城内戦闘1
アルゼリータはその光景に愕然とした。
自身の兵が……『国民連盟』がほぼ壊滅状態であった。正確には、生き残っている者もいたがかろうじて命を繋いでいる状態である。アルゼリータはその屍を踏み越え、城の内部へ侵入した。
城の中も、屍と血で染まっていた。その中で佇む少女が1人。数多の戦士の肉を切り裂いたのだろう、剣にはびっしり血が付着していた。少女は周囲の惨劇には目もくれず、冷静な視線をアルゼリータに向けた。
「待っていた、反逆の賊ども」
マナ・ブラウ・シラルガン。現在、ノーザ王家に仕えているシラルガンである。
マナは口元を歪ませた。この瞬間を待ち焦がれていたのだろう。
「待たせたな。姉さんはどこだ。とっとと出して貰おうか」
「そうはさせるか。……あの方は、最後までお前と戦いたくないと言っていた。救う道を探していた。それをお前は無駄にしてくれた。許さない。どうしても行きたければ、私を殺して行け」
「ああ、言われなくてもな」
アルゼリータは炎を巻き上げた。アルゼリータの気持ちと連動するように徐々に範囲と温度が上昇していく。
「その威力、いつまで持ちますか」
これほどの力の解放は相応の命を犠牲にしている。長引けばアルゼリータの方が危うくなる。
「短期決戦だ。一気にお前を叩く。姉さんは剣1本あれば事足りるからな」
そう言って苦しみを笑みに変える。さらに炎の温度を上げる。右腕の火傷がみるみる広がり、右頬まで爛れが広がった。
マナは剣を構えると一気に駆け出した。眼前に広がる炎の壁を突破し、アルゼリータに袈裟斬りに斬り込んだ。アルゼリータは炎を限界まで圧縮させた槍で受け止めるも圧に耐えきれなくなり、かろうじて後方に回避する。
「その程度の温度じゃこの剣は溶かせない。目論見が外れたな」
剣身を溶かして無効化させてしまえば、無手となったマナを氷漬けにでも出来ると思ったがそれは叶わなかった。
それなら正攻法……炎の放出は止めず氷剣を精製する。左手に柄を掴み、マナに斬り込んだ。
「はっ!」
「くぅ……!」
氷は金属に当たり砕け散るも、高速で再び造形される。霧散と精製を繰り返し、さらに炎との組み合わせによりマナは次第に追い詰められていった。
やがてマナに限界が来たのか、少しよろめいた。ほんの僅かな隙だったが、アルゼリータはそれを見逃さなかった。炎槍は首元を掠め、氷剣は左脇腹を貫いた。
「グウゥゥゥウ!!」
苦悶の声を漏らすマナはゆっくり膝から崩れ落ちた。わざと抉るように氷剣を揺さぶり、身体から引き抜いたアルゼリータは、血を流しながら倒れるマナを見た後、自身の力を収縮させた。精霊の力が無くなった城を見渡すと、壁面は黒い煤で汚れ、転がっていた死体も炎で焼かれ灰になっていた。
火災現場の様な中、アルゼリータもその場に倒れこんでしまった。感情のままに解放してしまった事が、思った以上に身体に響いていた。意識はあるものの、指1本動かせなかった。口の中はカラカラに乾いて、足元は酷く冷えきっていた。早く姉の所に行きたかったのだが、これではどうしようもない。あとは王を殺すだけなのに、殺せない。勝者にはなれない。これでは……。
そう思いながら、アルゼリータの意識は遠のいていた。瞼が徐々に降りていく。完全に意識を放り投げる瞬間、声が聞こえてきた。
3人分。1人はオレのムカつく側近。
1人はオレが殺した弟の従者。
最後の1人はオレが殺したオレの……。
オレの? そんなバカな。確かに殺したはずだ。
きっと幻聴だ。死者が生き返るものか。
そう思って、再び意識を手放そうとしたとき。
「お兄様ーーー!!」
目が覚めた。確かに聞こえてきた。
もう1人は……オレの弟だ。
「アルスッ……! ……死んでる……」
「死んでねぇバカ。死にかけただけだ」
「その感じだと、1回死んだ感じですねお兄様」
「殿下、案外丈夫ですね」
「案外じゃないぞ。この人は太古の虫みたいに生命力ヤバめだから」
「…………お前ら頼むからせめて助けようとしてくれよ……」




