表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/35

城内戦闘3

 アルゼリータの呟きを最後に、城の中に沈黙が訪れた。静かに横たわる姉は、血が流れるにつれ体温が下がっていき、呼吸も徐々に浅くなっていく。


「姉さん」

 再び呟く。存在を確認するように、スティエラの頬に触れたアルゼリータはマルイスに問いかけた。

「マルイス。別人、という可能性は……」

 マルイスは、頭を横に降った。

「いいえ。影武者を使っていた、ということは聞いていません。正真正銘、スティエラ姉様です」

 そうか、とだけ答えると、佇むマナを見遣った。

「お前は、こいつの護衛じゃなかったのか?」

 厳しい顔付きのアルゼリータに対し、マナは相変わらず笑っている。

「確かにそうだが、私の邪魔になるなら誰でも殺すよ。それが王でも何でも。私の目的はロゼへの復讐……根絶やしなのだから」

 マナの言葉に、アルゼリータの力が爆発した。

 炎も氷も関係無い。際限なく解放された能力。

「どうして怒るの? 貴方だって、この人を狙っていたはず。むしろ死んで好都合でしょ」

「オレが怒っている理由はな、オレが殺すと決めた2人の獲物を狙い、その1つを不躾にも奪っていった事。」

 アルゼリータは更に続けた。

「あいつらはオレが殺さなければならなかった。スティエラは反逆者の王として、ロゼイルは精霊の力を移したときの約束としてな。それがお前の自分勝手な理由のせいで台無しになってしまった。……それに、主を守らずに手をかけるとは、シラルガンの風上にも置けない奴め。その程度の忠誠心など、滅んで当然だ」


 アルゼリータなりの落とし前のつもりだった。

 反逆した事に対する。

 精霊の一部を移し命を救われた事に対する。

 自分が死ぬか、相手の首を切り落とす事で終結を許された命をかけた喧嘩を、1人の女に邪魔された。アルゼリータはそれが許せなかったのだ。


 圧倒的な熱量に、マナは少し怯んだ。

 アルゼリータは、もう命を考えていない。全く考えていないから可能になる力の解放に、ロゼイルは叫んだ。

「待ってアルス! もうやめろ! お前が死んでしまう!」

 ロゼイルの声が聞こえていないのか、アルゼリータは真っ直ぐマナを睨んでいる。

 どうして。と、ロゼイルは呟いた。

「どうしてそうなるんだよお前は! 誰かを殺さなきゃいけないなんて無いんだよ! 変なところで責任感持ってんじゃねぇよ!」

 ロゼイルの必死の叫びが、アルゼリータに届いた。

「何故……。こいつが生きてると、お前も狙われ続けるんだぞ……?」

「そりゃそうだけど……。でもそのためにお前が死んじゃ意味が無いだろ! …………お姉さんは死んだ、もうそれでいいでしょ? 帰ろうよ。帰る場所はもう無いかもしれないけど、君ならなんとでも出来る」

 だから、もう終わりにしよう――――――。


 ロゼイルの説得に、アルゼリータは少し笑みを浮かべて見せた。

 

「大丈夫だ。今のオレじゃこいつを殺すまでは出来ないが、腕の1本、足の1本くらい持っていく程度はいけるハズだ」

 アルゼリータから放たれる炎気と冷気は、マナの身体に纏わりつくと、冷気は氷結し身体を縛り、炎気は劫火に変化しマナの身体を焼いた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 マナは容赦なく焼かれる痛みに悶えた。大きく目を見開き、涙すら炎で蒸発した。やがて痛みに耐えきれなくなったのか、焼かれながら気絶してしまった。


 その様子を見ていたアルゼリータにも限界が訪れた。精霊の力が収まっていくと、彼の姿が露になった。両手の爛れは目も当てられないほどボロボロで、右目は強烈な炎のせいで白く濁り失明していた。

 アルゼリータの荒い息遣いが徐々に収まり、それから更に小さくなっていく。

 最後の力を振り絞り、アルゼリータはロゼイルの方を見た。そして。



「すまない……」



 それだけを残し、アルゼリータは倒れた。



「アルスッ!!」

 ロゼイルは慌てて駆け寄った。必死に名前を呼び、身体を揺さぶった。身体はまだ温かいが、顔は生気を失っている。

 ふとアルゼリータの右腕に触れたとき、グジュ、と何か潰れたような音がした。

 アルゼリータの右腕は爛れているどころではなく、肉が溶けてグチャグチャになり、辛うじて腕の形を保っている状態であった。

「ヒッ……ッ」

 ロゼイルは小さく悲鳴をあげた。更に、左腕はもう何色か分からないくらい変色していた。

「あ……ある……す……?」

 信じられなかった。これが、あの人なのかと。

 嘘に決まっている。きっと今までの仕返しで、元気に飛び出してくるに決まってる……!

 混乱する脳でそう都合良く考えようとした。でも、これは間違いなくアルゼリータだと理解するとロゼイルは泣き叫んだ。

「アルスッ! アルゼリータッ! 起きろよ、まだそっちに行っちゃダメだ! お願いだから行かないで! またオレ1人になっちゃう……!」

 ロゼイルの記憶。血塗られた光景が脳裏に甦った。

「ねぇ王子様! アルスを助けてよ! このままじゃ」

 死んじゃう! と言おうとして愕然とした。

 マルイスは無言のまま目を閉じ、ガルツァーは抜き身の剣を両手で胸の前で掲げ、目を閉じ俯いていた。

 死した戦士を弔う際の儀礼姿勢であった。


「やめて! アルスはまだ……」

 死んでないと言いたがったが、喉が詰まり言葉が出てこなかった。


 天井から、パラパラと瓦礫が降ってきた。今までの戦闘のせいで、崩壊が始まっているのだ。

「王子、ここはもう持ちません。外へ離脱しましょう」

「分かった。……ロゼイル。行きましょう。お兄様はもう助かりません」

 マルイスの問い掛けに、ロゼイルは小さく首を横に降った。

「やだ……。アルスも連れて行く……」

「……ッ! バカを言うな! 殿下はお前を助けるためにブラウを仕留めようとした。それを無駄にする気か!」

 ガルツァーの叱責もロゼイルには響かない。頑なにアルゼリータの傍を離れようとしなかった。

「この――――――!」

 無理矢理でも連れ出そうとガルツァーが一歩踏み出した瞬間、大きな音を立てて天井が崩れた。

 その音に反応したロゼイルは天井を見上げる。


「あ………………」


 大きな瓦礫が、ロゼイルとアルゼリータの上に落ち、2人を押し潰した。


「ライトイール!」

 瓦礫に埋もれた2人を助けようとするも、更に崩壊が進み、岩のような瓦礫が次々降ってくる。

「ガルツァー! もうダメだ! 逃げるぞ!」

 マルイスの言葉に、ガルツァーは悔しそうに唇を噛んだ。僅かの間、2人を押し潰している瓦礫を見つめると、すまないと呟き、崩壊する城から脱出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ