?

「男は皆、狼です」

「うん?」

「そんなふうに可愛らしく首を傾げてはいけませんよ」

 いやいや、何を言っているの?

「男は皆って、お父様やお兄様や、エディも狼だというの? ・・・満月を見ると狼に変身してしまうとか?」

 人狼伝説?

 そんなファンタジー設定なかったはずなんだけど。

 あれば忘れるはずがない。

 やっぱり私が死んだ後に続編が出てたのかな?

 止めてよねー、私のゲーム知識が瓦解していくじゃないの。

「お嬢様、エドワードは真面目に申し上げております」

「私もこの上なく真面目よ」

 何しろ命がかかっている。

 続編があったかどうか、新しい設定が生み出されていたかどうかで、私の命運も左右されるのだから。

「申し訳ございませんでした。エドワードの反省が足りなかったようです。狼というのは比喩表現でございまして、物理的に動物の狼であるというわけではありません」

 あら。

 あら、あら、まあ。

 なるほどね、そっちの狼ね。

 そういえば、前世でそんな言葉が流行った時期もあったわね。

 そうそう、あったあった。

 ・・・・・・・・。

 ごめんよ、エド君。

 そんなに頭の痛そうな表情をされると、ひじょーにつらいよ。

「エディ、大丈夫、エディの言いたいことは伝わったわ」

 すっとぼけた反応してごめん。

「男性には気を付けるようにということでしょう」

 そうよね。

 リリウムは可愛らしいもの。

 エド君には平然とお風呂に入れられたリ着替えさせられたリしているけれど。

 公爵家の壁があるにしたって、この美貌だというのに一度もラブレターめいたものをもらったり、告白らしきものをされたこともないけれど。

 学園で顔を赤くした男子生徒に声をかけられることも一切ないけれど。

 友達一人もいないけれど。

 あれ。

 リリウムって、可愛いよね・・・?

「そのとおりでございます、お嬢様」

「気を付けるわ、エディ」

「お分かりいただけて何よりです」 

 さて、食休みもしたことだし。

「お風呂に入りましょう、エディ。ゆっくりお湯に浸かって、のんびりしてから、それからお礼状を書くわ」

 喜びも驚きも、誕生日にふさわしく、今日は一段と大きかった。

 かくなる上は、エド君に風呂に入れてもらうしかないだろう。

 にっこり。

 エド君に微笑むと、一拍置いて、エド君も笑う。

 けれど、その笑みにはちょっと凄みを感じてしまった。

「人は一段ずつ梯子を上ると言いますからね」

 千里の道も一歩から、ね。

 遠い道のりだって、まずは一歩を踏み出して、 少しずつ積み重ねていくことが大切よね。

 うんうん。

 分かるわー。

 頷いていると、半眼になった緑の瞳が向けられていた。

 え・・・?


 その夜のお風呂は、どういうわけだか所々で恥ずかしい思いをすることがあった。

 いつもと特に変わりはないのだけれど、洗い方に色気を感じる部分があったり・・・。

 涼しい表情をしているけれど、エド君のわざとだろう。

 また反抗期がぶり返しているのかと思って、とりあえずは見守ることにした。

 遅咲きの反抗期は長引くというから、どうしたものだろう。




 

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